デビュー価格は1353万円 「ロータス・エミーラ」は成功するか?
2021.11.15 デイリーコラム“別物”であってほしい
2021年10月29日、日本での「ロータス・エミーラ」の受注が始まった。ただし、実際の生産開始は、2022年の春以降だという。大きくて重いSUVが全盛を誇り、はたまた大多数の自動車メーカーが自社モデルの電動化に血道を上げるなか、ピュア内燃機関を抱いた新しいスポーツカーがリリースされることに感謝したい。熱烈歓迎。
……といっても、ロータスが電気自動車と無縁なわけではない。2019年には同社初のピュアEVにしてスーパースポーツとなる「エヴァイヤ」をリリース。130台を限定生産するとして話題になった。新しいエミーラは、このエヴァイヤのデザインを市販車に落とし込んだスタイルを採る。素人目には「マクラーレンが手がけた『488』!?」といった安直な印象を受けないでもないが、それだけスポーツカーのデザイントレンドに乗っているということだろう。
LEDランプを並べて構成された縦型ヘッドランプの横にうがたれたボンネットの深いベントは、同車のエアロダイナミクスを視覚化したもので、大きくくぼんだサイドのボディーパネルは、ミドに横置きされたエンジンへ空気を導き、冷却するための造形。空力面で機能を追求するとカタチが似てくる事例として、例えば航空機ファンなら、「スホーイ27」と「ミグ29」を思い浮かべるかもしれない。空力デザインにブランドは関係ない。
ロータスのモデルラインナップにおいて、エミーラは「エヴォーラ」の後継にあたる。しかし、スタンダードバージョンではプラス2の後席を持っていたエヴォーラと異なり、エミーラは2シーターとなる。
エミーラのボディーサイズは全長×全幅×全高=4412×1895×1225mmと、エヴォーラよりやや大きくなっている。それでいて2575mmのホイールベースが同寸ということで、「アルミバスタブシャシーに載せる上屋を変えただけ?」との疑念も持たれるが、そんなことはないと信じたい。プレスリリースには、「すべての寸法が以前のロータスシャシーと異なり」と、別物であることが強調されている。
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ワケあって「豪華なロータス」
ドライバーの背面に積まれるエンジンは2種類用意される。新たにAMG由来の2リッター直列4気筒ターボが設定され、すっかりおなじみになったトヨタ製3.5リッターV6スーパーチャージャー付きに加わった。日本へは、まずは6気筒モデルが輸入される。
「エミーラV6ファーストエディション」の価格は1353万円。ベンチマークとなった「ポルシェ718ケイマン」とのスペック上の比較は、佐野弘宗氏の筆で当サイトに掲載されている(関連記事)ので、市井のいちスポーツカー好きとして、エミーラについて無責任に語ってみたい。
まずはロータスの販売戦略のコペルニクス的転回(!?)について。多くの人は忘れていると思いますが、先のエヴォーラは「ポルシェ911」をライバルとしていた。正確には、「プアマンズ・ナインイレブン」のポジションを狙っていた。これは、スポーツカーを手がけるメーカーの伝統的な手法のひとつだ。なぜなら一定の顧客数を得て継続的に成功しているスポーツカーの代表が、911だから。
同車が1960年代から好不調の波こそあれ生き延びてきたのは、第一級のスポーツ性能はもとより、日常的に使える実用性を有してきたから。プラス2の後席は、その象徴である。ただ、いまの911はポルシェSUVのプレミアム性を担保するためのブランドアイコンとして、あまりにゴージャスなラグジュアリースポーツになってしまったから、ロータスがイメージとして追いかける相手にはなりにくい。
そこで、今回のエミーラではターゲットをガチの競争相手たる「718ケイマン」にして、従来のロータス車では「スパルタンに過ぎる」と感じる顧客層、より一般的なスポーツカー好きに焦点を当ててきた。そのため、ソフトなトリムの内装が与えられ、各種の便利機能、運転支援技術まで搭載される装備充実ぶり。熱心なロータスファンにとって微妙な1405kgという車重(欧州参考値)は、エミーラの「豪華さ」の裏返し……というのは皮肉に過ぎましょうか。
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数は望めないかもしれないが……
となると、これまでとは逆にエミーラから派生するであろう「エリーゼ」「エキシージ」の後継車種は、エミーラの“ややソフト路線”を採って、「718ボクスター/ボクスターS」に対抗していくのか? それともオープンポルシェが訴求する「リッチなドライブ体験」はロータスにはそぐわないとして、また、2シーターとなったエミーラとの差別化を図るため、むしろシンプルなスポーツ性を強調するのか? 興味は尽きない。
さて、エミーラは成功するのか? 数が出ることをもって成功とするならば、厳しいと言わざるを得ない。1000万円超のスポーツカーを買うともなれば、できるだけブランドが確立した商品を求めたいと思うのが世の常だから。
一方で、数を追わずともやっていけることを示したのが、アルミと接着剤と他社製エンジンを駆使したエリーゼ以降のロータスである。スポーツカー好きにとって、ニューモデルであるエミーラの発売は、他者とかぶりにくく、よりハイパフォーマンスな、しかもほどほどの快適性が確保されたクルマを手に入れる、いい機会だといっていい。
近い将来、ロータス・エミーラのステアリングホイールを握る幸運なアナタは、一般のユーザーからは無視されるか「変な人」と思われるだけかもしれないが、嗜好(しこう)がひとまわりしたエンスージアストからは「油断ならない趣味人」として一目置かれるのは間違いない。オーナーとなったアナタは、SUVに頼らない、いまや稀有(けう)なスポーツカー専売メーカーのプロダクトを選んだ誇りとうれしさで胸がいっぱいになることでしょう。
(文=青木禎之/写真=写真=ロータスカーズ、ポルシェ/編集=関 顕也)

青木 禎之
15年ほど勤めた出版社でリストラに遭い、2010年から強制的にフリーランスに。自ら企画し編集もこなすフォトグラファーとして、女性誌『GOLD』、モノ雑誌『Best Gear』、カメラ誌『デジキャパ!』などに寄稿していましたが、いずれも休刊。諸行無常の響きあり。主に「女性とクルマ」をテーマにした写真を手がけています。『webCG』ではライターとして、山野哲也さんの記事の取りまとめをさせていただいております。感謝。