BMW 218dグランクーペ プレイ エディションジョイ+(FF/8AT)
色眼鏡を外してみれば 2021.05.12 試乗記 FFを基本としたエンジン横置きプラットフォームに、コンパクトな4ドアボディーを架装した「BMW 2シリーズ グランクーペ」。FRを信奉する古くからのファンには敬遠されそうなモデルだが、実際に乗ってみると、FFの乗用車として出色の出来栄えだった。プラットフォームのちがいは見た目にも表れる
2014年の「2シリーズ アクティブツアラー」を皮切りに、BMWのエントリーモデル=「1/2シリーズ」で進められてきた前輪駆動(FF)化計画も、2019年秋に上陸したグランクーペで、ひとまず中締めとなりそうである。というのも、去就が注目されていた同2ドアクーペが、世界各地でパパラッチされている試作車の姿を見るに、次期型もどうやらFRレイアウトになりそうだからだ。ちなみに、中国では「1シリーズ セダン」も販売されているが、それは欧州にも導入されておらず、日本導入は今のところ期待薄である。
というわけで、FFのBMWはもはやめずらしくもないのだが、4ドア3ボックスという伝統的な車形のBMWとしては、2シリーズ グランクーペが初のFFとなる。そういう目で見ると、このクルマのプロポーションが、FRレイアウトとなる「3シリーズ」以上のセダンやグランクーペと根本的にちがうことは、SUVの「X1」や「X2」以上に分かりやすい。
エンジン横置きのFFレイアウトはそもそも、伝統的BMWが得意とする水平基調のロングノーズスタイルになじみにくく、それは全高が低いほど如実に出てしまう。しかも、MINIと共用される「FAAR」(もしくは「UKL2」)プラットフォームは、FFならではの高い空間効率をしっかり確保したパッケージで、キャビンとフロントタイヤの距離はちゃんと短く、スカットル部分はきちんと高い。よって、2シリーズグランクーペは、低く伸ばされたフロントオーバーハングから尻上がりとなる明確なウエッジシェイプとなっている。それはFFとしてはとてもスタイリッシュな手法だが、伝統的BMWらしいか……と問われると、筆者のようなアタマの固い中高年クルマオタクは素直にはうなずけない。
ただ、インテリアではメリットのほうが目立つ。絶対的には広くないが、外観から想像するよりはせまくもない室内空間を実現したパッケージングは、FF化の恩恵が大というほかない。それに、ステアリングやペダル、シフトセレクター周辺のインターフェイスはBMWそのものだし、フル液晶となったメーター盤面も上級モデルとほとんど区別がつかない。最近の液晶メーターの普及は、安価なエントリーモデルには有利だ。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
峠道でも楽しい2リッターディーゼル+8段AT
今回試乗した「218d」はガソリン車の10カ月遅れとなる2020年夏に追加されたディーゼルモデルだ。そして「エディションジョイ+」とは、2シリーズではディーゼルのみが対象となる環境モデル専用の買い得仕様で、「プレイ」と「Mスポーツ」の両グレードに用意される。ベースグレードとの装備差は基本的になく、価格だけが値下げされた戦略商品だという。
コンパクトな2シリーズの車体に、350N・mの最大トルクは素直に力強い。リミット付近の4900rpmまできれいに回り切るのはいかにもBMWだ。ステアリングパドルの備えはないが、リミット付近まで回してもさほどのメリットがあるわけではないので、いずれにせよパドルの必要性は感じない。山坂道を気持ちよく駆け抜けたいときにも、Sレンジに放り込んでおけば、減速Gに応じて絶妙にダウンシフトをかましつつ、ディーゼルのおいしい領域を、ちょうどよく紡いでくれる。
というわけで、“ちょっとスポーツ風味の実用パワートレイン”という意味ではちょうどいい2リッターディーゼルだが、同時にステアリングに伝わってくるエンジンの振動や、前席フロアに伝わるゴトゴト感に、3シリーズとのちがいを感じてしまうのも事実である。目地段差などでのランフラットタイヤ特有の突き上げも、ちょっと鋭いなあ……と、3シリーズとの格差を見つけては、なんとか「BMWはやはりFRにかぎる」と再確認したくなるのは、筆者を含む中高年クルマオタクの悲しいサガである。もっとも、いろいろな面で2シリーズより3シリーズのほうが高級感があるのは、ヒエラルキーとしては当然だ。そうでないと、逆におかしい。
ナチュラルで洗練されたステアフィール
ステアリングフィールは土台を共有するMINIの「クラブマン」や「クロスオーバー」とは明確に異なる。操舵力そのものもMINIよりずいぶん軽く、MINIのようにゴリゴリとしたクイックで濃厚なグリップ感とはちがって、穏やかで自然な接地感である。なのに、操舵反応そのものは正確で、大舵角まできっちりと利く。
この独特のフィーリングはやはり、FFのネガを一掃したいBMWが肝いりで導入した「アクチュエーター・コンティギュアス・ホイールスリップ・リミテーション(ARB)」によるところが大きいのかもしれない。ARBは関連センサーとエンジン制御ユニットを直結することで、前輪スリップやアンダーステアの兆候に、従来のトラクションコントロールや横滑り防止装置より飛躍的に素早く反応する制御(BMWのよると3倍速とか)を可能にした技術だ。
実際、普通のトラクションコントロールやブレーキLSDの類いは、あえて意地悪に観察していると、わずかな失速感などでその介入を感じてしまうことも少なくない。しかし、今回のグランクーペにはそういう人工的な感触はほとんどない。旋回途中にディーゼルの大トルクを放っても、何事もなかったようにラインをトレースして、ステアリングを握る手元が揺るがされるクセも皆無といっていい。
まあ、本物のFRと比較すれば、ステアリングフィールに雑味が皆無とはいえない。それでも、高性能FF車としては、それはなるほど爽やかに洗練されたものである。
そして、グランクーペとしては穏当グレードであることもあってか、その身のこなしも、MINIでいうところの「ゴーカートフィール」とは対照的である。高速での乗り心地は、ランフラット特有の突き上げ感は少し残るものの、感心するほどフラットで快適だ。目地段差やワダチでわずかにコツコツするのは前記のとおりでも、豊かにストロークするサスペンションは、いい意味で路面変化に鷹揚である。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
300万円台から狙える4ドアのBMW
山坂道などでのロールや上下動はけっこう大きめなのだが、あくまで抑制のきいたダンピングでゆったりと接地し続けるフットワークは、MINIとはまったくちがう。ロールしきった状態から、さらに路面の不整に蹴り上げられても、フワリと吸収してくれる。そうやって上下しつつもステアリングと路面の緊密なリンケージは途切れることなく、最終的にはなぜかきれいに曲がってしまう。……といった大人っぽいハンドリングは、あえていえば、よくできたフランス車を思わせるほどだ。
この味わいは、俊敏で水平基調のゴーカートフィールを生命線とするMINIとはまるで別物である。ある意味で正反対の味つけを見事に成立させているところは、FAARプラットフォームの基本フィジカルが高いんだろうな……と想像させる。
こうしたグランクーペの調律は、FFとしてはまったく正論にして正攻法であるがゆえに、パッと乗った第一印象では独特濃厚風味のMINIほど分かりやすくない。この点でも中高年クルマオタクには「だからFFのBMWはつまらない」と思わせてしまうかもしれない。しかし、繰り返すが、これを純粋なFF乗用車と捉えれば、素直に素晴らしいデキだと思う。
考えてみれば、今の中高年クルマオタクがかつて憧れた「E36」や「E46」の3シリーズも、こういうフトコロ深い乗り味だった。そういえば、2005年まで販売されたE46のセダンはモデルライフを通じて300万円台グレードを用意した最後の3シリーズでもあった。続くE90はデビュー当初こそエントリー機種がかろうじて300万円台を守ったが、最後は全車400万円以上になった。そして最新の「G20」にいたっては装備を省略した素の「318i」だけがギリギリ400万円台で、実質的には500~600万円台のクルマになってしまった。
2シリーズ グランクーペは駆動方式うんぬん以前に、300~400万円台で選べる唯一の4ドアBMWである。その意味で、若いエントリー層はもちろん、メルセデスベンツの「CLA」や「Aクラス セダン」、そしてアウディの「A3セダン」を横目で見ていた中高年BMWファンも先入観なく試してみたほうがいい。
(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
BMW 218dグランクーペ プレイ エディションジョイ+
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4535×1800×1430mm
ホイールベース:2670mm
車重:1510kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:8段AT
最高出力:150PS(110kW)/4000rpm
最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/1750-2500rpm
タイヤ:(前)225/45R17 94Y/(後)225/45R17 94Y(ブリヂストン・トランザT005 RFT)
燃費:17.1km/リッター(WLTCモード)
価格:420万円/テスト車=515万9000円
オプション装備:ボディーカラー<ミネラルホワイト>(8万円)/パーフォレーテッドダコタレザー<ブラック/ブラック>(0円)/iDriveナビゲーションパッケージ(24万9000円)/ハイラインパッケージ(25万円)/17インチマルチスポークアルミホイール(7万円)/イルミネーテッドベルリンインテリアトリム(3万4000円)/アクティブクルーズコントロール(10万3000円)/BMWヘッドアップディスプレイ(12万3000円)/HiFiスピーカーシステム<205W、10スピーカー>(5万円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:5602km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:546.1km
使用燃料:33.0リッター(軽油)
参考燃費:16.5km/リッター(満タン法)/16.9km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
DS N°8エトワールAWD(4WD) 2026.8.22 DSオートモビルから登場した、新時代の旗艦モデル「N°8」。完全新設計のシャシーにアクティブサスペンションを組み合わせた電気自動車(BEV)は、往年の“ハイドロ”を思わせる乗り味と人車一体の走りを備えた、稀有(けう)なサルーンに仕上がっていた。
-
メルセデス・ベンツCLA220(FF/8AT)【試乗記】 2026.8.21 メルセデス独自のオペレーティングシステムと、フル電動化を見据えた最新プラットフォームを組み合わせて開発された新型「CLA」。その先鋒として発売されたハイブリッドモデルの仕上がりを、セダンの上級グレードに試乗して確かめた。
-
マツダCX-5 L(4WD)【試乗記】 2026.8.19 マツダの販売の中軸を担うミドルクラスSUV「CX-5」が、3代目にフルモデルチェンジ。その完成度にはどうしても期待してしまうところだが、実車の仕上がりはどうだったのか? 絶対に失敗の許されない、マツダの基幹車種の実力に触れた。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(FWD)【試乗記】 2026.8.18 クルマの進化か、充電インフラの進化か、それともCEV補助金拡充の効能かは定かではないが、ようやく日本の電気自動車(BEV)も普及期を迎えつつある。ことに「bZ4Xツーリング」は豊かな一充電走行距離と優れたドライバビリティーが自慢のトヨタの最新作だ。FWDモデルの仕上がりをリポートする。
-
NEW
OEM車で自社製品らしさを出すために、多田さんだったら何をする?
2026.8.25あの多田哲哉のクルマQ&A他メーカーが開発したクルマを、自社製品として別の名前でユーザーに供給するOEM車。エンジニアの工夫次第で、オリジナルとは異なる独自の個性を出すことはできるのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いた。 -
NEW
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.8.25試乗記BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。 -
NEW
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】
2026.8.25試乗記カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。 -
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】
2026.8.24試乗記スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。 -
デビュー4年でどう変わる? 最新型「トヨタ・クラウン クロスオーバー」の詳細を予測する
2026.8.24デイリーコラム2022年7月のデビューから4年がたち、仕様変更が予告された「トヨタ・クラウン クロスオーバー」。では、どこがどう変わるのか? 最新型の発売を前に、さまざまな角度からポイントを予測してみよう。 -
トヨタRAV4アドベンチャー(前編)
2026.8.23思考するドライバー 山野哲也の“目”レーシングドライバー山野哲也が新型「トヨタRAV4」に試乗。ご存じのとおり今やトヨタの屋台骨を支えるSUVであり、先代モデルではグローバルでの年間販売台数が100万台に到達。世界で最も多く販売されるトヨタ車の6代目だ。箱根のワインディングロードでの印象を聞いた。




















































