国産自動車メーカーのBEV戦略で最も順調なのはどこだ?
2024.02.21 デイリーコラム国内メーカーの現状と今後
編集部から言い渡された今回のコラムのお題は「国産自動車メーカーの電気自動車(BEV)戦略で最も順調なのはどこだ?」。答えは迷うことなく日産に決まっている。なぜなら……という話は後回しにして、まずは国内各メーカーの現状(国内販売車種&販売台数)とその方向性を見てみよう。
【トヨタ&レクサス】
- 販売車種:「トヨタC+pod」「トヨタbZ4X」「レクサスUX300e」「レクサスRZ」
- 2023年のBEV国内販売台数:2929台(登録車2546台+軽自動車383台)
- 現状と今後の展望:生産台数で世界最大の自動車メーカーであるが、BEVに関しては控えめ。今後、トヨタはグローバルで2026年までに10車種のBEVを投入予定で、年間販売台数を150万台まで増やす計画。レクサスは2035年に新車販売車種のすべてをBEVとする予定。国内は2024年に軽商用車のBEVを発売して足元を固めていく見込みとなっている。ちなみにグローバルでの2023年のBEV販売台数は10万4018台。
【日産】
- 販売車種:「リーフ」「サクラ」「アリア」
- 2023年のBEV国内販売台数:5万4800台(登録車1万7660台+軽自動車3万7140台)
- 現状と今後の展望:リーフとアリアをグローバルで展開し、国内は軽自動車のサクラがBEV戦略を担う。中国では現地ブランドの「ヴェヌーシア」を中心にBEVを展開している。2030年までにグローバルでBEVを19車種発売予定。
【ホンダ】
- 販売車種:「ホンダe」
- 2023年のBEV国内販売台数:286台
- 現状&今後の展望:同社初の量産BEVとなったホンダeの生産は終了したが、それ以外にもグローバルでは現時点で3車種(外観やネーミング違いなので実質的には1車種)のBEVを展開。日本ではこの春、商用軽のBEV(「N-VAN」のBEVモデル)を発売し、2025年には「N-ONE」ベースの軽BEVを、2026年には小型BEVを2モデル発売予定だ。北米では2024年に、ホンダブランドとアキュラブランドからGMと共同開発の大型SUVを投入。2030年までにBEVと燃料電池車(FCEV)の販売台数を年間200万台にまで増やす予定。その後2040年にはBEV/FCEVの販売比率を100%とする計画となっている。
スズキとダイハツの軽商用BEVはどうなる?
【マツダ】
- 販売車種:「MX-30 EVモデル」
- 2023年のBEV国内販売台数:19台
- 現状&今後の展望:「BEVのトップランナーにはならない」と公言し、BEVを本格的に投入していくのは2028年以降の計画。MX-30に続くBEVは……なかなか見えてこない。しばらくはプラグインハイブリッド車(PHEV)中心の、現実を直視した対応でいくようだ。
【スバル】
- 販売車種:「ソルテラ」
- 2023年のBEV国内販売台数:632台
- 現状&今後の展望:現時点での展開はトヨタと共同開発したソルテラのみ。2026年末までにはソルテラに加えて3車種のBEVを投入予定。スバルによると「走りにおいてもスバルらしいBEV」になるというから楽しみだ。
【スズキ】
- 販売車種:なし
- 2023年のBEV国内販売台数:0台
- 現状&今後の展望:2024年春にトヨタやダイハツと共同開発となる軽商用車のBEVを発売する予定……ではあるが、諸事情によりやや不透明な状況。その後もトヨタと共同開発の小型SUVなどが計画されている。
【ダイハツ】
- 販売車種:なし
- 2023年のBEV国内販売台数:0台
- 現状&今後の展望:現時点では市販モデルなし。2024年春にトヨタやスズキと共同開発した軽商用車のBEVを発売する予定(とされていた)だが、果たして……?
【三菱】
- 販売車種:「eKクロスEV」「ミニキャブEV」
- 2023年のBEV国内販売台数:9793台
- 現状&今後の展望:2009年に世界初の量産型BEVとして「i-MiEV」を発売した、BEVのパイオニアともいえるメーカー。ただし現在では登録車はPHEV戦略にシフトし、BEVは軽自動車だけで展開している。そのテクノロジーを活用した軽商用車の「ミニキャブi-MiEV」は2023年11月に大幅改良を施し「ミニキャブEV」へ改名された。この先も短期的に見ればBEVは軽自動車中心に進めると思われる。
台数だけではない日産の強み
というわけで、国内メーカーでは日産が最も順調だといえる理由。それはまずラインナップである。
国内展開を見ると、トヨタはレクサスと合計すれば車種が多いけど、内訳はトヨタ2車種+レクサス2車種と、ブランドで分けると日産に数で負けている。
しかも注目すべきは、日産が勝るのは車種数だけではないこと。フォローできるユーザーの層だ。日産は比較的安価な軽自動車のサクラ、Cセグメントハッチバックのリーフ、そして上級SUVのアリアと点ではなく面でBEVをそろえて幅広いユーザー層をフォローできる体制を整えている。そこがトヨタとの大きな違いだ。
そして販売台数。とにかくサクラが稼いだ。日産が2023年に販売したBEVのうち半分以上がサクラであり、国内戦略は大成功といっていいだろう。
実はグローバルで見ても、10万4018台のトヨタに対して日産は12万6848台でリードしている。というわけで、最も順調なのは日産なのだ。
しかも日産のすごさは車種ラインナップや台数だけではない。
BEVユーザーの多くは気づいているだろうけれど、急速充電器がすごい。全国の日産ディーラーに用意された急速充電器は約1900基で、これは日本にあるすべての急速充電器の4分の1ほどにもなる数。BEV乗りの間では「困ったら日産ディーラーへ行け」とも言われているほどで、単にBEVを売るだけでなく、ユーザーのフォローもしっかりしているのが日産の立派なところである。
しかも日産ディーラーにあるほとんどの急速充電器は営業時間外も使える場所にあり、基本的に他メーカーのBEVで乗りつけても使えるようにしているのだからさすが(単純に稼働が多いほうが収益を改善できるという面もある)。
というわけで、あくまで現時点での話ではあるものの、国内メーカーのなかでBEV戦略が最もうまくいっているのは日産。国内でもトヨタの18倍以上のBEVを販売しているってちょっとすごい。
日産はハイブリッド戦略でも「e-POWER」で足元を固めつつあるから、同社にあと足りないのはPHEVか?
(文=工藤貴宏/写真=トヨタ自動車、日産自動車、本田技研工業、マツダ、スバル、スズキ、ダイハツ工業、三菱自動車/編集=藤沢 勝)
拡大 |

工藤 貴宏
物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。
-
EUが2035年のエンジン車禁止を撤回 聞こえてくる「これまでの苦労はいったい何?」NEW 2025.12.19 欧州連合(EU)欧州委員会が、2035年からのEU域内におけるエンジン車の原則販売禁止計画を撤回。EUの完全BEVシフト崩壊の背景には、何があったのか。欧州自動車メーカーの動きや市場の反応を交えて、イタリアから大矢アキオが報告する。
-
次期型はあるんですか? 「三菱デリカD:5」の未来を開発責任者に聞いた 2025.12.18 デビューから19年がたとうとしている「三菱デリカD:5」が、またしても一部改良。三菱のご長寿モデルは、このまま延命措置を繰り返してフェードアウトしていくのか? それともちゃんと次期型は存在するのか? 開発責任者に話を聞いた。
-
人気なのになぜ? 「アルピーヌA110」が生産終了になる不思議 2025.12.17 現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。
-
GRとレクサスから同時発表! なぜトヨタは今、スーパースポーツモデルをつくるのか? 2025.12.15 2027年の発売に先駆けて、スーパースポーツ「GR GT」「GR GT3」「レクサスLFAコンセプト」を同時発表したトヨタ。なぜこのタイミングでこれらの高性能車を開発するのか? その事情や背景を考察する。
-
高齢者だって運転を続けたい! ボルボが語る「ヘルシーなモービルライフ」のすゝめ 2025.12.12 日本でもスウェーデンでも大きな問題となって久しい、シニアドライバーによる交通事故。高齢者の移動の権利を守り、誰もが安心して過ごせる交通社会を実現するにはどうすればよいのか? 長年、ボルボで安全技術の開発に携わってきた第一人者が語る。
-
NEW
次期型はあるんですか? 「三菱デリカD:5」の未来を開発責任者に聞いた
2025.12.18デイリーコラムデビューから19年がたとうとしている「三菱デリカD:5」が、またしても一部改良。三菱のご長寿モデルは、このまま延命措置を繰り返してフェードアウトしていくのか? それともちゃんと次期型は存在するのか? 開発責任者に話を聞いた。 -
NEW
フォルクスワーゲンID. Buzzプロ ロングホイールベース(前編)
2025.12.18あの多田哲哉の自動車放談現在の自動車界では珍しい、100%電動ミニバン「フォルクスワーゲンID. Buzz」。トヨタでさまざまな車両を開発してきた多田哲哉さんが、実車に初めて試乗した感想は? -
NEW
第941回:イタルデザインが米企業の傘下に! トリノ激動の一年を振り返る
2025.12.18マッキナ あらモーダ!デザイン開発会社のイタルデザインが、米IT企業の傘下に! 歴史ある企業やブランドの売却・買収に、フィアットによるミラフィオーリの改修開始と、2025年も大いに揺れ動いたトリノ。“自動車の街”の今と未来を、イタリア在住の大矢アキオが語る。 -
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】
2025.12.17試乗記「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。 -
人気なのになぜ? 「アルピーヌA110」が生産終了になる不思議
2025.12.17デイリーコラム現行型「アルピーヌA110」のモデルライフが間もなく終わる。(比較的)手ごろな価格やあつかいやすいサイズ&パワーなどで愛され、このカテゴリーとして人気の部類に入るはずだが、生産が終わってしまうのはなぜだろうか。 -
第96回:レクサスとセンチュリー(後編) ―レクサスよどこへ行く!? 6輪ミニバンと走る通天閣が示した未来―
2025.12.17カーデザイン曼荼羅業界をあっと言わせた、トヨタの新たな5ブランド戦略。しかし、センチュリーがブランドに“格上げ”されたとなると、気になるのが既存のプレミアムブランドであるレクサスの今後だ。新時代のレクサスに課せられた使命を、カーデザインの識者と考えた。







































