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ベントレー・フライングスパー ハイブリッド(4WD/8AT)

最新の古典 2023.02.10 試乗記 佐野 弘宗 ベントレーなのにV6!? と思われるかもしれないが、「フライングスパー ハイブリッド」には強力なプラグインハイブリッドシステムがある。エンジンとモーター、電池がタッグを組んだこのパワートレインは、少なくとも上質さという側面ではV8とW12を上回っている。

最大40kmのEV走行が可能

ベントレーの電動化計画は、2024年までに全車種にハイブリッドを用意して、2025年に同社初の電気自動車を発売、そして2030年には完全な電気自動車ブランドに生まれ変わることになっている。というわけで、まずは最量販のSUV「ベンテイガ」のプラグインハイブリッド車(PHEV)がグローバル発表されたのが2021年1月。フライングスパーのPHEVもそれを追いかけるように発表されて、2022年後半の国内発売がアナウンスされていた。それが今回の試乗車だ。となると、残る「コンチネンタルGT」とその「コンバーチブル」のPHEVも秒読みということだろう。

V6ターボエンジンと8段ATとの間にモーターをサンドイッチして、荷室下にリチウムイオン電池を抱えるプラグインハイブリッドシステムそのものは、ベンテイガと基本的に共通と考えていい。もっというと、それは基本設計の多くを共有するポルシェの「パナメーラ」や「カイエン」のそれと同じ血統でもある。

ただ、フライングスパーに搭載される電動システムは、先発のベンテイガに対して少しだけ新しい。モーター出力は128PSから136PSに向上しており、リチウムイオンバッテリーの電力量も17.3kWhから18.0kWhへと大きくなっている。もっとも、ベンテイガのそれが古いままのはずもなく、今後上陸するであろうベンテイガの「S」と「アズール」の「ハイブリッド」に搭載されるモーターや電池は、これと同じものらしい。

そんなこんなで、このフライングスパー ハイブリッドのシステム出力は544PSとなっており、外部(普通充電のみ)から満充電した状態では最大40kmのEV走行が可能だという。544PS/750N・mというシステム最高出力/最大トルクは、「フライングスパーV8」と比較すると6PS/20N・mのダウンとなり、4.3秒という0-100km/h加速性能は、V8の0.2秒遅れである。

「ベンテイガ」に続いてラインナップされた「フライングスパー」のプラグインハイブリッドモデル。オプションも含めた今回の試乗車の総額は3111万9280円!
「ベンテイガ」に続いてラインナップされた「フライングスパー」のプラグインハイブリッドモデル。オプションも含めた今回の試乗車の総額は3111万9280円!拡大
今回の試乗車はグリルまわりにグロスシルバーをチョイスし、きらびやかな雰囲気に。もちろんベントレーだけに顧客の好みに応じた仕立てが可能だ。
今回の試乗車はグリルまわりにグロスシルバーをチョイスし、きらびやかな雰囲気に。もちろんベントレーだけに顧客の好みに応じた仕立てが可能だ。拡大
リアに輝く「BENTLEY」ロゴと「ウイングドB」のエンブレム。「B」の部分がトランクオープナーになっている。
リアに輝く「BENTLEY」ロゴと「ウイングドB」のエンブレム。「B」の部分がトランクオープナーになっている。拡大
22インチのタイヤ&ホイールはパッケージオプションに含まれている。タービンのようなデザインのスポークがカッコいい。
22インチのタイヤ&ホイールはパッケージオプションに含まれている。タービンのようなデザインのスポークがカッコいい。拡大
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電動化の主張は控えめ

フライングスパー ハイブリッドの544PSというシステム出力が、既存のベンテイガ ハイブリッドの422PSより明らかに強力である要因は電動システムの新旧ではなく、エンジン性能のちがいである。ベンテイガのエンジン出力が340PSなのに対して、フライングスパーのそれは416PSとなっているからだ。

どちらもV6ツインスクロールターボである点は同じだが、エンジン本体はいわば別物。ベンテイガがアウディ由来の3リッター(2995cc)TFSIエンジンを搭載するのに対して、今回のフライングスパーのV6はポルシェ開発の2.9リッター(2894cc)なのである。もっとも、前者のアウディV6にしても設計にはポルシェが関与しており、基本部分には共通点も多い。ただ、ボアピッチなどが上級の4リッターV8とモジュラー化された後者のほうが設計が新しい。

ハイブリッドだからといってこれ見よがしに主張しないのは、このフライングスパーもベンテイガと同様である。ひと目で区別がつくのはフロントフェンダーに貼られた小さなバッジくらいのものだ。

ドアを開けてもサイドシルの文字以外にそれと示すものは見当たらない……と思ったら、センターコンソール左手前のボタンに「E MODE」とあった。これによって「EVドライブ」「ハイブリッド」「ホールド」というパワートレインの制御モードを選べるが、室内の調度品類でハイブリッド特有のディテールは本当にこれだけ。しかも、ボタン自体はエンジン車のアイドリングストップスイッチと入れ替わっているだけなので、コックピットの景色はなんら変わりないのだ。あとは、メーターパネルとセンターディスプレイにいくつかのハイブリッド専用表示が用意されるだけである。

駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は18.0kWh。WLTPモードのEV走行換算距離は40km。
駆動用リチウムイオンバッテリーの容量は18.0kWh。WLTPモードのEV走行換算距離は40km。拡大
フロントフェンダーに貼られた「Hybrid」のバッジ。外観でプラグインハイブリッド車であることを示す唯一のポイントだ。
フロントフェンダーに貼られた「Hybrid」のバッジ。外観でプラグインハイブリッド車であることを示す唯一のポイントだ。拡大
ボンネット先端のマスコットはイルミネーション付き。押し込むと格納できる。
ボンネット先端のマスコットはイルミネーション付き。押し込むと格納できる。拡大
くっきりとしたプレスラインがボディーを飾る。アルミパネルを500度にまで加熱して空気圧によって成形するスーパーフォーミング製法が使われている。
くっきりとしたプレスラインがボディーを飾る。アルミパネルを500度にまで加熱して空気圧によって成形するスーパーフォーミング製法が使われている。拡大

動力性能はV8と同等

パワートレイン単体のピーク性能は、前記のようにV8とほぼ同等といっていい。車重は今回のハイブリッドのほうが100kg以上重いが、電動車ならではの低速からあふれるトルクがそれを補完している。そして、それらを差し引きしたトータルでの体感的な印象としては“V8ほどパワフルではないが、大きくはちがわない”といったところだろうか。

フライングスパー ハイブリッドも多くのPHEVと同様に、電池に十分な電力が残っているうちは、基本的にエンジンを停止してのモーター走行(EV走行)となる。ただ、アクセルを深く踏み込んでフルに近いパワーを要求すると、コンソールのE MODEボタンでEVドライブを選んでいても自動的にエンジンがかかる。

ベンテイガ ハイブリッドではその際に「ここからエンジンがかかりますぞ、お覚悟を」とばかりに、アクセルペダルにクリック感を生じさせる工夫が施されていたが、フライングスパーにはそれがない。このクルマのV6は無意識のうちにスルリと目覚める。

繰り返しになるが満充電でのEV走行は最大40kmをうたい、市街地での日常使いだけならエンジンなしですごせるのがPHEVの特権ではある。ただ、この程度のEV走行換算距離だと、ロングドライブといわずともちょっとしたお出かけでも電池が底をついてエンジンの出番がくる。

このハイブリッドシステムもまた、メーター表示的には電池が空っぽになっていても、最低限の電力は常に残す制御のようだ。E MODEボタンで「ホールド」を選ばないかぎりは、信号などで停止すればほぼ例外なくエンジンが停止して、再発進の瞬間はEV走行で転がりだす。また、高速でアクセルオフしたり、わずかに踏み込むだけの低負荷走行になったりすると、走行中でもエンジンがストンと停止する。

プラグインハイブリッドシステムはトータルで最高出力544PSを発生。スペック的には4リッターV8モデルとほぼ肩を並べている。
プラグインハイブリッドシステムはトータルで最高出力544PSを発生。スペック的には4リッターV8モデルとほぼ肩を並べている。拡大
リアルなウッドとレザー、メタルを多用したインテリアはラグジュアリーであるとともに温かみがある。
リアルなウッドとレザー、メタルを多用したインテリアはラグジュアリーであるとともに温かみがある。拡大
ダイヤモンドキルト入りの表皮は純白という言葉がふさわしい。さりげないパイピングが効いている。
ダイヤモンドキルト入りの表皮は純白という言葉がふさわしい。さりげないパイピングが効いている。拡大
ホイールベースが3194mmに達するだけあって後席はご覧のとおりの広さ。「ミュルザンヌ」なき現在は「フライングスパー」こそがベントレーの旗艦である。
ホイールベースが3194mmに達するだけあって後席はご覧のとおりの広さ。「ミュルザンヌ」なき現在は「フライングスパー」こそがベントレーの旗艦である。拡大

薄味でも上品

ベントレーのPHEVには基本的に共通のシステムをもつポルシェのような積極的に電池残量を増やす「Eチャージ」に相当するモードは用意されない。しかし、エンジンが稼働状態となって電池残量をキープする「ホールド」モードにして走っていると、下り坂や減速時の回生で少しずつ電池残量が回復していく。

そのホールドモード、あるいは高速や山坂道をペースよく走る場合でも、加速時にはかならず電動アシストが入るようで、いわゆる過給ラグのような“間”はほとんど看取できない。3リッター未満のエンジンで、この巨体がこれほどリニア、かつ滑らかに走るのはハイブリッドならではだろう。

ベントレーのエンジンといえば、V8はいい意味で不良っぽいビート感を味わえるのがエンスーだし、W12はとにかく高貴な味わいで、しかも高回転では独特の“なき”が入るのがたまらない。こうした濃厚な上級エンジンと比較すると、V6は当たり前だが薄味である。

とはいえ、さすがベントレーだけにエンジンマウントを含めた騒音対策が徹底しており、その感触はV6としては異例なほどに滑らかである。また、車速100km/h時にトップギアで約1200rpmというエンジン回転数も、V8とほぼ変わりない。そこから上り坂にさしかかったり、さらに加速を要求したりしても、よほどの急こう配や急加速でないとトップギアで粘って低回転と静粛性をキープする。これも電動アシストが入るハイブリッドならではの美点だ。

正直いってドライバーズサルーンとしてはV8やW12のほうが滋味深いが、このハイブリッドは現行ベントレーのパワートレインとしてはもっとも上品といっていい。エンジン停止時はもちろん、エンジンが回っていても、その静粛性はちょっと驚くほどである。また、途中充電もまったくせず、純粋なハイブリッド車として高速から山坂道まで遠慮なく走りまくって8km/リッターを明確に超える平均燃費も、このサイズと性能としてはまあまあと評価すべきだろう。

車両重量は2500kgにも達するが、0-100km/h加速のタイムが4.3秒というダッシュ力を誇る。
車両重量は2500kgにも達するが、0-100km/h加速のタイムが4.3秒というダッシュ力を誇る。拡大
純白のステアリングホイールは外周部にディンプル加工されたグレーのスムースレザーが巻かれる。スポーク上のダイヤルにもメタルが使われる。
純白のステアリングホイールは外周部にディンプル加工されたグレーのスムースレザーが巻かれる。スポーク上のダイヤルにもメタルが使われる。拡大
あえてスイッチ類をずらりと並べたセンターコンソールがドライバーズサルーンであることを主張する。純ガソリン車でアイドリングストップのオン/オフスイッチだったところが「E MODE」に置き換わっている。
あえてスイッチ類をずらりと並べたセンターコンソールがドライバーズサルーンであることを主張する。純ガソリン車でアイドリングストップのオン/オフスイッチだったところが「E MODE」に置き換わっている。拡大
「E MODE」ボタンで選べるのは「EVドライブ」「ハイブリッド」「ホールド」の3種類。
「E MODE」ボタンで選べるのは「EVドライブ」「ハイブリッド」「ホールド」の3種類。拡大

古典風味が味わえる

乗り心地やハンドリングもなんとも落ち着いて上品である。しかし、じつは今回の試乗取材が先日ご報告した「BMW i7」と同時だったこともあってか、少し設計年次の古さを感じさせたのも否定できない。i7=新型「7シリーズ」のほうが価格は安価だが、剛性感や路面からの突き上げ、遮音性など、さすが最新設計だけにフライングスパーを上回る部分も多かった。

さらに、コンチネンタルGTよりおっとりとして小回りはきかない。ホイールベースがコンネンタルGTより35cm近くも長いからしかたない面もあるが、同時に試乗したi7はさらにロングホイールベースなのに、それより切り返しが忙しいのはどういうことよ……。

と思ったら、フライングスパー ハイブリッドでは、このクラス必須の装備となりつつある四輪操舵が省かれているという。もちろんV8やW12には備わっているので、これはハイブリッドならではの技術的な都合らしい。もっというと、電子制御のアクティブスタビライザーも同じ理由で、ハイブリッドでのみ省略されている。というわけで、i7に対して良くも悪くも古典的な味わいを感じさせたのは、設計年次だけが理由ではなかったわけだ。

このロングホイールベース車の典型ともいえる穏やかな身のこなしや、じわっと荷重移動する重厚なロール感は、古典的ではあるがナチュラルで心地よい面もある。ドライブモードを「スポーツ」にするとアシが引き締まるものの、ターンインがことさらに鋭くなるわけでもなく、乗り味はマイルドで上品なまま。それでいて、アクセルやブレーキで積極的に姿勢変化させると(実際には4WDなのに)いかにもFRっぽい挙動を示すのも、シャシーの電子制御が少し省かれるからかもしれない。

ベントレーに古(いにしえ)のスポーツカーブランドの面影を感じているエンスージアストのなかには、こういうハイブリッドの味わいのほうを好む向きも多いかもしれない。そんなシャシーと、スキあらば(?)EV走行で粛々と走るパワートレインとの組み合わせはやっぱり“やんごとない”というほかない。

(文=佐野弘宗/写真=向後一宏/編集=藤沢 勝)

「ハイブリッド」では四輪操舵とアクティブスタビライザー機能が省かれる。最小回転直径は11.46m(V8モデルは11.05m)。
「ハイブリッド」では四輪操舵とアクティブスタビライザー機能が省かれる。最小回転直径は11.46m(V8モデルは11.05m)。拡大
ボンネットマスコットの展開と格納は車内からもできる。
ボンネットマスコットの展開と格納は車内からもできる。拡大
液晶式のメーターパネルながら、アナログ風の表示にこだわるのがベントレー。駆動用バッテリーの残量が針式(の表示)だ。
液晶式のメーターパネルながら、アナログ風の表示にこだわるのがベントレー。駆動用バッテリーの残量が針式(の表示)だ。拡大
トランク容量は351リッターで、V8モデルより69リッターも少ない。フロア下にバッテリーを搭載しているため、床面がだいぶ上がり、フラットではなくなっている。
トランク容量は351リッターで、V8モデルより69リッターも少ない。フロア下にバッテリーを搭載しているため、床面がだいぶ上がり、フラットではなくなっている。拡大

テスト車のデータ

ベントレー・フライングスパー ハイブリッド

ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5316×1978×1483mm
ホイールベース:3194mm
車重:2500kg
駆動方式:4WD
エンジン:2.9リッターV6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:416PS(306kW)
エンジン最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)
モーター最高出力:136PS(100kW)
モーター最大トルク:400N・m(40.8kgf・m)
システム最高出力:544PS(400kW)
システム最大トルク:750N・m(76.5kgf・m)
タイヤ:(前)275/35ZR22 104Y/(後)315/30ZR22 107Y(ピレリPゼロ)
ハイブリッド燃料消費率:3.3リッター/100km(約30.3km/リッター、WLTPモード)
充電電力使用時走行距離:40km(WLTPモード)
EV走行換算距離:40km(WLTPモード)
交流電力量消費率:--Wh/km
価格:2430万円/テスト車=3111万9280円
オプション装備:Mullinerドライビングスペック<ブラックペイント&ブライトマシーン仕上げ>(280万2470円)/ツーリングスペック(116万9900円)/Mullinerオプションペイント<ソリッド&メタリック>(103万6890円)/イルミネート「フライングB」ラジエーターマスコット<ブライトポリッシュステンレススチール>(53万3880円)/パノラミックガラスチルト&スライドサンルーフ<ツインブラインド&バニティミラー付き>(46万0530円)/ブライトクロムロアバンパーマトリックス(17万8450円)/グリル裏側のブライトクロムマトリックスグリル(17万8450円)/LEDウエルカムランプ(15万1080円)/フェイシアとウエストレールにクロムピンストライプ(22万4740円)/ディープパイルオーバーマット<フロント&リア>(8万2890円)

テスト車の年式:2022年型
テスト開始時の走行距離:1399km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(6)/山岳路(2)
テスト距離:388.5km
使用燃料:46.0リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:8.4km/リッター(満タン法)/8.1km/リッター(車載燃費計計測値)

ベントレー・フライングスパー ハイブリッド
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佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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