フォルクスワーゲン・ゴルフeTSIアクティブ(FF/7AT)
進化か 変化か 2021.07.06 試乗記 8代目に進化した「フォルクスワーゲン・ゴルフ」のベーシックモデル「eTSIアクティブ」に試乗。ボディーデザインやシャシーの進化に加え、パワートレインの電動化とADASを含むデジタルデバイスの強化も注目のポイントである。果たしてその仕上がりやいかに。アイデンティティーを継承
待ちに待った上陸がようやくかなった、最新フォルクスワーゲン車の本命こと新型ゴルフ。数あるフォルクスワーゲンのラインナップにあっても、日本において知名度は特に高く、その圧倒的プレゼンスにあやかろう(?)と、本来は「トゥーラン」が正式な車名であるミニバンを、わが国に限っては「ゴルフ トゥーラン」と“改名”してまで販売するほどである。
もちろん、そうした功績も一朝一夕に成し遂げられたものではなく、なんとなれば“ゴルフ8”なる通称名からも明らかなように、今度のゴルフは数えて8代目。初代の誕生は1974年だから、ゴルフ8はそのライフ中に生誕半世紀という記念すべき時を迎えるモデルということにもなる。
そんな歴代ゴルフは、アイデンティティーの継承を強く意識してきたことが特徴のひとつに挙げられる。3500万台という累計生産台数も90万台超という日本でのシリーズ累計台数も、高い人気が保たれてきたことに加え、“継続は力なり”のたまものであったということだ。
3代目をベースに初登場となった「ヴァリアント」の名で紹介されるステーションワゴンは今ではすっかり定着した感が強いが、「ハッチバックとミニバンのはざまを埋める」とうたわれる「ゴルフプラス」など、さらなるボディーバリエーションの拡充が模索された時期もあった。
とはいえ、そんな背の高いゴルフというポジションに新たな顧客層が存在しなかったことは、ゴルフプラスが一代限りで消滅したことからも明らか。一方、ボディーサイズと搭載するエンジンバリエーションの拡充に関しては、しっかりと進化してきたのがこれまでのゴルフの歴史でもあったのだ。
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先代モデル以上に小回りが利く
だから、「そんな成長の過程に歯止めがかかった」のが、新型ゴルフにおけるエポックのひとつでもあると思う。“電動化”や“デジタル化”ばかりが取り沙汰されるゴルフ8だが、実は見どころはそこだけではないのだ。
先代モデルに対して全長こそ再度伸びたものの、全幅とホイールベースに至っては現状維持どころか、わずかながらもマイナスとなった。ホイールベース値はこの世代で初めてステーションワゴンとの間に差が設けられ、実際欧州ですでに発表済みの新型ヴァリアントの写真を目にすると、ホイールベースが延びリアウィンドウの前傾角も増したその姿が、歴代のゴルフヴァリアント中で最もスタイリッシュに見える。
全幅の差は先代比でわずかにマイナスの10mm。しかし、少なくとも「大きくならなかった」ことに対してホッとした人は少なくなさそう。最小回転半径5.2mだった先代に対し、導入時点での4グレードがすべて同5.1mと小回りが利くことも、ゴルフ8の特徴といえるだろう。
同時にベーシックグレードに搭載される心臓部が、わずかに1リッターという排気量の3気筒ユニットに変更されたことも、ゴルフ8におけるエポックメーキングな出来事である。これまでのベーシックゴルフに積まれていた1.2リッター直4と同じくターボ付きの直噴ユニットではあるものの、前出の1リッターや3気筒という数字を目にすれば「何だか心もとないなぁ」と内心そう感じる人がいそうなのもごもっともだ。
とはいえ、実はそんな新しい心臓には2つの“飛び道具”が用意されている。日本に導入される新型ゴルフには全モデルに搭載される48Vマイルドハイブリッドシステムと、3気筒ユニット限定で採用されているVG(可変ジオメトリー)ターボがそれである。
“飛び道具”の効果
今回テストドライブを行ったのは、そんな1リッター直3ユニットを積む2タイプのゴルフ8にあっては上級に位置する「eTSIアクティブ」グレード。20.9万円の価格差で唯一の“300万円切り”に設定された「eTSIアクティブベーシック」でも、「トラベルアシスト」を筆頭としたADASやバーチャルメーター、LEDヘッドライトなど、新型ゴルフが売りとするアイテムの多くは標準採用。一方で、そんなエントリーグレードでは純正のインフォテインメントシステム「Discover Pro(ディスカバープロ)」や、ヘッドアップディスプレイ、シーケンシャルウインカーなどのオプションアイテムを選択できないという制約がある点に注意が必要だ。
いざ走り始めると、ともに微低速時にこそ威力を発揮するとおぼしき前出の“飛び道具”の効果もあってか、先に危惧した力不足の心配はいずれも杞憂(きゆう)にすぎなかったことを教えられる。スタートの瞬間からその加速は思いのほか力強く、また少なくとも街乗りのシーンでは、その心臓が3気筒であることもほとんど認識できないのだ。
もちろんそれでも「飛び切り快足の持ち主」といった印象でないのは事実。スポーティーな走りの感覚を重視するならば、同じゴルフ8でも選ぶべきは1.5リッター直4ユニットを搭載したモデルであるのは間違いない。
しかし、実用性という部分にスポットライトを当てるならば、こちらで十分なのもまた確か。そうした満足のいく挙動は、自然吸気のガソリンエンジンであれば2リッター級のユニットが発する200N・mという最大トルク値を、2000~3000rpmという範囲で発するというデータにも裏打ちされているわけである。
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両立が難しい見た目と操作性
もっとも、高速道路へと乗り入れるようなより高負荷の場面では、「やはり1.5リッターモデルが一枚うわてだな」と感じられた。アクセルの踏みしろが増し、4000rpmを超えるような領域までを使うようになると、パワーの打ち止め感とともに3気筒ならではのノイズも耳につきはじめ、余裕の乏しさを意識させられる場面が少なくはなかったからだ。
一方、街乗りシーンでもその優秀さを実感できた静粛性の高さは、こうして速度域が上がっても優れた印象をキープする。特に、100km/hを超えても高まることのない風騒音には、自慢のエアロダイナミクスが実際に効果を発揮していると感じられた。
路面にかかわらず常に高い4輪の接地感と、速度が高まるほどに際立つ安定感の高さには、「さすがはゴルフ」というフレーズを使いたくなる。1.5リッターモデルの4リンク式に対してトレーリングアーム式と、恐らくはコスト由来で差がつけられたリアサスペンションを採用するが、それによるハンディキャップは「みじんも感じることはない」というのが率直な印象である。
ところで、ゴルフ8の大きなセリングポイントでもある「デジタルコックピットプロ」だが、これに関しては「功罪相半ばする」という思いを抱かされることになった。
確かに、その操作法に完全に慣れてしまえば使いやすいという側面はあるのかもしれない。多くの物理スイッチ類が整理されたことで、これまでのゴルフでは考えられなかったシンプルで未来的なインテリアの見栄えが実現されたことも確かだ。
しかし例えばのハナシ、走行中、突然深い霧に包まれた時にライトを点灯したかったり、トンネルへの進入時に空調を内気循環のモードにしたい場合など、従来であればとっさに手探り操作できたものが、ゴルフ8ではそれを作動させるためにモニターに視線を移す必要に迫られ、しかも複数のアクションが必須となったりするのは何とも理不尽だ。
そうした点からもゴルフ8のデジタルコックピットプロには、本来あるべき目標に対して、まだ“道半ば”と思える部分も認められた。特に、従来は問題なく可能だったブラインド操作ができなくなった項目が少なくないのは考えもの。「直感より触感」のほうが理にかなっていることもあるはずだ。
特に、ゴルフ7からの乗り換えを検討される向きには、そのあたりをじっくり検証するべきとアドバイスしたい。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフeTSIアクティブ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1475mm
ホイールベース:2620mm
車重:1310kg
駆動方式:FF
エンジン:1リッター直3 DOHC 12バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:7段AT
エンジン最高出力:110PS(81kW)/5500rpm
エンジン最大トルク:200N・m(20.4kgf・m)/2000-3000rpm
モーター最高出力:13PS(9.4kW)
モーター最大トルク:62N・m(6.3kgf・m)
タイヤ:(前)205/55R16 91V/(後)205/55R16 91V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス)
燃費:18.6km/リッター(WLTCモード)
価格:312万5000円/テスト車=359万8000円
オプション装備:ボディーカラー<ライムイエローメタリック>(3万3000円)/ディスカバープロパッケージ(19万8000円)/テクノロジーパッケージ(20万9000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万3000円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:3529km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:371.0km
使用燃料:19.6リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:18.9km/リッター(満タン法)/15.6km/リッター(車載燃費計計測値)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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