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フィアット500eアイコン(FWD)/ホンダeアドバンス(RWD)

笑顔が未来を切り開く 2022.07.01 試乗記 今尾 直樹 いよいよ日本に導入された、イタリア発のキュートな電動コミューター「フィアット500e」。しかしデザインに秀でた電気自動車(EV)といえば、すでに日本にも「ホンダe」があるじゃないか! 街に彩りを与え、見る者を笑顔にする2台の魅力をリポートする。

街に映えるラブリーなデザイン

かたや、ホンダが2020年8月(発売は同年10月)に発表したホンダe。こなた、2022年4月に日本でのリース販売が発表された新型「フィアット500」のEV、500e。ニッポンとイタリアから送り出された、新世紀にふさわしい2台のコミューターを乗り比べつつ、東京都内から千葉の木更津まで、片道60kmほどのドライブに出かけることになった。テスト車の「ホンダeアドバンス」は一充電走行距離が259km、対するフィアット500eは同335km(ともにWLTCモード)。こういうとき、筆者はアントニオ猪木を思い浮かべながら叫ばずにはいられない。

電気ですか~。電気があれば、なんでもできる。いくぞ~っ。1、2、3、ダーっ!!

またバブル期の「日産セフィーロ」に、助手席の井上陽水が窓ガラスをスーッと開けて、テレビの視聴者に向かって話しかけるCMがあったことをご記憶でしょうか? そのセリフのもじりで「みなさん、お電気ですか」というのも思いついたので、つい書いてしまいました。失礼しま~す。

ともかく、この2台のEVコミューターの比較試乗を筆者は1カ月前から楽しみにしていた。ホンダeは以前から好ましく思っていたし(参照)、フィアット500eは未試乗ながら、そのラブリーなデザインでもって、気になる存在になっていたからだ。

「ホンダe」(左)と「フィアット500e」(右)は、普段使いでの短距離移動を想定したコンパクトEVである。バッテリーの搭載量を抑え、(EVとしては)手ごろな価格を実現している。
「ホンダe」(左)と「フィアット500e」(右)は、普段使いでの短距離移動を想定したコンパクトEVである。バッテリーの搭載量を抑え、(EVとしては)手ごろな価格を実現している。拡大
2022年4月に日本に導入された「フィアット500e」。総電力量42kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTCモードで335kmの一充電走行距離を実現している。
2022年4月に日本に導入された「フィアット500e」。総電力量42kWhのリチウムイオンバッテリーを搭載し、WLTCモードで335kmの一充電走行距離を実現している。拡大
2020年8月に発売された「ホンダe」。都市型EVコミューターというコンセプトと、シンプルだが温かみのあるデザイン、これでもかと投入された先進の機能・装備で注目を集めた。
2020年8月に発売された「ホンダe」。都市型EVコミューターというコンセプトと、シンプルだが温かみのあるデザイン、これでもかと投入された先進の機能・装備で注目を集めた。拡大
フィアット の中古車

“同い年”なのは偶然ではない

この2台、500万円弱という価格も含めて、とてもよく似ている。と筆者は思う。そもそもカタチがラブリーという共通点がある。ホンダeは1967年発売の「N360」、もしくは1972年発売の初代「シビック」を祖としていることは明白だ。ホンダを代表する小型車であることが、ひと目でわかるデザインをまとっている。名前からしてホンダeだし。

一方のフィアット500eも、その名前が示すごとく、1957年登場の“ヌオーヴァ500”の生まれ変わりとして2007年に発表されたフィアット500の新型として(うーん。ややこしい)、本国では2020年3月に登場している。ガソリン仕様も早晩出るという説もあるみたいだけれど、いまのところパワートレインは電気のみ。デザインの系譜としてはヌオーヴァ500から数えて3代目のチンクエチェントである。どちらもそれぞれのブランドを代表する象徴的な存在なのだ。

ワールドデビューが同じ2020年の同期生で、これには理由がある。欧州でこの年から、かなり厳しいCO2の規制が始まり、そのなかに「メーカーごとの平均排出量を計算する際、50g/km未満のクルマ(実質、EVや燃料電池車などに限られた)は1台を2台として計上する」という一文があった。ホンダeも新型フィアット500eも、この優遇策を使ってCAFE(企業平均燃費)をパスする、という共通の目的があったのだ。

「ホンダe」のインテリアは、木目調の装飾と、ダッシュボードの全面に備えられたディスプレイが特徴。多彩な機能は「Hondaパーソナルアシスタント」により、音声操作が可能となっている。
「ホンダe」のインテリアは、木目調の装飾と、ダッシュボードの全面に備えられたディスプレイが特徴。多彩な機能は「Hondaパーソナルアシスタント」により、音声操作が可能となっている。拡大
シート表皮は明るいグレーのファブリック。床面はフラットで、じつは運転席と助手席の間をウオークスルーできる。寒い日でも快適にドライブできるようシートヒーターとステアリングヒーターが標準装備される。
シート表皮は明るいグレーのファブリック。床面はフラットで、じつは運転席と助手席の間をウオークスルーできる。寒い日でも快適にドライブできるようシートヒーターとステアリングヒーターが標準装備される。拡大
「フィアット500e」(左)と「ホンダe」のデビューはともに2020年。その背景には、厳しさを増す欧州の環境規制を、優遇措置のあるEVを販売することで乗り切ろうというねらいがあった。
「フィアット500e」(左)と「ホンダe」のデビューはともに2020年。その背景には、厳しさを増す欧州の環境規制を、優遇措置のあるEVを販売することで乗り切ろうというねらいがあった。拡大

温和なデザインに心が安らぐ

ご存じのように、EVはリチウムイオンバッテリーの原材料費と製造コストが高いといわれている。これらのコストは圧縮が難しく、おのずとクルマの価格も高くなる。そうなるとプラスαが必要で、ホンダeがホンダの歴史と伝統にもとづく、レトロかつモダン、フレンドリーで魅力的なデザインをまとっているのは、単なる小型車ではなくてEVであることを消費者にわかりやすく伝えるためだといってよいだろう。もしもEVでなければ「フィット」やシビックのようなデザインをまとっていたはずで……いや、この仮定は意味がないですね。ホンダの目的はEVをつくることにあったのだから。

一方の新型フィアット500eは、オールニューだというのに、2007年登場の先代500と驚くほど変わっていない。デザインを変えないことによってブランドを確立しよう。という「ポルシェ911」や「MINI」に代表されるデザイン戦略である。

いずれにしても、ホンダeもフィアット500eも、先行車を威嚇するようなデザインが目立つ昨今にあって、そうではない顔つきが与えられていることは大いに喜ばしい。そもそも他者と動力性能で競うタイプのクルマではない。ということもある。どう喝ではない、平和的解決を図るデザインというものが、こんにち、もっと注目されてしかるべきでありましょう。

シンプルな2ボックスで、ボディー全体に丸みを帯びたホンダeは表情が柔らかい。笑顔は外交の基本だ。2灯の丸型ヘッドライトのサイズと、やや寄り目の装着位置、グリルにあたる黒い部分とボディーのバランスやプロポーション(調和)のなせるわざだろう。ホンダのロボット「アシモ」を思わせもする。温和で柔和、すっとぼけた顔にも見えてホッとする。

500eは先述したように、ヘッドライト以外、いまも継続して生産・販売されている先代フィアット500と寸分違わないように見えるけれど、そうではない。ホイールベースが従来比で20mm延長され、3サイズがちょっとずつ大きくなっている。プラットフォームから一新したオールニューなのに、デザインはほとんどそっくりそのまま、のように筆者には思える。

丸みのあるフォルムと、タヌキを思わせる“くま取り”がユニークな「ホンダe」のデザイン。歩行者などの邪魔にならないよう、デジタルサイドミラーのカメラは車体の全幅からはみ出ないサイズで、かつ角のない形状となっている。
丸みのあるフォルムと、タヌキを思わせる“くま取り”がユニークな「ホンダe」のデザイン。歩行者などの邪魔にならないよう、デジタルサイドミラーのカメラは車体の全幅からはみ出ないサイズで、かつ角のない形状となっている。拡大
インフォテインメントシステムについては、機能の多さはもちろん操作性のよさも追求。左右の画面に別々の機能を表示させられるほか、前に使っていたアプリケーションを探すのに重宝する、履歴検索機能なども用意されている。
インフォテインメントシステムについては、機能の多さはもちろん操作性のよさも追求。左右の画面に別々の機能を表示させられるほか、前に使っていたアプリケーションを探すのに重宝する、履歴検索機能なども用意されている。拡大
上級グレード「アドバンス」には自動駐車機能「Hondaパーキングパイロット」も搭載。操舵、アクセル/ブレーキ、前進/後退の切り替えと、すべての操作をシステムがこなしてくれる。
上級グレード「アドバンス」には自動駐車機能「Hondaパーキングパイロット」も搭載。操舵、アクセル/ブレーキ、前進/後退の切り替えと、すべての操作をシステムがこなしてくれる。拡大
Bピラーの「NFC」マーク。「ホンダe」はNFC通信に対応しており、アプリの入ったスマートフォンを所持していれば、リモコンキーを使わなくともドアを開け、車両を始動できる。
Bピラーの「NFC」マーク。「ホンダe」はNFC通信に対応しており、アプリの入ったスマートフォンを所持していれば、リモコンキーを使わなくともドアを開け、車両を始動できる。拡大
ダッシュボードの端に備わるデジタルサイドミラー。取材日は雨天だったので、非常に重宝した。
ダッシュボードの端に備わるデジタルサイドミラー。取材日は雨天だったので、非常に重宝した。拡大

いまだに古臭さを感じさせない意匠

わかりやすい先代との違いのひとつは、先代500のホイールが14、もしくは15インチなのに対して、新型は16、もしくは17インチを標準装備することだ。日本市場では「ポップ」「アイコン」「オープン」(キャンバスの折り畳み式大型サンルーフ仕様)と、3つのモデルがあり、このうち16インチを装着しているのはポップだけ。そのポップは注文生産だから、500eの事実上のスタンダードは今回の試乗車でもあるアイコンということになる。先代比で2インチも大きくなったホイールをおさめるべく、新型の下半身は、フェンダーがグッと張り出し、ググッと力強い印象を受ける。

新型「日産フェアレディZ」にも似た「こ」の字型のLEDヘッドライトと、ボンネットの真っすぐのラインによって、500eはいろんな表情を見せる。「こ」の字の上の部分を眉毛だと意識するとやさしげだし、ボンネットとボディーの間の分割線をまなじりだととらえると、激おこ、ではないにしても、果敢に立ち向かう勇者の目のようにも見える。気分によって表情が変わる。そこがオモシロイ。

登場以来、すでに15年を経ているのに、いまもフレッシュで新鮮、って同じ意味ですけれど、さかのぼればヌオーヴァ500に至るこのデザインの寿命の長さに嘆息を禁じ得ない。禁じる必要もないのだから、おお。と漏らします。造形まで手がけた天才エンジニア、ダンテ・ジアコーサに、シクラメンテ、ベラメンテである。イタリア人がよく使うこのフレーズ、知ったことかい、べらんめえ、ただの雰囲気でぇ、という感じで使っております。グラッツェ。

日伊のEVコミューターのこの2台。このように外から見ているだけだと、似ているように感じる。ところが、比較試乗してみたら、その違いは思った以上に大きかった。サイズだってひとクラス違う。そのことにようやく気づいたのは、じつは木更津に到着してステキなケーキ屋さんの庭の前に2台を並べたときのことだった。というお話のつづきは後編で。

(文=今尾直樹/写真=荒川正幸/編集=堀田剛資/撮影協力=エル・プランタン合同会社)

「フィアット500e」は、一見すると従来型の「フィアット500」と変わらないように見えるが、じつはプラットフォームから全面刷新されており、ボディーサイズも全長×全幅×全高=3630×1685×1530mm(従来型は3570×1625×1515mm)と、ひとまわり大きくなっている。
「フィアット500e」は、一見すると従来型の「フィアット500」と変わらないように見えるが、じつはプラットフォームから全面刷新されており、ボディーサイズも全長×全幅×全高=3630×1685×1530mm(従来型は3570×1625×1515mm)と、ひとまわり大きくなっている。拡大
ボディーカラーは全5種類だが、試乗車の「オーシャングリーン」を含む4色は、5万5000円から11万円の有償オプションだ。
ボディーカラーは全5種類だが、試乗車の「オーシャングリーン」を含む4色は、5万5000円から11万円の有償オプションだ。拡大
「フィアット500e」の大きな特徴となっている、上下2分割のヘッドランプ。「ポップ」以外のグレードはLED式で、オートハイビームなどの機能が標準装備される。
「フィアット500e」の大きな特徴となっている、上下2分割のヘッドランプ。「ポップ」以外のグレードはLED式で、オートハイビームなどの機能が標準装備される。拡大
似たような動機のもと、似たようなコンセプトで登場した「フィアット500e」(左)と「ホンダe」(右)だが、両車のドライブフィールには大きな違いがあった。後編ではその差異をリポートする。
似たような動機のもと、似たようなコンセプトで登場した「フィアット500e」(左)と「ホンダe」(右)だが、両車のドライブフィールには大きな違いがあった。後編ではその差異をリポートする。拡大
フィアット500eアイコン
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フィアット500eアイコン(FWD)/ホンダeアドバンス(RWD)(前編)【試乗記】の画像拡大

テスト車のデータ

フィアット500eアイコン

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3630×1685×1530mm
ホイールベース:2320mm
車重:1330kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:118PS(87kW)/4000rpm
最大トルク:220N・m(22.4kgf・m)/2000rpm
タイヤ:(前)205/45R17 88V/(後)205/45R17 88V(グッドイヤー・エフィシェントグリップ パフォーマンス)
一充電走行距離:335km(WLTCモード)
交流電力量消費率:128Wh/km(約7.8km/KWh、WLTCモード)
価格:485万円/テスト車=493万8000円
オプション装備:ボディーカラー<オーシャングリーン[メタリック]>(5万5000円)/フロアマット プレミアム(3万3000円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1655km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:177.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:6.7km/kWh(車載電費計計測値)

ホンダeアドバンス
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フィアット500eアイコン(FWD)/ホンダeアドバンス(RWD)(前編)【試乗記】の画像拡大

ホンダeアドバンス

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3895×1750×1510mm
ホイールベース:2530mm
車重:1540kg
駆動方式:RWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:154PS(113kW)/3497-1万rpm
最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/0-2000rpm
タイヤ:(前)205/45ZR17 88Y XL/(後)225/45ZR17 94Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
一充電走行距離:259km(WLTCモード)
交流電力量消費率:138Wh/km(約7.2km/kWh、WLTCモード)
価格:495万円/テスト車=502万7814円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ドライブレコーダー(3万3000円)/フロアカーペットマット<プレミアムタイプ>(3万8500円)/工賃(6314円)

テスト車の年式:2020年型
テスト開始時の走行距離:7751km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:179.0km
消費電力量:--kWh
参考電力消費率:5.7km/kWh(車載電費計計測値)

今尾 直樹

今尾 直樹

1960年岐阜県生まれ。1983年秋、就職活動中にCG誌で、「新雑誌創刊につき編集部員募集」を知り、郵送では間に合わなかったため、締め切り日に水道橋にあった二玄社まで履歴書を持参する。筆記試験の会場は忘れたけれど、監督官のひとりが下野康史さんで、もうひとりの見知らぬひとが鈴木正文さんだった。合格通知が届いたのは11月23日勤労感謝の日。あれからはや幾年。少年老い易く学成り難し。つづく。

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