日産サクラG(FWD)
ニーズを先取り 2022.08.23 試乗記 実質購入額の低さがなにかと話題になる日産の軽電気自動車(EV)「サクラ」の、最上級グレード「G」に試乗。一般的なユーザーの使い方を想定し、街なかから高速道を使った郊外まで、トータル300km近くを走ってみた。そこで感じたEVの現実と課題とは?日産の軽フラッグシップ
軽自動車規格のEVである日産サクラが売れている。さる2022年7月28日におこなわれた日産の2022年度第1四半期決算発表によると、累計受注台数は約2万3000台に達したという。ちなみに、昨2021年に国内販売された新車EVは計2万2000台弱。サクラは2カ月あまりで、それを超えるオーダーを受けたわけだ。聞けば、国から出る本年度のCEV(クリーンエネルギービークル)補助金が、早くも枯渇の可能性がさけばれる事態になっているのも、サクラのバカ売れが大きく影響していると思われる。
サクラが売れている最大の理由は安さだろう。中間グレード「X」ならCEV補助金だけで実質価格は180万円台となる。これならスーパーハイト軽のターボ車とほぼ同価格という計算で、さらに税金などにもEVならではの優遇がつく。また、各自治体からの補助金も上乗せすれば、実質150万円を下回るケースもめずらしくない。
もっとも、今回の試乗車は「プロパイロット」が標準となる最上級のGだった。革巻きステアリングホイールを含む「プレミアムインテリアパッケージ」や、以前の試乗経験から操縦性だけでなく静粛性にも効くことが判明している15インチホイール(標準は14インチ)、一度使ったら病みつき必至の半自動駐車機能「プロパイロットパーキング」などをトッピングすると、すぐに300万円を超える。
とはいえ、サクラは日産の軽フラッグシップとして、「ルークス」や「デイズ」より高級な仕立てになっている。クッション材入りファブリックが貼られたダッシュボードも開発陣に聞くとコストは意外に安いそうだが、運転席と中央で2枚ある液晶も解像度が高く、素人目には軽というよりちょっとした高級コンパクトの風情すらただよう。そんなGでも補助金をうまく使えば250万円を切るのだから、ほしくなる気持ちは分かる。
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EVを手がけてきた経験が自信に
これは同じ日産のEV「アリア」に試乗したときにも感じたのだが、サクラもパワートレインのしつけがとてもうまい。EVというと、以前はどれも静かでスムーズ、高反応で選ぶところはないイメージだったが、さすがにこれだけ多くのEVが世に出ると、各社の技術力や経験、なにを優先するかの思想のちがいが見えはじめる。
転がり出しから最大トルクを出す電動モーターの場合、そのレスポンスを素直に発揮させすぎると、ギアのバックラッシュなどによるショックが出てしまうとか。「トヨタbZ4X/スバル・ソルテラ」などはそれを回避すべく、急加速時には、アクセル操作から実際の加速反応までに明確な“間”を設けている。逆にBMWなどはその種の間を嫌って、右足に吸いつくような加速フィールを演出している。しかし、たとえば同社最新の「i4」でフル加速を試みたりすると、面食らうほど激しい衝撃に見舞われる。
サクラのパワートレインはトヨタやスバルのような奇妙な間をまるで感じさせないのに、いかに荒っぽいアクセル操作をしても、無粋なショックがほとんど出ない。かといって、非力かというと、そんなこともない。195N・mという2リッターガソリンエンジン級の最大トルクは、そのまま使ったら過剰でしかない。64PSという出力は軽の自主規制値に合わせて絞り込んであるだけだ。
サクラに乗ると、さすが初代「リーフ」以来、市販EVを10年以上手がけてきた経験はダテではないと素直に思った。……と開発陣に告白したら、わが意を得たりとニヤリと笑っていたので、相当に自信があるのだろう。
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エコモードは運転が得意でない人向け?
サクラを含む日産の電動車では、以前のようなブレーキペダルなしで完全停止までサポートするワンペダルドライブ機能はなくしたが、アクセルオフでの減速度を高める「e-Pedal」を用意する。さらに「エコ」「スタンダード」「スポーツ」というドライブモードを切り替えると、加速特性だけでなく、e-Pedal作動時に実際の減速がはじまるタイミングが変わる。アクセルを緩めた瞬間から吸いつくような減速がほしければ、e-PedalではなくシフトをBレンジにするといい。
3種類あるドライブモード、e-Pedalのオンオフ、そしてシフトのDレンジとBレンジを組み合わせて、パワーフィールを細かくセッティングできるのはEVならではの面白さだ。今回の2日間の試乗で、個人的には“エコモード+e-Pedalオン+気分に応じてDとBを使い分け”というパターンにたどり着いたが、「(加速反応が穏やかになる)エコモードは低電費というより、運転が得意でない人に合わせた」という開発秘話をうかがって、ちょっとへこんだ(笑)。
そのシフトセレクターとe-Pedalスイッチは、半自動駐車システムである「プロパイロットパーキング」のそれとともにインパネの一等地に配される。なのに、ドライブモードだけが運転席右下に追いやられていることに、違和感をもつ向きは少なくないだろう。
当初はサクラにドライブモードを用意する予定はなかったそうだ。しかし、同時並行的に進められていたフラッグシップEV=アリアの開発から「日産EVは全車にアリア同様のドライブモードをつけるべし」と基本戦略が変更された。その時点でサクラのインテリアデザインは完成しており、シフト周辺のスイッチ増設はかなわなかったという。あらためてスイッチの割り当てを検討しても、「ドライブモードの操作頻度は、e-Pedalやプロパイロットパーキングほど高くない」という判断から、現在の配置に落ち着いたとか。
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上級FRサルーン的な旋回姿勢
サクラはシャシーも優秀だ。今回は高速道も意識して走ってみたが、EV化に合わせた車体の高剛性と低重心のおかげか、どの軽ハイトワゴン/スーパーハイトワゴンよりフラットに落ち着いており、横風にも強い。直進性も積極的にほめられるレベル。高速での静粛性も市街地と大差なく高い。まあ、航続距離からも想像できるように、調子に乗って高速走行すると瞬く間にバッテリー残量が心もとなくなるのが、なんとももどかしい……。
多くのEVは低重心ではあるが絶対的には重く、高速や山坂道では、車重が悪さをすることも少なくない。しかし、サクラは車体が小さいので、15インチホイールをはじめとするオプションが装着された今回の試乗車でも、車検証重量は1090kg。軽ハイトワゴンとしては明らかに重いが、絶対的な重量はルークスのターボ4WDと同程度。実際に走っていて、重さをもてあますそぶりはまるでない。このあたりも軽EVの本質的なメリットだろう。
床下のリアサスペンションの直前ギリギリまでバッテリーを敷き詰めているサクラは、車検証の前後重量配分も54:46と良好だ。ちょっとしたワインディングロードや高速ジャンクションでコーナリング的な走りを試みると、ジワッとテールを沈めて旋回する。誤解を恐れずいえば、上級FRサルーンを思わせるエンスーな旋回姿勢である。
この状態からアクセルを無遠慮に深く踏み込んでも、ありあまるトルクでフロントタイヤが暴れる兆候など少しも見せない。乗り手が想定したとおりの走行軌跡と推進力でピタリと立ちあがっていく。いやはや、このパワートレイン制御はお世辞ぬきでうまいと思う。
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割り切りができれば便利
サクラの一充電あたりの走行距離は、WLTCモードのカタログ値で180km。今回のような猛暑日にエアコンをかけながら試乗すると、電欠のストレスを感じずに走れるのは100km前後といったところだ。急速充電ももちろん可能だが、サクラ側は最大30kWの充電しか対応していない。もともとの電池容量も小さいので、一回30分間ずっと30kWレベルで充電できるわけでもない。30分で上乗せできる距離は数十kmが現実で、いかに好条件でも、おそらく100kmには届かないだろう。
よって、たとえば一般的な「e-Mobility Power」会員の場合、4000円以上の月会費+30分だと495円かかる現在の急速充電インフラでは、緊急時以外の急速充電はうまみが少ない。そこは日産も素直に認めるところだ。個人的にはいっそのこと急速充電非対応にし(て、そのぶん本体価格を下げ)たほうが、サクラというクルマの本質が理解されやすいとすら思う。まあ、実際にはそれくらいで明確な値下げはむずかしいとのことだし、本当に非対応になると日本ではまだまだ売りづらいのか現実だろうけど。
というわけで、休日に遠出するような行動派のファーストカー用途にはサクラははっきりと不適格だ。しかし、クルマの保管場所に200V電源を引っ張ることができて、「これは近所限定のおつかいグルマ」と割り切ることができれば、逆にこれほど便利なクルマもない。日常的なガソリンスタンド通いが不要となる生活も、なんとも心地よさそうだ。
少子高齢化に、それを起因とする公共交通インフラの衰退やガソリンスタンド不足が深刻化するであろう近未来の日本で、最初に切実なニーズが生まれるのは軽EVではないか……という思いは、サクラに乗ってさらに強まった。サクラがバカ売れしているのは、ただ安いからとか、デザインや乗り味がいいからだけではない気がする。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
日産サクラG
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1655mm
ホイールベース:2495mm
車重:1080kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:64PS(47kW)/2302-1万0455rpm
最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/0-2302rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
一充電走行距離:180km(WLTCモード)
交流電力量消費率:124Wh/km
価格:294万0300円/テスト車=337万7215円
オプション装備:充電ケーブル<コントロールボックス付き、200V、7.5m>(5万5000円)/プロパイロットパーキング(5万5000円)/プレミアムインテリアパッケージ(4万4000円)/ボディーカラー<ブロッサムピンク/ブラック 2トーン>(6万6000円)/165/55R15 75Vタイヤ&15インチアルミホイール(2万2000円)/LEDフォグランプ+ホットプラスパッケージ<[助手席ヒーター付きシート、ヒーター付きドアミラー、リアヒーターダクト]+クリアビューパッケージ[ワイパーデアイサー、リアLEDフォグランプ]>(8万3600円) ※以下、販売店オプション ウィンドウはっ水 12カ月<フロント+フロントドアガラス>(1万1935円)/日産オリジナルドライブレコーダー<フロント+リア>(7万7380円)/フロアカーペット(2万2000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1396km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(6)/山岳路(1)
テスト距離:287.9km
参考電力消費率:7.7km/kWh(車載電費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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