第725回:「スズキ・ジムニー」が欧州で復活! でもシロウトは手を出すな!?
2021.09.30 マッキナ あらモーダ!商用車登録で再登場
2020年に、スズキがヨーロッパ市場で販売好調だった現行「ジムニー」の受注を急きょ中止した経緯は本欄第664回に記した。
その内容を要約すると、欧州連合(EU)が段階的に導入する二酸化炭素(CO2)排出量基準はメーカー単位で課徴金が科されるため、ラインナップのなかで足を引っ張るジムニーをあえてカタログから落としたというものだった。
その後はどうなった? というのが今回の話題である。
スズキ・イタリアの公式ウェブサイトを確認して驚いた。ジムニーが欧州市場に復帰しているではないか。
しかし「Jimny」ロゴの下に、小さな「pro(プロ)」の文字が加えられている。新たな名前は「ジムニー プロ」である。スズキ・イタリアのプレスリリースを確認すると、この国での市場投入は2021年4月だ。
それを見た筆者のひらめきは的中した。そう、商用車仕様として再投入されたのである。スズキ・イタリアのウェブサイトを見ると、後席が取り払われて乗車定員は4人から2人となり、広い荷室が設けられている。前席と荷室との間にはパーティションも備えられている。
なぜ商用車に変更したのかというと、前述のCO2排出量基準が乗用車を対象にしたものであるからだ。商用車向けにはやや緩い基準が適用され、台数が別にカウントされるのである。したがって、ジムニーが課徴金アップの引き金となるリスクを回避できる。
背後に特別な計算
欧州では商用車と見なす基準が各国ごとに存在する。
イタリアを例にとって説明すると、ジムニー プロは日本の道路運送車両法に該当する法律で「N1」というカテゴリーに属する。一般的に「アウトカッロ」と呼ばれている。
N1は商品の輸送を目的とする四輪車で、最大積載量3.5t以下の車両と定められている。つまり小型商用車だ。
このN1、乗車定員は4人まで認められている。フィアットなどは乗用車仕様とまったく同じボディーで4人乗り商用車仕様が存在する。
なぜ、ジムニーは2座にする必要があったのか。これに関して、後述する販売店関係者や、車検関係に携わる関係者に尋ねたところ、明確な回答は得られなかった。
そこで、筆者自身が詳しく調べてみると、商用車登録できるか否かは、独特の計算によって数値を算出し、それによって判別していることが分かってきた。
重量に関する用語の定義が日本と若干異なるものの、まずいずれも特別な計算式を用いて算出した後の「車両総重量-空車重量」の数値を“分母”とする。
次にその“分母”で“分子”となる最高出力(kW)を割る。計算後の値が一定以下なら商用車、超過すると乗用車扱いとなる。
この計算では“分母”である重量系の数値が大きければ大きいほど、最終的に算出できる値が小さくなり、商用車カテゴリーに収まりやすくなる。
本来のジムニーは乗用車として設計されていてラゲッジルームが小さく、かつエンジンも乗用車と同一だ。そのため“分母”を増やすには後席を取り払って、重量物が載せられる荷室を確保するのが最も簡単な方法であったことは確かだ。
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実質“22%引き”だけど
筆者が住むイタリア・シエナで1980年代からスズキ車を手がける販売店のサルカーに赴いてみた。
店頭では「スズキ・スウェイス ハイブリッド」が迎えてくれた。トヨタが欧州で販売している「カローラ ツーリングスポーツ(和名:カローラ ツーリング)」のOEM版となるハイブリッドのワゴンである。こちらもスズキ全体のCO2排出量数値抑制にどこまで貢献できるか、興味のあるところだ。
ショールーム内を見渡しても、お目当てのジムニー プロがない。長年顔なじみの古参スタッフ、ジャンニさんに聞けば「乗用車仕様ほどの売れ行きではないが、1~2カ月待ち」だという。
実はジムニーが“プロ”になったことで得られた、大きなメリットがある。イタリアにおいて商用車は、税制上の優遇措置が大きいのだ。
例えば乗用車を購入した場合、日本の消費税に該当する付加価値税(IVA)は、標準税率である22%が適用される。加えて、企業や自営業者などが購入した場合の税額控除は最大でも40%だ。
いっぽう、商用車だとIVA部分が100%控除される。したがって、ジムニー プロ標準モデルの税込み価格は2万3400ユーロ(約303万円)だが、企業や自営業者の場合、諸税の控除も合わせて差し引くと実質1万8700ユーロ(約242万円)となる。その差は円換算で約79万円。これは大きい。
筆者のイタリアにおける自動車購入経験をもとに説明すると、販売店には税込み金額を支払う必要があるものの、自分の次期納税日にIVA分が控除される仕組みである。
「ただし」とジャンニさんはクギを刺す。
「自動車保険料に関する制限があるので、控除のメリットは圧縮されてしまう」
イタリアでは2007年、乗用車用保険に、一世帯のうち最も事故が少ない人の保険等級で保険料が決まる制度が導入された。つまり、家族に免許を取得し立ての初心者がいる場合でも、高額な保険料を支払わなくてもよい仕組みだ。
しかし、商用車はこの制度の適用範囲外だ。また、たとえ過去の等級が反映されたとしても、保険会社はまた別の体系を商用車に適用している。さらに言えば市場競争が激しい乗用車用の保険とは異なるため、ユーザーによっては、以前より年間保険料が高くなってしまう場合が多いというわけだ。
日曜はダメよ?
ジャンニさんが説明したのとは別に、スズキ・イタリアの公式サイトにも商用車登録についての丁寧なQ&Aが掲載されている。
「ジムニー プロを購入した後で、乗用車仕様に改造できますか?」という質問には「不可能です」と、きっぱり答えている。
参考までに、筆者がイタリアで暮らし始めた二十数年前は、オフロード四駆を中心に、商用車仕様の2座を購入後にユーザーがこっそり後席を追加して日常使用したり、逆に4座仕様の後席を取り払って商用車登録を試みたりということが横行していた。しかし車検が厳格化した今日、そうした改造は事実上無意味になっている。
「個人でも購入できますか?」「個人が仕事とは関係ない用途で使えますか? もしくは仕事と関係ない物を運ぶことはできますか?」といった質問には、いずれも可能であると答えている。
いっぽうで「個人が家族や知人を同乗させることができますか?」「子どもは乗せられますか?」との問いに対しての答えは、若干トーンが下がる。
「道路交通法では明確にされていません」と説明するとともに、イタリア交通警察の見解も引用。「N1車両では、車両登録証の記載範囲内で、その車両で取り扱う商品の使用または輸送に必要な場合に限り、乗員を輸送することができます」と紹介している。
この文章からは、業務に関係のない人を乗せるのはグレーゾーンであると捉えることができる。
「会社名義の商用車を、土日に運転できますか?」という質問の答えも興味深い。
これに関してはこの国の法律を参照し、7.5t積み以下なので可能である旨を答えている。
いっぽうで、平日の使用にも制限が伴うことを説明している。
「車両が会社名義で登録されており、税の全額控除を受けている場合は、曜日に関係なく通常の労働活動以外での使用はできません。運転できるのは、会社の経営者や共同経営者、従業員または輸送された商品を受け取る会社の経営者、共同経営者、従業員に限られます(この場合、輸送書類の提示が必要です)」としたうえで、以下のように締められている。
「同乗者にも同様の制限があります」
イタリア交通警察が、路上で商用車を止めて頻繁に検問しているのをよく見かけることから考えると、このルールは決して無視できないだろう。
十分言い訳できる
ジャンニさんの同僚で、販売責任者のエンリコさんにも聞いてみた。
彼の場合も「ジムニーは2座になっても、それなりの需要がありますよ」と証言する。彼が抱えているお客さんも、納車は11月もしくは12月になるという。
筆者がユーザー層を聞くと「すべての世代のお客さまを歓迎します」と、まずは模範回答が戻ってきた。より詳しくと問うと、「主に50歳代が中心」と明かしてくれた。決して安くはない価格を思えば、安定した収入が見込める一定以上の年齢になるのは当然だろう。
そうしたエンリコさんの話を聞くうちに筆者が考えたのは、前述した商用車としての法的な使用条件は、自営業者が多いイタリアゆえに十分に言い訳が立つ人が多いだろうということだ。また、たとえ2座であっても、イタリアの地方都市には複数台を所有する世帯が多いから、それほど不便を感じないことは確かだ。
以上の意味で、たとえ商用車になってもジムニーは一定の人気をヨーロッパ市場で獲得すると筆者は予想している。2021年夏、にわかに現行ジムニーを見かける頻度が高くなってきたのは、その兆しかもしれない。
最後にジムニーといえば、筆者が日本で子ども時代を過ごした1970年代、豪雪地帯の親戚を訪ねると、高齢の女性がスズキ・ジムニーを商店の足にしていたものだ。
東京育ちの筆者はえらく驚き、「スズキ・ジムニーだ!」と言うと、祖母はそれほど耳が遠いわけではなかったが「鈴木事務員」と勘違いした。
欧州の“事務仕様ジムニー”登場を機に、あのときの祖母を思い出した筆者であった。
(文=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/写真=Akio Lorenzo OYA、スズキ/編集=藤沢 勝)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、25年間にわたってリポーターを務めあげる。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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