ルノー・カングー クレアティフ ディーゼル(FF/7AT)/カングー インテンス ガソリン(FF/7AT)
筋金入りのアイドル 2023.02.24 試乗記 新型「ルノー・カングー」が日本上陸。モダンになったデザインや刷新されたプラットフォーム、ガソリンとディーゼルの2本立てとなるパワーユニットなど注目のポイントは多く、その仕上がりは16年分の進化を感じさせるものだった。日本のカングーは特別仕立て
ルノー・カングーはクルマ業界のアイドルだ。2002年に初代カングーが発表されて以来、累計で3万台以上が日本にやって来ているし、2022年秋に山中湖で開かれたファンミーティング「ルノー カングージャンボリー2022」には、日本全国から1783台ものカングーが集まったという。カングー、愛されています。専門家からのウケもよく、ジャーナリストや自動車専門メディアの編集者でカングーを悪く言う人に会ったことがない。
という人気者であるだけに、新型となる3代目カングーがどんなふうに変わるのか、興味津々だった。ちなみに2代目が登場したのが2007年。ここ数年でCASEとかMaaS(Mobility as a Service)という言葉が飛び交うようになったけれど、進化のスピードが速いいまの世のなかで、16年というのは決して短いスパンではない。果たして、新型カングーはアイドルの座を維持できるのか。
まず気になるのはルックスだ。写真で見る限り新型カングーは、チャーミングポイントだったノホホンとした印象が失われていたからだ。
初めて対面する実車はたしかにキリリとした顔になっていたけれど、四角いのにどこか丸みを感じさせる、カングーらしさはしっかりと残っている。やっぱり、写真で見るのと実際に立体で見るのとでは印象が違う。見慣れて、時間の経過とともに従来型カングーの残像が薄れると、新型もカングーらしいスタイルだと思えるようになると予想する。
特にブラックバンパー仕様の「クレアティフ」は、働くクルマっぽさが強調される。参考までに、乗用車のカングーでブラックバンパーを備えるのは日本仕様だけで、ヨーロッパでのブラックバンパー車はすべてLCV(ライト・コマーシャル・ヴィークル)とのこと。それだけ、日本市場を重視しているということだろう。
サイズにふれると、1810mmの全高はそのままに、全体に拡大している。ホイールベースはプラス15mmの2715mm、全長はプラス210mmの4490mm、全幅はプラス30mmの1860mmと立派になったけれど、それでも「トヨタ・ノア」あたりよりは、ひと回り以上コンパクトだ。基本骨格は、ルノー・日産・三菱のアライアンスが開発した「CMF-C/Dプラットフォーム」となる。
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16年分の進化を体感
乗り込んで運転席に座ると、「あぁ、16年たったんだ」と思わされる。8インチのタッチスクリーンで操作するインターフェイスがイマ風なのだ。でも、空調をコントロールするダイヤルを残したのは英断だった。頻繁に操作するものだから、このほうが使い勝手がいい。レザーハンドルの手触りのよさは、カングーらしくないと言ったら失礼だけれど、ひとクラス上級に移行したように感じられる。
エンジンの設定は、1.3リッターの直4直噴ガソリンターボと、1.5リッターのディーゼルターボの2種。ガソリンはルノー・日産・三菱のアライアンスとダイムラーによる共同開発で、従来型の1.2リッター直4ターボから最高出力でプラス16PS、最大トルクでプラス50N・mと、かなりのパワーアップを果たした。ディーゼルは従来型の最終モデルに設定された限定仕様に積まれていたものと基本的には同じだ。
トランスミッションは従来型の乾式の6段DCTから、湿式の7段DCTへと刷新された。全国のMTファンを代表してルノー・ジャポン広報部にMTの導入の可能性について尋ねたところ、「なくはありません。検討しています」との答えが返ってきた。「検討しています」の前に「前向きに」という言葉が聞こえたような気がしたのは、気のせいです。でも、期待して待ちたい。
まずは1.3リッターのガソリン仕様からスタート。走りだした瞬間に、16年分の進化を感じる。
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軽快さが光るガソリンモデル
スタートしてまず感じるのは、乗り心地のよさだ。従来型も快適で、サスペンションがよく動いて路面からのショックを上手に吸収していたけれど、新型のアシはさらに柔軟に伸びたり縮んだりする。シートの掛け心地がいいという美点は継承されていて、これも乗り心地のよさに貢献している。もうひとつ、新型はボディーの建て付けがカッチリして、それも乗り心地が洗練されたという印象につながる。ボディーの開口部が大きいのに、この剛性感は立派だ。
聞けば、働くクルマとして使われることも多い、というか本来は商用として使われることを前提に開発されるカングーは、乗用車の何倍もハードな耐久試験をクリアしているという。ぽわんとした、ムーミンのような存在感のカングーであるけれど、中身は文字どおり筋金入りなのだ。
新型カングーのサスペンションを開発するにあたっては、サスペンションのストローク量はそのままに、ロールを少なくして安定した姿勢を保つことに腐心したという。やさしい乗り心地と、コーナーで自然にロールする感覚の組み合わせはカングーの伝統的な美点であるけれど、新型ではさらに魅力的なものになっている。サスペンションのメンバーに、上級モデルの「ルノー・エスパス」(日本未導入)のものを使うことで、足まわりのクオリティーを上げたとのことで、確かにその成果が出ている。
1.3リッターの直4ターボは、低回転域からもっちりとしたトルクを発生。発進加速は力強いというより軽快だ。回転を上げるとともに軽快感が増し、爽やかな回転フィールとともに気持ちよく車速が伸びていく。実は事前の予想では「野球だったら5対0ぐらいでディーゼルの勝ち」と予想していた。ところが、実際に乗ってみると予想以上にガソリンがいい。じゃあディーゼルはどうなんだ、ということで、1.5リッターのディーゼルターボに乗り換える。
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ディーゼルモデルはどっしり安定
発進からズシンというトルク感を伝えるディーゼルは1.6t超のボディーを力強く引っ張った。回転フィールは、ほろろろんという朗らかなもので、不快でないどころか心地よい。音も静かだし、音質も耳障りではない。ただし窓を開けるとそこそこの音量で聞こえたので、遮音がしっかりなされているのだろう。ガソリン仕様でも感じたけれど、乗り心地だけでなく、静粛性も2ランクほど向上している。
エンジンの違いは加速感だけでなく、操縦性や乗り心地にも影響を与えている。ガソリンのほうがコーナーでの身のこなしが軽やかで、いっぽう、ディーゼルは高速道路でどっしりとした安定感がある。両者はかなりキャラが異なる。ディーゼルのほうが90kg重く、しかもその増加分がほとんど鼻先に集中しているから、このような違いが生まれるのだろう。「ディーゼル圧勝」という当初の予想は覆され、これはホントに五分五分で、迷う。
ルノーは、「アルカナ」にフルハイブリッドとマイルドハイブリッドを設定したり、カングーもディーゼルとガソリンを導入したり、それほど大きな規模ではないから大変なはずなのに、ユーザーにパワートレインの選択肢を与えているのがエラい。
荷室は広いだけでなく、タイヤハウスの出っ張りがないからスクエア。シートアレンジも容易で、使い勝手のよさは抜群だ。ここも美点はしっかりと継承している。最大積載荷重は従来型の850kgから1tに上がっているとのことで、働くクルマとしてのパフォーマンスも向上している。
アダプティブクルーズコントロールとレーンセンタリングアシストを組み合わせたハイウェイ&トラフィックジャムアシストや、車線からはみ出しそうになるとハンドル操作をアシストするエマージェンシーレーンキープアシストなど、運転支援システムは最新で、しかもナチュラルに作動するから使いやすい。
といった具合に総じて好感触で、これならアイドルの座を維持するどころか、さらにファン層を広げそうだ。唯一気になるのが価格で、2002年に導入された初代カングーが175万円だったことを覚えている身としては、カングーで400万かぁ……、と思わなくもない(どっちなんだ)。でも周囲を見渡せば、ほぼ同スペックの「プジョー・リフター」などはもっと高いわけで、むしろ頑張った値付けと受け取るべきだろう。アイドルに罪はない。
(文=サトータケシ/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
ルノー・カングー クレアティフ ディーゼル
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4490×1860×1810mm
ホイールベース:2715mm
車重:1650kg
駆動方式:FF
エンジン:1.5リッター直4 SOHC 8バルブ ディーゼル ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:116PS(85kW)/3750rpm
最大トルク:270N・m(27.5kgf・m)/1750rpm
タイヤ:(前)205/60R16 96H XL/(後)205/60R16 96H XL(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:17.3km/リッター(WLTCモード)
価格:419万円/テスト車=425万0500円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ETCユニット(2万8600円)/エマージェンシーキット(3万1900円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:2095km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(軽油)
参考燃費:--km/リッター
ルノー・カングー インテンス ガソリン
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4490×1860×1810mm
ホイールベース:2715mm
車重:1560kg
駆動方式:FF
エンジン:1.3リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
トランスミッション:7段AT
最高出力:131PS(96kW)/5000rpm
最大トルク:240N・m(24.5kgf・m)/1600rpm
タイヤ:(前)205/60R16 96H XL/(後)205/60R16 96H XL(コンチネンタル・エココンタクト6)
燃費:15.3km/リッター(WLTCモード)
価格:395万円/テスト車=401万0500円
オプション装備:なし ※以下、販売店オプション ETCユニット(2万8600円)/エマージェンシーキット(3万1900円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:1149km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(--)/高速道路(--)/山岳路(--)
テスト距離:--km
使用燃料:--リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:--km/リッター
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サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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