ホンダ・シビック タイプR(FF/6MT)
ストリートへの回帰 2022.12.13 試乗記 「シビック タイプR」が6代目に生まれ変わった。「NSX」を失った今となっては、ホンダのスポーツイメージを一手に引き受ける新型のデビューだ。その進化のほどをワインディングロードで探ってみた。6代目は日本生産
撮影ロケ地でクルマを受け取り、走りだした途端、思わず笑ってしまった。なんだこの自在感、地ベタ感、ダイレクト感は! その直前まで乗っていたのが「クラウン クロスオーバー」だったという事情もある。いや、新型クラウンもクラウン史上最も“楽しい”クラウンだった。でも、タイプRは次元が違った。授業中の教室に突然、子猫が迷い込んできたようなものである。ぜんぶ持ってっちゃう感じ。
新型シビック タイプRは2007年登場の3代目(FD2)以来、15年ぶりの日本製タイプRである。初のターボエンジンタイプRだった4代目も、先代の5代目も英国ホンダ製で、いずれも「FF車ニュルブルクリンク最速」(5代目はチャレンジかなわず)がこだわりだった。英国工場閉鎖で日本生産に還った6代目は果たしてどこにこだわったのか? 走りだしのファーストタッチで答えをもらったような気がした。
価格は499万7300円。“国産”でも先代モデルより41万円ほど高くなった。試乗車はこれにホンダアクセス開発の純正アクセサリーなど内外装のオプションが64万円あまり載っていた。なかでもハイライトは水平の翼部分だけを替えるドライカーボン製テールゲートスポイラーで27万5000円する。
粘り強いエンジン
先代の2リッターVTECターボをブラッシュアップした新エンジンは、また10PS上がって330PSを発生する。最大トルクも400N・mから420N・mへ微増し、発生回転数帯のトップは500rpm下がった。40㎏増えた車重(1430㎏)に対処した感じだ。
だが“速さ”の印象はかなり異なる。底知れないパワーを感じさせた先代に対して、新型はレスポンスのよさに磨きがかかった。回転が上がるのも下がるのも素早い。最高速よりスプリント能力を高めた印象だ。高回転まで回すと、Aピラーの内側のあたりで聞こえるプォーンという快音も心を震わせる。純エンジン車の独壇場だ。走り始めた途端やられてしまった理由のひとつである。
一方、このエンジンは粘りもスゴイ。街なかでは4速をトップギアとして使うことが多いが、1000rpm以下まで落ちても、踏めば文句ひとつ言わずに立ち上がる。「ジムニー」並みの柔軟性である。というのは盛りすぎにしても、新型は混んだ街なかでも実に走りやすい。
トルクの厚さに支えられた使いやすさは高速道路でも実感した。MT車なのに標準装備のアダプティブクルーズコントロール(ACC)がフツーに実用になるのである。100km/h時の回転数は6速トップで2500rpm。そこでACCをオンにして追従走行しながら、設定速度の上限をチェックしようと手もとのボタンを押して、135km/hであることを確認した。それを忘れてすいた追い越し車線に出たら、6速のまま、瞠目すべき自動加速を見せた。サーキットランで疲れた帰り道などには使えるACCである。
ワンタッチで戦闘態勢に
足まわりも楽しい。乗り心地は先代より硬く、スパルタンになった。とくにドライブモードを “スポーツ”にするとアダプティブダンパーが固められて揺すられるが、剛性感のある揺動だから不快さはない。路面からのバイブレーションがフロアに伝わる乗り味は、「ロータス・エリーゼ」を彷彿させる。
“コンフォート”モードでスタートダッシュを試みると、5000rpm以上のトップエンドでは前輪の抑えが足りなくなり、ダダダダっとジャダーを起こす。ターボ化されて以降のタイプRに共通する性癖だが、新型ではその程度が控えめになった。スポーツモードにするか、“+R”ボタンを押せば、ジャダーは抑え込まれる。
シフトレバーの近くにある“+R”ボタンは、エンジン/ステアリング/サスペンション/レブマッチシステムなどの特性をまとめて最もスポーティーにできるワンタッチのファイティングポーズボタンである。今回から以上のような走行特性を個別に設定できる“インディビジュアル”モードが付いた。
シフトダウン時の回転合わせを自動で行うレブマッチシステムはますます正確になった。トリセツには「変速中、アクセル操作があった場合はそれを優先します」と記されているが、「やれるもんならやってごらん」と裏読みしたくなるほど非の打ちどころのない回転合わせをやってのける。先代よりフライホイールを25%軽量化して、さらに自動ブリッピングの反応を鋭くしたことが効いている。コーナー手前でのシフトダウン時、ドライバーの足はブレーキングだけに集中すればいい。MTの余命もいくばくかだろうが、その前にヒール&トーという古典的テクニックを葬り去るアシスト機構である。
ファミリーカーにも使える
新趣向のひとつはデータロガーである。走行時の車両データをダッシュボードのモニターで一覧できる。その情報を他のタイプRユーザーとスマホでシェアすることもできる。サーキットランナーには有用なアイテムだろう。
だが、3代目ターボタイプRの新型はサーキットに逃げ込まなくても楽しめるタイプRである。「ニュル7分何秒とか言われても……」と正直思った先代モデルの試乗記を筆者は『シビック タイプRよ、どこへ行く?』と締めくくった。その点、新型は公道で走って、いつもの道で走って、より楽しめるタイプRになった。
日本では4ドアセダンのFD2が売られていた2009年に、英国製の3ドアモデルが「シビック タイプRユーロ」として少数輸入された。小気味よいレスポンスと動的なコンパクトさが魅力だった2リッターNAのお取り寄せタイプRに今度の新型はテイストが似ていると思った。
ショッキングレッドと呼びたくなるような表皮の前席シートは、ホールドとコンフォートを両立させたすばらしいスポーツシートである。リアシートの居住性もないがしろにされていない。開口部の大きい、たっぷりした荷室は先々代からの伝統だ。ぎり、ファミリーカーとしても使えるクルマである。
ノーマルとの比較はしていないが、高速道路での吸いつくようなスタビリティーには(プラシボ効果も含めて)オプションのテールゲートスポイラーが貢献していると感じた。試乗中に気づいた欠点といえば、全高2mのウチの車庫ではそのスポイラーが天井につっかえて、テールゲートが全開にならなかったことくらいである。
(文=下野康史<かばたやすし>/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
ホンダ・シビック タイプR
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4595×1890×1405mm
ホイールベース:2735mm
車重:1430kg
駆動方式:FF
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:6段MT
最高出力:330PS(243kW)/6500rpm
最大トルク:420N・m(42.8kgf・m)/2600-4000rpm
タイヤ:(前)265/30ZR19 93Y XL/(後)265/30ZR19 93Y XL(ミシュラン・パイロットスポーツ4 S)
燃費:12.5km/リッター(WLTCモード)
価格:499万7300円/テスト車=564万0250円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション テールゲートスポイラー<カーボン>(27万5000円)/ドアミラーカバー<フレームレッド、左右セット>(1万5400円)/ライセンスフレーム<ベルリナブラックタイプ、フロント用+リア用>(9900円)/パドルライト<LEDホワイト照明:ドア開閉、Hondaスマートキーシステム連動、左右セット>(2万2000円)/プロテクションフィルムセット<クリア、ドアエッジ部+ドアハンドル部、フロント・リアセット>(7150円)/リアバンパープロテクションフィルム<クリア>(3850円)/ユーロホーン(8800円)/インテリアパネル・センターコンソールパネル部<カーボン、貼り付けタイプ、リアルカーボン×レッドポリエルテルあや織り>(4万7300円)/インテリアパネル・ドアパネル部<カーボン、貼り付けタイプ、リアルカーボン×レッドポリエルテルあや織り、フロント左右セット>(5万6100円)/シフトノブ<ブラックアルマイト製、レッド本革巻き>(2万0350円)/サイドステップガーニッシュ<フロント部LEDレッドイルミネーション、ドア開閉連動、「TYPE R」ロゴ付き、ブラックアルマイト製、フロント・リア用左右4枚セット>(3万0800円)/パターンプロジェクター<LEDイルミネーション、ドア開閉連動、「TYPE R」ロゴ付き、フロントドア左右セット>(3万8500円)/LEDテールゲートライト<テールゲート開閉連動、ON/OFFスイッチ付き>(1万1000円)/ワイヤレス充電器<取り付け位置:センターコンソール部、Qi規格、15W急速充電対応+取り付けアタッチメント>(3万0800円)/フロアカーペットマット プレミアムタイプ<消臭・抗菌加工、ヒールパッド、アルミ製エンブレム付き、フロント・リアセット>(6万6000円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:4182km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:331.0km
使用燃料:38.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.6km/リッター(満タン法)/8.7km/リッター(車載燃費計計測値)

下野 康史
自動車ライター。「クルマが自動運転になったらいいなあ」なんて思ったことは一度もないのに、なんでこうなるの!? と思っている自動車ライター。近著に『峠狩り』(八重洲出版)、『ポルシェよりフェラーリよりロードバイクが好き』(講談社文庫)。
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