日産ノート オーラGレザーエディション(前編)
2022.05.12 あの多田哲哉の自動車放談 巨大カーメーカーであるトヨタ自動車で、長年クルマの開発に携わってきた多田哲哉さん。あらゆる角度から車両を見つめ、製品として結実させるその目は、国内外のニューモデルをどう評価するのだろうか? 新連載の第1回は、日産独自のハイブリッドシステムで知られる「ノート オーラ」だ。これで本当に利益が出るのか!?
日産ノート オーラは「ノート」も含めて、「日本カー・オブ・ザ・イヤー」を筆頭に「RJC」や「日本自動車殿堂」など“カーオブザイヤー三冠独占”をうたう。日産によると、2021年度下半期の国内販売において(ハイブリッドを含む)電動車販売ナンバーワンとなるなど、販売も好調らしい。
トヨタ在籍時は、「86」や「GRスープラ」の開発責任者をつとめたことで「歴代最も有名なトヨタのチーフエンジニア(CE)!?」でもあった多田哲哉さんは、これらのスポーツカーを担当する以前は「パッソ」に「ラウム」「bB」「ラクティス」のCEをつとめたコンパクトカー開発のプロフェッショナルだったこともあってか、日産のノート/ノート オーラについては興味津々だった。
「ノートは昨年のカー・オブ・ザ・イヤーを取ったし、実際に売れているそうですね。カタログで見るかぎり、今回の“オーラ”は内装の質感も非常に高い。これを260万~300万円(FFの場合)の本体価格で提供して利益が出るのか……僕がいちばん興味深かったのはそこです」と多田さん。
「極端に言うと、お金をかけることができれば、今のテクノロジーならクルマはいくらでも良くなります。ただ、それでは商品として成り立ちません。そのハザマのぎりぎりをいかに狙うか……が、商品としてのクルマづくりの面白さです。僕もトヨタ時代に『なんでも好き勝手につくっていいよ』と言われていたら、逆に面白くなかったでしょう」
そう言いながら、多田さんはまず大型のカラーTFT液晶ディスプレイやウッド調パネル、レザーシートが備わるオーラのインテリアを丹念に観察しはじめた。
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すごくうまくやっている
「たとえば販価300万円のクルマであれば、原価は一般的には150万円くらいといわれています。ただ、その大半はさまざまな要因で最初から決まっていて動かせないコストです。僕らのような商品企画の裁量で、そのクルマ特有の商品力や個性のために使える範囲はそのおよそ1割。つまり、300万円のクルマなら15万円分といったところでしょう。いや、トヨタの場合は、その範囲が他社よりさらに狭いと思います。ただ、CEも長くやっているといろいろと裏道があることも分かってきて、『どうやったら上の役員にバレないで自由にやれるか』とか『ここまでなら黙ってやっちゃっても、事後承認で乗り切れる』みたいなことが分かってくるんですけど(笑)」
「なにが言いたいかというと、クルマの商品開発というのは、そういうせめぎ合いのなかでボディーの補強1本のコストを捻出したりするわけです。かつてのパッソの開発のときなどは、1000円ちょっとのコストのために、エンジニアとしては『これでいいのか?』と自問自答しながら、フロントスタビを省いたこともありました」
「スポーツカーなんかをつくっていると、サーキットでバンバンテストしてうらやましいと言っていただけるのですが、そういう楽しい仕事は全体の3%くらいで、実際のCEの仕事は、ほとんどがお金の計算です(笑)。でも、そういう金の計算、ごまかし方がうまい人ほどいいクルマがつくれる。そこが、クルマづくりの本当の面白さなんです」
そんな多田さんのオーラのインテリアの見立てはいかなるものだったのか。
「結論から言うと、日産はしっかり利益を出していると思います。一見すると随所に木目やレザーを使ったり、ディスプレイも大きい。カタログの写真の撮り方もうまいし、普通のお客さんなら十二分に高級コンパクトカーに感じられると思います。ただ、よく観察すると、木目はもちろん樹脂の木目“調”パネルですし、ディスプレイは標準品を真ん中でつないでいるだけです。最近は非常によくできた合成皮革がたくさんあって、オーラのレザーシートもさほど高級なものではないです。その縫い目のクオリティーもまあ平均的なものですね。つまり、すごく上手に手を抜いています」
“手を抜いている”というと、悪く聞こえるかもしれないが、この価格帯でわれわれ一般ユーザーがちょっとうれしくなる高級感を実現しつつ、つくり手もしっかり儲けられているのだとしたら、商品としてはまさにWin-Winということだろう。<後編につづく>
(語り=多田哲哉/まとめ=佐野弘宗/写真=山本佳吾/編集=関 顕也)