三菱デリカミニ 開発者インタビュー
ポリシーを貫きました 2023.04.06 試乗記 「DAILY ADVENTURE(毎日の冒険)」をキーワードに開発された、三菱の新型軽スーパーハイトワゴン「デリカミニ」。正式発表にあたり、SUVらしい力強いスタイリングや走りについてのこだわりを、開発のキーマンに聞いた。三菱自動車
商品戦略本部CPSチーム商品企画
今本裕一(いまもと ゆういち)さん
「どこのクルマ?」と聞かれた
2022年11月に情報が公開され、発売前から尋常ではない盛り上がりを見せていたのがデリカミニである。SUV的なスタイルを持つ軽スーパーハイトワゴンが人気になるなかで、三菱の本気が見られるモデルとして期待が高まっている。新しい車名に込められた意味と、ブランドの底上げを図る戦略を聞いた。
──デリカミニという名前になりましたが、「eKクロス スペース」の後継車と考えていいんですか?
今本裕一さん(以下今本):三菱のガソリン軽乗用車は、トールワゴンが「eKワゴン」と「eKクロス」、スーパートールワゴンが「eKスペース」とeKクロス スペースという4種でした。このうちeKクロス スペースだけをモデルチェンジしてデリカミニとして発売します。ほかの3種はこれまでどおりですね。
──1車種だけ名前を変えるというのは変則的ですが……。
今本:eKクロス スペースは、「どこのクルマ?」と聞かれることが多かったんです。三菱の製品ということが認知されていなかったんですね。かつての「パジェロ」は、三菱を代表するとともに、メーカーを超える存在でもあった。今は「デリカ」ですね。そこにミニをつけることで、聞いた瞬間にどんなクルマなのか思い浮かぶだろうということです。
──デリカはフロントマスクを変えて大バッシングを受けましたが、あれでメジャーになりました。ブランドの認知という点では成功でしたね。
今本:唯我独尊で、ニッチでした。ハコとSUVの中間で、今で言うクロスオーバー。ほかのメーカーが手を出していないゾーンで、それが強みになっています。デリカに存在感があるので、デリカミニにも価値が生まれるわけです。
──eKクロス スペースはさほど人気が出なかったようですが、何が原因だったんでしょう。
今本:クルマ自体はいいんですよ。ただ、調べてみると、上の世代には受け入れられていたんですが、アクティブファミリー層にはまったく刺さっていなかったことがわかりました。
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シニアからファミリーにシフト
──上の世代だけだと、先細りになってしまいますね。
今本:シニア向けのクルマだと思われてしまうと、若い人は欲しいと思わないんですよ。逆に、若い人向けのものはシニアも欲しくなる。僕も50歳半ばを過ぎていますけど、30代向けのものは手に取りますから(笑)。みんな“ヤング・アット・ハート”なんです。
──なぜ若い人にウケなかったんでしょうか?
今本:社内のハードルが高かったんです。三菱はお客さんの年齢層が高いという考え方が浸透していて、若いファミリーはこないと思い込んでいるところがありました。中身の評価はいいんだけど、ターゲティングが間違っていたんですね。そこでアウトドア系のクルマの位置づけを見直して、アクティブシニアからファミリーにシフトしました。
──名前を変えただけでは売れませんよね。
今本:もちろん、魂がないとダメだと思います。4WDモデルには15インチタイヤを採用し、サスペンションに専用のチューニングを施しています。NMKVの製品ですから日産に設計開発をおまかせしていましたが、デリカミニは三菱でサスペンションチューニングをやり直しました。バネ定数は一緒ですけれど、ショックアブソーバーは違います。
──そこにはどういう意図があるのでしょう?
今本:アブソーバーのいなし方は、三菱と日産で考え方が違うんですね。私たちは、路面変化に対して不安がないようにすることを優先しています。舗装路から砂利道に入っても「自然で安定しているね」と感じてほしい。路面が変わったことは知らせるけれど、それによってクルマの挙動が変わることは防ぎたいという考えです。
──これまでは日産と同じものを使っていたんですか?
今本:そうですね。決まっていたものを変えるということになるとどうしても開発費がかかりますが、ポリシーを貫くには必要だと考えました。スポーティーであっても一定の安定感をもたらすことが目標値になっています。
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普段の生活で安心感を提供したい
──グリップコントロールとヒルディセントコントロールは全車標準装備なんですね。
今本:グリップコントロールは、滑りやすい道でのドライバビリティーを高めます。ヒルディセントは急な積雪があって下り坂を通らなければならなくても、ブレーキもアクセルも踏まずに安全に降りていくことができますね。普段の生活で安心感を提供したいと思っています。
──悪路を走るための装備ということではない?
今本:デリカミニに関しては、本格的SUVということは一切言っていません。使いやすいこと、安全に乗っていただくことを目指しています。ファミリーがターゲットですから、多少滑りやすい道でも大丈夫なので行動範囲が広がりますよ、ということです。
──アウトドア系といいますが、そんなにみんなキャンプに行ったりするんでしょうか?
今本:毎週キャンプに行くヘビーユーザーを狙っているわけではありません。「デイリーアドベンチャー」をテーマにしていて、普段の生活のなかに冒険を感じようということです。僕は休日にサッカーで河川敷に行くんですが、駐車場はこういうクルマばかりなんですね。河原でバーベキューするにも、車高が高いことが大事。休日のレジャーで河川敷やちょっとデコボコした道に行っても、ちゃんと走れるし不安にならないようにチューニングしています。15インチタイヤだと、3アングル(アプローチ/デパーチャー/ランプブレークオーバー・アングル)もよくなっていますよ。
──先行モデルに「スズキ・スペーシア ギア」「ダイハツ・タント ファンクロス」がありますが、SUVテイストの軽スーパーハイトワゴンがトレンドなんですね。
今本:日本の市場では軽自動車が40%。そのなかでさらに40%がスーパーハイトなんですよ。年間60万台という大きな市場です。ハイトワゴンも60万台ですが、30車種ぐらいあります。でも、スーパーハイトは「スペーシア」、「タント」、「N-BOX」、「ルークス」、eKスペースの5つ。車型で言えば4車型なんですね。1ブランドあたりの台数は最も多いので、変化を出していかなければなりません。
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安くないです!
──外見をデリカに似せようとしたんですか?
今本:部品の形とシルエットで言うと、むしろeKクロス スペースのほうがデリカに似ています。でも、実際にはデリカのちっちゃい版としては認知されませんでした。コピペして縮小すれば同じでしょ、ということではないんですね。ダイナミックシールドも、デリカミニは力強さではなくて愛嬌(あいきょう)を強調しています。軽自動車は、ステータスというよりも自分の所有するものとしての愛着がポイントになりますから。
──ヘッドランプは英国老舗ブランドのSUVに似ているという声がありますが……。
今本:キャラクターです(笑)。アイコニックで、顔に見えるように。デザイナーは、やんちゃ坊主、小さい子がにらんでいるようなイメージだと言っています。若い人に聞くと、ポケモンとかアニメの『チェンソーマン』にも似たキャラがあるそうですよ。
──そのあたりも、ファミリー層狙いということですか?
今本:以前はとにかく安く安くという方針でしたが、今回は違います。買いたいと思わせる価値を考えませんか、というのがこのクルマの原点です。
──たしかに、安くないですもんね。
今本:安くないです!
──強調しなくても(笑)。
今本:むしろ、高くできるんじゃないの、と思っていました。東京オートサロン2023(の会場)で値段を聞かれて「コミコミで200万円をかなり超えます」と正直に答えましたが、「え、そんなものなの?」という反応でした。軽自動車としては高いかもしれないけれど、お客さんは軽として買うわけじゃないんですよね。
──これが売れると、日産でも同じようなクルマを出したいと考えるかもしれませんね。
今本:日産もクロス的なものを出すかもしれませんが、同じものにはならないということは断言できます。サスペンションチューニングの考え方が違いますから。どちらがいい、悪いということではなく、お互いにポリシーを持ってクルマをつくっているんですよ。
(文=鈴木真人/写真=花村英典/編集=櫻井健一)
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鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。
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