第672回:ブリヂストンの最新スタッドレスタイヤ「ブリザックVRX3」の(ドライ)性能を北の大地で試す
2021.12.30 エディターから一言 拡大 |
ブリヂストンが2021年7月に発表した新型スタッドレスタイヤ「ブリザックVRX3」。2世代分、約8年に相当する大幅な進化により歴代最高レベルの氷上性能を達成したという。その実力を試すべく、いざ北の大地へと出発したのだが……。
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乾燥路面での試走のために北海道へ?
いよいよ今シーズンも冬本番が到来。そんな今のタイミングでは、本格的な降雪地域に住むドライバーはスタッドレスタイヤを準備済み……どころか、すでに履き替え済みという人も多数に違いない。
そうしたなか、ブリヂストンの最新スタッドレスタイヤVRX3に、あらためて触れるチャンスが用意されたので、早速北海道は千歳へと飛んだ。あらためてというのは、まだ暑い盛りにスケートリンクを用いてのプレプロダクションモデルによる簡単な氷上試走が行えていたからだ。
ただ、このリポートの写真からもお分かりのように、すでに今シーズン何度か降雪の報は聞かれたという当地ながら、一般道上はどこも完全なドライという状況で、試走の当日は人工降雪機を用いて整備された特設のコース上にのみやっと白い部分が見られるというありさまであった。
加えて、比較するための他のタイヤと乗り比べたというわけでもなく、端的に言ってVRX3が大きな売り物とする氷上・雪上でのポテンシャルは「詳細に知る術(すべ)がなかった」というのが正直なところだ。
一方、スケートリンクでの試走を行った際に感じた「周辺一般道も試しに走らせてくれればいいのに」という思いは遂げることができた。したがって、ここでは本格的に雪が積もり始める前や、非降雪地域のユーザーがむしろ積雪・凍結のない状況をメインに用いるというシーンや状況を想定して話を進めていくこととしたい。
発泡ゴムに30年以上の歴史
すでにご存じという人も多そうだが、ブリヂストンのスタッドレスタイヤといえば、トレッド面に採用される発泡ゴムが最大の特徴。凍結路面でタイヤが滑るのは、タイヤと路面の摩擦によって路面上の氷が解け、水膜を生成するというプロセスにあるというのが定説だ。
そこで、トレッドコンパウンドにあたかもスポンジのごとく前述の水膜を吸い取る発泡ゴムを導入。走行中、連続的に除水を行ってグリップ力を確保するというのが、ブリヂストンのスタッドレスタイヤにおける基本的な考え方になる。
舗装路面が削られることで発生する粉じんによる公害対策をきっかけとして、金属製の鋲(びょう)を打ち込んだスパイクタイヤの使用が日本で原則禁止とされたのが1991年。代替品として使われ始めたスタッドレスタイヤにブリヂストンが初めて発泡ゴムを用いたのが、1988年にローンチされた初代ブリザックの「PM-10/PM-20」だったから、その歴史はすでに30年以上に及ぶ。
かくして、ブリヂストンにおけるスタッドレスタイヤの歴史は、発泡ゴムの進化と同じとも言えそうで、実際に従来タイヤである「VRX2」から新しいVRX3への世代交代でも、コンパウンド内の気泡の形状を従来の丸型から楕円(だえん)形状に変えるという試みが報告されている。
今へと至る歴史のなかでも気泡自体の体積アップや「アクティブ発砲ゴム」と称する親水性コーティングなどが行われてきたが、VRX3に採用された楕円形状の気泡は、「毛細管現象によって水を吸い上げる」という新たな発想によるものだ。
同時に、フルモデルチェンジされたトレッドパターンも目を引く。昨今のスタッドレスタイヤのトレンドである接地面積の拡大やパターン剛性の向上を図りながら、一部のサイプにあえて溝を貫通させない“端止め”のデザインや、ブロック先端に突起を設けた“L字ブロック”を採用することで、サイプやグルーブ内への水の逆流を防ぐ効用を狙ったという点も新しい。
さらに、サイズによって異なる本数の主溝を採用することで、小さいサイズで溝が細くなり、新雪や登坂時の性能が低下することを防ぐ設計も行われている。ちなみにそんな開発・検証には、まだ手彫りによるパターン製作など、意外にアナログな手法も採用されているのだという。
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乾燥路でも不快感なし
今回、公道上での検証用としてブリザックVRX3が装着されていたのは、アウディの「A4アバント」やトヨタの「プリウス」。ステアリングを握ったのはいずれも4WDモデルだったが、前述のとおり試走ルート全面において路面は乾燥状態だったこともあり、残念ながらブリヂストンが誇る最新技術の恩恵にはあずかれなかった。
ただ、気づいたことも少なからずあった。走り始めてすぐに両車で共通して感じられたのは、コンパウンド内に気泡を含んだ発泡ゴムを採用しているからといって、ぐにゃぐにゃと剛性が低いという印象は皆無であるということ。パターン剛性が高められていることも関係するのか、むしろ荒れた路面に差しかかるとアタリの感触は予想していたよりも硬質で、しっかりとした印象も両車で感じられた。
さらに、拾った振動のダンピングが悪くないことも両車で実感できた。率直なところ「減ってしまうのがもったいない」という思いを別にすれば、乾燥路上を走り続けても特に不快な印象を覚えることは、ほとんどなさそうだ。
あえて高い横Gを発するような走りにトライしたというわけではないものの、操舵に対して特に応答の遅れを意識させられるような場面がなかったことも共通。かつての“スノータイヤ”のように走行速度に連動する特有のパターンノイズが耳につくこともないから、何も知らずに走りだしてしまえば、多くのドライバーはスタッドレスタイヤを装着していることにすら気づかないかもしれない。
一部に積雪状態が再現された特設コースでは、駆動方式やボディー形状、サイズ、車重の異なるさまざまなモデルに乗り換えて試走。あえてラフなアクセルやステアリング操作を試みても、難なくコースを走り切れることが確認できた。次こそは降雪地のリアルワールドで、あらためて本来の雪上・氷上性能を確かめてみたいVRX3である。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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