トヨタ・カローラ クロスZ(FF/CVT)
バランスがナイス 2021.10.05 試乗記 半世紀以上におよぶ「トヨタ・カローラ」の歴史において、初のSUVとなる「カローラ クロス」。「新空間 新感覚 COROLLA」を開発コンセプトに掲げるニューモデルの仕上がりは? 純ガソリンエンジン車の上級グレードで試した。低価格も大きな武器
トヨタは小型/普通車の国内シェアが50%を超えるメーカーとあって、SUVも豊富に用意する。前輪駆動ベースだけでも、Lサイズにはシティー派の「ハリアー」とラフロードも考慮した実用志向の「RAV4」があり、コンパクトサイズには「ヤリス クロス」と「ライズ」をそろえる。
しかし中間のミドルサイズには、以前は「C-HR」しか用意されなかった。C-HRは外観のデザインを優先して開発された5ドアクーペ風のSUVだ。2017年には1カ月平均で約1万台を登録して、SUVの販売1位になったが、2021年1月~8月の1カ月平均は約1700台にまで下がった。4年間で17%へと縮小している。ミドルサイズのSUVは、国内市場に最も適したカテゴリーなのに、トヨタ車はC-HRのみで販売も低迷する。これはトヨタにとって悔しい話だろう。
そこで2021年9月にカローラ クロスを発売した。プラットフォームなどの基本部分は、ホイールベース(前輪と後輪の間隔)の数値を含めてC-HRや「カローラ」(セダン)、「カローラ ツーリング」(ワゴン)、「カローラ スポーツ」(ハッチバック)と共通だが、外観はRAV4に似ている。カッコよさと実用性を併せ持つ典型的なSUVで、C-HRに比べると後席や荷室が拡大されている。
カローラ クロスは2020年7月にタイで公開されたが、開発者は「開発の初期段階から、日本国内でも販売する計画だった」という。1年間の販売計画台数は、日本が約5万3000台(1カ月の計画は4400台)、タイ+台湾は約4万台、ブラジルは約5万台だ。海外でも販売されるトヨタ車としては、日本国内の比率が高い。
この販売計画からも分かる通り、カローラ クロスは、トヨタのSUVラインナップの中心に位置づけられる。大量に売りたいから、価格も割安に抑えた。
カローラ クロスのパワーユニットは、1.8リッターの純ガソリンエンジン(以下、ノーマルエンジン)と、同じ排気量のハイブリッドだ。上級グレードになる「Z」(FWD)の価格は、ノーマルエンジンが264万円でハイブリッドは299万円になる。ハイブリッドはノーマルエンジンに比べて35万円高いが、カローラやカローラ ツーリングは、同じパワーユニットの組み合わせで大半の価格差が約43万円に達する。つまりカローラ クロスでは、ハイブリッドが特に割安といえる。4WDもハイブリッドのみの設定とされているため、今は受注台数の90%をハイブリッドが占めている。
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「C-HR」との差異は明らか
それでも1年間の走行距離が1万km以下で、価格を抑えたい場合、ノーマルエンジンも選ぶ価値がある。FWDのZ(264万円)に、ブラインドスポットモニター+パーキングブレーキサポートブレーキ(4万4000円)やパノラミックビューモニター(2万7500円)をオプション装着しても、税金と自賠責保険料を含めた購入予算が290万円ほどにおさまるからだ。
前置きが長くなったが、今回は、買い得感が強いノーマルエンジンのカローラ クロスZ(FWD)に試乗した。
運転席に座ると、内装の質は特に高いわけではないが、シルバーの装飾や光沢のあるブラックのパネルを使っているのに気づく。トヨタ車らしく不満のない仕上がりだ。前席の座り心地は、背もたれから大腿(だいたい)部を少し硬めに仕上げた。乗員の腰が座面にスッポリとおさまる感覚で、サポート性も良い。
後席の足元空間はコンパクトなSUVの平均水準だ。身長170cmの大人が4人乗車して、後席に座る乗員の膝先空間は握りコブシ1つ半となる。2つ半を確保する「ホンダ・ヴェゼル」よりも狭い。それでも後席の着座位置は、C-HRに比べて46mm高く、腰の落ち込む着座姿勢を改善した。後席に座る乗員の足が前席の下側におさまりやすいこともあり、C-HRよりも快適だから、ファミリーカーとしても使いやすい。
そしてカローラ クロスは実用志向のSUVとあって、荷室長(荷室の奥行き寸法)に余裕を持たせた。カタログなどに記載される数値を見ると、荷室長は後席を使った状態で849mmでヴェゼルを上回る。しかもリアゲートの角度を立てたので、背の高い箱型の荷物も積みやすい。カローラ クロスは、タイやブラジルの市場も重視しているから、後席の居住性と併せて荷室容量にも重点を置いた。
運転席から前方を見ると、ボンネットの手前側は視野におさまり、車幅やボディーの先端位置も分かりやすい。外観が水平基調だから、側方や後方の視界も良く、最小回転半径は5.2mと小回りも利く。全幅は1800mmを超えるが、街なかでも運転しやすい。
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とにかくネガを感じさせない
1.8リッターのノーマルエンジンは、実用回転域の駆動力に余裕があって扱いやすい。トランスミッションはCVT(無段変速AT)だが、2500rpm付近で巡航中にアクセルペダルを踏み増しても、エンジン回転だけが不自然に高まることはない。CVTの作動に違和感はなく、細かな速度調節も容易だ。3800rpmを超えると、速度の上昇がさらに活発になる。エンジンノイズにも不満はないが、巡航中に素早くアクセルペダルを踏み込んだり、登坂路で高回転域まで回したりした場合には、ハイブリッドに比べれば音量は大きく感じられる。
なおノーマルエンジンのWLTCモード燃費は14.4km/リッターだ。ハイブリッドのFWD車は26.2km/リッターだから、ノーマルエンジンの燃費数値はその55%にとどまる。またノーマルエンジンは、アイドリングストップ機構を搭載していない。このニーズはユーザーによって異なるが、信号待ちのアイドリングに罪悪感を抱く人もいる。標準装着しなくても、オプションで用意する必要はあるだろう。
走行安定性は、全幅がワイドなこともあり、SUVでは優れた部類に入る。操舵に応じて適度によく曲がり、峠道を走っても、旋回軌跡を拡大させにくい。ノーマルエンジンは、車両重量がハイブリッドに比べて60kgほど軽く、車両の反応も少し機敏だ。危険を避けるために下り坂のカーブでブレーキペダルを踏んだ時なども、後輪はしっかりと接地していて、挙動を不安定にさせにくい。
乗り心地も、このサイズのSUVでは快適だ。時速40km以下では、路上の細かなデコボコを伝えるが、上下に揺すられる不快感は生じない。マンホールのふたを乗り越えたような段差の通過でも、突き上げ感が抑えられている。全長が4500mm以内、価格が300万円以下のSUVとしては、走行安定性と乗り心地のバランスは良い。
足まわりの違いにも注目
ただし、カローラ クロスのFWDと4WDでは性格が異なる。試乗したグレードを含めて、FWD車のリアサスペンションは、車軸式のトーションビーム式だ。それがハイブリッドに設定された後輪をモーターで駆動する4WD「E-Four」では、リアサスペンションは独立式のダブルウイッシュボーン式になる。ダブルウイッシュボーンはトーションビームに比べると、重量が重く荷室の確保でも不利になり、コストも高まるが、走行安定性と乗り心地は向上させやすい。
そのためにハイブリッドの4WDでは、後輪の接地性が高く、路上の細かなデコボコも伝えにくい。FWD車と4WD車の価格差は、リアサスペンションの違いまで含めて20万9000円だから、4WD車が割安という見方も成り立つ。
タイヤの違いも走りに影響を与えている。試乗したZが装着するのは18インチ(225/50R18)だが、中級の「S」やベーシックな「G」は17インチ(215/60R17)だ。17インチは操舵した時の反応が少し穏やかで、グリップ性能も若干下がるが、乗り心地は柔軟になる。
Sは中級グレードだから、運転席の電動調節機能やリアゲートの電動開閉機能は装着されないが、乗り心地は上級のZよりもむしろ快適だ。特に後輪が独立懸架になるハイブリッドのE-Fourで、17インチタイヤのSを選ぶと、心地よい走りが得られる(価格は295万9000円)。ノーマルエンジンとハイブリッド、FWDと4WD(ハイブリッド)、SとZを乗り比べて購入する方法もあるだろう。
なおカローラ クロスでは、納期に注意したい。2021年10月上旬に契約した場合、ZとGは2022年の1月~2月ごろより後に納車され、Sは4月以降になる。初期受注の多いZは早期に生産を開始するが、Sはその後になるからだ。しかもSは、発売後6カ月間はKINTO(トヨタ車を定額制で使えるサービス)専用車だから、個人向けの納期はさらに延びる。
トヨタの販売店によれば「今は半導体の不足に加えて、アジアから輸入するワイヤハーネスなども滞り、カローラ クロスに限らず納期が全般的に長くなっている」という。新車が納車される前に、下取りに出すクルマの車検が到来することも考えられるため、乗り換えのタイミングには十分に注意したい。購入計画はなるべく早めに立てるといいだろう。
(文=渡辺陽一郎/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
トヨタ・カローラ クロスZ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4490×1825×1620mm
ホイールベース:2640mm
車重:1370kg
駆動方式:FF
エンジン:1.8リッター直4 DOHC 16バルブ
トランスミッション:CVT
最高出力:140PS(103kW)/6200rpm
最大トルク:170N・m(17.3kgf・m)/3900rpm
タイヤ:(前)225/50R18 95V/(後)225/50R18 95V(ミシュラン・プライマシー4)
燃費:14.4km/リッター(WLTCモード)
価格:264万円/テスト車=299万9150円
オプション装備:イルミネーテッドエントリーシステム<フロントカップホルダーランプ、フロントドアトリムショルダーランプ、フロントコンソールトレーランプ>(11万円)/ディスプレイオーディオ(2万8600円)/ブラインドスポットモニター+パーキングサポートブレーキ(4万4000円)/パノラミックビューモニター(2万7500円)/おくだけ充電(1万3200円)/パノラマルーフ(11万円) ※以下、販売店オプション ETC2.0ユニット ナビキット連動タイプ(3万3000円)/カメラ別体型ドライブレコーダー<スマートフォン連携タイプ>(6万3250円)/フロアマット<ラグジュアリータイプ>(2万8600円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:806km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:101.2km
使用燃料:9.6リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:10.5km/リッター(満タン法)/9.7km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 陽一郎
1961年生まれ。自動車月刊誌の編集長を約10年間務めた後、フリーランスのカーライフ・ジャーナリストに転向した。「読者の皆さまにけがを負わせない、損をさせないこと」が最も重要なテーマと考え、クルマを使う人の視点から、問題提起のある執筆を心がけている。特にクルマには、交通事故を発生させる甚大な欠点がある。今はボディーが大きく、後方視界の悪い車種も増えており、必ずしも安全性が向上したとは限らない。常にメーカーや行政と対峙(たいじ)する心を忘れず、お客さまの不利益になることは、迅速かつ正確に報道せねばならない。 従って執筆の対象も、試乗記をはじめとする車両の紹介、メカニズムや装備の解説、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、取り締まりなど、カーライフに関する全般の事柄に及ぶ。 1985年に出版社に入社して、担当した雑誌が自動車の購入ガイド誌であった。そのために、価格やグレード構成、買い得な車種やグレードの見分け方、リセールバリュー、値引き、保険、税金、車買取、カーリースなどの取材・編集経験は、約40年間に及ぶ。また編集長を約10年間務めた自動車雑誌も、購入ガイド誌であった。その過程では新車販売店、中古車販売店などの取材も行っており、新車、中古車を問わず、自動車販売に関する沿革も把握している。 クルマ好きの視点から、ヒストリー関連の執筆も手がけている。
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