第24回:ついに基本スペック公開! 「トヨタbZ4X」の姿をライバルとの比較で浮き彫りにする
2021.11.16 カーテク未来招来 拡大 |
トヨタが2022年に発売予定の新型電気自動車(EV)「bZ4X」。同社初のEV専用プラットフォーム「e-TNGA」を用いた第1弾モデルは、これが“初もの”とは思えないほどの、高い完成度を誇っていた。
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スペックは「日産アリア」とガチンコ勝負
トヨタ初のEV専用プラットフォームを採用した新型EV、bZ4Xの概要がいよいよ明らかになった。まずは全長や全幅などの基本的なスペックを、同じトヨタの「RAV4 PHV」や直接の競合車種になる「日産アリア」と比較しながら、このクルマの立ち位置を明らかにしていこう。
今回の会見では、bZ4Xという名称の由来も明かされた。“bZ”が「Beyond Zero」、すなわち“CO2ゼロ”という価値を超えることを意味しているのは発表済みだが、今回新たに分かったのは、そのあとの“4”がクルマのクラス、“X”が「クロスオーバー」を意味することだった。
4の下には1、2、3があるわけで、筆者は勝手に1はAセグメント、2がBセグメント、3がCセグメント、そして今回の4はCDセグメントを指すと考えている。つまり“4X”という名称はCDセグメントのSUVを指していることになる。実際、bZ4Xは全長を除いて、トヨタのCDセグメントSUVであるRAV4の車体寸法にほぼ等しい。そして日産アリアに対しても、全長が約100mm長いほかは、かなり似通った車体寸法になっている。
RAV4と比べて、EVの2車種で目立つのはホイールベースの長さだ。bZ4XはRAV4より全長が90mm長いのに対してホイールベースは160mmも長い。一方、アリアの全長はRAV4とほぼ同じだが、ホイールベースは85mm長くなっている。
これは、エンジン車に搭載される“エンジン+変速機”よりも、“モーター+減速機+インバーター”を一体化した「E-Axle」のほうがコンパクトなので、そのぶんフロントオーバーハングを短縮できるためだ。ホイールベースが延びると小回り性の悪化が心配になるが、bZ4Xの最小回転半径は5.7mで、19インチタイヤを履くRAV4 PHVと同じ数字を確保している。これもパワートレインがコンパクトなため、タイヤの切れ角を大きくとれるからだ。
プラットフォームは“前輪駆動ベース”
もうひとつ、今回の発表で明確になったのは、e-TNGAが日産アリアのプラットフォームと同じく、前輪駆動(FWD)を基本としていることだ。
EV専用プラットフォームでは、独フォルクスワーゲンの「MEB」が後輪駆動(RWD)を基本としているほか、ホンダも「ホンダe」のEV専用プラットフォームでRWD方式を採用した。世界最大のEVメーカーである米テスラもRWDが基本だ。クルマは加速するときに後輪に荷重が多くかかること、前輪を駆動力から開放して操舵だけを担わせたほうが、コーナリング時の限界が高められることなどから、EVではRWDを基本にするほうが合理的だと考えられてきた。
トヨタがe-TNGAでFWDを基本とした理由について、bZ4Xの開発を担当したトヨタZEVファクトリー主査の井戸大介氏は、今回の記者発表で「さまざまなお客さまに乗っていただくことを考えると、FWDにすべきではないかと判断した」と説明した。この発言を筆者なりに解釈すると、現在の多くのクルマはフロントエンジン・フロントドライブ(FF)であり、その運転感覚に慣れているドライバーに違和感を生じさせないために、e-TNGAもFWDベースにした、ということになる。
両車の違いにみる開発者のこだわり
ただ、車体寸法やFWDを基本とすることなどが共通するトヨタbZ4Xと日産アリアだが、大きく考え方が異なる点もある。ひとつはモーター出力だ。bZ4Xもアリアも、FWDと4WDの2つの駆動方式を用意するが、bZ4XはFWDではモーターの出力が150kWなのに対して、4WD仕様では前後に出力80kWのモーターを搭載する。つまり、合計の出力はFWD仕様も4WD仕様もほとんど変わらない。これに対してアリアは、FWD仕様のモーター出力は160kWだが、4WD仕様は前後合わせて250kW(いずれもバッテリー容量が66kWh仕様の場合)となっている。つまり、4WD仕様を明確に“高出力バージョン”と位置づけているのだ。
もうひとつ、bZ4Xとアリアのプラットフォームで考え方が異なるのが、バッテリーの搭載の仕方である。アリアにはバッテリー容量が65kWhの仕様と91kWhの仕様の2種類が用意される。つまり、71.4kW仕様のみのbZ4Xより、多くのバッテリーを積むことを想定した設計としなければならない。そのせいか、すべてのバッテリーがフラットな床下に搭載されるbZ4Xに対し、アリアは後席のシート下が盛り上がった形状となっている。
この点についても、アリアがバッテリーの搭載量を重視してプラットフォームを設計しているのに対し、bZ4Xの開発を担当した井戸氏は「バッテリーを平置きにすることにこだわってきた」と語っている。しかも、重量物であるバッテリーだけでなく、E-Axleについても低い位置に置くことで低重心化を追求。左右の重量バランスを均一にすることにも配慮するなど、車両の運動性能を左右する重量部品の配置には特にこだわったという。
バッテリーの劣化は10年で10%以下
また、プラットフォームとは別にbZ4Xの発表で印象的だったのは、バッテリーの信頼性に対する念入りな配慮だ。
初代「トヨタ・プリウス」は発売されたばかりのころ、バッテリーの性能劣化が速く、人々に「ハイブリッド車は走らない」という印象を与えてしまった。この苦い経験からか、bZ4Xのバッテリーは「10年経過、または24万km走行しても90%の性能を維持する」という、現在のところ業界最高水準の耐久性能を目標としている。「日産リーフ」が「8年または16万kmでバッテリー性能を70%保証」(実際には12段階あるバッテリー容量計が8段階以下になった場合に修理や交換を実施、24kWhバッテリーは5年10万km保証)となっていることを考えると、トヨタの目標水準の高さがうかがえる。
加えて技術的なポイントとして注目度が高かったのが、操縦桿(かん)のような形状をしたステアリングホイールだ。これは、トヨタ車としては初採用の技術となるステアリング・バイ・ワイヤの搭載車に装備されるもので、ステアリングを切り足さなくともタイヤの切れ角を大きくとれるという特徴を生かしているのだ。
このようにbZ4Xは、トヨタとしては初のEV専用プラットフォームを採用した量産モデルであるにもかかわらず、高い完成度を実現している。同じクラスで一足先に発売される「日産アリア」にとっては、強力なライバルの出現といえそうだ。
(文=鶴原吉郎<オートインサイト>/写真=トヨタ自動車、日産自動車/編集=堀田剛資)

鶴原 吉郎
オートインサイト代表/技術ジャーナリスト・編集者。自動車メーカーへの就職を目指して某私立大学工学部機械学科に入学したものの、尊敬する担当教授の「自動車メーカーなんかやめとけ」の一言であっさり方向を転換し、技術系出版社に入社。30年近く技術専門誌の記者として経験を積んで独立。現在はフリーの技術ジャーナリストとして活動している。クルマのミライに思いをはせつつも、好きなのは「フィアット126」「フィアット・パンダ(初代)」「メッサーシュミットKR200」「BMWイセッタ」「スバル360」「マツダR360クーペ」など、もっぱら古い小さなクルマ。
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