フォルクスワーゲン・ティグアンTSI 4MOTION Rライン(4WD/7AT)
それはオーソドックスな味わい 2023.01.31 試乗記 フォルクスワーゲンの正統派SUV「ティグアン」に、4WDモデル「TSI 4MOTION」が登場。スポーティーグレード「Rライン」のステアリングを握り、最高出力190PSの2リッター直4ターボと四輪駆動が織りなす走りや、前輪駆動モデルとのちがいを確かめた。ガソリンエンジンと4WDの組み合わせ
この「R」ではない4WDティグアンは、ティグアンをレジャーカーとして使いたいファンには待望の存在だろう。本来ならかつてと同じくディーゼルと4WDを組み合わせた「TDI 4MOTION」が日本でもっとも支持されやすいティグアンのはずだが、2021年春に上陸した2.5代目=2代目のビッグマイナーチェンジ版以降のティグアンは、日本でTDI=ディーゼルモデルが用意されない。2.5代目ティグアンに搭載されるディーゼルは、日本の法規をクリアするのが非常にむずかしいからという。
そんな“ティグアンTDI輸入困難問題”は日本法人も想定外だったそうだが、状況は現在も変わっていない。というわけで、今回追加されたティグアン4WDも、ガソリンターボを搭載するTSI 4MOTIONとなる。ただ「既存の1.5リッターで4WD化は厳しい?」という予測どおり、エンジンは専用に2リッター直4ターボが選ばれた。ちなみに2リッターターボのティグアンは欧州の主要市場では用意されず、日本に加えて豪州や北米などで販売される。最高出力190PS、最大トルク320N・mという性能は、FF用1.5リッター直4ターボ比で、40PS、70N・mの上乗せ。いっぽう車重は4WDが110~200kg重い。
2リッターターボ+4WDという基本様式は「ティグアンR」と同じといえば同じだが、そのエンジン性能を今度はティグアンRのそれと比較すると、130PS、100N・m下回る。こうして見ると、ティグアンRのエンジンが飛びきり高性能であることと、最新ターボのチューニング幅の広さにはあらためて驚く。
Rラインに20インチタイヤと抱き合わせとなる「DCCパッケージ」や「電動パノラマガラススライディングルーフ」をトッピングした今回の試乗車だと、重量もティグアンRと同じ。ただし、4WDシステムはティグアンR専用「Rパフォーマンストルクベクタリング」ではなく、センターに油圧多板クラッチを1個だけ置く従来型「4MOTION」となる。
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リアルな体感性能にアドバンテージ
というわけで、今回試乗したのはティグアンの通常モデルとしては最上級となるRラインだ。そして、この試乗個体は前記のDCCパッケージやガラス製のスライディングルーフに加えて、ブランドオーディオや電動レザーシートなど、考えられる大物オプションをほぼ全部のせした仕様だった。
RラインそのものはFFにも用意されるので、内外装の基本デザインで4WDを主張する部分はとくにない。後席のスライド機構や荷室の可変フロアボードも健在で、居住性や使い勝手もなんら犠牲になっていない。
ほぼ唯一の4WDならではのディテールといえば、シフトセレクターに隣接するダイヤルである。ダイヤル中央はプッシュボタンとなっていて、ここを押すことで、「コンフォート」「ノーマル」「スポーツ」「カスタム」といった舗装路でのサスペンションやパワステ、パワートレインなどの所作を、FF同様に選択できる。さらに外側のダイヤルを回すと、今度は「4MOTIONアクティブコントロール」によって、「オンロード」「オフロード」「スノー」「オフロードカスタム」といった4WDやトラクション制御を変えることができる……のだが、今回は舗装路のみの短時間試乗だったこともあり、後者の効能を試すことはかなわなかった。
前記のエンジンスペックと車重のバランスを見ると「FFより非力?」と思われるかもしれないが、排気量が0.5リッター大きい本当のメリットは、そういう諸元表に記される(アクセル全開での)ピーク性能より、過渡域でのトルクや柔軟性にある。実際、今回のTSI 4MOTIONは1.5リッターFFより高いギアレシオ設定ながら、リアルな体感動力性能では1.5リッターのFFよりわずかながらも力強く頼りがいのあるものとなっている。
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意識せずともシレッと曲がりきる
Rラインはスポーツ系グレードといっても、足もとが大径ホイールと低偏平タイヤの組み合わせになることと「プログレッシブステアリング」が追加される以外は、主なちがいはコスメ装備にとどまる。つまり、良くも悪くも雰囲気グレードといえなくもないのが、Rラインの特徴だ。
ただ、今回の試乗車がDCCパッケージを装着していた点は留意すべきだろう。同パッケージは、おなじみのDCC=連続可変ダンパーに標準より1インチ大きい20インチホイールを抱き合わせたオプションである。タイヤも試乗車では「コンチネンタル・スポーツコンタクト5」だったから本格スポーツ銘柄が選ばれているようだ。というわけで、40偏平20インチのスポーツタイヤを履くティグアンは、体感的にけっこうパワフルなパワートレインもあいまって、今回のようなすいた高速道や箱根の山坂道では、ちょっとした4WDスポーツを思わせる俊敏な走りを見せる。
その4WDシステムは先に発売されたティグアンRのような左右トルクベクタリングとは異なり、センターに油圧多板クラッチを1個備える一般的なオンデマンド配分タイプ。いずれにしても、320N・mという自然吸気換算なら3リッター超レベルの最大トルクを、涼しい顔で御しきる。
もっとも、ティグアンRのそれも「ゴルフR」ほど極端に曲がるセッティングにはなっていない。それもあって、操縦性そのものはこのTSI 4MOTIONとティグアンRはよく似ている。喜々として曲がるようなキャラクターではなく、安定した弱アンダーステアをキープしながら意識せずともシレッと曲がりきる……という安心感の高いオーソドックスな味わいということだ。
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タイヤサイズに敏感な傾向
このように絶対的な安定感や限界性能に文句はないが、今回の試乗車は、2021年春に試乗した1.5リッターFFと比較すると、バネ下がドシバタと暴れるクセが少し気になった。乗り心地も特筆するほど悪くはないのだが、ちょっと粗野なのは否めない。
筆者が当時乗った1.5リッターFFのティグアンもRラインだったのだが、あのときの試乗車にはDCCパッケージが装備されていなかった。つまり、固定減衰ダンパーに19インチで、しかも銘柄もマッド&スノータイヤだった。そんな標準のRラインは非常に滑らかな乗り心地としなやかな荷重移動、そしてリニアなステアリングフィールが印象的だった。そして、タイヤだけが先走るようなクセもまるで感じられなかった。
あのときの記憶と比較すると、ティグアンTSI 4MOTION Rラインはアシの動きが少しシブい感じだ。さらに今回の取材時には比較用にティグアンRもチョイ乗りすることができたのだが、アシが突っ張る(ように感じられる)乗り心地の傾向は、TSI 4MOTIONと似ていた。となると、いまのティグアンは4WDかDCC、あるいは低偏平タイヤとのマッチングがむずかしいのかもしれない。この試乗だけでは断言はできないものの、これまでの試乗経験から想像するに、2~2.5代目ティグアンはタイヤサイズに敏感な傾向があり、DCCの制御にも少々苦労しているきらいがある。
まあ、DCCパッケージ付きはロールも小さく、走行中の挙動は水平に安定して能力は高いので、ドライバーズカーとしてガンガン走りたいなら、この試乗車の仕様でも悪くはない。ただ、ティグアンの4WDを、季節を問わずに家族や仲間たちと快適に移動できるレジャーツアラーとして使いたい向きには、タイヤが穏健な17インチとなる「アクティブ」や「アクティブアドバンス」を選ぶか、RラインでもあえてDCCパッケージを非装着として19インチのまま走らせるといいかもしれない。
(文=佐野弘宗/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
フォルクスワーゲン・ティグアンTSI 4MOTION Rライン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4520×1860×1675mm
ホイールベース:2675mm
車重:1720kg
駆動方式:4WD
エンジン:2リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:190PS(140kW)/4200-6000rpm
最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/1500-4100rpm
タイヤ:(前)255/40R20 101V XL/(後)255/40R20 101V XL(コンチネンタル・コンチスポーツコンタクト5)
燃費:12.8km/リッター(WLTCモード)
価格:581万6000円/テスト車:661万1520円
オプション装備:レザーシートパッケージ(31万9000円)/DCCパッケージ(22万円)/ラグジュアリーパッケージ(25万3000円) ※以下、販売店オプション フロアマット<テキスタイル>(3万5200円)
テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:918km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。