ヒョンデ・アイオニック5ラウンジ(RWD)
BTSに続け! 2022.03.22 試乗記 12年ぶりに日本市場にカムバックした、韓国ブランドのヒョンデ。その未来を担う100%電気自動車(EV)の「アイオニック5」とはどんなクルマなのか? 乗り味からバッテリーの持続性まで、400kmほどの試乗を通してチェックした。退路を断っての再上陸
ヒョンデが日本でクルマの販売を始めたのは2001年。当時はヒュンダイと表記していた。近くて遠い国と言われていた韓国との新しい関係性が生まれるきっかけとなることが期待されたが、売れ行きは伸び悩んでインパクトを与えることはできなかった。クルマより大きな驚きをもたらしたのは、2003年から日本で放映が始まったドラマ『冬のソナタ』である。ヨン様の熱狂的なファンが激増して大ヒット。韓流(はんりゅう)という言葉が生まれ、韓国文化は親しみ深いものとなっていった。
2009年に撤退してから、十分に力をためての再上陸である。EVのアイオニック5と燃料電池車「ネッソ」の2車種に絞ったところに、前回とは違う深謀遠慮がうかがえる。安さをウリにするのではなく、未来志向であることを明確にした。大胆な戦略で、吉と出るか凶と出るかはわからない。これから日本で電動化がどのくらいのスピードで進むかは不明なのだ。退路を断っているところに、覚悟と意気込みが感じられる。
写真で見て思い切ったデザインなのは知っていたけれど、いざアイオニック5と対面してみるとなんだか現実感がない。幾何学的なフォルムは、周りの風景から浮き上がって見える。直線で構成されており、キャラクターラインすら真っすぐな線だ。前後と側面には細いストライプがアクセントとして添えられ、ランプには小さな四角のパラメトリックピクセルがあしらわれている。ピクセル自体はビデオゲーム草創期のイメージが強いから、少しレトロな印象を与える効果もある。懐かしい未来という感じだ。
意外だったのは大きさである。もっとコンパクトだと思い込んでいた。全長×全幅=4635×1890mmという立派な体躯(たいく)で、クロスオーバーSUVだから全高も1645mmで立体駐車場には入らない。車重が1990kgなのは、72.6kWhという大容量のバッテリーを積んでいるから。そのおかげで走行距離はWLTCモードで618kmを確保している。もちろんそれはカタログ上の数値で、受け取った時は充電が89%で航続可能距離は348kmだった。
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ワンペダルドライブも可能
インテリアはエクステリアに劣らず斬新な造形である。運転席正面とダッシュボードセンターのモニターが一体化され、横長のフラットな長方形にまとめられている。センターコンソールはスライド式で、後方に下げると運転席から助手席まで足元に広々とした空間が出現。グローブボックスが引き出し式なのには意表を突かれたが、意外と使いやすかった。シンプルでフューチャリスティックなのに物理スイッチもしっかり残されていて、デザインのためのデザインにはなっていない。
リサイクル素材や自然由来の成分を活用した塗料を使っているというが、一見して気づくことはない。「BMW i3」のドアトリムがいかにも再生素材という見た目でエコアピールしていたのとは対照的である。サステイナビリティーは当然のことという認識が広がり、ことさら強調する必要はなくなった。内装全体にアップルデザインのシンプルさにも通じるフィロソフィーが感じられ、クリーンでコージーな空間が形づくられている。
センターをスッキリさせるためなのか、シフトセレクターはステアリングコラムの右に位置する。奥側に回すと「D」、手前に回すと「R」のポジションになるという直感的な操作法だ。アクセルを踏むと、無音で走りだした。滑らかさと力強さが共存するというモーターらしい上質さが体感できる。ステアリングに備わるパドルは、回生レベルを選択するためのもの。4段階あり、最も強いレベルでは「i-PEDAL」というワンペダルモードになる。
「日産ノート」でも採用されていたが、減速力は2代目ノートになって弱められた。停止時にはフットブレーキを踏まなければならず、ワンペダルドライブはできなくなっている。アイオニック5のi-PEDALは初代ノートよりは弱いものの、街なかではブレーキを使わずに走ることができた。右のパドルを1回引けばi-PEDALは解除されるので、好みで選べるのはありがたい。
静かさを生かした音
高速道路では、回生ゼロにして走るのが気持ちよかった。路面を滑っていくような感覚で、軽快に巡航する。室内は静かなままだ。エンジン音がないと風切り音やロードノイズが気になりそうなものだが、どちらもよく抑えられている。ミシュランと共同で開発したEV専用タイヤが、高い静粛性を実現しているようだ。
静かなうえに「BOSEプレミアムサウンドシステム」が装備されていて、オーディオを楽しみたくなる。スマホをBluetoothでつないでサブスクの音楽を流すのもいいのだが、アイオニック5には静かさを最大限に生かす音源が用意されていた。メニューから「自然の音」を選ぶと、「穏やかな波」「雨の日」といった項目が現れる。波の音や雨の音などに包まれてドライブすることができるのだ。「カフェテラス」だと、食器が触れ合う音や会話の声。どういうシチュエーションで使うのかはよくわからないが、EVの特性を生かした試みである。
静粛性と釣り合わないと感じたのが、乗り心地だ。段差を越えた時に思いのほか大きなアタックがあり、すぐにはおさまらない。細かい振動が残ってしまう。そもそもEVは大量のバッテリーを積んでいるから重く、低重心で、それをうまく生かせばしっとりした上質な乗り心地が得られるはずである。悪い路面が続くと上屋が暴れるように感じられたのは残念だった。
レスポンスのいいモーター駆動のおかげで、ACCのコントロールは機敏で繊細だ。ただ、ステアリングへの介入が強めなのには戸惑った。ACCを解除してみたが、少しでも車線に触れると強引に戻そうとする。「レーンキーピングアシスト」が作動しているのだが、かなり荒っぽい。安全を優先してのことだとは思うが、もう少し優しくしてほしかった。
東京から120kmあまりを走り、箱根に到着。バッテリー残量は64%、航続可能距離は244kmである。東京~箱根往復ぐらいなら、電欠の心配はいらないようだ。しかし、せっかくだから山道も走ってみたい。箱根のワインディングロード、ターンパイクにクルマを持ち込んだ。強めにアクセルを踏むと、上り坂をものともせず加速していく。伸び感が薄いのは仕方のないところで、出力の上昇は抑制的だ。ハンドリングは落ち着いた設定で、極端なスポーティーさを求めてはいない。
ちょっとした遠出はOK
少しばかり元気に走り、頂上に着いた時にはバッテリー残量が52%で航続可能距離は180km。やはり減り方が早い。それでも東京まで帰り着くことはできそうだったが、一度は充電しておこうと考えて道の駅すばしりを目指した。これまではいつ行っても充電器は空いていたので安心していたら、珍しく使用中。ナビで最寄りの充電場所を探し、山中湖観光協会に行くことした。簡単に検索できるので助かったが、メニューにガソリンスタンドの項目があったのはなぜだろうか。
到着した時は航続可能距離が130kmまで減っていたが、30分充電してバッテリー残量59%、航続可能距離194kmまで回復。十分だがもう少し余裕を持とうとしてほかの充電所に行ってみるも、ふさがっていたり充電カードが使えなかったりで、そのまま東京に帰る。エコ運転を心がけ、バッテリー消費を最小限に減らした結果、残量37%、航続可能距離129kmという結果に。この間、6.6km/kWhという好電費だった。
アイオニック5は、ちょっとした遠出ぐらいならバッテリー切れを心配してヒヤヒヤすることはない。現時点では、価格とバッテリー容量のバランスはこのぐらいが最適解なのだと思う。翌日の撮影では航続可能距離が74kmまで下がってしまったが、30分充電で216kmに。90kWの急速充電器だったから、回復が速かったのだ。でも、多くの充電器は50kW以下である。以前に比べて充電所で待っているクルマを見かけることが多くなっており、EVの進歩に合わせてインフラを整備することが重要になっている。
十数年ぶりにヒョンデに乗り、進化を目の当たりにした。前回の失敗は、単純にクルマの出来がイマイチだったからである。アイオニック5は、日本車と肩を並べるどころか上回っている部分も多い。ポン・ジュノ監督の『パラサイト 半地下の家族』がアカデミー作品賞を受賞し、BTSの『Dynamite』が全米1位を獲得するようになっているのだから、韓国車が国際的な競争力を持っているのは驚きではない。
ヒョンデの売り上げを伸ばすためにはBTS人気を利用すればいいんじゃないかと思ったら、そんなことはすでにやっていた。2020年に『IONIQ:I'm on it』という曲をリリースしている。そういえば、アイオニック5はマーヴェルの新作『スパイダーマン:ノー・ウェイ・ホーム』に登場していた。映画のなかではさほど活躍する場面はないが、『Only Way Home』というコラボ動画が公開されている。ヒョンデはマーケティングの面でも格段の進歩を遂げたようだ。
(文=鈴木真人/写真=山本佳吾/編集=関 顕也)
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テスト車のデータ
ヒョンデ・アイオニック5ラウンジ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1890×1645mm
ホイールベース:3000mm
車重:1990kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:217PS(160kW)/4400-9000rpm
最大トルク:350N・m(35.7kgf・m)/0-4200rpm
タイヤ:(前)235/55R19 105W XL/(後)235/55R19 105W XL(ミシュラン・プライマシー4 SUV)
一充電走行距離:618km(WLTCモード/自社測定値)
価格:549万円/テスト車=554万5000円
オプション装備:ボディーカラー<サイバーグレーメタリック>(5万5000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:688km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:417.6km
消費電力量:85.2kWh
参考電力消費率:4.9km/kWh

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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