ランボルギーニ・ウラカンEVO RWDスパイダー(MR/7AT)
時代は変わった 2022.01.21 試乗記 本当の性能を知るにはサーキットに持ち込むしかないが、「ランボルギーニ・ウラカンEVO」の長所は、たとえ公道走行であっても気負わずに楽しめるところだ。後輪駆動のオープントップモデル、すなわち「RWDスパイダー」をワインディングロードに連れ出してみた。猛牛も普段は従順
どう見てもただモノではない。にもかかわらず、近ごろではさあこれからランボルギーニ・ウラカンEVOに乗るぞという時でも、肩がこわばったりすることはほとんどない。もちろん、価格だけをとっても緊張を強いられるのは当然ながら、一瞬も油断できないというほどの野獣ではなく、一般道を普通に走る限りは、極めて従順な信頼できるモンスターであることをもう十分に知っているためだ。最高出力610PSの5.2リッターV10エンジンをミドシップし、0-100km/h加速3.5秒、最高速324km/hを誇るスーパースポーツカーをつかまえて安心できるというのも妙な物言いに聞こえるかもしれないが、日常的な実用性と爆発的なパフォーマンスを併せ持つその二面性こそウラカンEVOの真骨頂である。だからこそ、このジャンルでは類を見ない成功作となっているのだ。
前作「ガヤルド」を引き継いで「ウラカン」がデビューしたのは2014年、その進化形が2019年に発表された、その名もズバリのウラカンEVOである。その後スパイダーやRWD仕様が加わり、このRWDスパイダーは2020年春に追加されたモデルだ。さらに2020年11月にはロードゴーイングレーサーともいうべき究極の「STO」が東京でお披露目されたことはご存じのとおり。ランボルギーニは既に2025年初頭までに全製品のCO2排出量を半減させ、2023~2024年までには全ラインナップを電動化すると明言しているから、現行型ウラカンのモデルライフは当然そこまでと考えられる。ランボルギーニを文字どおり復活させたガヤルド、ウラカンシリーズは今、最終章を奏でているのである。
数は力である
新型の登場はもう少し先になるだろうから、過去形で言うのはちょっと早すぎるが、ウラカンはランボルギーニ最大のヒット作である。何度か繰り返してきたことだが、同社復活の立役者たる前作ガヤルドは2003年から2013年までの11年間で1万4022台を生産し、当時は同社史上最大のヒット作と言われたが、2014年デビューの後継モデルのウラカンはその数字を半分の5年で達成、ご存じのように今もガヤルドの2倍のペース(ざっと年間2500台)で売れている。参考までにランボルギーニの最近の販売台数を引くと、2019年の世界販売台数は8205台と大きく伸びた(そのうちのおよそ6割を占めるのは新型SUVの「ウルス」)。2020年は前年比9%減の7430台でそのうちウラカンは約2200台だが、新型コロナウイルス感染症のために2カ月余りも工場の閉鎖を余儀なくされたことを考えれば大健闘といえるだろう。1998年にアウディグループ入りした後も数年間は年間生産が300台程度だったことを考えると隔世の感がある。
翻って、と比較するにはかわいそうだが、既に生産中止が発表されている「ホンダNSX」(2代目)の生産台数は2016年からの6年間でざっと2500台にすぎない。オハイオ州に新設した専用工場の生産能力は年間2000台と言われていたにもかかわらず、である。理由はさまざまだろうが、初代NSXが平均して年間1000台以上売れていたことを考えると、何とも寂しい限りである。ヒット作を生み出すのはつくづく一筋縄ではいかないことを感じさせられる。
思えば、初代NSXが登場した直後の世の中のクルマ好きの反応はどちらかといえば冷たいものだった。すなわちパワーステアリングもエアコンもATも、さらにはゴルフバッグが入るラゲッジスペースさえスポーツカーとしては堕落であり、快適性や日常的な実用性を求めるなどスポーツカー乗りの風上にも置けない、と非難されていたのである。ピュアでストイックな、例えば「ロータス・エリーゼ」のように簡潔なスポーツカーの魅力を否定するつもりは毛頭ないが、スパルタンであることを苦にしないのはごくごく限られたピューリタンだけ、どんなに意地を張ってみても扱いづらいクルマは次第に縁遠くなることは経験上間違いない。ウラカンが最も成功したスーパースポーツカーと言われるのは、まさにそこに理由がある。ハレとケ、非日常性と日常性を類いまれなバランスで両立させているからに違いない。
硬質で豪快な自然吸気V10
2000年代初めは多くのブランドがそれこそセダンにもV10ユニットを搭載していたものだが、今や市販スポーツカー用としてはランボルギーニ/アウディのV10のみである。そのドライサンプ式5.2リッター90°V10エンジンは4WDのEVO用で640PS(470kW)/8000rpmと600N・m/6500rpmを発生する。これはマイナーチェンジ前の高性能版「ウラカン ペルフォルマンテ」と同じ数値だが、RWDモデルは同回転数から610PS(449kW)と560N・m(57.1kgf・m)と若干抑えられている。
前述のようにその姿形とは裏腹に、一般道でおとなしく走るぶんには静かで従順といっていい。始動する時だけは一瞬グワッとどう猛にほえるものの、「オート」モードならばスッと動き出して、せいぜい2500rpmぐらいで静かに軽やかにシフトアップしていく。街なかだけを試乗したらとても8500rpmまで猛然と回るエンジンには思えないかもしれないが、実は普通のターボユニットなら打ち止めとなる6000rpmぐらいから、もう一段ロケットエンジンに点火するように、喉も裂けよとほえながら8500rpmのリミットめがけて突き抜けるように回るのがウラカンの神髄だ。ガヤルドの初期モデル(5リッターから500PSだった)とは異なり、5.2リッターユニットはオフセットクランクではないせいか、トップエンドではわずかにビリビリとしたビートのようなものが伝わり、滑らかにスムーズに回るだけではない! という攻撃的な性格もある。いっぽうでフラッグシップの「アヴェンタドール」が依然として変速時にわずかなタイムラグと明確なシフトショックを伴うのに対して、ウラカンの7段DCTは実に洗練されており、オートでもマニュアルでもシームレスで滑らか(「コルサ」モードではショックが大きくなるが)、かつ電光石火の変速が可能だ。
またスーパースポーツカーらしい外観とは裏腹に、一時停止からの合流の際などの斜め後方視界を除けば、この種のスポーツカーとしては視界がいいことも街なかや狭い一般道で扱いやすい理由だ。0-100km/h加速は2.9秒のEVO(EVO RWDは3.3秒)に対してRWDスパイダーは3.5秒と多少の差があるが、これは4WDによる発進時の蹴り出しと車重の違いだろう。RWDは30kgほど軽量のはずだが、スパイダーは電動ルーフなどのせいでおよそ120kg重くなる。RWDスパイダーの車検証記載値は1720kg(カタログ上の乾燥重量は1509kg)である。
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我慢要らずが現代風
ウラカンEVOの特徴は、後輪操舵システムやトラクションコントロール、ブレーキを利用したトルクベクタリングと4WDシステムなどを統合制御する「LDVI(ランボルギーニ・ディナミカ・ヴェイコロ・インテグラータ)」なる車両コントロールシステムだが、RWDモデルではその後輪操舵システムが省かれることが大きな相違点だ。またLDVIに代わって「P-TCS(パフォーマンス・トラクションコントロールシステム)」と称する制御装置がドライバーをサポートする。とにかく面白いように曲がるEVOに対してRWDはもっとオーソドックスというか、前輪の接地感を意識して操舵する必要があるが、こちらも切れ味抜群なことは言うまでもない。自由自在の万能感が味わえるEVOよりも素手で路面をなぞっているような感覚で、さらに手だれ向けといえるだろう。
もっとも、ドリフト向きと位置づけられる「スポーツ」モードでもパワーオンで後輪のグリップを失わせることはできず(ブレーキング時やESCを完全オフにすれば別だが)、気が済むまで試すにはやはりサーキットに持ち込むしかないだろう。ちなみに、少なくとも「ストラーダ」モードでは乗り心地も決してスパルタンではない。普段はシャープでスマート、かつ洗練されており、真冬にトップを降ろして快適に流すこともできるが、扱い方によってどう猛にもなる。その落差が人を引きつけるに違いない。飛び抜けたパフォーマンスの代わりに何かを我慢するという時代ではないのである。
(文=高平高輝/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ランボルギーニ・ウラカンEVO RWDスパイダー
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4520×1933×1180mm
ホイールベース:2620mm
車重:1720kg
駆動方式:MR
エンジン:5.2リッターV10 DOHC 40バルブ
トランスミッション:7段AT
最高出力:610PS(449kW)/8000rpm
最大トルク:560N・m(57.1kgf・m)/6500rpm
タイヤ:(前)245/30ZR20 90Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:13.9リッター/100km(約7.2km/リッター、WLTPモード)
価格:2919万3599円/テスト車=3791万0593円
オプション装備:ビッグフォージドコンポジットパッケージ(75万3060円)/スポーツシート(85万8660円)/ランボルギーニ・センソナム(42万1740円)/マルチファンクションアルカンターラステアリング(11万2970円)/カーボンセラミックブレーキ<ブラックキャリパー>(31万6360円)/ダイナミックパワーステアリング(25万6080円)/リアバンパー&リアディフューザー<ハイグロスブラック>(40万6780円)/スマートフォンインターフェイス(40万6780円)/EVOトリムスポルティーボレザーシート<バイカラー>(49万7090円)/ウインドスクリーンフレーム<ハイグロスブラック>(4万5320円)/リアビューカメラ(24万1010円)/ルーフライニング&ピラー<レザー>(15万0590円)/ヘッドレストのエンブレムステッチ(11万2970円)/スタイルパッケージ<ハイグロスブラック>(22万5940円)/「Narvi」20インチ鍛造ホイール<シャイニーブラック>(60万2580円)/ライフスタイル&ドライバーパック(43万2960円)/フロアマット<レザーパイピング&ステッチ入り>(7万5350円)/アドペルソナムボディーカラー(159万6540円)/アドペルソナムインテリアカラー(120万4214円)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:5490km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:312.7km
使用燃料:65.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:4.8km/リッター(満タン法)

高平 高輝
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