シトロエンC5 Xプラグインハイブリッド(FF/8AT)
神奈月に囲まれて 2023.04.10 試乗記 旗艦のなかの最上級グレードゆえに、「シトロエンC5 Xプラグインハイブリッド」には専用のメカニズムを持つサスペンションの搭載が許されている。ふわりふわりとしながらも節度を備えたその乗り味は、もしかしたら“本物”を超えたかもと思わせるほどの出来栄えだった。シトロエンはのびのびとやる
C5 Xはシトロエンのフラッグシップに位置づけられるクルマだ。車型的には5ドアハッチバックだが、クロスオーバークーペ的な要素もあって分類が難しい。でも「CX」や「XM」からのインスパイア感を嗅ぎ取る方々は多いのではないだろうか。
昔と様相が異なるのは、同門にDSという銘柄を擁していることだ。コテコテのエスタブリッシュメント向けには「DS 9」という正統な4ドアセダンも用意されている。ちなみにマクロン大統領の公用車はストレッチ版の「DS 7」だそうで、かの地ではDSのオフィシャルブランド化が進んでいる。
血筋やお家柄のややこしいお客さんはそっちに任せといて、思い切りこじらせたお客さんを囲うのはシトロエンでのびのびやろうやと、極東のクルマ好きからしてみるとそういう施策なのかなと都合よく解釈できなくもない。そういう視点でみると、C5 Xが属性不明のフラッグシップたり得るのはむしろユーザーにとっても望むところなのではないだろうか。
PHEV専用の足まわり
今回乗ったC5 Xは直近で追加されたプラグインハイブリッド=PHEVモデルだ。内燃機関モデルと同じ180PS/300N・mを発生する1.6リッター4気筒ターボのガソリンユニットに、110PS/320N・mを発生するモーターを組み合わせて、システム総合出力は225PS/360N・mとなる。
駆動用バッテリーの容量は12.4kWhで、WLTC計測値で最長65kmのEV走行が可能だ。急速充電には対応しておらず、200V・6kWの普通充電での所要時間は2.5時間となる。システム自体は「C5エアクロスSUV」やDS 9に搭載されるものと同じだ。
加えて、PHEVモデルには「アドバンストコンフォートアクティブサスペンション」が標準装備となる。これは大ストローク時のバンプストッパーの役割をセカンダリーダンパーが担うプログレッシブハイドローリッククッション=PHCに電子制御式可変レートを組み合わせたシステムで、ダンピングの収束幅がさらに上下に広がっているものと目される。
内外装での識別という点で、PHEVモデルならではの演出は思いのほか少ない。が、そもそものコンセプトがシトロエンのテーマパークのようなものなので物足りなさは感じない。汎用(はんよう)部品を使わなければならないがゆえ、CXのようなぶっ飛び感は期待できないが、そのなかでよく健闘していると思う。
これぞシトロエンのシート
クッションフォームの表層部の構造を変えてアタリ面を柔らかく沈み込ませながら奥でしっかり支えるアドバンストコンフォートシートは、同様の仕組みを採用するC5エアクロスSUVにも増して独特の包まれ感がしっかり伝わってくる。
シトロエンのシートといえばクタクタのぬいぐるみのような肌触りながら長く乗っても疲れないという不思議な掛け心地が昔ながらの特徴だが、21世紀に入ってからのモデルはその個性が薄らいでいたように思う。彼らにもそんな省みがあったかは知らないが、C5 XのそれはXMあたりの触感を思い出させてくれた。
パワートレインは十分以上のパワーもさることながら、中間域のモーターアシストで増強されたトルクのリッチさが印象的だ。押し出しの力感は額面どおり3~4リッターユニット級の厚みを感じさせる。反面、エンジンが高回転で稼働する際の音質の粗さがちょっともったいない。
一方でモーターのみで走行する状況の静粛性にはなんら不満はなく、サイドウィンドウにラミネートガラスを採用するなど遮音には十分気づかわれていることが伝わってくる。現状の旧グループPSAのエンジンラインナップから言えば、むしろ1.5リッターディーゼルのほうが相性はよさそうだが、そうなると価格的なハードルが高くなるだろう。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
本物を超えた本物らしさ
そんなむずむず感を一掃するのがライドフィールだ。低速や微少入力域からの動きは加圧が前提となる本家のハイドローリックサスよりもむしろしっとり柔らかく、思い出すのは「2CV」や「AX」あたりのそれ。そこから速度域が高まるにつれて、ダンピングにもちもち感が加わってくる。
上屋はフラット感を強調するような動きはなく、凹凸によってふわりと上下動を繰り返すが、伸び側の収まりが素直で、酔うようなお釣りはしっかり抑えられている。前側のオーバーハングの長さがピッチングに悪影響を及ぼしそうだが、加減速時のダイブやスクワットの類いもよくコントロールされていた。さらにコーナーでのロール量も適切で、人工的に制御されているような不自然さは感じられない。
近ごろは「クラウン クロスオーバー」や「プリウス」あたりも採用する、大径にして幅狭なタイヤはデザイン側の要望も強いものだろうが、走りにおいても軽やかな転がり感と十分なコーナリングフォースが両立できていた。
なんとも例えようがないその乗り心地を表するに、文中のようについ口にしてしまうのはシトロエンの過去例だ。概してライドフィールには一家言あったブランドが、DSとの差別化や自らの再定義のなかで強調すべき項目として注目したのもそれだったのだろう。結果、出来上がったサスは本物を超えたコスプレというか、ハイドロよりもハイドロっぽい側面が感じられるほどに振る舞いがなまめかしい。高速道路をヌルヌルと走るサマに、なんとなく神奈月の演じる井上陽水を思い出してしまい、じわじわと笑いがこみ上げてきた。
(文=渡辺敏史/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
テスト車のデータ
シトロエンC5 Xプラグインハイブリッド
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=4805×1865×1490mm
ホイールベース:2785mm
車重:1790kg
駆動方式:FF
エンジン:1.6リッター直4 DOHC 16バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:180PS(132kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:250N・m(25.5kgf・m)/1750rpm
モーター最高出力:110PS(81kW)/2500rpm
モーター最大トルク:320N・m(32.6kgf・m)/500-2500rpm
システム最高出力:225PS
システム最大トルク:360N・m
タイヤ:(前)205/55R19 97V XL/(後)205/55R19 97V XL(ミシュランeプライマシー)
ハイブリッド燃料消費率:17.3km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:65km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:65km(WLTCモード)
交流電力量消費率:188Wh/km(WLTCモード)
価格:653万8000円/テスト車=662万6715円
オプション装備:メタリックペイント<グリアマゾニトゥ>(7万1500円)/ETC+取り付けブラケット(1万7215円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:4271km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(4)/高速道路(6)/山岳路(0)
テスト距離:144.0km
使用燃料:11.1リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:13.0km/リッター(満タン法)/14.2km/リッター(車載燃費計計測値)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
-
レクサスGX550“オーバートレイル+”(4WD/10AT)【試乗記】 2026.3.30 スタッドレスタイヤ装着の「レクサスGX」でウインタードライブへ。クルマ好きにとってはいかにも胸がふくらむシチュエーションだが、刻一刻と変化する自然環境が相手ゆえに、なかなか一筋縄ではいかないものだ。山に分け入る際には引き返す覚悟もお忘れなく。
-
スズキeビターラZ(4WD)【試乗記】 2026.3.28 スズキが満を持して世に問うた、初の量販電気自動車(BEV)「eビターラ」。エントリーグレードは400万円以下! 500万円以下で4WDも用意されるというお値打ち価格のBEVは、走らせてみるとどうなのか? 東京-愛知を往復して、その実力を確かめた。
-
スズキGSX-8T(6MT)【レビュー】 2026.3.25 昨今のネオクラシックブームに乗り、いよいよスズキからも新型車「GSX-8T」が登場。しかし実車に触れてみると、既存のライバルとはちょっと趣の異なるマシンとなっていた。スタイリッシュないでたちとスズキらしい実直さが融合した、独創の一台を報告する。
-
日産セレナe-POWERハイウェイスターV(FF)【試乗記】 2026.3.24 販売台数ではトヨタ勢に差をつけられながらも、日産の屋台骨として奮闘する「セレナ」。現行型の登場から3年、マイナーチェンジで磨きがかかった最新の「e-POWERハイウェイスターV」に試乗すると、人の感性に寄り添う開発陣のこだわりと良心が見えてきた。
-
BMW iX M70 xDrive(4WD)【試乗記】 2026.3.23 BMWが擁するSUVタイプの電気自動車「iX」。そのハイパフォーマンスモデルが「iX M70 xDrive」へと進化を遂げた。かつて、BMWの志向する次世代モビリティーの体現者として登場した一台は、今どのようなクルマとなっているのか? その実力に触れた。
-
NEW
ホンダCR-V e:HEV RSブラックエディション(4WD)/CR-V e:HEV RS(4WD)【試乗記】
2026.4.1試乗記ホンダの「CR-V」が日本市場に帰ってきた。先代モデルの発売時(2018年)も2年ぶりの復活で(少し)盛り上がっていたが、今回もまた3年半ぶりの復活である。モデルライフが途切れ途切れなところは気になるものの、新型のすっきりと上質な乗り味はまぎれもなくプレミアムな領域に達している。 -
NEW
今こそブランドの伝統と強みを前面に マツダと三菱のPHEVを乗り比べる
2026.4.1デイリーコラム日産自動車をはじめとした国産6ブランドがBEVとPHEVを集めた合同試乗会を開催。マツダと三菱のPHEVを乗り比べ、それぞれの特性や開発陣の考え方の違い、近い将来に向けたビジョンなどに思いをはせた。 -
NEW
第107回:さよならワグナー(後編) ―革新から正統へ 変節するメルセデスと欧州カーデザインの未来―
2026.4.1カーデザイン曼荼羅「EQ」シリーズの失敗を機に、保守的なイメージへ大転換! メルセデス・ベンツのカーデザインは、一体どこへ向かおうとしているのか? 名物デザイナー、ゴードン・ワグナー氏の退任を機に、スリーポインテッドスターと欧州カーデザインの未来を考えた。 -
NEW
目元にインパクト! 4灯式ヘッドランプのクルマ特集
2026.4.1日刊!名車列伝“コンビランプ”が当たり前になり、新車ではほとんど見ることのなくなった4灯式ヘッドランプ。今回は、そんな“4つ目”のフロントフェイスが印象的な、世界の名車を日替わりで紹介します。 -
開発中にボツになった「素晴らしいアイデア」は、その後どうなる?
2026.3.31あの多田哲哉のクルマQ&A車両を開発するなかで生まれた良いアイデアや素晴らしい技術には、実際に製品化に生かされないものも多数あるという。では、時を経て、それらが再び日の目を見ることはあるのか? 元トヨタの車両開発者、多田哲哉さんに聞いた。 -
メルセデスAMG GTクーペ/メルセデスAMG GT 4ドアクーペ【試乗記】
2026.3.31試乗記メルセデスAMGの「GT63 S Eパフォーマンス クーペ」と「GT53 4MATIC+(ISG)ファイナルエディション」は、同じAMG GTを名乗りながらも片や2ドア、こなた4ドアのクーペモデルだ。この両者には、どんな特徴や違いがあるのか。クローズドコースで確かめた。


































