ポルシェ・マカン(4WD/7AT)
使えるポルシェ 2022.03.19 試乗記 デビューから8年以上がたち、ポルシェのトップセラーとなったSUV「マカン」。そんな人気もたゆまぬ改良あってのものに違いないが、最新のマイナーチェンジモデルの仕上がりはどうか? ベーシックモデルに試乗して確かめた。「911」っぽいのがいい
「マカンはカッコいいなぁ」と、昔から思っていた。昔というと昔話みたいだが、登場したころの話である。いったいいつ出たのか調べてみたら、日本では2014年4月。つまり8年前だ。まあまあ昔のことですね。
なぜマカンはカッコいいのか。それは、ポルシェのSUVの元祖であり代表である「カイエン」と比べての話だ。マカンはカイエンよりだいぶサイズが小さいので、ぐっと引き締まって見える。全高もだいぶ低く、一瞬SUVではないようにすら見える。ちなみに全高は1621mm。もうちょっと頑張れば立体駐車場に入るくらい低い。これはもう現代では車高が低い部類に入る。なにしろ「スズキ・ワゴンR」より低いのだから。
コンパクトで車高が低いマカンは、それだけ「911」に近いルックスを持っている。極論すれば、911の車高を持ち上げて5ドアにすればマカンができあがる。だからマカンはカッコいい。どうやっても911には見えないカイエンよりカッコいいのである。「ポルシェ=911」というイメージの抜けない中高年をお許しください。
しかし私は、マカンに真剣に興味を持ったことがなかった。カッコいいなぁとは思ってはいたが、欲しいとはコレッポッチも思ったことがない。
よって、ベースグレードのエンジンが2リッター4気筒であることも知らなかった。8年間知らなかったのだ! こんな仕事をしていて、われながら「げえっ!」と思いました。
つまり、マカンのベースグレードに乗るのは、これが初めてである。せっかく2021年のマイナーチェンジでエンジンの改良を受け、最高出力が26PSアップの265PSになったのに、その変化がわからない。読者さまと編集部に対して申し訳ない。ごめんなさい。
残念な変化もある
しかしここはもう開き直って、まったくの初心者として試乗インプレッションを書かせていただく。聞けば世界的には、マカンオーナーの8割がポルシェを初めて買う層だという。私と同じじゃないか! 買う予定はまだないけれど。
さて、マイナーチェンジを受けたマカン。さすがの私もスタイルは知っていたので、その変化には気がついた。顔がずいぶん変わっている。グリルにガシッと四角い枠がはめ込まれている。うーん、これは個人的には残念だ。なぜなら911の顔から離れてしまったから。以前のマカンは、一瞬911かと思うような顔だったが、今後はもう見間違えることはない。それは個人的にはとても残念なことである。
が、それでもマカンはカッコいい。SUVではあるが、非常にスポーツカー的なフォルムをまとっているからだ。SUVとしてはとても低くて平べったいのである。口が四角くなりはしたが、それでもまだかなり911っぽい。車高が低いぶん、乗り降りもラクである。ちょうどいい高さだ。中高年になると、乗り降りの際の「どっこいしょ」が厳しくなってくる。いろいろな意味で大いにプラス評価である。
エンジンに火を入れ、AT(7段PDK)をDレンジに入れて走りだす。センターコンソールには今どきのクルマらしく大型ディスプレイが装備され、操作はタッチ式になっている。これは今回のマイナーチェンジからだ(調べました)。従来の物理スイッチの多くがタッチ式に変更されたのである。中高年には大変残念な知らせである。いまさら理由は書きません。とにかく残念だ。なぜ世界はこんなものが好きなのだろう。
コーナーを駆け抜ける喜び
走りだすと、どうにもエンジンがポルシェらしくない。それもそのはず、このエンジンはフォルクスワーゲン系のものである。遠くは「924」系がそうだった。昔からそのことで、カーマニアから差別を受けてきた。実際、普通に走っていると、なにかこう、本気度が薄く感じる。サウンドもフィールも、「ホントにポルシェなのかよー!」と言いたくなる。
それを補ってくれるのがハンドリングだ。まず、ステアリングホイール径がかなり小さい。SUVとしては一番小さい部類に入るだろう。つまりスポーツカー的である。ステアリング径というのは非常に重要だ。私はかつて、自分の「フェラーリF355」のステアリングを小径のものに変更しただけで、「フィオラノ・ハンドリングパッケージになった!」と思った。ステアリング径が小さければ、ステアリングギア比をクイックにしたのと同じで、絶大な効果がある。
実際、マカンのステアリングは非常に好感触である。「これがポルシェだよね!」と言いたくなるフィーリングだ。もちろん、SUVとしてはかなり低めの全高も大いに寄与している。コーナーを曲がっている限り、SUVであることは忘れてしまう。
サスペンションはかなりスポーティーだ。オプションの20インチ「マカンSホイール&タイヤ」(57万4000円)を履いていることもあり、路面の継ぎ目を通過する際、バネ下がバタッと跳ねることもある。しかし、しばらく乗っていると、あんまり気にならなくなってきた。逆にどんどん、この足まわりがしっくり感じられてきた。
ちなみに今回の試乗車には、オプションのエアサスペンションは装備されていない。つまりサスは固定のコイルスプリング。小細工はしないぜ、これ一本でどうだ! というセッティングである。固定サスのいいところは、ドライブモードをスポーツ寄りに変更しても、足が固くならないことである。勝手に固くされると中高年にはキツイし、いちいちサスだけ別にセッティングするのも面倒。「これ一本でどうだ!」が好みです。
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スポーツモードでいこう
試乗車はオプションのスポーツクロノパッケージ(16万6000円)を装備していたので、ドライブモードスイッチがステアリング右下に付く。従来はセンターコンソールにあったようだが、今回のマイナーチェンジで変更されたようだ。実に操作しやすくてありがたいし、変更してもサスが固くならないので、安心してノーマルからスポーツモードに変更した。
するとどうだ。それまで「やる気あるのか?」みたいな感じだったエンジンが、急に元気になったではないか。スポーツプラスだとちょっと元気すぎて、ワインディングロードを攻める時以外はツーマッチだが、スポーツモードはいつでもどこでもちょうどいい。おおむね1速ぶん高めの回転を保つことで、エンジンのレスポンスが格段に向上し、加減速やコーナリングが断然アクティブになる。思いどおりに走れる感覚3倍増である。スポーツモードで走っている限り、「フォルクスワーゲン系のエンジンがどーたら」といった話は完全に忘れてしまえる。これはポルシェだ、文句なくポルシェだぜ! 乗れば乗るほど体にしっくりきて、まるで体の一部のようにすら感じられる。このスポーツモードがデフォルトであるべきではないだろうか。
ちなみにこのドライブモードスイッチ、基本は回してセレクトするが、中央を押すと、20秒だけスポーツレスポンスモードになる。これまた大変便利というか面白いというか刺激的だ。かったるいノーマルモードで走っていても、ボタンを押せば20秒だけ「これがポルシェだ!」と思い出せる。一度のドライブにつき一度でもこれを押せば、「やっぱりポルシェだった!」と満足できるに違いない。
このようにマカンのベースグレードは、まごうことなきポルシェだった。それも実に実用的なポルシェだ。ポルシェのラインナップ中、ダントツに実用的なのが、このマカンのベースグレードだろう。燃費もかなり良かったし、それは間違いない。初めて乗った私も断言する。
お値段も754万円とお手ごろだ。そう言えば8年前は「600万円台から買えるポルシェ」がウリだったと記憶しているが、いつのまにか754万円になったのですね。それくらいの値上げは仕方なかろう。なにしろ8年もたってるし、26PSもアップしたのだから。が、オプションリストを見てがくぜんとした。357万2000円も付いている。合計1111万2000円! うーん……。「これ一本でどうだ!」という価格体系に戻すわけにはいきませんかねぇ。
(文=清水草一/写真=田村 弥/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ポルシェ・マカン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4726×1922×1621mm
ホイールベース:2807mm
車重:1870kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:265PS(195kW)/5000-6500rpm
最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)/1800-4500rpm
タイヤ:(前)265/45R20 104Y/(後)295/40R20 106Y(ミシュラン・ラティチュードスポーツ3)
燃費:8.8-8.7リッター/100km(約11.3-11.5km/リッター、欧州複合モード)
価格:754万円/テスト車=1111万2000円
オプション装備:ボディーカラー<パパイヤメタリック>(15万9000円)/エクステンデッド レザーパッケージ<ブラック、コントラストステッチ パパイヤ>(86万8000円)/スポーツテールパイプ<ブラック>(12万9000円)/モデル名エンブレム<ハイグロスブラック>(4万円)/パワーステアリングプラス(4万4000円)/ヒーター付きGTスポーツステアリングホイール<レザー>(9万1000円)/アルミルック燃料タンクキャップ(2万2000円)/ポルシェ クレスト エンボスヘッドレスト<フロントシート>(3万8000円)/ハイグロス ブラックルーフレール(5万8000円)/シートヒーター<フロントおよびリアシート>(7万円)/リアシート用サイドエアバッグ(6万8000円)/20インチ マカンSホイール<ハイグロスブラック>(57万4000円)/スポーツデザインエクステリアミラー(0円)/ボディー下部およびミラーベースのハイグロスブラック仕上げ(0円)/サイドブレードのボディー同色仕上げ(9万6000円)/スポーツクロノパッケージ<モードスイッチを含む>(16万6000円)/スモーカーパッケージ(7000円)/レザーエッジング付きフロアマット(9万1000円)/エアベント スラット<エクステリアカラー塗装仕上げ>(22万3000円)/エクステリアパッケージ(26万4000円)/トラフィックジャムアシスト(11万7000円)/コンフォートシート<14Way電動調節、メモリーパッケージ>(24万6000円)/ストレージパッケージ(4万円)/サイドウィンドウトリム<ハイグロスブラック>(3万4000円)/LEDカーテシーライト<PORSCHEロゴ>(4万8000円)/プライバシーガラス(7万9000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:2385km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:217.4km
使用燃料:20.3リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:10.7km/リッター(満タン法)/10.3km/リッター(車載燃費計計測値)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。