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日産サクラG(FWD)

小さなゲームチェンジャー 2022.07.12 試乗記 塩見 智 補助金を加味した場合の実質購入額の低さで話題となった日産の軽電気自動車(EV)「サクラ」が、いよいよ公道に降り立った。一般的にEVは低重心で静かな乗り物とされているが、軽のハイトワゴンでもその常識は通用するのだろうか。最上級グレード「G」で検証した。

どちらの主張も正しい

立て続けに行われた日産サクラ(きれいな桜の発音ではなく寅さんの妹のほうの発音)と「三菱eKクロスEV」の試乗会で、それぞれの開発者にいくつかの同じ質問をすると、思いや思惑はほとんど一緒だが、双方ともに自分たちのほうがうまくやったという自信もチラッと見え、大変興味深かった。根幹部分は精鋭が集まって一緒に開発しているわけだが。

日産が内燃機関(ICE)車の「デイズ」とはスタイリングも車名もガラリと変えて新しい乗り物感を演出しているのに対し、三菱はスタイリングも車名もICEの「eKワゴン」の延長線上、もしくは横並びに置くことでEVを特別視せず、使用環境に合うほうを選んでくださいという姿勢。どちらも正しい。

開発当初から将来のEV採用を見越して開発されたデイズ用の車台を用いるサクラ。659ccターボエンジンに代えて、容量20kWhの駆動用バッテリーと、自分たちの業界が自ら定める上限の最高出力47kW(64PS)のモーター、インバーターなどを搭載して前輪を駆動する。足かせがない最大トルクはICEの軽のざっと2倍に相当する195N・mを誇る。モーターは三菱側が開発したもので、「アウトランダーPHEV」や「ノートe-POWER」(4WD)のリアモーターとして使っているものだ。

2022年6月16日に発売された「日産サクラ」。試乗した7月上旬の時点で約1万8000台を受注しているという。
2022年6月16日に発売された「日産サクラ」。試乗した7月上旬の時点で約1万8000台を受注しているという。拡大
姉妹車である「三菱eKクロスEV」とともに三菱の水島製作所で生産される。三菱が「eKクロス」のバリエーションモデルとしているのに対し、日産では「アリア」「リーフ」に続く新たなEVのエントリーモデルに位置づけている。
姉妹車である「三菱eKクロスEV」とともに三菱の水島製作所で生産される。三菱が「eKクロス」のバリエーションモデルとしているのに対し、日産では「アリア」「リーフ」に続く新たなEVのエントリーモデルに位置づけている。拡大
「サクラ」という名称には、次の日本を代表するクルマへ、日本の電気自動車の時代の中心となるクルマへ、という思いが込められている。
「サクラ」という名称には、次の日本を代表するクルマへ、日本の電気自動車の時代の中心となるクルマへ、という思いが込められている。拡大
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音の高まりなしに加速する

モデルチェンジして最大トルクが約2倍になったという例はあまり聞いたことがない。当然、われわれが長年慣れ親しんできたターボエンジンの軽自動車よりも段違いにパワフルだ。かといって乱暴ではないのがモーター駆動の自由自在なところ。アクセルペダルの踏み方次第でジェントルに発進することもできるし、のけぞるような発進もできる。ICEの軽だって絶対的な動力性能に不満があるわけではなかったが、発進にせよ追い越しにせよ勢いよくペダルを踏んで加速する際にはブーンというエンジンのうなりがやかましかった。軽とはそういうものだと思い込んできたのでいちいち文句を言うことはなかったが、騒がしいのは間違いなかった。

それがEVとなると音の高まりなしで加速していく。そのぶん、これまでエンジン音でかき消されて目立たなかったロードノイズや風切り音が聞こえてくるが、その程度は不快なほどではない。加速がよいので望む速度に達するまでの時間が短い。いいことばかりだ。

日産おなじみの「eペダル」が備わっており、ある程度であれば減速もアクセルペダルの戻し方次第でコントロールできる。ペダルを戻してから減速が始まるのに一瞬タイムラグがあるのが気になった。より多くのお客さまがICEから乗り換えても違和感なく運転できるようにそうしてあるそうだ。ドライブモードを「スポーツ」にしておけばそのタイムラグは短い(減速の立ち上がりが早い)が、ヒョンデやフィアットのEVのように戻すと同時に減速が立ち上がるような感覚ではない。私にとっては残念だ。

これはアクセルペダルから足を離すようにポンと戻した場合の話であって、ジワリと漸進的に戻すとタイムラグが発生しない仕様になっている。が、先行車が急ブレーキ気味に減速したり、割り込みされたりした場合などには反射的にポンと戻してしまうもの。その際、即座に減速が始まらないので一瞬戸惑って、ブレーキペダルに足をかけると、そのころに減速が始まるという具合。

グリルにあたる部分には「アリア」と同じ逆台形のブラックパーツを大胆にレイアウト。中央の日産エンブレムは点灯する。
グリルにあたる部分には「アリア」と同じ逆台形のブラックパーツを大胆にレイアウト。中央の日産エンブレムは点灯する。拡大
テールゲートを横断するリアコンビランプでワイドなイメージを強調。点灯パターンは日本伝統の格子をモチーフにしている。
テールゲートを横断するリアコンビランプでワイドなイメージを強調。点灯パターンは日本伝統の格子をモチーフにしている。拡大
充電ポートは車体の右側後部にレイアウト。キャップには「SAKURA」のロゴ(普通充電用)と日本伝統の水引模様(急速充電用)が描かれている。
充電ポートは車体の右側後部にレイアウト。キャップには「SAKURA」のロゴ(普通充電用)と日本伝統の水引模様(急速充電用)が描かれている。拡大
ホイールにも水引デザインを採用。14インチがスタンダードで、15インチはオプションで選べる。
ホイールにも水引デザインを採用。14インチがスタンダードで、15インチはオプションで選べる。拡大

軽規格に収まる高級コンパクト

積極的にハンドリングを楽しむようなクルマではないが、バッテリー搭載による低重心と理想的な前後重量配分によって、背の高い見た目から想像する腰高感がまったくない、安定感抜群の挙動に終始する。ぐるぐる回って入場する大黒PAへのアプローチは気持ちよかった。これなら首都高の大橋JCT(もっとぐるぐる回る)だって難なくこなすはずだ。ちなみに車両重量は1070~1080kg。880kgのデイズより200kg重いが、ICEの軽でも「ジムニー」のように1t超えのモデルもある。今回の試乗中、ブレーキング時に不安を感じたことはなかった。

試乗したGグレードは294万0300円。このほかに「プロパイロット」や「NISSANコネクトナビ」が付かない「X」グレード(239万9100円)や装備を省きに省いた法人仕様の「S」グレード(233万3100円)もある。軽自動車に294万円と聞くとギョッとするのは事実だ。しかしこれは軽規格に収まるサイズではあるものの、内容、実力は軽ではないということは、乗れば誰でも納得するはずだ。高級コンパクトカーと考えれば294万円でも納得できないこともない。

が、日産がこのクルマを提案したいのは、これまで面白がってEVを買ってきた新しいモノ好きではなく、例えばガソリンスタンドが減ってきて給油に困っている地方の軽自動車ユーザーだ。世帯にはほかにもクルマがあって、軽自動車を日常の足としてとらえている人たちだ。そういう人たちに選んでもらうには、これまでの軽自動車の価格から大きくかけ離れるわけにはいかない。

294万円のサクラは国のCEV補助金55万円があるために事実上239万円で購入可能。さらに独自の補助金を設定する自治体も多く、例えば東京都なら45万円もの補助金が受けられるため、アンダー200万円でサクラの最上級グレードを入手できるのだ。200万円近くするICEの軽自動車もザラにあるので、これは公的機関による結構なあと押しといえる。

駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は20kWh。フロア下のセンタートンネルの部分に格納され、エアコン冷媒によって冷却される。
駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は20kWh。フロア下のセンタートンネルの部分に格納され、エアコン冷媒によって冷却される。拡大
ファブリックが大胆に使われたダッシュボードは既存の軽自動車とは一線を画す質感だ。助手席の前方は大きくえぐられ、スマートフォンなどが置けるようになっている。
ファブリックが大胆に使われたダッシュボードは既存の軽自動車とは一線を画す質感だ。助手席の前方は大きくえぐられ、スマートフォンなどが置けるようになっている。拡大
合皮とトリコットのコンビ表皮はオプションで、トリコットのみの仕立てが標準。立派なセンターアームレストが備わっている。
合皮とトリコットのコンビ表皮はオプションで、トリコットのみの仕立てが標準。立派なセンターアームレストが備わっている。拡大
後席は座面の前後スライド(左右一体)と背もたれのリクライニング(50:50分割)が可能。
後席は座面の前後スライド(左右一体)と背もたれのリクライニング(50:50分割)が可能。拡大

巧妙なコスト削減策

200万円内外のクルマとして成立するだけのインテリアの質感も備わっている。ダッシュボードやドア内張りには、触り心地がよく見た目もきれいなファブリックが使われている。ベンチシートの素材や座り心地も良好だ。またダッシュ中央のカーナビディスプレイとドライバー眼前のメーターディスプレイが一枚に見えるパネルに並んで配置される、近ごろの高級なモデルがこぞって採用するタイプのディスプレイレイアウトとなっている。

装備面もしかり。プロパイロットにコネクテッドナビという、軽自動車じゃなくても付いていたら文句なしの最新装備が備わるのだからうれしい。いっぽうでリアシートの取り付け剛性なんかは軽自動車レベルのままだし、何よりドアの開閉音がバシャンと車内で聞いても車外で聞いても低級だ。高価格の理由の大部分は駆動用バッテリーなので、仕立てまできめ細かく高級にしてしまったら補助金がいくらあっても勝負にならない。しかしコストを抜くところを巧妙に選んでいて、使っていて困るようなことはない。

「リーフ」「アリア」に続く日産EV3兄弟の末っ子はなかなかの実力者だった。クルマがなくても困らない都市部の新しいモノ好きがオモシロ半分に買う1分の1オモチャ的EVじゃなく、クルマがないとどこへも行かれやしない地方に住んでいて、にもかかわらずガソリンスタンドが減ってきて困っている人の打開策としてのEVは、都市部でオモシロ半分に乗っても魅力的だった。ゲームをチェンジするのは、大容量バッテリーEVじゃなく、こういう低価格EVかもしれない。

(文=塩見 智/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)

2本スポークのステアリングホイールはボトム側のリムにセンターマークが刻まれる。本革巻きはシート表皮などとセットのオプション(標準はウレタン)。
2本スポークのステアリングホイールはボトム側のリムにセンターマークが刻まれる。本革巻きはシート表皮などとセットのオプション(標準はウレタン)。拡大
液晶式のメーターパネルは文字の表示が大きく視認性が高い。駆動用バッテリーの残りが98%で航続可能距離が180kmと表示されている。
液晶式のメーターパネルは文字の表示が大きく視認性が高い。駆動用バッテリーの残りが98%で航続可能距離が180kmと表示されている。拡大
「eペダル」のスイッチはシフトセレクターの右側に用意されている。スイッチの表記は「e-Pedal」だが、クリープが付いた最新バージョンの正しい呼称は「eペダルステップ」。
「eペダル」のスイッチはシフトセレクターの右側に用意されている。スイッチの表記は「e-Pedal」だが、クリープが付いた最新バージョンの正しい呼称は「eペダルステップ」。拡大
ダッシュボードの下には棚とUSBポート(タイプAとタイプCが各1基)備わっている。
ダッシュボードの下には棚とUSBポート(タイプAとタイプCが各1基)備わっている。拡大
荷室の容量は107リッター。後席を前にスライドしたり、背もたれを倒したりすることで容量を拡大できる。
荷室の容量は107リッター。後席を前にスライドしたり、背もたれを倒したりすることで容量を拡大できる。拡大

テスト車のデータ

日産サクラG

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2495mm
車重:1080kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:64PS(47kW)/2302-1万0455rpm
最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/0-2302rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
一充電走行距離:180km(WLTCモード)
交流電力量消費率:124Wh/km
価格:294万0300円/テスト車=336万4415円
オプション装備:充電ケーブル<コントロールボックス付き、200V、7.5m>(5万5000円)/プロパイロットパーキング(5万5000円)/プレミアムインテリアパッケージ(4万4000円)/ボディーカラー<暁-アカツキ-サンライズカッパー/ブラック>(7万7000円)/165/55R15 75Vタイヤ&15インチアルミホイール(2万2000円) ※以下、販売店オプション LEDフォグランプ<インテリジェントアラウンドビューモニター付き車用>(5万9800円)/ウィンドウはっ水 12カ月<フロント+フロントドアガラス>(1万1935円)/日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア>(7万7380円)/フロアカーペット(2万2000円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:822km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
参考電力消費率:--km/kWh

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