いまあらためて考える 「それでもMT車を選びたいか?」
2022.05.30 デイリーコラム趣味のものであればこそ
トヨタがスポーツカー「スープラ」にMT車を追加設定したという。2022年の夏に発売される新型「日産フェアレディZ」も、MT車をラインナップする。素晴らしいことである。
しかし現実を見れば、日本国内で販売される乗用車のMT比率は1%ほどだ。それでもやっぱりMT車は必要なのだろうか?
MT車が生活になくてはならないものかといえば、言うまでもなく「NO」だ。MT車は“趣味の品”なので、なくなる(生産されなくなる)と困る人は、それほど多くはない。それは例えば、将棋の駒の生産が終了して困る人がどれくらいいるのか、に近いだろう。
私はMT車の運転を愛しているが、あくまで趣味としてで、生活の足には断然AT車を選ぶ。まぁこれは複数台所有だから言えることですが……。
個人的には、新車のMT車を買う予定も希望もないので、今日この瞬間にMT車の生産が終了しても困りはしない。MT車は、いま所有している「フェラーリ328GTS」と「ダイハツ・ハイゼット トラック ジャンボ」(1990年式)の2台で十分だ。離婚の予定がない既婚者のようなものですね。
しかし、MT車の運転をやめるつもりも当然ない。趣味って、多少難しくないとつまらないじゃないですか。スポーツや楽器の演奏がメッチャ簡単だったら、熱中する人、いませんよね? MT車にはそれに近い部分がある。
必要でなくとも価値はある
フェラーリのMTを上手に操作するのは、それなりに難しい。ペダル配置がフォーミュラカーみたいなので、ヒール&トウもマツダ車みたいには簡単じゃない(フェラーリの場合はトウ&トウ)。フェラーリに乗るのは年に10回くらいなので、放っておくとヒール&トウがどんどんヘタになる。久しぶりにやると、アクセルペダルを空振りする! 30年近くフェラーリに乗ってるのに! しょんぼり。でも、失敗できる趣味って楽しいんだよね。
フェラーリは蘭奢待(らんじゃたい)のようなクルマなので、走行距離は年間1000km以内と決めている。少ない練習量のなかで、しっかり上手に操作したい。バチッとキマればこんな快感はないし、キマらないとしょんぼりする。ただ首都高を1周走るだけですが、気分はいつも厳粛だ。あ~シアワセ。このようなシアワセは、MT車じゃないと味わうのが難しいのではないでしょうか。
以前乗っていた「458イタリア」はAT(DCT)だったので、サーキットを攻めないと完全には楽しめなかった。一般道では軽く流しても速すぎる! そこに限界を感じて、328に回帰しました。古いMTのフェラーリなら、前を走る軽と同じペースで走っていても、操作がキマれば猛烈な快感! 気分はレシプロ戦闘機のパイロットなんですよ!
このようにして、趣味としてのクルマは、よりMTに回帰していくでしょう。つまり、内燃エンジン車が生産されている間は、一定数は必ず売れるでしょう。MTの旧車の値段が暴騰していることを見ても、MTには必要性はなくても価値はある。スープラやZのMT車は、価値があるからこそつくられる。価値あるものは必ず生き残る。それが市場原理というものだ。市場原理イコール神! 神様はMT車の味方なのだ!
「じゃ、クルマを1台にしろって言われたらどうします?」
げえっ。痛いところを突かれた。どうするだろう……。フェラーリだけで生活できるかな? いやそれはイカン。普段のゲタにフェラーリ様を使うくらいなら手放します! 代わりに「スズキ・アルトワークス」のMT車(中古)でも買いましょうか。
(文=清水草一/写真=清水草一、トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、スズキ、フェラーリ/編集=関 顕也)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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