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社名も変えて心機一転!? 復活をもくろむジャガー・ランドローバーあらためJLRの新戦略

2023.05.05 デイリーコラム 石井 昌道
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向こう5年で約2.5兆円を投資

2023年4月19日、ジャガー・ランドローバーは「電動化を中心にモダンラグジュアリーの未来を加速するため」に、今後5年間で150億ポンド(約2兆4900億円)を投資すると発表した。その対象には、産業フットプリント(商品やサービスの原材料調達から廃棄・リサイクルまでのライフサイクルアセスメントを含む、事業全体での温室効果ガスの排出量)の削減や、車両プログラム、自動運転、人工知能(AI)、デジタルテクノロジー、人材スキルと、広範な分野が含まれている。

2021年2月にジャガー・ランドローバーは「REIMAGINE」という新たなグローバル戦略を発表。電動化を加速し、ジャガーとランドローバーはそれぞれ別のアーキテクチャーを採用して個性を持たせるとしていた。今回の発表では、そのREIMAGINEを推進しつつ、新たに「House of Brands」というアプローチを採用。レンジローバー、ディフェンダー、ディスカバリー、ジャガーがそれぞれブランド化され、独自の特徴を強化すると説明がなされた。

これまではランドローバーというアンブレラブランドのなかに、サブブランドとしてレンジローバー、ディフェンダー、ディスカバリーがぶら下がっているという位置づけだった。しかし、例えばレンジローバーのユーザーはランドローバーに乗っているという意識はほとんどなく、レンジローバーに乗っているのだという自負があったのだから、上述のアプローチも自然な流れといえるだろう。アンブレラブランドはなくなり、4つのブランドを柱とする“ハウス”になったということだ。これに合わせて社名もジャガー・ランドローバーからJLRに変更し、企業イメージの刷新も図るとしている。

ゲイドンのJLRセンターで行われた記者会見にて、JLRの次世代戦略を説明するエイドリアン・マーデルCEO。
ゲイドンのJLRセンターで行われた記者会見にて、JLRの次世代戦略を説明するエイドリアン・マーデルCEO。拡大
「House of Brands」について説明するチーフ・コマーシャル・オフィサーのレナード・ホーミック氏。今後はジャガーとランドローバーの2ブランド構成ではなく、ジャガーとレンジローバー、ディフェンダー、ディスカバリーの、4ブランド構成となる。
「House of Brands」について説明するチーフ・コマーシャル・オフィサーのレナード・ホーミック氏。今後はジャガーとランドローバーの2ブランド構成ではなく、ジャガーとレンジローバー、ディフェンダー、ディスカバリーの、4ブランド構成となる。拡大
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BEVプラットフォームで加速する製品の電動化

JLR全体としては、2039年までにサプライチェーン、製品、オペレーションのすべてを通じて温室効果ガスの排出量実質ゼロを目指しているが、今回の発表では、2030年程度までの中期的なスコープでのロードマップも示された。

電動化のロードマップとしては、まず2023年後半にレンジローバーのBEV(電気自動車)の予約受付を開始。「EMA(エレクトリファイド・モジュラー・アーキテクチャー)」を採用する次世代のミッドサイズSUVは、2025年にレンジローバーファミリーから発売予定だという。おそらくは「レンジローバー ヴェラール」「レンジローバー イヴォーク」、それに「ディスカバリー スポーツ」の新型あるいは後継モデルも、この次世代ミッドサイズに含まれるのだろう。EMAは当初、ハイブリッドにも対応するとされていたが、完全なBEV専用プラットフォームになった。生産工場となる英国マージサイドのヘイルウッド工場も、BEV専用工場へと改装される。

一方、現行の「レンジローバー」に採用されている「MLA(モジュラー・ロンギチューディナル・アーキテクチャー)」は、ICE(内燃機関)、ハイブリッド、BEVに対応するプラットフォームだが、中期的にはこちらも維持し、地域の事情に合わせたモデルを提供していくとしている。10年以内にレンジローバー、ディスカバリー、ディフェンダーにそれぞれBEVを取りそろえるとしているJLRだが、まだすべてがBEVになるというわけではないということだ。

BEVラインナップの拡充に伴い、英ヘイルウッド工場はBEV専門の生産拠点に改装される予定だ。
BEVラインナップの拡充に伴い、英ヘイルウッド工場はBEV専門の生産拠点に改装される予定だ。拡大
新しいBEVプラットフォームを用いた製品の投入を急ぐ一方で、既存の「MLA」を用いたエンジン搭載車も生産・販売を継続。地域ごとに異なる需要に応えていくとしている。
新しいBEVプラットフォームを用いた製品の投入を急ぐ一方で、既存の「MLA」を用いたエンジン搭載車も生産・販売を継続。地域ごとに異なる需要に応えていくとしている。拡大

BEV専売ブランドとなるジャガーの将来図

その一方で、以前から言われているようにジャガーは早期にオールBEVとなる。EMAとは別に、専用の「JEA(ジャガー・エレクトリファイド・アーキテクチャー)」と呼ばれる新しいBEV専用プラットフォームを開発し、最初のモデルである4ドアGTを2024年に一部市場で発売。2025年に納車開始とする。このモデルは最大700kmの航続距離を備え、10万ポンド以上の価格になる予定だ。

ジャガーにはこれを含めて3つの新モデルが投入され、ブランドの再構築が図られる。以前はMLAによって次期「XJ」を発売する計画があったが、それは打ち切られた。XJの名前自体は今後復活する可能性もあるが、JEAベースになるはずだ。

そもそもジャガー・ランドローバーは、2008年にリーマンショックの影響でフォード傘下からタタ傘下へと移行。それ以来、当時のラルフ・スペッツCEOが見事な手腕でブランドを立て直し、収益力を飛躍的に向上させた。2016年度には史上最高の販売台数を記録。タタ傘下となってからは販売台数を2倍に伸ばすなど、とにかく好調だった。

その後は、ブレグジットによる英国自動車産業への悪影響や、ディーゼル離れによる販売不振、コロナウイルスや半導体不足などによる市場と産業界双方の混乱により、業績は下降。しかし最近では、ディフェンダーが記録的なヒットとなり、レンジローバーも好調で復調の兆しをみせている。収益性の高いモデルの生産が順調に増えたことで、2022年度第3四半期(2022年10-12月期)にはついに利益を計上。年間の税引き前損失も、2021年度から大幅に縮小した。

JLRは2025年までにネットキャッシュフローを黒字に転換し、2026年までに2ケタの税引き前利益を達成するという財務目標を立てている。未来への投資と財務の健全化を同時に進める彼らの戦略は、どこまでうまくいくのか。今回発表された新たな戦略により、再び高収益の体質を取り戻せるかが、ジャガー・ランドローバー改めJLRの、浮沈のカギを握っているといえそうだ。

(文=石井昌道/写真=ジャガー・ランドローバー/編集=堀田剛資)

BEV専門ブランドとしてのジャガーの再構築について説明する、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのジェリー・マクガバン氏。「変革のカギは、そのデザインがほかのどのクルマにも似ていないということ」と語った。
BEV専門ブランドとしてのジャガーの再構築について説明する、チーフ・クリエイティブ・オフィサーのジェリー・マクガバン氏。「変革のカギは、そのデザインがほかのどのクルマにも似ていないということ」と語った。拡大
新型「ディフェンダー」に「レンジローバー」「レンジローバー スポーツ」と、高付加価値商品の生産が軌道に乗ることで、業績が回復してきたJLR。これを機に収益性の高い体質を取り戻せるかが、名門復活のカギといえそうだ。
新型「ディフェンダー」に「レンジローバー」「レンジローバー スポーツ」と、高付加価値商品の生産が軌道に乗ることで、業績が回復してきたJLR。これを機に収益性の高い体質を取り戻せるかが、名門復活のカギといえそうだ。拡大
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