ヒョンデ・アイオニック5ラウンジAWD(4WD)
無敵のニューフェイス 2022.06.10 試乗記 日本再上陸で話題のヒョンデ(旧称:ヒュンダイ)だが、再上陸したことではなく、クルマの仕上がりがもっと話題になってもいいのではないか。電気自動車(EV)「アイオニック5」の最上級グレード「ラウンジAWD」はほとんど文句なしの出来栄えだった。韓国初のオリジナル乗用車をオマージュ
ヒョンデ・アイオニック5はなんか違う。これまでのクルマとなんか違うのだ。まだまだ圧倒的多数を占める内燃機関車ではない純粋な電気自動車という意味ではない。日本に再進出したばかりで新鮮という意味でもない。いやそうした事実も関係がないわけではないが、もっと根本的に、見て乗って走らせて感じる開発コンセプトが、他のクルマとは異なるように思えた。そして、めちゃくちゃ気に入った。
試乗したのは、ラインナップ中、最も高価なラウンジAWD。カタログには「画像の最小単位であるデジタルピクセルにアナログな感性を加えた『パラメトリックピクセル』は、オリジナルPONYのDNAを今に受け継ぎ、IONIQ 5ならではの独創的なデザインとして生まれました。」とある。ヘッドランプのLEDの四角い縁取りや、ニュースが流れる初期のデジタルサイネージのようなリアコンビランプなど、随所にピクセルのモチーフが使われている。
ちなみに「PONY(ポニー)」とは1975年発売のヒョンデ初、つまり韓国初の独自開発乗用車のこと。日本人における1955年の「トヨペット・クラウン」あたりの位置づけか。韓国にも「漢江の奇跡」と呼ばれる高度成長期があるが、ポニーによるヒョンデ躍進はそのけん引役だったのだろう。
話を戻そう。ピクセル祭り状態の前後ランプデザインを結ぶボディー全体は丸みを帯びているが、ところどころにシャープなキャラクターラインが入っていて、サイバーカブトガニのようだ。試乗車のボディーカラーがその名も「グラビティゴールドマット」だったので余計にそう見えた。
日欧米のクルマとはひと味違う工夫
冷静に見れば、バッテリー積載スペース確保のため、タイヤを可能な限り四隅に追いやってホイールベースを稼いでいるほか、やはりバッテリー積載のため天地にかさばるデザインを大径タイヤとくっきり縁取りしたフェンダーアーチで目立たなくするEVの常とう手段が用いられている。これでエンジンの音がしたらウソだよなと思えるデザインだ。他の何にも似ておらず魅力的だと思う。
前述の理由で長く(ホイールベース3000mm)、ワイドな全幅(1890mm)を生かし、室内は広い。後席の膝前はスースーするほど広い。前後ともにフロアが完全にフラットなのもありがたい。白と薄茶の2トーン内装がきれいで、面積の大きなガラスルーフによって車内は明るい。走るモダンリビングだ。グローブボックスが通常の下ヒンジタイプではなく引き出しタイプなのには驚かされた。
前席は座面後部を軸にかなり後傾するのがユニークだ。単なるリクライニングではなく、バックドロップをされるように後ろへ倒れ込む。無重力空間を浮遊しているような姿勢でリラックスできた。助手席にオットマン(ふくらはぎを支えるボード)が付くクルマはほかにもあるが、運転席にまで備わるクルマは珍しい。前席の位置、後席からのアクセスを考え、センターコンソールを前後スライドさせられる。「日産アリア」にも同様の機能が備わっていた。EVのスタンダード機能になる予感あり。充電のために停止した車内で過ごす時間が長いことを考慮したであろう機能で、これまでの日欧米のクルマではお目にかかったことのない工夫だ。
いっぽうでラゲッジスペースはあまり使いやすそうではない。幅は十分なのだが、なにぶんオーバーハングが短く、フロアが高い。このクルマは4WDで、他の廉価版も後輪駆動(RWD)なので、掘りの深いラゲッジスペースは望むべくもないのだ。カタログには容量527リッターとあるが、見た感じはそう広く見えない。
進化の先に手にした純粋な移動
ステアリングコラム右側から生えるレバーを、上(右回り)にひねるとDレンジ、下(左回り)にひねるとRレンジ、先端を押すとPレンジという一風変わった操作のATセレクターに慣れるまで多少時間がかかった。ウインカーレバーが国産車同様、右側に備わっているのは、国産車からの乗り換え組には親切だ。
走行性能は“十分”という言葉で片づけてしまいたくなるEV特有のもの。前後2モーターのラウンジAWDは、最高出力305PS(225kW)、最大トルク605N・mと十分なスペックをもち、2100kgの重量級ボディーをものともせず加速させていく。官能性とは無縁。決してディスっているのではなく、クルマが進化を重ねて到達した高みは純粋な移動だったという印象だ。
緻密な制御が可能なモーター駆動によって、誰でもスムーズな加減速を味わうことができる。アクセルペダルオフによる回生ブレーキの強さをパドル操作で選択することができ、いわゆるワンペダルドライビングが可能な「iペダル」モードもある。
望めばアクセルペダルを戻すだけで完全に停止できるのは素晴らしい。“停止する際はブレーキペダルを踏む操作を行うべし”という考えのもと、完全停止させない電動車が主流だが、そうしたい人はそうすればよいだけで、アクセルオフで完全停止させ(る利便性を享受し)たい人の要望を封じていないのがよい。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
最大出力100kWでチャージできる
255/45R20の大径タイヤ&ホイールはグッドルッキングをもたらすいっぽう、不整路面ではややドタバタを演じる。後日235/55R19のRWDモデルにも試乗したが、乗り心地はさほど変わらなかった。このあたりがもう少し煮詰められるとほぼ言うことがなくなる。RWDだとモーターが後ろに1個だけになって最高出力、最大トルクともに数値がガクンと下がるので、力強さにけっこうな差があった。活発に走らせたいならAWDがオススメ。アイオニック5の売りである走行性能以外の魅力、すなわちスタイリングやパッケージング、EVとしての利便性(多くの欧州製EVと違ってV2H、V2Lに対応しており、クルマからの給電を享受できる)などを重視するならRWDでも十分だ。
アイオニック5は充電器にその性能があれば、最大出力100kWで充電できる。首都高の大黒PAに導入された最大90kWで充電できるという触れ込みの新型CHAdeMOでは、ダイナミックコントロールという複雑な制御がいたずらしたのか、19kWでしか充電できなかった(電力残量約50%で充電開始)。悔しいので近くの日産グローバル本社へ乗り込み、やはり最大90kWで入る充電器で試すと80kWで充電でき、30分間で57%から95%に回復した。従来の約2倍の速さで充電できるとありがたみが増す。
自宅に充電器を設置できないので真剣に購入検討することはないが、なんらかの縛りを設けて何を買うか妄想する、クルマ好きがよくやる“もしもシリーズ”の<頑張れば買える価格のEVなら何を買う?>編を今やったらこのクルマが第一候補になる。あとAnycaの時間貸しを利用する機会があっても、このクルマを選びたい。
(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ヒョンデ・アイオニック5ラウンジAWD
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4635×1890×1645mm
ホイールベース:3000mm
車重:2100kg
駆動方式:4WD
フロントモーター:交流同期電動機
リアモーター:交流同期電動機
フロントモーター最高出力:--PS(--kW)
フロントモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
リアモーター最高出力:--PS(--kW)
リアモーター最大トルク:--N・m(--kgf・m)
システム最高出力:305PS(225kW)/2800-8600rpm
システム最大トルク:605N・m(61.7kgf・m)/0-4000rpm
タイヤ:(前)255/45ZR20 105W XL/(後)255/45ZR20 105W XL(ミシュラン・パイロットスポーツEV)
一充電走行距離:577km(WLTCモード)
交流電力量消費率:142.4Wh/km(WLTCモード)
価格:589万円/テスト車=598万9000円
オプション装備:ボディーカラー<グラビティゴールドマット>(9万9000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:7069km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:115.3km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.3km/kWh(車載電費計計測値)

塩見 智
-
アウディQ3スポーツバックTFSIクワトロ150kWアドバンスト(4WD)【試乗記】 2026.8.31 フルモデルチェンジした「アウディQ3スポーツバック」に試乗。プラットフォームやパワートレインこそ従来型の改良版ではあるものの、内外装のデザインやインフォテインメント、効率性のすべてにおいて大幅な進化を遂げたという。その仕上がりやいかに。
-
トヨタbZ4XツーリングZ(4WD)【試乗記】 2026.8.29 「トヨタbZ4X」にワゴンのようなロングボディーを持つ「ツーリング」が登場。ただ長くなっただけではなく、今回試した4WDモデルではパワーもアップ。乗り味にも微妙な影響を及ぼしているから見逃せない。経路充電を試しつつ、370km余りをドライブした。
-
BMW 120オリジナル(FF/7AT)【試乗記】 2026.8.25 BMWの主要モデルに新グレードの「オリジナル」が設定された。位置づけとしては新たなエントリーグレードということになるが、BMWらしさを損なうことなく装備を厳選し、価格を抑えたのがポイントだという。「1シリーズ」の「120オリジナル」の仕上がりをリポートする。
-
トライアンフ・スラクストン400(6MT)【レビュー】 2026.8.25 カフェレーサーの本場である、イギリスのトライアンフがリリースした「スラクストン400」。車名のとおり、カジュアルに楽しめる400ccクラスのマシンではあるのだが、その実物からは、エントリーモデルとは思えない本物の香りが漂っていた。
-
スズキeスカイ プロトタイプ(FWD)【試乗記】 2026.8.24 スズキが満を持して世に問う、軽規格の新型電気自動車「eスカイ」。軽乗用車の本質である、生活の足としてのちょうどよい性能を追求したという一台は、どのようなクルマに仕上がっているのか? 2026年秋の正式発表を前に、プロトタイプモデルに試乗した。
-
NEW
第127回:新型BMW X5(後編) ―迷走するBMW 結局アナタは“ノイエクラッセ”でなにがしたかったの?―
2026.9.2カーデザイン曼荼羅その姿が明らかとなるや、賛否両論を巻き起こしている新型「BMW X5」。このクルマは既存のBMW製SUVとはなにがちがうのか? そもそもBMWは“ノイエクラッセ・デザイン”になにを託していたのか? カーデザインの識者と、迷走するBMWの明日を探った。 -
NEW
BMW X1 sDrive20iオリジナル(FF/7AT)【試乗記】
2026.9.2試乗記BMWのコンパクトSUV「X1」に新グレードの「オリジナル」が登場。走りの楽しさをはじめとしたBMWらしさをキープしつつ、装備の厳選によって価格抑制を図った新たなエントリーグレードだ。都市部におけるドライバビリティーとユーザービリティーをリポートする。 -
スポーツカーに未来はあるか?
2026.9.1あの多田哲哉のクルマQ&A年々、開発環境が厳しくなるといわれるスポーツカーは、この先も存在しうるのか? トヨタのエンジニアとしてさまざまなスポーツカーを開発してきた多田哲哉さんに“未来のスポーツカー像”を聞いた。 -
トヨタGRヤリスRZ“ハイパフォーマンス”+エアロパフォーマンスパッケージ【試乗記】
2026.9.1試乗記2020年のデビュー以来、間断なく進化を続けてきたコンパクトスポーツの「トヨタGRヤリス」。一般ユーザーの間ではもちろん、コンペティションの世界でもチューニングのかいわいでも光を放つ一台は、2026年モデルでどう進化したのか? その走りを報告する。 -
“自然を連想する車名”の名車特集
2026.9.1日刊!名車列伝暑さが和らぐ一方で、台風シーズンとも呼ばれる9月。その風をはじめ、星座、景観など自然を連想させる名前が与えられた、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
興味があるのはたったの3割!? 自動車業界を揺るがすSDVやAIって本当に必要なの?
2026.8.31デイリーコラム自動車も、スマホのように機能がアップデートできるようになる! ……ということで注目されるソフトウエアディファインドビークル(SDV)だが、日本のユーザーの多くが「いらない」と思っていることが判明! 急速に進むデジタル技術の、必要性について考えた。















































