アウディQ5 40 TDIクワトロSライン(4WD/7AT)
あるべくしてある存在 2021.04.30 試乗記 アウディのミドルクラスSUV「Q5」がマイナーチェンジ。広範にわたる改良は、このクルマにどのような進化をもたらしたのか? エンジンが刷新されたディーゼルモデル「40 TDIクワトロ」に試乗し、その出来栄えを確かめた。エンジンを最新世代にアップデート
2代目となるアウディQ5が日本でデビューしたのは2017年秋のこと。約3年半ぶりと想定通りのタイミングで上陸したマイナーチェンジモデルでは、微に入り細に入り手が加えられている。
とりわけエクステリアデザインは、グラフィカルな変更が主とはいえ、前期型との差異は一目瞭然だ。グレードが「アドバンスト」と「Sライン」の2体系になったことに合わせて、双方での意匠差もより明快になった。内装はインフォテインメントが最新世代へとアップデートされ、モニターはタッチコントロール式の10.1インチへと拡大されている。
最新世代にアップデートされたのは搭載エンジンもまた然(しか)りだ。ガソリンの「EA888」、ディーゼルの「EA288evo」、ともに12Vのベルトドライブ・オルタネーター・スターター=BASを備えたマイルドハイブリッドシステムを採用している。回生エネルギーを小型リチウムイオンバッテリーに蓄え、発進時やトルクの細い低回転域での駆動アシスト、中高速域のコースティングや減速時のアイドリングストップの早期介入など、さまざまな場面でちょいちょいと手を差し伸べてくれる。アウディいわく、省燃費効果は燃料にして100km走行あたり0.3リッター程度というから、文字通り“すずめの涙”ではあるが、CAFE規制に苦しむ欧州勢にとっては血の一滴でもある。
Q5は全モデル四駆となるが、「クワトロ」フルタイム4WDシステムに変更はない。通常時はFF状態で走りつつ駆動状況を監視。後輪の駆動が必要な際にはクラッチをつなぎ、最大50%の駆動力配分を行う。高性能化と高効率化の両立をコンセプトとするアウディの「ultra」テクノロジーに沿って開発された縦置きレイアウト用オンデマンドシステムというわけだ。ちなみに、同時にマイナーチェンジを受けた「SQ5」はメカニカル式のフルタイム四駆を継承している。
ファミリーカーとして見ても完成度は高い
と、マイナーチェンジのアウトラインをひと通り振り返ったところで新しいQ5と対面。試乗車は40 TDIクワトロだ。強くなった目力や顔の圧がちょっと鼻につく感じは、最新のアウディに相通じるところだが、ライバルのBMWやメルセデス・ベンツの動向をみるに、時流に合わせたというところだろうか。「Q2」や「A4オールロード」などに用いられてきた「クワンタムグレー」のボディーカラーが、そのオシの強さをちょっと抑えている。
最新のインフォテインメントはボイスコントロールも可能となっている。「ヘイ、アウディ」の呼びかけから始まり、さまざまな機能を対話形式で設定するそれは、ライバルでもおなじみの機能だ。一方で、ハザードランプや空調などは、人々が思い浮かべる“あるべき箇所”に、独立して大きく扱いやすいスイッチが配されている。先日乗った「A4アバント」にも相通じるところだが、その使いやすさにホッとする。
重ねて言えば、ステアリングもDシェイプではなく円形で回しやすかったり、Aピラーも適度に立てられているうえ、グリーンハウスも水平基調で視界はクリーンだったりと、ペダル類とフットレストとの位置決めを除けば、運転環境は至ってクリーンだ。また、後席も座面や背もたれの角度設定、着座高などに違和感はなく、実直なファミリーカーとしても検討に値するものだと思う。
新しいディーゼルユニットの音・振動は、直近に乗ったA4アバントの「EA288」型に比べるとやや抑えられているかという印象だった。高圧縮エンジンにもかかわらずクランクケースをアルミ化したほか、材料置換を進めて従来比で20kg余の軽量化を果たしたというそれは、音響特性にも変化があったのか、中回転域でも音の粒感に粗さは強く感じられない。ただし、パワーは204PSと従来型から向上しているものの、4500rpm手前から息が詰まるフィーリングは相変わらずで、回してうれしい類いの性格ではない。
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この組み合わせはロングドライブで光る
2000rpmから向こうの中回転域にこそおいしさが詰まった実直な性格……と思いきや、走り始めてすぐに1500rpm以下の低回転域でもトルクにしっかりと厚みが加わっていることに気づいた。BASによるアシストは最大で60N・m程度、バッテリー容量の関係で稼働時間も短いが、これがしっかり効いているようだ。おかげでブースト立ち上がりまでがモヤッとしていた前型の印象は霧散し、ゴーストップの多い街なかでもキビキビと心地よく応答してくれる。また、高速巡航域では割と頻繁に介入するコースティングや、アイドリングストップからの再始動も、ショックを伴わない滑らかな感触になった。
試乗車は標準の19インチではなく、オプションの20インチタイヤ&ホイールを装着していたが、それによる低中速域での突き上げや高速域でのバタつきといったフットワークのネガは、ほぼほぼ感じられない。バネ下の粘りが逐一手のひらに伝わるようなコーナリングが好みのドライバーにはインチアップは勧めないが、「カッコよく見せるためだけのやせガマン」というものではなかったのは幸いだ。ちなみに、悪路や雪道での機動力を求める向きには地上高が稼げるエアサスもオプションで用意されている。
ライバルひしめく激戦区にあって、Q5の独自の価値は静的にも動的にも奇をてらわないクリーンな上質感を備えていることではないだろうか。長く車内に居ても嫌にならない、その美点を生かすに、ロングツーリングに好適なディーゼル&クワトロの組み合わせは、あるべくしてあるものだと思う。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
アウディQ5 40 TDIクワトロSライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4685×1900×1665mm
ホイールベース:2825mm
車重:1910kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:204PS(150kW)/3800-4200rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1750-3250rpm
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)245/35ZR19 93Y(ピレリPゼロ)
燃費:14.5km/リッター(WLTCモード)
価格:739万円/テスト車=766万円
オプション装備:オプションカラー<クワンタムグレー>(9万円)/アルミホイール 5アームデザイン 8J×20インチ+255/45R20タイヤ(9万円)/S line plusパッケージ<アーティフィシャルインテリアレザー[ドアアームレスト+センターコンソール]+シートヒーター[フロント+リア]+アコースティックサイドガラス[フロント]>(9万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1455km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(5)/高速道路(5)/山岳路(0)
テスト距離:151.4km
使用燃料:12.1リッター(軽油)
参考燃費:12.5km/リッター(満タン法)/11.9km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。