第245回:祇園精舎の鐘の声、諸行無常の響きあり
2022.11.14 カーマニア人間国宝への道2代目「NSX」の最終進化版は「タイプS」
担当サクライ君より、淡々とメールが届いた。
「新型『Z』か『NSXタイプS』をご用意できますが、試乗、いかがなさいますか」
新型Zは乗れたばかりだったので、「NSXタイプSでお願い!」と返信してから、ふと考えた。
そういえば1年くらい前、NSXタイプSに試乗した覚えがあるが、あれは初代の最終モデルだった。2代目にもタイプSって出たのだろうか?
いや、たぶん出たんだろう。「タイプR」じゃなくてタイプSが。タイプRが出れば自動車メディア界は大騒ぎになったはずだけど、タイプSだから大騒ぎにならず、私の耳まで届いていないのだ、たぶん。
そのように勝手に納得して日々穏やかに過ごすうちに、当日の夜になった。
「到着しました」というサクライ君からのメッセージで表に出ると、そこにはつや消しのシルバー「カーボンマットグレー・メタリック」の2代目NSXが止まっていた。
オレ:いつのまに! ぜんぜん音がしなかったよ!
サクライ:はい。住宅街ですので、少し手前から「クワイエット」モードで走ってきました。
オレ:そういえばあったなぁ、クワイエットモード。で、これはタイプSなのね?
サクライ:はい。最終限定モデルです。
えっ、そうだったんだ! これが最後の2代目NSXだったのかぁ。しんみり。
私は2代目NSXタイプSの運転席に座り、クワイエットモードでソロリと走りだした。当たり前だがクワイエットである。間もなくバッテリーが切れ、デフォルトである「スポーツ」モードに切り替わった。
オレ:よくできたクルマだね。
サクライ:よくできてます。
オレ:なんでこんなに盛り上がらなかったんだろうね。
サクライ:なぜでしょう。
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V6ハイブリッドの加速に酔いしれる
2代目NSXは、なぜこんなに不人気のまま終わったのか。新型Zがあれほどの争奪戦になっているのに。「GT-R」だって最後は2420万円までいきながら、すさまじい争奪戦になったのに。
オレ:やっぱりこのカッコかね。
サクライ:それはあるでしょう。
オレ:最初は、フロントグリルのメッキが絶望的にイカンと思ったけど、途中でメッキがなくなっても、やっぱり盛り上がらなかったなぁ。
サクライ:メッキの問題じゃなかったんですね。
2代目NSXは、ごくごくまっとうなミドシップのスーパーカールック。ごくごくまっとうなのに、まったく心に刺さらなかったのだから不思議だ。
2代目タイプSは首都高に乗り入れ、カイテキに巡行する。足が締め上げられたというタイプSでも実にカイテキだ。ちょっと走行モードを変更してみよう。
まず「スポーツプラス」モードに。サウンドが少し大きくなった。さらにツマミを回しっぱなしにして数秒後。突如2代目が「バオオオオオオ~~~~ン!」とどう猛なほえ声を上げた。
オレ:うわあ! なんかすごい音がするぅ!
サクライ:これが「トラック」モードです。
そのままアクセルを床まで踏み込むと、2代目タイプSはすさまじい咆哮(ほうこう)ととともに、ロケットのように加速した。すげえっ! 2代目ってこんなにすごかったんだ! タイプSだからなのかどうかよくわかんないけど、とにかくすげえっ! これだけすごいクルマが全然盛り上がらなかったのが、とっても不思議に感じられるぅ!
オレ:わかった! もうひとつ理由があるとすれば、タイプRが出なかったことだ!
サクライ:かもしれません。
そのような結論が出たところで、辰巳PAに到着した。
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なんと初代「タイプR」オーナーさまに遭遇
われわれが2代目タイプSから降り、写真を撮っていると、メルセデスの中年男性が猛然と近づいてきて、タイプSにかぶりついた。
男性:まさかタイプSに会えるとは思いませんでした。
オレ:詳しいですねー。わかるんですか?
男性:わかりますよ、エアロで。タイプRオーナーですし。
オレ:ええええええ~~~~~っ!
この男性がタイプRオーナー。あの、想像を絶する高値がついているらしき初代NSXタイプRのオーナーさまとはっ! まさかそんな雲上人と辰巳PAで出会えるなんて、なんという幸運だろう。
男性:2代目も、タイプRが出たら買うつもりだったんですけど、出ませんでした。
オレ:そそそそ、そーなんですか! 2代目の不人気の原因は、やっぱりタイプRの不在?
男性:あとは、値段が高すぎたんじゃないですか。最初に1800(万円)くらいで出していれば、違ったと思います。乗ればピカイチですから。
そうなのか……。とにかく初代タイプRオーナーさまも、ついに2代目に手を出すことはなかったわけだ。
2代目NSXには何かが足りなかった。でも、世の中にはそういう例は山ほどある。失敗があるから成功がある。山があれば谷がある。男がいれば女がいる。生まれたら必ず死ぬ。そんな感じですべてを受け入れよう。しみじみ。
(文=清水草一/写真=清水草一、webCG/編集=櫻井健一)
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清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。