ホンダNSXタイプS(4WD/9AT)
現役感バリバリ 2022.10.04 試乗記 2022年12月に生産を終了する第2世代の「ホンダNSX」。ファイナルバージョンとして登場した「タイプS」は、全世界で350台が販売され、日本への割り当ては30台のみという最終進化形だ。果たしてその走りは、最後の花道を飾るにふさわしいものなのか。世界350台のうち日本向けは30台
タイプSは第2世代NSXの最終進化モデルである。2022年モデルとして生産されるタイプSは、全生産台数350台をアメリカ、カナダ、日本で販売した。この原稿を書いている2022年10月現在も、2022年末までとされるNSXの生産は続いているはずだが、“販売した”という過去形を使ったのは、日本向け30台も含めてすべての受注が終了しているからだ。
2022年モデルのNSXに標準型は存在せず、同年モデルとして生産されるのはすべてタイプSだそうである。つまり、欧州を含めたタイプSを導入しない地域では、NSXの販売は2021年モデルをもって終了している。
その総生産台数は、最終的に6年半で3000台弱になるそうだ。2016年に年間1500台ほどの計画でスタートしたことから考えると、第2世代NSXは、ビジネス的に成功とはいえなかった。
試乗車の車体色は、タイプSの代名詞ともいうべき専用の「カーボンマットグレー・メタリック」だった。同カラーは世界350台のうち70台、日本向けは30台のうち10台のタイプSに塗られるそうだ。
標準NSXに対するタイプSの特徴は次のとおりだ。冷却性能と安定性を増したエアロパーツの採用。(ガソリンパティキュレートフィルターを必要とする)欧州仕様に使われていた高耐熱型小径タービンや高密度インタークーラーにより出力が22PS、トルクが50N・m向上したエンジン。新開発の「ピレリPゼロ」タイヤ(サイズは標準のコンチネンタル製と同様)と、インセット変更で前10mm、後20mmワイドトレッド化したホイール。車体の動きをおさえるべくリセッティングされた可変ダンパー。使える出力と容量を向上させたバッテリー制御。20%ローギアード化して瞬発力と駆動力を高めたフロントモーター。そして、ダッシュボードとシート表皮に専用刺しゅうが施される。
その改良点は微に入り細をうがつが、大物コンポーネントには手はつけられていない。
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フィードバックが高解像度化
マットカラーによる不敵なたたずまいに緊張して走りだしたタイプSだが、クルマを引き取った東京は青山本社付近の市街地をはいずるかぎり、高級サルーンばりに快適な乗り心地は標準NSXと大きくは変わらない。バッテリー制御の改良によってEV走行領域は広がっており、40~50km/hの市街地では無音のまま走るシーンが多いが、そんなときのタイプSはとにかく静かで快適だ。
ちなみに、NSXはフロントに2個、リアに1個の計3個のモーターを搭載するハイブリッドだが、リアモーターはエンジンと変速機の間に直結されて駆動アシストや回生(そして変速ショック低減)に徹する。よって、エンジンを止めたEV走行中は前輪駆動である。
市街地から首都高速に上がり、そのまま東名高速に乗り入れると、タイプSの効能がじわじわと実感できるようになる。速度を増すにつれて締まる可変ダンパー、あるいはエアロパーツやピレリタイヤの効果なのか、高速でのタイプSはダイナミックモード(=走行モード)を標準にあたる「クワイエット」や「スポーツ」にしても、標準NSXより、身のこなしが俊敏かつ正確になっている。そして、ステアリングやシートから伝わるフィードバックが、標準型よりも高解像度になっているのは明らかだ。
そのまま箱根のワインディングに踏みこんでも、快適なイージードライブ感覚が損なわれないのはNSXらしい。これほどの高性能ミドシップスーパーカーながら、荷重移動をことさら意識する必要もない。フロント駆動力だけでなく4WDの応答性も高めたタイプSは、連続するタイトコーナーを、ステアリング操作だけでこれまで以上にスイスイと片づけていく。とにかく軽快な身のこなしとホンダらしい開放感のある視界の相乗効果で、まるでコンパクトカーに乗っていると錯覚しそうになる。
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熟成感がただよう調律
そこからさらにペースを上げると、標準のクワイエット/スポーツモードではあおられるような上下動が気になりはじめる。そこでダイナミックモードを「スポーツ+」に切り替えると、乗り心地は明確に引き締まるとともに、エンジン音も高まってアクセル反応や変速スピードも向上する。同時に上屋の上下動もピタリとおさまり、まさに水を得た魚のような走りを披露する。
タイプSではフロントの左右独立モーターによるトルクベクタリング制御もさらに強まっているという。なるほど、ステアリングレスポンスは従来型より鋭く、まるでノーズがクリッピングポイントに引きずり込まれるように猛烈に曲がる。ただ、2016年のデビュー初期のように、いかにもトルクベクタリング感の強いウニウニとした不自然な回頭性ではなく、あくまで“自分の運転がうまくなった?”と思わせる調律には熟成感がただよう。
今回はシステム出力で600PS超の大台=610PSに乗せたパワートレインも売りだが、この程度(?)ではNSXの盤石の操縦安定性はビクともしない……のが正直なところだ。トップエンドで奏でられるハイトーンのホンダミュージックも、あくまで軽快で心地よく、まだまだ余裕しゃくしゃくに思える。
こうして、いよいよ興が乗ってくると、ついダイナミックモードのダイヤルに手が伸びて、さらに上の「トラック」モードを試したくなるのが人情だ。従来型であれば、トラックモードにするとすべてのレスポンスがさらに増して、ステアリングを握る筆者はさらにテンションアップ必至。同時に横滑り防止装置(ホンダでは「VSA」と呼ぶ)がカットされるから注意は必要だが、いかなる場合も適切にフロントけん引するトルクベクタリング4WDのおかげで安心感はすこぶる高い。
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まだまだ進化の余地がある
ところが、トラックモードにしたタイプSは、ワインディングではどうにもさえない。ブレーキも一瞬“フェードした?”と思うくらいに初期の利きが鈍くなったのだが、筆者が少しばかり気張った程度で、カーボンセラミックブレーキがフェードするはずもない。これは電動ブースターによる回生協調ブレーキの制御が明らかに変わったためだ。同モードでは、パワステは明らかに重く、サスペンションはさらに硬く、ただステアリングを切っただけではターンインも明らかに鈍い。
それでもクルマが無粋に跳ねないのは大したものだが、ペダルを思いっきり蹴っ飛ばしてフロント荷重にしないと、思うように曲がってくれない。そんなトラックモードは、それ以外よりも肉体的な負担が明らかに大きく、路面ミューも走行ペースも低い公道のワインディングコースでは、どうにも留飲は下がらない。
タイプS最大の特徴はここにある。住宅街では静かなクワイエット、市街地や高速などの日常域ではスポーツ、ワインディングではスポーツ+、そしてよりタフな走りになったトラックは完全にクローズドサーキット専用……と、各モードのちがいが際立って、各シーンでモード選びに迷うことはいっさいない。最新のデジタルダイナミクス制御はここまでできる……という格好のサンプルを、この最後の第2世代NSXは見せてくれている。
となると“電子制御だけでも、まだまだ進化の余地があるのでは?”と思ってしまうのが本音だし、まだまだ余裕のありそうなエンジンもさらにパワーを絞り出すこともできそうだ。しかし、いまだ緊急自動ブレーキもアダプティブクルーズコントロールもつかない第2世代NSXの生産を中長期で続けるには、かなりの大規模改修が必要だろう。“経営の効率化”を託された八郷隆弘前社長が、自身の最後の仕事として批判覚悟で切った不採算部門が、F1活動であり、NSXだったということだ。そんな現実は理解しつつも、これだけ現役感バリバリの走りを見せられると、やっぱりもったいないなあ。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ホンダNSXタイプS
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4535×1940×1215mm
ホイールベース:2630mm
車重:1770kg
駆動方式:4WD
エンジン:3.5リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:9段AT
エンジン最高出力:529PS(389kW)/6500-6850rpm
エンジン最大トルク:600N・m(61.2kgf・m)/2300-6000rpm
フロントモーター最高出力:37PS(27kW)/4000rpm(1基あたり)
フロントモーター最大トルク:73N・m(7.4kgf・m)/0-2000rpm(1基あたり)
リアモーター最高出力:48PS(35kW)/3000rpm
リアモーター最大トルク:148N・m(15.1kgf・m)/500-2000rpm
システム最高出力:610PS(449kW)
システム最大トルク:667N・m(68.0kgf・m)
タイヤ:(前)245/35ZR19 93Y/(後)305/30ZR20 103Y(ピレリPゼロ)
燃費:10.6km/リッター(WLTCモード)
価格:2794万円/テスト車=3100万3500円
オプション装備:ボディーカラー<カーボンマットグレー・メタリック>(69万3000円)/専用鍛造アルミホイール<ベルリナブラック>(16万5000円)/カーボンファイバーエンジンカバー(41万8000円)/カーボンファイバーインテリアスポーツパッケージ(35万2000円)/カーボンセラミックローター<レッドキャリパー>(123万2000円) ※以下、販売店オプション フロアカーペット&トランクマット(17万6000円)/ドライブレコーダー<DRH-197SM>(2万7500円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4331km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(1)/高速道路(6)/山岳路(3)
テスト距離:666.4km
使用燃料:84.4リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.8km/リッター(満タン法)/8.2km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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