日産ノート オーラNISMO(FF)
窮屈な時代のエンターテイナー 2021.12.17 試乗記 日産自慢の電動パワートレイン「e-POWER」を搭載した、チューンドコンプリートカー「ノート オーラNISMO」に試乗。本籍地をサーキット1丁目1番地とするレース屋NISMOの名を冠する、その走りとはいかなるものか。ニッポン代表のオーラ
日産の「GT-R NISMO」がシン・ゴジラだとしたら、ノート オーラのNISMOバージョンはシン・ミニラと呼んであげたい。ゴジラの息子よ、未来はきみのものだ。
いまさら申し上げるまでもなく、ノート オーラNISMOは、日産のモータースポーツ活動を担うNISMOことニッサン・モータースポーツ・インターナショナルがレーシングフィールドで培ったノウハウを用いて、オーテックジャパンがチューニングを施したファクトリーカスタムである。
まずもって、NISMOバージョンはいでたちからして違う。ま、カスタムというのはそういうものですけれど、ノーマルのノート オーラよりも全長が80mm長い。もちろん、エアロダイナミクスを洗練させるためで、専用の前後バンパーとルーフスポイラーを装備する。サスペンションのローダウンも図っていて、1505mmの全高はノーマルより20mm低い。これらにより、Cd値(空気抵抗係数)を悪化させることなく、ダウンフォースの増大を実現しているという。
ボディー色にはレッドとかシルバーにダークメタルグレーもあるけれど、試乗車は、これぞNISMOというピュアホワイトパールとスーパーブラックの2トーンをまとっている。ドアミラーとボディー下端は赤く塗られていて、日の丸を想起させる。ニッポン! ニッポン! ニッポン! 乗る前からニッポン代表のオーラを放っている。
タイヤは、サイズこそノーマルと同じ205/50の17インチだけれど、ZR規格の「ミシュラン・パイロットスポーツ4」タイヤがおごられている。40とか35とかの超偏平を選んでいないのは、一般道での快適性をおもんぱかったからだろう。それでいて、240km/h超対応のZR規格、それもミシュランを選んでいるところがエンスージアスティックである。ニッポン代表といえども、世界中からよきものを集めてくるという姿勢は大切である。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
GT-R NISMOもかくやの硬さ
ドアを開けると、黒と赤のインテリアが目に飛び込んでくる。前席シートは、世界のレカロ。しかも、NISMO専用チューンだ。このアイテムはオプションだけれど、せっかくNISMOを選ぶのだ。装着しておいたほうが後悔しないのではあるまいか。ステアリングホイールは12時の位置に赤いマークの入ったNISMO専用で、センターコンソールにはカーボン調のパネルが貼られている。細かいところだけれど、スターターボタンとドライブモードの切り替えスイッチが赤になっていて、なんだかウレシイ。
その赤いスターターボタンを押すと、ピロロロンという音楽とともに、メーターナセル内の液晶スクリーンに白と黒の2トーンのノート オーラNISMOが姿を現し、クルリと向きを変える。こういう細かい演出もウレシイ。
いざ走りだすと、シン・ゴジラのGT-R NISMOもかくや、と一瞬思う。乗り心地がメチャンコ硬い。一目瞭然に硬い。垂直にコツコツくる。コツコツくる突き上げを、しっかり補強されたボディーが正面からビシッと揺るぐことなく受け止める。GT-Rのような堅牢(けんろう)感を、このコンパクトカーはドライバーに伝えてくる。
日産が「e-POWER」と呼ぶハイブリッドシステムを構成する、発電用の1.2リッターの直列3気筒エンジンは最高出力82PSで、最大トルクは103N・m、駆動用のモーターは136PSと300N・mで、数値そのものはノーマルのノート オーラと変わらない。7.388の最終減速比も同じだ。
それなのに、パワーとトルクの出方が、記憶のなかのノーマルのオーラとは全然違う。今回は、モーターの出力とトルクがちょっと控えめで、車重が重い「ノートAUTECHクロスオーバー」の4WDの後で試乗したので、いっそう硬くて速く感じたこともあるだろう。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
叫びたくなるほどの加速力
軽くアクセルを踏んだときの加速ぶりときたら、大きなワシに肩口をヒョイとつかまれて、ふわりと浮かぶような心持ちがする。リチウムイオン電池のエネルギーが十分で、エンジンが稼働していないと、ロードノイズと風切り音しかしないから、それこそ鳥のように舞い上がる。
ノート オーラNISMOの発表会の動画で語られているところによれば、これは加速が持続して、のびていく感覚を、ドライビングシミュレーターによって1000以上のテストを繰り返しながら、新たにつくり出したのだという。シミュレーターだから、トルクのカーブを変更するのにかかる時間も、ほんの十数秒。テストそのものも3日ぐらいしかかかっていないそうだ。
車検証によると、前荷重が820kg、後ろ荷重が460kgで、前後重量配分は64:36と明瞭にフロントが重い。フロントにエンジンとモーター、それに制御装置が入っているためだろう。なのに、それをあまり感じさせないのは、リアにモノチューブ式ショックアブソーバーを採用しているから、らしい。モノチューブ式は、チューブの中にチューブが入っている一般的なツインチューブ式よりも受圧面積が広くてガス圧が高いので、路面からの入力に対してレスポンスよく減衰力を発生させる。おかげで、バネ下のおさまりがよくなり、リアの接地性が向上するという。
このほか、ボディー後端に補強パーツを追加したり、前後サスペンションにNISMO専用チューニングを施したりすることで、操縦安定性と乗り心地の向上を図っている。
走行中、ドライブモードを標準のエコからNISMOモードに切り替えると、アクセル開度は変えていないのに、「うおおおおおおおおおおっ」と清水草一さんみたいに叫びたくなるほど加速する。
う〜む。これはオモシロイ。電気があれば、なんでもできる。と、久々に書きたくなってしまった。電気ですかぁ。
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
クールなホットハッチ
アクセルを全開にしても、「シーマ」や「フーガ」と同じレベルの遮音ガラスをフロントスクリーンに用いるなどして静粛性に気をつかっているおかげで、色気のないエンジン音はかすかに聞こえてくるレベルにとどまる。あえて申し上げれば、その色気のないエンジン音の大小と、加速具合が微妙にシンクロしていないことも、ガソリンエンジン育ちの筆者には微妙に気になるところではある。けれど、その筆者をしても、あえて申し上げているだけで、ほとんど気にならない。
かくしてノート オーラNISMOは、先代の「ノートNISMO」以上に洗練され、上質、かつスポーティーになって、日産e-POWERの可能性を押し広げることに成功している。モーターの特性を生かしつつ、乗り心地のハードさ、ちょっと重めのステアリングフィール、加減速感、そして操舵に対するクルマの反応などで、日産のスーパーカーであるGT-Rをちょっと思わせる、クールなホットハッチを生み出しているのだ。
ゴジラの息子のミニラは放射熱線を口から吐き出したりしない。フワッと天使の輪っかみたいな煙を出すだけである。より正確には、尻尾を踏まれるとブワッと吐き出す。背びれを青白く発光させて、口から光線を出したほうが、もちろんカタルシスはある。だけど、ゴジラと一部で呼ばれるR35 GT-Rでさえ、排ガスをブワッと吐き出してはいられない時代であることはご存じの通りである。
そういう窮屈な時代であっても、いや、そういう窮屈な時代だからこそ、ゴジラ的エンターテインメントは自動車の世界にも必要とされる。シン・ミニラはそうした需要に応え、おそらくその先の、シン・シン・ゴジラ、つまり新型R36 GT-Rの姿を予告しているのではあるまいか。
(文=今尾直樹/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
![]() |
![]() |
![]() |
![]() |
テスト車のデータ
日産ノート オーラNISMO
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4125×1735×1505mm
ホイールベース:2580mm
車重:1270kg
駆動方式:FF
エンジン:1.2リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:82PS(60kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:103N・m(10.5kgf・m)/4800rpm
モーター最高出力:136PS(100kW)/3183-8500rpm
モーター最大トルク:300N・m(30.6kgf・m)/0-3183rpm
タイヤ:(前)205/50ZR17 93W/(後)205/50ZR17 93W(ミシュラン・パイロットスポーツ4)
燃費:23.3km/リッター(WLTCモード)
価格:286万9900円/テスト車=388万4071円
オプション装備:特別塗装色<ピュアホワイトパール(3P)/スーパーブラック2トーン>(7万1500円)/NISMO専用チューニングRECARO製スポーツシート<前席>(39万6000円)/ステアリングスイッチ+統合型インターフェイスディスプレイ+USB電源ソケット<タイプA×2、タイプC×1>+ワイヤレス充電器+Nissan Connectナビゲーションシステム<地デジ内蔵>+Nissan Connect専用車載通信ユニット<TCU>+ETC2.0ユニット+プロパイロット<ナビリンク機能付き>+プロパイロット緊急停止支援システム+SOSコール(34万9800円)/NISMO専用本革巻き3本スポークステアリング<レッドセンターマーク、レッドステッチ、ガンメタクローム加飾付き>+ホットプラスパッケージ<ヒーター付きドアミラー、ステアリングヒーター、前席ヒーター付きシート+リアヒーターダクト>+ワイパーデアイサー+高濃度不凍液+PTC素子ヒーター(5万7200円) ※以下、販売店オプション 日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア>(7万2571円)/ラゲッジアンダーボックス(3万6300円)/NISMOフロアマット(3万0800円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1785km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:339.1km
使用燃料:24.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:14.1km/リッター(満タン法)/16.2km/リッター(車載燃費計計測値)

今尾 直樹
1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。
-
アウディSQ6 e-tron(4WD)【試乗記】 2025.9.17 最高出力517PSの、電気で走るハイパフォーマンスSUV「アウディSQ6 e-tron」に試乗。電気自動車(BEV)版のアウディSモデルは、どのようなマシンに仕上がっており、また既存のSとはどう違うのか? 電動時代の高性能スポーツモデルの在り方に思いをはせた。
-
トヨタ・ハリアーZ“レザーパッケージ・ナイトシェード”(4WD/CVT)【試乗記】 2025.9.16 人気SUVの「トヨタ・ハリアー」が改良でさらなる進化を遂げた。そもそも人気なのにライバル車との差を広げようというのだから、その貪欲さにはまことに頭が下がる思いだ。それはともかく特別仕様車「Z“レザーパッケージ・ナイトシェード”」を試す。
-
BMW M235 xDriveグランクーペ(4WD/7AT)【試乗記】 2025.9.15 フルモデルチェンジによってF74の開発コードを得た新型「BMW 2シリーズ グランクーペ」。ラインナップのなかでハイパフォーマンスモデルに位置づけられる「M235 xDrive」を郊外に連れ出し、アップデートされた第2世代の仕上がりと、その走りを確かめた。
-
スズキ・アルト ハイブリッドX(FF/CVT)【試乗記】 2025.9.13 「スズキ・アルト」のマイナーチェンジモデルが登場。前後のバンパーデザインなどの目に見える部分はもちろんのこと、見えないところも大きく変えてくるのが最新のスズキ流アップデートだ。最上級グレード「ハイブリッドX」の仕上がりをリポートする。
-
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”【試乗記】 2025.9.12 レースやラリーで鍛えられた4WDスポーツ「トヨタGRヤリス」が、2025年モデルに進化。強化されたシャシーや新しいパワートレイン制御、新設定のエアロパーツは、その走りにどのような変化をもたらしたのか? クローズドコースで遠慮なく確かめた。
-
NEW
ロレンツォ視点の「IAAモビリティー2025」 ―未来と不安、ふたつミュンヘンにあり―
2025.9.18画像・写真欧州在住のコラムニスト、大矢アキオが、ドイツの自動車ショー「IAAモビリティー」を写真でリポート。注目の展示車両や盛況な会場内はもちろんのこと、会場の外にも、欧州の今を感じさせる興味深い景色が広がっていた。 -
NEW
第845回:「ノイエクラッセ」を名乗るだけある 新型「iX3」はBMWの歴史的転換点だ
2025.9.18エディターから一言BMWがドイツ国際モーターショー(IAA)で新型「iX3」を披露した。ざっくりといえば新型のSUVタイプの電気自動車だが、豪華なブースをしつらえたほか、関係者の鼻息も妙に荒い。BMWにとっての「ノイエクラッセ」の重要度とはいかほどのものなのだろうか。 -
NEW
建て替えから一転 ホンダの東京・八重洲への本社移転で旧・青山本社ビル跡地はどうなる?
2025.9.18デイリーコラム本田技研工業は東京・青山一丁目の本社ビル建て替え計画を変更し、東京・八重洲への本社移転を発表した。計画変更に至った背景と理由、そして多くのファンに親しまれた「Hondaウエルカムプラザ青山」の今後を考えてみた。 -
NEW
第4回:個性派「ゴアン クラシック350」で“バイク本来の楽しさ”を満喫する
2025.9.18ロイヤルエンフィールド日常劇場ROYAL ENFIELD(ロイヤルエンフィールド)の注目車種をピックアップし、“ふだん乗り”のなかで、その走りや使い勝手を検証する4回シリーズ。ラストに登場するのは、発売されたばかりの中排気量モデル「ゴアン クラシック350」だ。 -
NEW
第928回:「IAAモビリティー2025」見聞録 ―新デザイン言語、現実派、そしてチャイナパワー―
2025.9.18マッキナ あらモーダ!ドイツ・ミュンヘンで開催された「IAAモビリティー」を、コラムニストの大矢アキオが取材。欧州屈指の規模を誇る自動車ショーで感じた、トレンドの変化と新たな潮流とは? 進出を強める中国勢の動向は? 会場で感じた欧州の今をリポートする。 -
NEW
ポルシェ911カレラT(後編)
2025.9.18谷口信輝の新車試乗レーシングドライバー谷口信輝が、ピュアなドライビングプレジャーが味わえるという「ポルシェ911カレラT」に試乗。走りのプロは、その走りをどのように評価する?