第41回:あるバイパー乗りのコルベット評(前編)
2021.08.27 バイパーほったの ヘビの毒にやられまして 拡大 |
8代・68年の歴史を誇る“アメリカの魂”こと「シボレー・コルベット」。その最新モデルが日本の道を走りだした。同じアメリカンスポーツカー「ダッジ・バイパー」のオーナーの目に、新型コルベットはどう映るのか? webCG編集部員がその心象を語る。
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まぶしすぎて直視できない!
当記事をご覧に入れるにあたり、ひとつただし書きをさせていただきます。これは公明正大な評論ではございません。そんなものをしたためるには、記者はコルベットへの思い入れがちょいと強すぎる。久々の吉事にうかれたファンの駄文だと思って、ご笑納くださいませ。
さて。「C8」こと8代目コルベットが世界初公開されたのは2019年7月のこと。ミドシップ化に右ハンドルの設定、DCTや4輪コイルサスの採用と、モデル史上初のあれやこれやに、ファンもそうでない人もかんかんがくがく・けんけんごうごうだった。
すなわち「C8はコルベットか否か?」問題である。
GMは同車の発表に際し、ミドシップ車の研究史や過去の“コルベットMR化計画”の例を紹介していたが、多分そういう議論が巻き起こるのを見越していたのだろう。
そんなC8が日本で初披露されたのは、2020年初めの東京オートサロンのこと。日本ではMRのコルベットは、意外と好意的に受け止められた印象だった。ただ、そこからの“待て”が長いのは非ドイツ系輸入車の常。日本での正式なデリバリー開始は翌年(つまり今年ね)5月まで待たねばならず、それと機を合わせ、ようやく「史上初の右ハンドルのコルベット」が“ワールドプレミア”されたのである。
記者は幸運にも富士スピードウェイでのお披露目に立ち会えたのだが、そこで日本仕様のC8を見、GMジャパンのスタッフと言葉を交わして抱いた感想は、ひとえに「うらやましいなあ」というものだった。マイカーがローバーだったりダッジだったりな記者には、“右ハンのコルベット”は、それはそれはまぶしく見えたのだ。
正規輸入車ってすばらしい
当連載に目を通している御仁ならご存じのことと思うが、記者のマイカーは2000年モノのバイパー、それもクライスラージャパンが正規輸入した由緒正しき「クライスラー・バイパー」ではなく、中古並行の野良バイパーだ。“それ”が原因で難儀するということはまあないが、出来合いのナンバーステーがひん曲がったり、困ったときに広げるオーナーズマニュアルが英語だったりと、折に触れてはマイカーが並行もんであることを実感する日々である(まあ、それも楽しいんですけどね)。
そんなしょうもない例を挙げるまでもなく、そもそも正規輸入車なら全国展開のディーラーでクルマが買えて、購入後もクルマの面倒をみてもらえるわけで、カーライフの安心感がまるで違う。しかも日本仕様のナビゲーションシステムが付いていたり、デジタルメーターやインフォテインメントシステムの表記、音声入力のシステム等が日本語対応になっていたりするのだから、血統書が付いたクルマの実利は計り知れない。フォードが手を引き、ジープを残してクライスラー系も姿を消した日本市場に、これだけのものを用意してくれるGMはなんだかんだで律義なメーカーだと思う。
加えてC8は、昨今のGMジャパンのご多分に漏れず、実車のローカライズも申し分なかった。フロントにはちゃんとしたつくりのナンバープレートベースが、デザインに破綻をきたさない形で鎮座。センターディスプレイのホーム画面にはゼンリン製ストリーミングナビの起動アイコンがしっかり備わり(展示車のなかには、まだ日本語のインフォテインメントシステムが積まれていない個体もあったけど)、「音声認識ボタン/ホームボタン長押し」などの変則技を繰り出さなければならなかったのは遠い過去の話だ。デジタルメーターやインフォテインメントシステムの日本語対応も問題ナシ。ぜいたくを言えば半角カタカナの表記はなんとかしてほしかったが、それでも「階層を下ると明らかな中国フォントが出てきてなえる」なんてガッカリはなかった。
そして何より、コルベット史上初の右ハンドルですよ。webCGでも渡辺敏史氏が語っている通り、ハンドル位置の変更によってドラポジが破綻しているようなことはなく、ブレーキ系統もそれ用にしっかりつくり変えられている。急ごしらえのしっちゃかめっちゃかなものではないことに、記者はいちファンとして安堵(あんど)したのである。
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確かに“右ハンドル”はいいものだけど
さて、この“右ハンでミドシップのコルベット”であるが、案の定というかなんというか、日本で大フィーバーだそうな。300台といわれる初版分は完売御礼で、新規の顧客もがっちりゲット。GMジャパンは本国に日本仕様の増産を要請しており、関係者いわくGM本社もこれに応えようと奮闘しているという。個人的に、アメリカのメーカーはインポーターの声にかたくななイメージが強いので、「右ハンの増産に前向き」というのはちょっと意外だった。よいぞよいぞ。もっと日本市場に心奪われるがいいわ。
……ただ同時に、右ハンドルという理由をしてC8を持ち上げるのは、個人的にちょっと避けようと思った。右ハンの設定というGMの英断はすばらしいことだし、その出来栄えも文句ナシのものだったけど、ここで「右ハンドル、スバラシイネ!」と言いすぎると、「左ハンドルはダメ」という一部の論調を助長してしまいそうだからだ。
普段、左ハンドルのクルマをマイカーとしているワタクシだから、その不便は嫌というほど知っている。有料道路や駐車場での支払いは面倒だし、大通りに左折で出るときなどは、後側方視界が絶望的なバイパーの車形もあって、毎度「南無三!」と肚(はら)をくくる始末だ。日本で乗るぶんには右ハンであるに越したことはなく、わざわざハンドル位置をつくり分けるメーカーの取り組みには、ホントに頭が下がる。
ただ、だからといって「右ハンがない」というだけで、そのモデルやメーカー/インポーターの姿勢を否定する風潮には全面的に「NO」と申したい。そうした一側面だけを見てクルマを片っ端から否定していると、せっかくの豊かで楽しいマイカー選びがどんどん狭小でつまらないものになっていく。
それに、輸入車のローカライズで大事なのはハンドル位置だけではないハズ。例えば、インフォテインメントシステムなどの機能やインターフェイス。特定のブランドをおとしめたくはないので具体名を挙げるのは避けるが(気になる人はwebCGの試乗記を読み返してみてください。ちゃんと指摘しているライターさんはいます)、相応な高額商品なのに日本向けのまともなナビがなかったり、日本語表記や操作性が「?」だったり、なかにはささやかな不具合がそのまま放置されているものもあったりする。そうしたなかにあって、ドイツ系ほどの量販が見込めないブランドとしては、GMは日本仕様の製作に頑張ってきたほうだと思うのだ。
そうした例には目をつむり、「右ハンがない」という分かりやすい欠点(?)だけ拾って「GMは日本でクルマを売る気がない」と断ずるのは、いささか不公平だとワタクシは思うのです。
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そうはいってもやっぱり便利!
また右ハンドル化に関しても、ちょっと輸入車に詳しい方なら、ブレーキ系統やセンターコンソール、ワイパーなどが左ハン仕様のままだったり、運転席側のフットスペースが確保できていなかったりして、チグハグなさまになったクルマの例をご存じのはず。さらに古参の読者諸兄姉なら、ひと昔前まで「こんなんなら左ハンのままでいい」なんて論調が主流だったこともご存じのはずだ。
メーカーもインポーターも、マーケットに割けるリソースの量や、うつろいやすい消費者心理に苦慮しながら、できるだけいいものを提供しようとガンバっているのだ。それに対し、ユーザーサイドが“引き算”でしかモノを語らないのは悲しいことだと思う。加えて言えば、ハンドル位置も操作インターフェイスも、自動車という製品を構成する要素のひとつでしかないわけで、他の側面でそうした欠点をチャラにする魅力を持ったモデルだって多い。……というか、ほとんどのクルマがそういった魅力を持ち合わせている。
これもまた、左ハンドル車をマイカーとしている記者が言うのだからマチガイナイ(長井秀和って今なにしているんでしょうね)。大枚をはたいて長いお付き合いをするクルマを買うのだから、ひとつの欠点を大げさに受け止めすぎて、あまたある魅力が見えなくなるのはアンハッピーなことだろう。
……と、輸入車の右ハンドル化については複雑な思いを抱いている記者ではあるが、実際に右ハンのコルベットに乗ってみると、やっぱりすばらしかった。こんな、アメリカンの権化みたいなクルマを都内で安心して走らせられるなんてと、感動にむせんだ。ありがとうGM。ありがとう、右ハンドル。(後編に続く)
(webCGほった)
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堀田 剛資
猫とバイクと文庫本、そして東京多摩地区をこよなく愛するwebCG編集者。好きな言葉は反骨、嫌いな言葉は権威主義。今日もダッジとトライアンフで、奥多摩かいわいをお散歩する。
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