フォルクスワーゲン・ゴルフGTI(FF/7AT)
伝統は受け継がれる 2021.12.22 試乗記 8代目となったフォルクスワーゲンの基幹モデル「ゴルフ」に、ファン待望の「GTI」が登場。いまや“ブランド”を確立しつつある伝統のスポーツモデルは、この新型でいかなる進化を遂げたのか? その走りをリポートする。 拡大 |
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常に「ゴルフ」とともにあり
コロナ禍に起因する部品供給の遅れもあって、いまだに混乱が伝えられる世界の新車市場。そうしたなかにあって、「実は日本向けのデリバリーが始まる直前に生産計画が狂いだし、販売が始まっていた市場向けの供給が優先されたことで、さらに遅れるという“とばっちり”を食うことになった」と耳にするのが、数ある輸入車のなかでも相変わらず圧倒的な知名度を誇る、フォルクスワーゲン・ゴルフというモデルだ。
結果として、日本でのローンチはランニングコンポーネンツを共有する「アウディA3」に先を越されることになったものの、2021年6月にはようやく1リッターと1.5リッターのターボ付きガソリンエンジンを搭載した、いわばシリーズのベーシックモデルから導入が開始された。その後、このブランドでは「ヴァリアント」と称されるステーションワゴンが、わずか1カ月遅れの7月に追加設定され、12月21日にはディーゼルモデルの「TDI」導入もアナウンスされた。
今回お伝えするのも、慨すればさらなるバリエーション拡充というトピックである。ただし、その“お題”は誰もが登場を既定のこととして捉え、導入を待ち望んでいたに違いないハイパフォーマンスバージョン、GTIである。日本には正規輸入されなかった初代から数えると、このほどやって来た最新モデルは8代目。すなわち、ベースがモデルチェンジを受けるたびにGTIも刷新されてきたわけで、ゴルフにおけるGTIとはもはや「あって当たり前」の存在なのだ。
変わらぬディテールに新しいギミック
ゴルフVIIIと称される最新型をベースとしたGTIのアウトラインは、おおむね「予想された通り」と紹介していいものである。
初代から続く、赤い差し色が目を引くフロントマスクを筆頭に、“チェッカードフラッグ”を連想させるフォグライトとハニカム状のインテークグリル、下部にディフューザー風の処理が施されたリアバンパーなど、その外装には専用のデザインが施された各種ボディーキットを採用。加えて、やはり専用デザインによるアルミホイールやクロームレッドを配したGTIエンブレムなどで、「ベースモデルとはひと味違う」という個性を、まずは外観上からアピールする。
そうした演出はインテリアにおいても見られ、伝統的なタータンチェック柄を採用するシート地や、赤いアクセントカラーとGTIエンブレムが配されたステアリングホイール、ダッシュパネルやドアトリムのハニカムパターンなどが“特別感”を盛り上げる。「デジタルコックピット プロ」のグラフィックに、大径のタコメーターを中央に配しつつ、その左右にターボのブースト計や出力計といったサブメーターを表示する専用モードを用意するのは、デジタルメーターならではのファッション性と機能性を感じさせる芸当である。
話を外身に戻すと、そんな新型ゴルフGTIで特徴的なのは、エアロダイナミクス性能にかつてなく磨きがかけられたということだ。ベースモデルでも空気抵抗係数を従来型の0.3から0.275へ引き下げるなど、空力性能についてはことのほか注力したとうたわれる新型ゴルフ。GTIの場合には、さらに専用デザインのルーフスポイラーを採用するなどして、従来型ではフロントアクスルに作用する力に対して相対的に大きかったリアアクスルのリフト量を低減させ、前後バランスを適性化することで高速走行時のスタビリティー向上を図っているという。
最高出力245PSというさじ加減
話題はさらにランニングコンポーネンツへとつながる。もちろん、独自のエンジンと足まわりである。
新しいGTIに搭載される2リッターのターボ付き4気筒直噴ガソリンエンジンが発するのは、従来型のライフ途中で、いわば“特別なGTI”として設定された「GTIパフォーマンス」用のユニットと同等の最高出力245PS、最大トルク370N・mというスペックだ。従来型の“ノーマルGTI”は230PSと350N・mだったから、それぞれ15PSと20N・mの上乗せという計算となる。
そうした出力/トルクの向上は、インジェクターの改良とともに最大圧をアップさせた燃料噴射系の採用や、各部フリクションの低減などによって実現したと説明される。もっとも、過去には“戦うゴルフ”こと「ゴルフGTI TCR」用の心臓をロードゴーイングバージョンに転用した290PS/380N・mという数値のユニットもあったし、4WDシステムを備え、同じ2リッターという排気量にして320PS/400N・mをたたき出す新型の「R」グレードもすでに欧州市場ではローンチ済みである。このように、自然吸気ユニットと比べて簡単にさらなるハイスペックを手にできてしまうところが、ターボ付きエンジンのスゴさであり、またちょっと興ざめ(?)なポイントでもある。
いずれにせよ「ベーシックゴルフの実用性をなんら損なうことはない」というのが歴代GTIが支持され続けてきた大きな理由である。コストや燃費なども勘案し、「このあたりが適当」と判断した結果が、新しいGTIのスペックということになるのだろう。
一方、そんな心臓のアウトプットを受け止めるのが、専用チューニングが施されたサスペンションや電子制御油圧式のデファレンシャルロック機構、ブレーキを用いたベクタリング機構「XDS」を統合制御する、足まわりのコントロールシステム「ビークルダイナミクスマネージャーシステム」である。今回のテスト車には、「“カスタム”のモードにおける可変範囲が従来型よりも拡大」と説明される電子制御式可変減衰力ダンパー「DCC」を、標準仕様より1インチ大きな19インチのホイールとの組み合わせで装着する「DCCパッケージ」などのオプションも装着されていた。
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大事なブランドだからこそ
先述のようにDCCに新機軸が採用されたということで、試しにとダンパーを最もソフトなポジションにして走りだしてみる。と、やはり上屋の動きが大きめで、ちょっと収まりが悪く、タイヤが拾う入力が悪目立ちしてしまう。逆にハード側の設定を試してみると、最も減衰力が高いポジションはもとより、プリセットされた「スポーツ」モードの設定でも、自身にとっては「ちょっと硬すぎ」という印象だった。結局、間をとって「コンフォート」モードを中心にテストドライブを続けることとなる。
1.4t強という重量に対して、7段DCTを介してシームレスに前輪へと伝えられるエンジン出力はもちろん十二分で、野太いエキゾーストサウンドとともに得られる動力性能に不満など当然みじんもない。ただ、「タイトなワインディングセクションの一部が、落ち葉が積もったウエット路面」というテスト当日のコンディションでは、トラクション能力に定評のあるゴルフでも、ときにトラクションコントロールの作動を示すワーニングランプが激しく点滅することに。そんな場面でもトルクステアを生じさせず、スティック感(操舵の最中に手応えや操作力が変わる感覚)を覚えさせることもないあたりは、さすがの仕上がりだ。
ともあれ、こうしたシーンでは“4WD化”という言葉が開発陣の脳裏をかすめることだろう。GTIの場合、それはRと差別化するうえでも「身の丈感覚のハイパフォーマンスモデル」というキャラクターからしても、手を出しづらい領域であるはず。フォルクスワーゲンにとって今やひとつのブランドにまで育ったからこそ、GTIを名乗るモデルの“商売上の”ハンドリングには、今後の電動化というハードルを踏まえても、さらなる慎重さと難しさが伴っていくことになりそうだ。
(文=河村康彦/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ゴルフGTI
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4295×1790×1465mm
ホイールベース:2620mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:245PS(180kW)/5000-6500rpm
最大トルク:370N・m(37.7kgf・m)/1600-4300rpm
タイヤ:(前)235/35R19 91Y XL/(後)235/35R19 91Y XL(グッドイヤー・イーグルF1スーパースポーツ)
燃費:12.8km/リッター(WLTCモード)
価格:466万円/テスト車=533万6500円
オプション装備:ボディーカラー<キングズレッドメタリック>(3万3000円)/ディスカバープロパッケージ(19万8000円)/テクノロジーパッケージ(17万6000円)/DCCパッケージ(22万円) ※以下、販売店オプション フロアマット<GTI>(4万9500円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:2638km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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