三菱eKクロスEV P(FWD)
もう後戻りはしない 2022.07.14 試乗記 三菱が満を持して発売した軽規格の新型電気自動車(EV)「eKクロスEV」。日産との共同開発で生まれたニューモデルはどのようなクルマに仕上がっているのか? 日産版の「サクラ」との違いは? EVのパイオニアが送り出した注目モデルの仕上がりを確かめた。ハードルはずいぶん低くなった
自宅に200Vの普通充電設備を設置することができて、このクルマとは別にいわゆるファーストカーをお持ちで、セカンドカーは家族の送り迎えや近場への買い物に使う──。かなり限定されるけれど、そうした条件であれば、三菱eKクロスEVというEVの軽自動車はどんぴしゃではないか、と思った。
EVの購入をお考えの方がまず気にするのが、価格だろう。eKクロスEVの「G」グレードは239万8000円からで、値札をパッと見た瞬間は、いやいや軽自動車としてはやっぱり割高でしょうと思う。けれども今は、EV購入の補助金が充実している。まず、国の補助金が55万円。すると184万8000円だ。さらに自治体の支援制度も充実していて、これは自治体によって異なるけれど、東京都の場合は45万円の助成金が支給される。ということは、計100万円のサポートによって、実質139万8000円で購入できる。
価格の次に気になるのが、航続距離と充電に要する時間だ。eKクロスEVの航続距離は180km(WLTCモード)で、上記の用途に使うのであれば問題ない。三菱の調査によれば、軽自動車およびコンパクトカーのユーザーの約8割は、一日の走行距離が50km以下だという。
充電に要する時間は、200Vの普通充電だと約8時間で“満タン”。だから帰宅して充電器につなげば、翌朝にはフル充電の状態で走りだすことができる。もちろん急速充電器にも対応していて、カラに近い状態からでも約40分で80%まで充電できる。だから、ショッピングモールや公共施設の急速充電器につないで、用事を済ます間に充電するというケースも考えられる。
というわけで、EV導入に伴うさまざまなハードルは、かなり低くなっている。
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身近な存在として感じてほしい
試乗を始める前に、ぐるっと一周して外観をチェックする。
すでに報道されているように、三菱のeKクロスEVと「日産サクラ」は兄弟モデル。三菱の開発陣によれば、企画と開発はアライアンスを組む日産が主導したとのことだ。開発中は、三菱のスタッフが日産の栃木の開発拠点に足を運び、すり合わせを行いながら軽EVを完成させた。生産は三菱の水島工場で行い、内装のデザインを除けば、サスペンションのセッティングなどの細部に至るまで、2台のコンポーネンツは共通だという。
この兄弟で対照的なのは、日産サクラがEV専用のデザインを用意したのに対して、三菱eKクロスEVの外観は、ガソリン車のeKクロスと同じにしている点だ。これは三菱と日産のEV戦略の違いによる。
日産は「リーフ」「アリア」とEV専用モデルを複数ラインナップしており、サクラもその一員として売り出している。一方、三菱eKクロスEVは、あくまでeKシリーズの一員という立ち位置だ。つまり日産サクラが“ハレ”の存在であるのに対して、三菱eKクロスEVは“ケ”の存在で、肩肘張らずに普段使いする軽EVとして打ち出している。日産サクラが『函館本線』の山川 豊だとすると、三菱eKクロスEVが『兄弟船』の鳥羽一郎ということになるだろうか。
EVを特別な乗り物として考えている人もいるだろうし、エンジン車から気軽に乗り換えたいという人もいるだろうから、アライアンスを組む三菱と日産がこうしてすみ分けを図ったことは、なるほどと理解できる。
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運転が楽になるワンペダルモード
システムを起動してスタート。真っ先に感じるのは軽自動車っぽくないということで、ノイズとバイブレーションのないスマートな加速フィールがそう感じさせる。前輪を駆動するモーターは「三菱アウトランダーPHEV」や「日産ノートe-POWER」(4WD車)のリアに用いているものと共通だ。前述したように、日産が主導して開発したモデルではあるけれど、モーターに関してはケーシングも含めてベースは三菱が手がけたものだという。
「ECO」「SPORT」「NORMAL」の3つのドライブモードが用意されており、「SPORT」を選ぶと明らかにアクセル操作に対するレスポンスが鋭くなる。一方、「ECO」にすると反応が多少まったりとする。デフォルトの「NORMAL」はごく自然な反応で、通常はこれを選んでおけば間違いない。
また、シフトセレクターの脇には「イノベーティブペダルオペレーションモード」をオンにするスイッチが備わる。簡単に言えばワンペダルドライブを可能にするスイッチで、オンにするとアクセルペダルを戻した時の減速Gが大きくなる。ただし、前につんのめったり、同乗者が「おっ」と思ったりするほど減速Gが大きくなるわけではなく、実に穏やかなセッティングだ。このあたりにも、エンジン車から乗り換えても違和感のない、普段使いできる軽EVというキャラクターが表れている。
このモードをオンにすると明らかにアクセルペダルからブレーキペダルに踏み変える頻度が減るから、運転が楽になる。以降、ずっとオンのままで試乗を続けた。
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「i-MiEV」からの乗り換えオーナーも
もうひとつ軽自動車っぽくないと感じる理由があって、それは乗り心地がしっとりとしていることだ。これは、床下に重量物となるバッテリーを敷き詰めた構造により、重心が低くなることに起因すると思われる。
また、こうした構造を採りながらもフロアに凸凹が生まれることはなく、少なくとも目視ではエンジン仕様と室内の広さや使い勝手に差はない。これは、ベースとなるガソリン車の企画段階からEV化を想定していたからだろう。
EVの歴史を振り返れば、三菱は2009年に世界初の量産EVとして「三菱i-MiEV」の生産を開始。翌2010年には「日産リーフ」が続いた。三菱i-MiEVはプジョーやシトロエンのエンブレムを付けてヨーロッパでも販売されたし、日産リーフはグローバルで累計50万以上を販売している。
つまり世界的なEVのパイオニアがタッグを組んだということで、三菱eKクロスEVの完成度の高さも納得できる。おそらく、10年以上にわたるEVの生産・販売、それにメンテナンスや下取り車の分析によって、バッテリーの劣化などに関するデータも蓄積されているはずだ。
850台という月販目標台数に対し、2022年5月20日の発表から1カ月半で、すでに4500台以上を受注。三菱は生産が追いつかないといううれしい悲鳴を上げている。これだけの受注があった理由のひとつがi-MiEVからの乗り換え需要で、みなさん新しい軽EVの登場を待っていたのだ。
一度EVに乗ったらエンジン車には戻れないという気持ちはよ~くわかるし、冒頭に記したような使い方だったら、ガソリンスタンドに行かなくていいというメリットも生まれる。率直に言って、先駆者のi-MiEVは商業的な成功を収めることはできなかったけれど、今度こそEVの波に乗れるかもしれない。
(文=サトータケシ/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
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テスト車のデータ
三菱eKクロスEV P
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=3395×1475×1670mm
ホイールベース:2495mm
車重:1080kg
駆動方式:FWD
モーター:交流同期電動機
最高出力:64PS(47kW)/2302-1万0455rpm
最大トルク:195N・m(19.9kgf・m)/0-2302rpm
タイヤ:(前)165/55R15 75V/(後)165/55R15 75V(ブリヂストン・エコピアEP150)
一充電走行距離:180km(WLTCモード)
交流電力量消費率:124Wh/km(WLTCモード)
価格:293万2600円/テスト車=326万2600円
オプション装備:ボディーカラー<ミストブルーパール/カッパーメタリック>(8万2500円)/先進安全快適パッケージ<デジタルルームミラー+マルチアラウンドモニター[移動物検知機能付き]+マイパイロットパーキング+マイパイロット+ステアリングスイッチ>(16万5000円)/プレミアムインテリアパッケージ<内装色[ライトグレー]+シート生地[合成皮革+ファブリック]>(5万5000円)/ルーフレール(2万7500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1047km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
参考電力消費率:--km/kWh

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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