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ヒョンデ・ネッソ(FWD)

意気込みは十分 2022.04.02 試乗記 塩見 智 2009年12月以来の日本市場再進出を果たした韓国のヒョンデ。当時はヒュンダイと名乗っていたが、変わったのはブランド名だけでなく、あの頃と今とではクルマの仕上がりもまるで別物に進化している。燃料電池自動車(FCV)の「ネッソ」に試乗した。

業界の流れの最先端

ヒョンデの年間の世界販売台数は700万台規模。これは1000万台規模のトヨタ、フォルクスワーゲン、ゼネラルモーターズに次ぐ、日産・ルノー・三菱やステランティス並みの勢力だ。もう十分世界で戦えているヒョンデが、うまくいってもせいぜい年間数万台増やせるだけの日本市場に再参入する理由がよく分からない。わざわざ右ハンドルを用意するだけでなく、ウインカーレバーを右に付け替えるまでして。

電気自動車(EV)やFCVも、ディーラーを展開しないオンライン販売やサブスクリプションサービスも、これから“来る”といわれているものだが、国産メーカーも既存のインポーターもまだ手探りの状態、いわばブルーオーシャンだ。期待されつつまだどこも目覚ましい成功を収めていないこの分野なら勝機あり、少なくとも実験にはなると考えたのかもしれない。

ただし成功したらヒョンデの商品や販売手法が優れていたと分かるが、うまくいかなかった場合、商品や販売手法がまずかったのか、単に日本人の偏見によるものなのかが分からないのではないか。切り分けられる分析手法があるのだろうか。その点に興味が湧く。料理、エンタメ、スマホは、政治的対立を乗り越え、あるいはそれとは関係なく受け入れられている。そろそろクルマもほかの輸入ブランド程度に受け入れられても不思議はない。

では商品としての実力はいかほどのものなのか。今回はFCVのヒョンデ・ネッソを試乗した。待ち合わせ場所の箱根・芦ノ湖スカイラインでご対面。同時に発表された「アイオニック5」ほど斬新なルックスではなく、どこかの新しいハッチバックだなという印象。品質は高く、内外装のどこにも安っぽさはない。

新生ヒョンデはディーラー網を展開せずオンライン販売のみとなるのが特徴。「ネッソ」は776万8300円のワンプライス制で、仕様を選べるのは内外装のカラーリングのみとなる。
新生ヒョンデはディーラー網を展開せずオンライン販売のみとなるのが特徴。「ネッソ」は776万8300円のワンプライス制で、仕様を選べるのは内外装のカラーリングのみとなる。拡大
ボディーの全長は4670mm。サイズ的な日本車のライバルは「トヨタRAV4」「スバル・フォレスター」「三菱アウトランダー」あたりとなる。
ボディーの全長は4670mm。サイズ的な日本車のライバルは「トヨタRAV4」「スバル・フォレスター」「三菱アウトランダー」あたりとなる。拡大
鋭い眼光を放つ部分がポジションランプ、その下のユニットがヘッドランプという構造は最新のシトロエンや三菱と同様。
鋭い眼光を放つ部分がポジションランプ、その下のユニットがヘッドランプという構造は最新のシトロエンや三菱と同様。拡大
ヘッドランプに合わせてリアコンビランプも三角形を採用。宝石をイメージしたというインナーレンズを使っている。
ヘッドランプに合わせてリアコンビランプも三角形を採用。宝石をイメージしたというインナーレンズを使っている。拡大
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ぜいたくに並んだスイッチ

当然ながら水素タンクを車載する。ネッソの場合、リアに3個、合計容量156.6リッターのタンクを積む。強度を確保するためにどこのFCVもタンクは円筒状だ。平べったい形状にできないため、全体的に腰高なフォルムになるのはしかたない。タンクの上にハイブリッド車にしては少し容量が多い程度(1.56kWh)のリチウムイオンバッテリーを搭載する。

フロントには水素と酸素を反応させて電力を生み出すFCスタックを中心としたシステムがぎっしり詰まっている。このスタックの最高出力が95kW(129PS)、バッテリーのそれが40kW(54PS)。それらを効率よく組み合わせることでクルマ全体としては最高出力120kW(163PS)、最大トルク395N・mを発生する。車両重量は1870kg。水素は軽いがバッテリーは積むしFCシステムも軽いものではないので、全長4670mm、全幅1860mmのハッチバックでもこのくらいの重さにはなるのだろう。アイオニック5はEVにしては珍しくRWDと4WDを設定するが、ネッソはFWDのみの設定。

乗り込む。車内は前後とも広々としている。センターにホンダとはちょっと違う「H」のロゴマークが入ったステアリングホイールを握るのは、沖縄でレンタカーの「TB」を運転して以来だと思う。いつだったか忘れた。ステアリングの奥に10.25インチの、センターパネルに12.3インチのディスプレイがあり、両者はひと続きのデザインとなっている。ディスプレイの表示は未来的でセンターディスプレイのほうはタッチ操作が可能なのだが、にもかかわらず、センターコンソールにも多数のスイッチが並ぶ。しかも一つひとつが大きく、ぜいたくな配置になっている。カーナビは備わらないが、「Apple CarPlay」や「Android Auto」を活用すれば解決する。

それらのドライバー寄りの位置にあるのがATセレクター。レバーではなく完全にボタン式。これでまったく不都合はない。Dレンジに入れてスタート。挙動はまったくもってEVのそれ。滑るようにスムーズに走りだす。当然静かだ。遮音もしっかりしていて、ロードノイズが目立つわけでもない。

2つの大型スクリーンと幅広のセンターコンソールが主張するインテリア。カーナビの設定はないが「Apple CarPlay」と「Android Auto」に対応している。
2つの大型スクリーンと幅広のセンターコンソールが主張するインテリア。カーナビの設定はないが「Apple CarPlay」と「Android Auto」に対応している。拡大
内装色は「メテオブルー・ワントーン」(写真)と「ストーングレー・ツートーン」から選べる。シート表皮は合成皮革で、ヒーター、ベンチレーターとも標準装備。
内装色は「メテオブルー・ワントーン」(写真)と「ストーングレー・ツートーン」から選べる。シート表皮は合成皮革で、ヒーター、ベンチレーターとも標準装備。拡大
後席の足元空間はご覧のとおりの広さ。水素タンクは座面の下から荷室の下部に向けて横向きで3本並べて搭載されている。
後席の足元空間はご覧のとおりの広さ。水素タンクは座面の下から荷室の下部に向けて横向きで3本並べて搭載されている。拡大
センターコンソールにびっしりと並んだスイッチ類を眺める。雑然としているようだが、前方(写真右手)からインフォテインメント系、空調系、ドライブ系ときちんと分けてレイアウトされている。
センターコンソールにびっしりと並んだスイッチ類を眺める。雑然としているようだが、前方(写真右手)からインフォテインメント系、空調系、ドライブ系ときちんと分けてレイアウトされている。拡大

不満のないパワートレイン

箱根の山道を活発に走らせてみる。アクセル操作に対してレスポンシブでストレスがない。パドルを使って回生ブレーキの強さを3段階で調節できる。常時一番回生が強い状態で、ペダルの踏み戻しだけで速度調節をしながら走行するのがモーター駆動車ならではの特徴であり、私はほとんどこの状態で走行したが、空走状態があったほうがいいという人は回生が弱いモードにしておけばよい。

動力性能はスペックから想像するとおり。特別パワフルというわけでもないが、決して遅くもない。面白みがあるわけではないが、かといって不満があるわけでもない。東京までの帰り道に高速巡航を試してみたが、100km/h前後ではパワー不足を感じる場面はない。

走行モードを選択できる。「ノーマル」モードでは、操作に対して大きく反応するようにしつけられている。勢いよく加速させたい時にはよいが、ゆっくりと発進したい時に過敏すぎると感じることもあった。「エコ」モードになると反応がマイルドになるが、たいていの場面ではこのモードでよいと思う。エコモードがノーマルモードだ。「エコプラス」モードもあって、100km/hでスピードリミットが設定されていた。もしかすると任意の速度を設定できるのかもしれない。

水素タンクの総容量は156.6リッター。満タンからの航続可能距離は820km(WLTCモード、自社計測値)と公表されている。
水素タンクの総容量は156.6リッター。満タンからの航続可能距離は820km(WLTCモード、自社計測値)と公表されている。拡大
ステアリングホイールは2本スポーク。スポークの裏にあるパドルで回生ブレーキの強さを調整できる。
ステアリングホイールは2本スポーク。スポークの裏にあるパドルで回生ブレーキの強さを調整できる。拡大
立派なセンターコンソールは2層構造になっている。下部にはスマートフォンの無接点充電器や12V電源、USBポート(2つ)が用意される。
立派なセンターコンソールは2層構造になっている。下部にはスマートフォンの無接点充電器や12V電源、USBポート(2つ)が用意される。拡大
アクセルペダルはオルガン式を採用している。
アクセルペダルはオルガン式を採用している。拡大

ADASも充実

車内で音楽やラジオを聴くのもよいが、あらかじめインストールされた「自然の音」を楽しみながら走行するのはなかなか新鮮だった。「元気いっぱいの森」「穏やかなさざ波」「雨の日」「オープンカフェ」などが用意されている。停車時にくつろぐのにもいい。ま、Apple CarPlayを活用すれば同種の音はいくらでも探してこられるだろうが。こうした最近のクルマのなくても困らない装備を見つけるにつけ、クルマが走る、曲がる、止まる以外の勝負になってきているのを感じる。

ボディーの剛性感は高い。路面にうねりのある区間を走らせても、段差を越えても、ボディーがよじれるような感覚はない。路面の荒れた部分を通過する際に多少乗り心地がバタつくことがあったが、テスト車は走行距離がわずか112km(借用時)のド新車だったので、マイレージが進めばもっと角が取れるはず。ステアリングフィールは自然で可もなく不可もない。アシストは強く、軽い力で操作できる。ACCは全車速対応で、車線中央維持アシスト付き。追従も車線維持も安心感のある動きで使いやすかった。

多くのクルマ同様、ウインカーを短く操作すると3回点滅するのだが、その間、2眼メーターのうちの車線変更する側が、斜め後方のカメラ映像に切り替わり、後方確認ができる。画像も鮮明で、気に入った。

車載燃費計によれば、燃費は83.3km/kg。水素燃料は1kgあたり1210円なので、この燃費だと500km走行するには6kg=7260円が必要になる。ハイオク仕様のガソリン車ならば12km/リッターくらいの燃料コスト(1リッターあたり175円で計算)になるので、あまりありがたみは感じない。自宅で充電できるなどの環境が整っているなら、バッテリーEVを選ぶほうがランニングコストを抑えられるだろう。

(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

液晶メーターパネルの表示は4パターンあるが、どれも左右の2眼と中央のマルチインフォメーション画面を基本としたデザインになっている。その理由は……
液晶メーターパネルの表示は4パターンあるが、どれも左右の2眼と中央のマルチインフォメーション画面を基本としたデザインになっている。その理由は……拡大
ウインカー操作時にブラインドスポットモニターが表示されるため。クリアな映像で実用的だ。
ウインカー操作時にブラインドスポットモニターが表示されるため。クリアな映像で実用的だ。拡大
荷室の容量は461リッター。電動パワーテールゲートを備えている。
荷室の容量は461リッター。電動パワーテールゲートを備えている。拡大
静岡県御殿場市のイワタニ水素ステーション 御殿場インターで水素を補給。ここでは問題なく充てんできたが、試乗の最後に立ち寄ったステーションでは「水素タンクが高圧になっている」とのことでどうしても満タンにできず、今回は満タン法の燃費は計測できなかった。
静岡県御殿場市のイワタニ水素ステーション 御殿場インターで水素を補給。ここでは問題なく充てんできたが、試乗の最後に立ち寄ったステーションでは「水素タンクが高圧になっている」とのことでどうしても満タンにできず、今回は満タン法の燃費は計測できなかった。拡大

テスト車のデータ

ヒョンデ・ネッソ

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4670×1860×1640mm
ホイールベース:2790mm
車重:1870kg
駆動方式:FWD
モーター:永久磁石型同期モーター
最高出力:163PS(120kW)
最大トルク:395N・m(40.3kgf・m)
タイヤ:(前)245/45R19 98W/(後)245/45R19 98W(ハンコック・ヴェンタスS1 evo2 SUV)
一充填基準走行可能距離:820km(WLTCモード、自社測定値)
価格:776万8300円/テスト車=776万8300円
オプション装備:なし

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:112km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:193.4km
使用燃料:--kg(圧縮水素)
参考燃費:1.2kg/100km(約83.3km/kg。車載燃費計計測値)

ヒョンデ・ネッソ
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