第771回:レンタカー料金暴騰! 「フィアット・パンダ」でも1日◯万円の衝撃
2022.08.25 マッキナ あらモーダ!ひと桁増えていた!
筆者はレンタカーが大好きである。東京の大学生時代は「トヨタ・マークII」「ホンダ・シティ カブリオレ」そして「日産バネット」など次々と借りては、クルマの世界の広さを知った。イタリアに住んでからは、フォード、オペル、ヒュンダイ(現ヒョンデ)といった日本未導入車を楽しむことができた。
そのレンタカー、かなりご無沙汰していることに気づいた。理由は言うまでもない。イタリアをはじめ欧州で2022年春まで施行されていた、新型コロナウイルスに関するさまざまな政令のためだ。旅行する頻度が明らかに減ってしまっていたのだ。
かわって2022年夏、欧州は2019年以来3年ぶりに、ほぼ通常のバカンスのシーズンを迎えることができた。そこで筆者は、たまにはレンタカーを借りてみるか、と思い立った。たとえ遠出でなくてもレンタカーは日常生活に変化をもたらす。また、次期自家用車選びの参考にもなる。ちなみに、わが街シエナには、カーシェアリングを提供している業者はいまだ存在しない。
多くの読者もご存じのとおり、レンタカーの予約は、クラスによる指定であり、原則として車種は選べない。しかしながら営業所によっては、数日前に電話すれば、ある程度の融通が利く。
早速ある欧州系レンタカー会社のウェブサイトにアクセスしてみた。試しに2022年8月下旬の木曜日借り出し・土曜日返却、すなわち2日間(48時間)で入力してみた。
結果を見て、思わず息をのんだ。たとえ「フィアット・パンダ」もしくは同等のクラスでも料金は109.53ユーロである。円安ということもあるが、邦貨換算(1ユーロ=137円)で1万5000円を超えてしまう。そこに3種類ある免責補償制度で最も充実している81.01ユーロ(約1万1000円)のプランを加えると、合計190.54ユーロ、軽く2万6000円を超える。こう言ってはなんだが、パンダでこの値段である。上級クラスの車両など、とても借りられない。
参考までに2017年秋、パリでほぼ同クラスの車両を予約したときの料金は、2日間でたった57.95ユーロだった。営業所の違い・日数・無料走行距離など各種条件は異なるものの、当時からすると現在の料金は約1.9倍ということになる。レンタカーといえば、ふた桁ユーロで借りられるのは、過去の話になっている。
その1年前、2016年8月の本欄第462回で記したドイツでの「ヒュンダイi20」は、133.79ユーロで4日間も借りていたことがわかる。
値上がり現象がイタリアだけだといけないので、念のためパリ・シャルル・ド・ゴール空港発着で、ほぼ同様の条件を入力して検索してみると、「フィアット500」と同等クラスが169.38ユーロ(約2万3700円)である。
本当にこうした料金になっているのか? 実際に営業所に行って確認してみることにした。
値上げの背景
1軒目は、欧州系大手レンタカー会社の営業所である。この店の場合、店頭払いで最高の免責補償にすると、フィアット・パンダでも48時間で202.59ユーロ(約2万7800円)に達する。やはり高い。
「ずいぶんと値上がりしましたね」と筆者が話すと、カウンターにいた担当者は申し訳なさそうに、こう説明した。
「折からの半導体不足で、車両のデリバリーが少ないのです。いっぽうレンタカーは定期的に新車を仕入れて使用しなければなりません。そうしたなか、新車の仕入れ価格が高騰しているのです」
需給の法則でクルマが値上がりし、それを1台あたりのレンタル料金に転嫁せざるを得ないというわけだ。
2軒目に訪ねたのは、ある米国系レンタカー会社の営業所である。こちらではパンダの1日料金+最低の免責補償付きで聞いてみた。すると123.84ユーロ(約1万7000円)という。1日でも3桁ユーロは避けられない。料金高騰の理由を聞くと、この店のスタッフも丁寧に説明してくれた。
車両仕入れ価格の高騰もあるが、彼らの場合「イタリア国内における電気、ガスといった光熱費、さらに石油の急激な値上がりを転嫁せざるを得ないこと」を第一に挙げた。
ここからは筆者の推測であるが、過去2年半の新型コロナウイルス規制から解放された2022年夏の欧州は、空前の旅行ブームである。農業者団体コルディレッティの発表によれば、外国人旅行者の数は前年同期比で3.16倍に達した。したがって、料金を値上げしても、ある程度の顧客を確保できるという強気の観測も、レンタカー各社の価格設定に反映されているに違いない。
実際、2軒目のレンタカー営業所にいたスタッフは、筆者の目的をよく理解したようで、「ハイシーズンが過ぎて10月以降になったら、もう少し安くなると思われます」と親切に教えてくれた。
高騰の反動
とはいっても、2022年はレンタカー旅行者が、2019年以前より少なく感じられる。イタリアでは、日本の「わ」ナンバーのように一発でレンタカーと判別できる目印がない。代わりにレンタカーであることを判別できるのは、フューエルリッドの「DIESEL」ステッカーだ。
燃料入れ間違い防止のためである。そのステッカー付きのクルマを見かけることが2022年夏は明らかに少ないのだ。それは、筆者が住まいの近隣にあるホテルの宿泊客用駐車場を観察していると如実にわかる。
代わりに、フランス、ドイツといった近隣国のナンバーだけでなく、2022年はギリシャ、セルビアといった遠い国々のナンバーをたびたび見かける。たとえ母国から運転する距離が長くても、レンタカーを借りるより総合的にみれば得、という考えが働くのだろう。
そうした旅行者の志向は、筆者が知る複数のホテルやアグリトゥリズモ(農園民宿)経営者の話からもうかがえる。彼らが異口同音に指摘するのは、「2022年のお客さまは、宿泊日数が短い」ということだ。たとえ夏休み日数が従来と同じでも、自家用車移動の場合、飛行機移動などよりも往復の旅程に多く日数を割く必要がある。こうしたことからも、レンタカーではなく自家用車での移動が増えていることが想像できる。
というわけでわが家にとって久々のレンタカー体験は当分お預けとなってしまった。
だが筆者としては、外国人ドライバーにはレンタカーではなく、自分のクルマでイタリアに来てくれるほうがありがたい。彼らの多くは土地勘がないのに加えて、イタリアは道路標識が極めてわかりにくい。だからロータリーや分岐に差し掛かると、「あっ、こっちじゃなかった」といった具合で、危険な進路変更をしてくる場合が少なくない。そうしたなか、イタリアのナンバーが付いたレンタカーよりも、外国ナンバーのクルマのほうが、後続する筆者は「このクルマ、予期せぬ動きをする場合があるな」と、より早く身構えられるのである。
そういう筆者も、四半世紀前イタリアで運転をし始めた頃は、他車からホーンや怒声を浴びせられっぱなしだった。そうした時代を忘れ、わが街にやってきた外国人観光客が運転するクルマに「あっぶねーなー」などとつぶやいてしまうのは、己の浅はかさ以外の何者でもない。
(文と写真=大矢アキオ<Akio Lorenzo OYA>/編集=櫻井健一)

大矢 アキオ
Akio Lorenzo OYA 在イタリアジャーナリスト/コラムニスト。日本の音大でバイオリンを専攻、大学院で芸術学、イタリアの大学院で文化史を修める。日本を代表するイタリア文化コメンテーターとしてシエナに在住。NHKのイタリア語およびフランス語テキストや、デザイン誌等で執筆活動を展開。NHK『ラジオ深夜便』では、24年間にわたってリポーターを務めている。『ザ・スピリット・オブ・ランボルギーニ』(光人社)、『メトロとトランでパリめぐり』(コスミック出版)など著書・訳書多数。近著は『シトロエン2CV、DSを手掛けた自動車デザイナー ベルトーニのデザイン活動の軌跡』(三樹書房)。イタリア自動車歴史協会会員。
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