日産セレナe-POWERルキシオン プロトタイプ(FF)
進化は静かに大胆に 2022.11.28 試乗記 フルモデルチェンジした日産のMクラスミニバン「セレナ」のプロトタイプに試乗。個性的な顔つきや「e-POWER」専用となる新開発エンジンの採用、進化した運転支援システムなどトピックが盛りだくさんの6代目モデルは、どのように仕上がっていたのか。気合の入ったフルモデルチェンジ
内外ほとんどすべてのメーカーから次々と新型車が発売され、世界中で市民権を得たと紹介しても過言ではないのがSUVと呼ばれるモデルだ。大径シューズを履いた高床式の構造となれば、それは床下に大量の駆動用バッテリーをレイアウトしたいピュアEVとのマッチングも抜群。まさに時代の要請にも合致したと考えられる形態である。加えてデザインの自由度が高く利幅も大きいとなれば、メーカー側もますます力を入れたくなるのは当然の成り行きだろう。
かくして、わが世の春を謳歌(おうか)しているように思えるSUVに対して、主たるマーケットは日本に限られ、キャビン空間の大きさこそが重要でフロア位置もできるだけ下げたい……といった要求に迫られるミニバンは、見方によっては前出のSUVとは正反対と受け取れるしがらみもつきまとう。それでも「日本でのコアモデルであり、販売・ブランドの両面から自らの事業を支えている」と訴えるのが日産だ。
なかでもミニバン内のシェアのおよそ50%を占めるのがMクラスとセグメントされるモデルで、さらにそこで常にトップの座を争い続けるのがセレナである。実際、このモデルは日産車の国内販売構成比のおよそ15%をコンスタントに占める実績を記録しているというから、モデルチェンジに際して気合の入った開発が行われるのも当然だろう。
ということで、ガソリンモデルが今冬から、e-POWER車は来春から販売開始と発表されたのが新型セレナである。そのルーツは1991年に発売されたフロントシート下にエンジンを搭載するいわゆるキャブオーバー型レイアウトを採用する「バネットセレナ」にまでさかのぼる。パワーパックはCVTと組み合わせた2リッター直4ガソリンエンジンと、e-POWERを呼称するシリーズ式ハイブリッドシステムの改良型という2タイプの存在が明らかにされたが、ふたを開ければ恐らく主役となりそうなのがe-POWER搭載のモデル。今回はそのプロトタイプをクローズドコースでチョイ乗りした。
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スッキリとした未来的なコックピット
全長が4.7m以下で全幅は1.7m以下……2mまでと余裕のある全高を除けば、この2つがいわゆる“5ナンバーサイズ”を決定づける主な要件であることはご存じのとおり。新しいセレナのボディースペックに目をやると、より存在感豊かなスタイリングを目指してベーシックモデルとの差別化を図り、全幅が少しだけ枠をオーバーする一部グレードを除けば、そんな日本固有の決まりごとを意識したボディーの基本サイズを踏襲したことがわかる。
「親しみやすさを感じながらも、より上質でモダンな要素を取り入れた」と紹介されるスタイリングは、横基調のクローム処理が与えられてワイド感が演出された顔つきや外観からのキャビンの広さを連想させるサイドのウィンドウグラフィックが特徴的だ。さらにフラッシュサーフェス化の徹底を図ったといったこだわりも報告されてはいるものの、端的に言って前述のように制約が厳しい寸法の下、可能な限り広大なキャビン空間を捻出しようというスタンスに始まったそのルックスが醸し出す雰囲気は、全般的に従来型から大きくは変わっていないというのが個人的に抱いた印象である。
それでも、フロントマスクの「Vモーション」を筆頭に、フロントドア前方の巨大な三角窓や後端で強くキックアップしたベルトラインなどによって、一見した段階できちんとセレナに見えることも間違いない。巨大なテールゲートを開閉することなく荷物の出し入れが可能なガラスハッチ方式の「デュアルバックドア」を受け継いだ点も見どころのひとつだ。
一方インテリアでまず目を引くのは、現行「ノート」のそれをほうふつさせるドライバー正面にバイザーレスで置かれた液晶メーターと、それと並列で一段手前にシームレスにつなげられたセンターのワイドディスプレイ、そして操作レバーを廃してボタン式となったATセレクターによって実現されたスッキリとして未来的なダッシュボードまわりの造形だ。
シフトバイワイヤの採用でボタン式になったセンターパネル上のATセレクターは、日産初のアイテム。操作に目視が必須である点は賛否が分かれそうだが、考え方によっては誤操作を防止するために有力な方法とも解釈できる。これが市場でどのような評価を受けるのか、興味深くもある。
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圧縮比可変式「VCターボ」不採用の理由は?
メカニズム面で最大のトピックは、日産がe-POWERの名称で展開するシリーズ方式のハイブリッドシステムに組み合わされるエンジンが、完全な新ユニットに刷新されたこと。HR14DDe型と呼称される1.4リッターの直3ガソリンエンジンは最高98PSの出力と最大123N・mのトルクを発生するが、真に注目なのはこのユニットが日産で初めてe-POWER専用に開発されたと紹介できることだ。
多少の高出力化が図られていたとはいえ、旧ノート用のシステムをほぼそのまま流用し、結果、重量が大幅に増したセレナ用としては少々荷が重い印象を受ける場面も少なくなかった従来型e-POWER用エンジンは、1.2リッターだった。それと比較すると、新型のエンジンは排気量が200cc以上アップされ、最高出力で14PS、最大トルクでも20N・mの上乗せ。同時にモーターの最高出力も20%増しとされたことなどもあって、装備の充実などから車両重量が従来モデルよりもやや増えていながらも、動力性能の向上には大きな期待が持てる。
加えて、静粛性が向上したことも新型での見どころのひとつ。ダッシュインシュレーターの高遮音化や吸音材の面積・厚みが増していることなどボディーそのものの遮音性能が高められたのも一例だが、前述のようにエンジンパワーの余裕が増したことで全般にエンジンの回転数を下げることが可能になった点や、ナビ情報をもとにルート上の充放電を先読みするエネルギーマネジメントの新採用でエンジン作動頻度の低減に成功したことなど、そこには多くの要因が挙げられる。
「e-POWERは、ゆとりあるエンジンと組み合わせてこそその真価を発揮できる」というのは、先般新型「エクストレイル」に乗って強く実感したことがらだが、一方で可変圧縮機構を備えた凝ったターボ付きエンジンを搭載するそんなエクストレイルのシステムをそのまま譲り受けなかった点については、「仕向け地が日本のセレナには、150km/hを超えるような超高速で連続クルージングするほどのパフォーマンスは求められなかったことや、コスト面などの要因を考慮して」と、その理由を開発陣から耳にした。
とはいえ、前述のように旧ノート用のシステムをほぼそのままに譲り受けた従来型に比べれば、進化幅は少なくないはず。そんな期待を抱きつつ、いよいよ新型でのテストドライブをスタートした。
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「eペダル」にも進化の形跡
センターパネル上のプッシュボタンでDレンジを選びブレーキペダルをリリース。と、まずはほぼ無音のままピュアEVばりにスルスルとスタートするというのは、日産e-POWER車に共通する走りだしの作法。速度が高まっていくと程なくエンジンが始動してモーターに電力を送り込むのに加勢することになるが、なるほどその回転数の高まりは明確に従来型よりも控えめで、高い静粛性が保たれるという感覚はうたい文句のとおりだ。
ただし、そうした印象は「いつエンジンが始動したのか判別できない」というほどではないのもまた事実で、このあたりは可変圧縮比機構という凝ったメカニズムまで用いたターボ付きエンジンを組み合わせることで低回転から大きなトルクを引き出し、またそうした領域を積極活用することでエンジンの存在感を徹底して排除したエクストレイルの領域にまでは達していないとも思える。
それでも、並のモデルとは一線を画した静かなミニバンの雰囲気を演じるには十分で、この静粛性と駆動力をモーター出力によって得られるシームレスで滑らかな加速の印象は、e-POWER最大の強みであることは間違いない。
走りだした瞬間のトルクの大きさは「フル定員乗車時のぬれた急な登り勾配部分などで、トラクションの能力は足りるのかな?」とちょっと心配になるものではあったが、テストドライブを行った1人乗り状態でのドライで平たんな路面という条件下では、駆動輪の前輪が空転の気配に見舞われるようなことは皆無だった。
これもまたe-POWER車の特徴である「eペダル」使用時の減速Gがちょっと強くなったかな? と感じたが、実際にアクセルオフ時の最大減速Gは従来型の0.15Gから新型では0.2Gへと高められているという。そのココロは「あちこちの下り坂を調査した結果、多くの場所で速度が高まっていかないようにするにはこの程度の回生力が必要と判明したから」とのこと。慣れない人が行いがちな急激なアクセルオフ操作でも減速Gが高まるまでにより自然な間が設けられるなど、これまでの知見を生かしてeペダルにも進化の形跡を見ることができた。
エクストレイル譲りのラックアシスト式パワーステアリングやフロントエンド両サイドに設けられたエアカーテンの採用などで操安性も向上させたというものの、旧テストトラックをイベント用に改修した今回のコースでは、それを実感するのはなかなか難しかったというのが正直なところだ。
そのほか、高速道路走行の特定条件下でハンズオフ機能を実現させたという「プロパイロット2.0」や乗車前エアコンの設定などと話題の多い新型の実力を知るには、あまりに制約が多かった今回のチョイ乗り体験。それでも、強い自信と開発に対する気合の高さが垣間見えた新型セレナである。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
日産セレナe-POWERルキシオン プロトタイプ
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4765×1715×1885mm
ホイールベース:2870mm
車重:1850kg
駆動方式:FF
エンジン:1.4リッター直3 DOHC 12バルブ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:98PS(72kW)/5600rpm
エンジン最大トルク:123N・m(12.5kgf・m)/5600rpm
モーター最高出力:163PS(120kW)/rpm
モーター最大トルク:315N・m(32.1kgf・m)/rpm
タイヤ:(前)205/65R16 95H/(後)205/65R16 95H(ブリヂストン・トランザER33N)
燃費:18.4km/リッター(WLTCモード)
価格:479万8200円/テスト車=--円
オプション装備:--
テスト車の年式:--年型
テスト開始時の走行距離:504km
テスト形態:トラックインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(レギュラーガソリン)
参考燃費:--km/リッター

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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