第12回:“プラットフォーマー”への脱皮を目指すフォルクスワーゲンの苦悩(前編)
2021.08.23 カーテク未来招来 拡大 |
2030年へ向けての経営戦略を発表した、ドイツのフォルクスワーゲン(以下、VW)。彼らの計画には他のメーカーにはない壮大な野望が含まれており、それがゆえの苦悩も感じられるものとなっていた。単なる完成車メーカーからの脱皮をもくろむ、VWの戦略を解説する。
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他とは趣を異にするVWの戦略
……なんだか完成車メーカーや部品メーカーの電動化戦略を紹介するリポートみたいになってきたこの連載だが、今回から3回にわたって取り上げるVW編で、それも取りあえず打ち止めとなる。おいおい、3回もあるのかよ、と思われた読者もおられると思うので最初におわびさせていただきたい。
なぜ長くなってしまうのか。これまで紹介してきたボルボやルノー、それにステランティスの戦略は、いわばどうやって製品の電動化を進めるか、そのためのプラットフォームやバッテリー調達をどうするか、というのが内容のメインだった。これに対してVWの戦略は、もちろんプラットフォーム戦略やバッテリーの調達戦略も内容に含まれてはいるが、メインテーマはもっと大きい。すなわち、VWが今後10年の間に、ビジネスモデルをどう転換しようとしているのか、それが最大のテーマなのだ。もっとわかりやすく言えば、VWは向こう10年で、自らを“完成車メーカー”から“プラットフォーマー”へ脱皮させようとしているのである。せめて前後編で、と思ったのだが、テーマが壮大なためにどうしても2回では収まらなくなってしまった。
さて、2021年7月22日の年次株主総会においてVWのヘルベルト・ディースCEOは、同年7月13日に明らかにした2030年までの経営戦略「NEW AUTO−MOBILITY FOR GENERATION TO COME」によって、「われわれは2030年までにVWを再発明(Reinvention)する」と宣言した。ずいぶん大げさな物言いだが、確かにVWが発表した将来戦略は、これまで紹介してきた各社のそれのなかでも、最も風呂敷を大きく広げたものだった。
ドイツの雄が広げた大風呂敷の中身
「NEW AUTO−MOBILITY FOR GENERATION TO COME」において明らかにされたVWの将来戦略は、彼ら自身による要約では以下の通りとなる。
- 「強力なブランド」「スケールメリットを活用したテクノロジープラットフォーム」に「新しいサービス」を組み合わせることにより、売上高を伸ばし、将来の財源を確保する。
- 2025年度の営業利益率目標を、現在の7~8%から8~9%に引き上げる。
- バッテリーの調達については、ドイツにおけるバッテリーセル生産の工業化のため、中国Gotion High-Techとの契約を締結。また3番目となるギガファクトリーの建設候補地をスペインに決定。
- グループはパリ協定に従って、2030年までにライフサイクル全体で一台あたりのCO2排出量を2018年と比較して30%削減する。
- 同じ期間でEV(電気自動車)の販売シェアは50%に増加すると予想。2040年にはグループの各ブランドが主要市場で提供する新車のほぼ100%をゼロエミッションにする。そして、遅くとも2050年までに、完全にカーボンニュートラルな企業になることを目指す。
この要約を見ただけでは、「どこがそんなに大風呂敷な発表なのか?」と訝(いぶか)る読者もいるだろう。確かに2030年にEVの販売シェアを50%にするという計画自体は、これまで見てきた各社の戦略と比較しても、それほど野心的なものとはいえない。ただ非常に印象的だったのは、これからの自動車市場の変化を、具体的な数字で大胆に予測してみせたことだ。筆者に言わせると、この数字はちょっと大胆すぎるように見えた。
2030年に自動車市場の規模が2.5倍に?
具体的には、まずエンジン車の市場が今後10年間で20%以上減少すると予想している。それと逆行するようにEV市場は急速に成長し、ちょうど2030年ごろにエンジン車の市場と同じくらいになるという。業界の平均的な予測では、2030年の世界の自動車販売に占めるEV比率はせいぜい30%程度なので、VWの予想はかなり強気だ。さらに強気だと思ったのが、モビリティー市場全体の規模が、現在の約2兆ユーロ(1ユーロ=130円として260兆円)から、2030年には2倍以上の5兆ユーロ(同650兆円)に拡大すると予測していることだ。
その内訳は、エンジン車は現在とほぼ変わらない1.9兆ユーロ、EVはエンジン車と同じ1.9兆ユーロ、そしてソフトウエア関連の売り上げが1.2兆ユーロということになっている。エンジン車の販売台数が20%減少するにもかかわらず、売り上げは微減にとどまるということは、販売単価がそのぶん上がることを意味する。まあ、この予想についてはそれほどの異論はないにしても、問題はこの次だ。というのも、彼らはあと10年で、エンジン車と同じ単価のEVにより、エンジン車に並ぶ台数のEV市場が創出されると予測しているのだ。これを額面どおりに受け取ると、エンジン車の台数は20%減なので現在の8割、そこに同数のEVが加わるのだから、2030年までに自動車の世界販売台数は1.6倍になる計算だ。この予想に「おいおい」とツッコミを入れたくなるのは筆者だけではないだろう。
さらに、ソフトウエア関連の売り上げが1.2兆ユーロに達するという予想も、ちょっと筆者の想像を超える。なにせ、今日における世界の自動車の売り上げ規模の半分を超える額なのだ。そもそも「このソフトウエア関連の売り上げってなに?」と思われる読者も当然いると思うが、それについては次回以降に触れさせていただく。
エンジン車のフェードアウト戦略
このほかの予想についても、個人的には疑問がある。例えばEVの利益率についてだ。VWが推し進めるEVへの移行は、当然ながら多額の研究開発投資や設備投資を必要とする。一方で、こうした投資が先行することや、バッテリーコストがまだ高いことなどから、EVの採算性は低い。当面の稼ぎは、現在の主力商品であるエンジン車の事業に担ってもらわなければならない。つまり、VWはこれからフェードアウトさせるエンジン車で原資を稼ぎながらEVに移行していくという、難しい綱渡りを迫られているのだ。いったいどう進めていくのか。これに対するVWの答えはこうだ。まずEVについては、バッテリーおよび工場のコスト削減とスケールメリット拡大によって利益率を改善していく。一方で、エンジン車は強化される燃費規制や排ガス規制への対応、税制上の不利な条件により、今後利益率が徐々に低下していく。こうしてEVとエンジン車の利益率は、今後2~3年で同程度になると見込んでいるのだ。
しかし、エンジン車の場合、プラットフォームは既存の「MQB」や「MLB」を使いまわしていくわけだし、エンジンも現在のものを改良していくだけだから追加コストはそれほどかからないはずだ。しかもVWは2030年までに、エンジン車のモデル数を60%削減する予定なので、台数が8割に減っても量産効果はむしろ高まるだろう。従って、新規投資を伴うEVとエンジン車のコストが短期間でイーブンになるという予測に、筆者は頷首(がんしゅ)しかねるというのが正直なところだ。
先ほどの台数予測といい、EVの利益率といい、VWはなぜこんな
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=フォルクスワーゲン、webCG/編集=堀田剛資)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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