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「レクサスLM」の国内デビューは自動車市場をどう変える?

2023.05.15 デイリーコラム 工藤 貴宏

アジアのリッチにグッとくる

近々発売される新型車のなかで、間違いなく自動車メディアで盛り上がるクルマといえば「レクサスLM」だ。……といっても、「そんなレクサスは知らない」という人も少なくないことだろう。無理もない、これまで日本では販売されていなかった車種だからだ。

その最大の特徴は、ミニバンであること。3列シート車と上級仕様の2列シート車が設定されている。種明かしをすればベースは「トヨタ・アルファード/ヴェルファイア」で、そのレクサス版といえるモデルなのだ。

現行モデルは中国や東南アジアなどで販売されていて、人気はすこぶる高い。いま、それらの地域では富裕層が移動にミニバンを活用するのは珍しいことではないからだ。ミニバンはセダンに比べて運動性能で劣るものの、室内は広いし乗り降りだって楽。つまり快適だ。

欧州、なかでもドイツのように日常的に超高速巡行するなら高速安定性のためにセダンを選びたくなるのも理解できる。だが、多くを渋滞のなかで過ごすのであれば快適なミニバンのほうが理想的な移動ツールというわけだ。

「ミニバンなんてレクサスに似合わない」

そう言いたくなる気持ちはわからなくもないが、現実としてアジアのショーファードリブン(運転は雇われドライバーが行い、あるじは後席に座るクルマの使い方)の市場は、急激にミニバンへとシフトしている。

そして、その流れはすでに日本にも広まっているのは読者諸兄もご存じのとおり。政治家や芸能人も、移動用にミニバンを使う人が増えているし、これまで黒い大型セダンを好んでいた“あっち筋”の人たちまで急激にミニバン化(というよりもアルファード/ヴェルファイア化)が進んでいる。もはや、アジアにおけるショーファードリブンのミニバン化は誰にも止められないのだ。だって広くて快適なんだから。

2023年4月、中国・上海でデビューした新型「レクサスLM」。日本でも同年秋から販売が開始される。
2023年4月、中国・上海でデビューした新型「レクサスLM」。日本でも同年秋から販売が開始される。拡大
新型「LM」は、2020年に登場した初代に次ぐ2代目となるモデル。従来型より全長・全幅ともに拡大、車内空間が拡張されている。
新型「LM」は、2020年に登場した初代に次ぐ2代目となるモデル。従来型より全長・全幅ともに拡大、車内空間が拡張されている。拡大
「すべての乗員が自然体でくつろげる乗り心地と乗車空間を目指した」という新型「LM」のインテリア。写真の3列シート車のほか、2列シート車も設定される。
「すべての乗員が自然体でくつろげる乗り心地と乗車空間を目指した」という新型「LM」のインテリア。写真の3列シート車のほか、2列シート車も設定される。拡大
シンプルなデザインでまとめられたコックピット周辺部。「Tazuna Concept」に基づき、運転に専念できる環境が整えられている。
シンプルなデザインでまとめられたコックピット周辺部。「Tazuna Concept」に基づき、運転に専念できる環境が整えられている。拡大
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トヨタのお客が動くだけ

個人的に思うのは、レクサスにとってLMは欧州のプレミアムブランドとの違いを明確にする車種になるだろうってこと(新型は欧州でも販売予定)。レクサスはこれまでドイツ勢を見ながら「追いつけ追い越せ」だった。しかし今後は、アジア発のプレミアムブランドとして欧米とは違うオリジナル路線を開拓していくべきだと思う。その先鋒(せんぽう)がLMと考えれば、大いにアリだと思う。

さて、長い前置きとなったが、今回のコラムは「そのLMの国内発売にあたり市場にはどんな変化が起こりうる? Lクラスミニバンの勢力図は変わるのか?」というのがテーマだ。

結論から言えば、大きな影響はないだろう。

なぜなら、前提として、いま国内のラージクラスミニバンの多くはアルファード/ヴェルファイアだからだ。だからそのユーザーがLMに乗り換えたとしても、「日産エルグランド」の販売が劇的に減るわけではない。

間違いなく起こるのは、「アルファード/ヴェルファイアの上級グレードをショーファードリブンとして使うユーザーの一部がLMへ流れる」という現象だろう。しかしそれは、トヨタとしてはどうってことはない。むしろ、同じメーカー内のより高価な車種が売れるのだからありがたいことである。そのためのLMなのだから。

編集部からはもうひとつ、「ショーファードリブンとしてのセダン販売への影響はどうか?」というお題も示されたのだが、これについても筆者の考えは「まったくないかといえばゼロではないかもしれないが、大勢には影響ない」となる。

その理由は、街を見渡せばわかる。LM発売前の現時点でも、ショーファードリブンのアルファード/ヴェルファイア化は進行している。セダンからミニバンへと移る人は、とっくに移っているのだ。逆に、いま残っているセダンのショーファーユーザーは、そんな状況でもあえてセダンを選んでいるわけだから、徐々にセダンからミニバンへと移行することはあっても、レクサスからミニバンが出たからといって、急に乗り換えることはないだろう。

「LEXUS」ロゴを中央に配置したリアまわりは、U字型のワイドなランプが個性を主張する。
「LEXUS」ロゴを中央に配置したリアまわりは、U字型のワイドなランプが個性を主張する。拡大
国内のLクラスミニバン市場において、いま圧倒的な支持を得ているのが「トヨタ・アルファード」。そのユーザーが「レクサスLM」に流れることはあるだろうが、結果的に他ブランドへの影響はあまりないと予想される。
国内のLクラスミニバン市場において、いま圧倒的な支持を得ているのが「トヨタ・アルファード」。そのユーザーが「レクサスLM」に流れることはあるだろうが、結果的に他ブランドへの影響はあまりないと予想される。拡大
ショーファードリブンとしての使用を前提に開発された、2列4人乗り仕様車のインテリア。アームレストやオットマンにまでヒーターが備わる大型のシートが鎮座する。
ショーファードリブンとしての使用を前提に開発された、2列4人乗り仕様車のインテリア。アームレストやオットマンにまでヒーターが備わる大型のシートが鎮座する。拡大
4人乗り仕様の後席前方には、48インチの大型ワイドディスプレイが配置される。左右にセパレートしたサンルーフも特徴的な装備のひとつだ。
4人乗り仕様の後席前方には、48インチの大型ワイドディスプレイが配置される。左右にセパレートしたサンルーフも特徴的な装備のひとつだ。拡大

豪華仕様は注意が必要

というわけで、レクサスLMが登場して市場にはどんな影響が出るかといえば「いまアルファード/ヴェルファイアを使っているユーザーの一部がそちらを選ぶようになる」に尽きるわけで、それ以上でもそれ以下でもない。ちなみに国内では、最もラグジュアリーなタイプとなる4人乗り仕様から販売が始まるそうだ。

ところで、2019年に先代レクサスLMがグローバルデビューした際、インターネットの掲示板では「パーティションのおかげで運転席がリクライニングできない。そんなクルマは買えない」というオーナードライバーの書き込みがあり、それに共感する反応もそれなりにあった。

パーティションとは4人乗り仕様に組み込まれる、前席と後席の間にある隔壁のことだ(ちなみにこれがあると左右のBピラーをつなぐ構造材が組み込まれるので車体剛性は大幅にアップする)。

間違いないのは、レクサスLMの4人乗りはそういったオーナードライバーたちをターゲットにしたクルマではないこと。「アルファード/ヴェルファイアの上級仕様」ではなく、あくまで雇われた運転手が運転を担い、あるじが後席に座って移動するクルマなのである。同じLMでも3列シートモデルなら「アルファード/ヴェルファイアの上級仕様」として選んでもいいが、4人乗りに関してはそこを見誤ってはいけないだろう。

(文=工藤貴宏/写真=トヨタ自動車/編集=関 顕也)

新型「レクサスLM」の国内販売に際しては、4人乗り仕様から順にリリースされる予定だ。
新型「レクサスLM」の国内販売に際しては、4人乗り仕様から順にリリースされる予定だ。拡大
パーティションで仕切られる4人乗り仕様のインテリアを側方から見た様子。パーティションの上部には、乗員とその周辺温度を検知する「温熱感IRセンサー」が備わり、最適な空調を実現するという。
パーティションで仕切られる4人乗り仕様のインテリアを側方から見た様子。パーティションの上部には、乗員とその周辺温度を検知する「温熱感IRセンサー」が備わり、最適な空調を実現するという。拡大
新型「レクサスLM」のパワートレインについては、2.4リッター直4ターボハイブリッドと2.5リッター直4ハイブリッドという、2種類のハイブリッドシステムが用意される。
新型「レクサスLM」のパワートレインについては、2.4リッター直4ターボハイブリッドと2.5リッター直4ハイブリッドという、2種類のハイブリッドシステムが用意される。拡大
工藤 貴宏

工藤 貴宏

物心ついた頃からクルマ好きとなり、小学生の頃には自動車雑誌を読み始め、大学在学中に自動車雑誌編集部でアルバイトを開始。その後、バイト先の編集部に就職したのち編集プロダクションを経て、気が付けばフリーランスの自動車ライターに。別の言い方をすればプロのクルマ好きってとこでしょうか。現在の所有車両は「スズキ・ソリオ」「マツダCX-60」、そして「ホンダS660」。実用車からスポーツカーまで幅広く大好きです。

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