ジープ・グランドチェロキーLリミテッド(4WD/8AT)
強くて大きなアメリカン 2022.01.26 試乗記 ジープの旗艦「グランドチェロキー」がフルモデルチェンジ。5代目となる新型では3列シートを採用したほか、厳選した素材と最新のテクノロジーを惜しみなく投入し、アメリカンプレミアムSUVとしてこれまでよりも一段上の領域を狙っている。果たしてその仕上がりは?エレガントからワイルドへ
威風堂々、豪壮至極、雄渾(ゆうこん)無比。思わず四文字熟語を並べたくなるほどの貫禄である。アメリカンSUVはかくあるべしというプライドを感じる。10年ぶりにフルモデルチェンジを受けたグランドチェロキーは、威厳と品格をまとった姿で登場した。デザインのモチーフになったのは、1963年にデビューしたフルサイズSUVの初代「ワゴニア」だという。ワゴニア自体も2021年に復活が発表されており、ジープブランドはアメリカンプレミアムSUVの元祖としての立ち位置をあらためて訴えかけようとしているようだ。
まず日本に導入されるのは「グランドチェロキーL」。ロングボディーの3列シートモデルである。グレードは2種類。2+3+2のベンチシートで7人乗りの「リミテッド」と、2列目が2座のキャプテンシートになる6人乗りの「サミット リザーブ」だ。ショートボディーの2列シートモデルは、まだラインナップされていない。
全長は5200mmで、ホイールベースは3090mm。先代(全車が2列シート)より大幅に拡大している。全長が延ばされたことで、雄大なイメージがさらに強調されたかたちだ。ルーフもショルダーラインもほぼ水平で、がっしりした骨格を見せつけている。横から見てはっきりと変わったのはフロントの形状だ。逆スラントノーズが力強さをもたらしていて、従来のエレガントからワイルドへと路線転換したように見える。
グランドチェロキーは1993年に初代モデルが登場し、今回のモデルチェンジで5代目となった。当初はオフロード性能を強く打ち出していたが、3代目モデルでフロントに独立懸架のサスペンションを与え、オンロードの走行性と乗り心地の向上を図った。ヨーロッパのプレミアムSUVに対抗する姿勢を示したのである。新型もその延長線上にあるが、見た目に関しては少しだけ原点回帰した印象だ。
ロータリー式シフトセレクターを初採用
試乗したのは7人乗りのリミテッド。2種のグレードのなかではエントリーモデルということになるが、価格は788万円。サミット リザーブは999万円で、サイズ同様に値段のスケールも大きくなった。そのぶん装備は充実していて、オプションを加えなくても不自由なく乗れる仕様になっている。衝突被害軽減ブレーキ、ブラインドスポットモニターやアダプティブクルーズコントロール(ACC)などは、どちらのグレードでも標準装備だ。
211万円もの差があるのだから、リミテッドではサミット リザーブに付いている装備のうちいくつかが省かれている。マッサージ機能付きフロントシートやワイヤレスチャージャーといった機能は、なくてもそれほど気にならないだろう。車線中央維持支援機能、ナイトビジョンなどは、必要と感じるかもしれない。オーディオはリミテッドがアルパインなのに対し、サミット リザーブはマッキントッシュである。最も大きな違いは、サミット リザーブにはエアサスペンションが装備されていることだ。リミテッドには車高調整機能が付いていない。
インテリアには上質感がある。シートにはハイクオリティーな本革が使われているし、ダッシュボードはソフトパッドとウッドやメタルの組み合わせだ。エクステリア同様、水平基調のデザインが落ち着いた空間をつくり出している。ただし、よく見るとドアトリムなどの下半分には硬質な素材が使われていた。オフロードや雪道での使用に耐えられることを優先しているのだろう。
従来モデルと大きく印象が異なるのは、センターコンソールのしつらえだ。シフトセレクターはジープ初となるロータリー式が採用されている。以前もロータリースイッチはあったが、それは走行モードを切り替えるものだった。新型ではそれが前後スライド式である。武骨なレバーが消えたことで、スッキリした印象になった。
野性味のあるエンジン
パワートレインは、最高出力286PS、最大トルク344N・mの3.6リッターV6エンジンに8段ATの組み合わせ。グレードによらず共通である。アメリカでは5.7リッターエンジンやプラグインハイブリッド車も用意されているが、日本向けは今のところ1種類だけだ。
車重は2tを少し超えるが、動力性能に不足はない。ただ、発進時や低速では、繊細なスピードコントロールが難しかった。ほんの少しだけ反応が遅れる感じで、うっかりアクセルを踏みすぎてしまう。あまり広くない道では、やはり車幅に気を使って走ることになった。広大な大地を走るためのクルマなのだから、せせこましい市街地での使い勝手に文句をつけるのは筋違いである。
とはいえ、車線逸脱警報があまりに過敏なのには困惑した。少しでもラインに触れると警告音が鳴り響き、細い道だと鳴りっぱなしになることもあった。安全のためとはいえ、過剰だと煩わしい。ACCを使って高速道路を走っていても作動することがあったのは、さすがにやりすぎである。
高速巡航では穏やかに必要十分なパワーを供給していたエンジンは、山道に入ると野性味を解き放つ。アクセルを踏み込むと荒々しいサウンドが響きわたり、巨体が猛然と加速する。純内燃機関ならではの雄々しさを強調し、勇猛果敢に突き進む。電動化がトレンドの昨今では、久しぶりの感覚だ。
高い剛性感のおかげで、大型で背の高いクルマらしからぬ軽やかさが生まれる。コーナーでもロールはほとんど感じられず、狙ったラインを正確にトレースしていく。細かいカーブが続く道は避けたほうがよさそうだが、中高速のワインディグロードではスポーティーな走行が楽しめた。
閉塞感のない3列目シート
街なかや高速道路では「セレクテレインシステム」で走行モードを「オート」にしておくのがいいが、山道では「スポーツ」を選んだ。レスポンスが速くなり、エンジンは高回転が保たれる。Dレンジで変速をクルマまかせにしておいても痛痒(つうよう)は感じないが、右のパドルを長引きすればマニュアルモードが使える。パドルはステアリングスポーク裏の真ん中より少し上方にあり、真ん中あたりを押すとオーディオコントロールが作動してしまう。
山道を走っているときは、メーターの燃費計が示す数字は3.5km/リッターぐらい。高速巡航では13km/リッターを上回ることもあった。普通に走っていて、リッターあたり二桁の燃費を記録することはなさそうだ。今回は試すことができなかったが、4WDシステムの「クォドラトラックII」は雪道や岩場でも最適なトラクションを得られるという。先代モデルで雪道を走ったときには高い走破性を確認できたので、新型でも行動範囲は広がるはずだ。
ホイールベースを延長したことで、3列目にもそれなりの空間が確保されている。座面が低いので体育座り的なポジションにはなったが、閉塞(へいそく)感はさほどない。全長5000mmの「レクサスRX」の3列目シートは苦行の場だったが、200mm長いだけあってはるかに快適である。ただ、乗り込むには少しばかり苦しい姿勢をとらなければならなかった。2列目シートは折りたたんで前方に倒す仕組みになっていて、その影響でシートバックが薄くなっているのも事実である。
3列シートの大型SUVは、最近のトレンドである。ミニバンのよさをSUVにも取り入れようという欲張りなつくりだから、無理が生じるのはやむを得ない。しかし、グランドチェロキーはボディーを大きくするというシンプルな方法で問題点を解消した。おおらかで率直なソリューションは、いかにもアメリカ的だ。国土が狭く交通事情の異なる日本では、それがうまく機能するかどうかわからない。グランドチェロキーに乗るということは、アメリカンなライフスタイルを手に入れることなのだ。やせ我慢してでもエンジョイするのが正しい態度である。
(文=鈴木真人/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ジープ・グランドチェロキーLリミテッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5200×1980×1815mm
ホイールベース:3090mm
車重:2170kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.6リッターV6 DOHC 24バルブ
トランスミッション:8段AT
最高出力:286PS(210kW)/6400rpm
最大トルク:344N・m(35.1kgf・m)/4000rpm
タイヤ:(前)265/60R18 110H/(後)265/60R18 110H(ブリヂストン・デューラーH/Pスポーツ)
燃費:7.7km/リッター(WLTCモード)
価格:788万円/テスト車=--円
オプション装備:フロアマット(価格未定)
テスト車の年式:2021年型
テスト開始時の走行距離:1078km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(8)/山岳路(1)
テスト距離:325.8km
使用燃料:51.0リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:6.3km/リッター(満タン法)/6.5km/リッター(車載燃費計計測値)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。