第747回:あらゆる場所を3つの言葉で 革新的な位置情報サービス「what3words」のトップを直撃!
2023.06.13 エディターから一言世界地図を57兆のマス目に
「いちば。こうてい。おいて」
意味を探ろうにもなんのことやらワケの分からない言葉の羅列だが、この3つのワード、実は東京・渋谷のハチ公像付近を示している。
「what3words(ワットスリーワーズ)」という名の位置情報サービスが、日本で注目を集めている。クルマ好きには、スバルが車載用としては日本初となる音声コマンド機能をもたせたwhat3wordsアプリを「クロストレック」に搭載したことが知られているのではないだろうか。また、アルパインのカーナビやナビタイムのアプリにも検索機能が搭載されるなど、身近なところでの採用事例が増えている。あるいは北海道の恵庭市が、倒木や鳥獣死骸があるといった市民からの位置情報提供にこのサービスを試験導入したという自治体での採用事例を聞くと、その利便性が期待を集めていることが伝わってくる。
what3wordsのロジックは至ってシンプルだ。世界地図を細かくマトリクス化したうえで、それぞれの四角に3つの言葉を割り当てることで、そのポイントを分かりやすく共有する。ただし、その単位は膨大だ。ひとつのマトリクスは3m四方、つまり9平方メートルに相当。それを全世界規模にあてはめると実に57兆のマス目と化すという。このおのおのを3つの言葉で完全に区別することは可能なのだろうか。今までにバグったりトラブったりしたことはないのだろうか。素朴な疑問をぶつけてみたのは「ビジネストリップ」として来日していたクリス・シェルドリックCEOだ。
「ありませんね。この3ワードはAIで生成されたようなものではなく、数学的に割り振られたものです。そもそも57兆の区分自体は、ユーザーの使いやすさと3つのワードでかぶらずに振り分けできる限界を、数学者と検討して決めました」
目印がなくても場所が伝わる
そもそもシェルドリックさんがこのサービスを発案したきっかけは前職にある。アーティストのマネジメント事務所で働いていた氏は、とあることに悩んでいた。
「例えば野外のライブやフェスなどで、ミュージシャンやスタッフとの集合場所を知らせようにも、会場に目印になるものがないのでポイントが的確に指示できないんですね。なんなら緯度経度という方法もありますが、そのためだけになじみのない10桁や20桁の数字を覚えるのは無理ですし、検索時に打ち間違えやすい。そもそもミュージシャンは数字に縛られたくない人々ですから、もう私の顔を見るとへきえきしながら、地図野郎が来たぞとなるわけです。そんなわけで、目印のない場所でもスマートにポイントを伝える方法はないものかと思い悩んだのがこのサービスの誕生につながっています」
確かに前述のハチ公のように、誰もが知るランドマークであればまだしも、何もないところでピンポイントに位置共有を図ることは難しい。3m四方というのはGPSの精度を考慮しても見渡せば必ず相手が目に入る。これより大きいと面倒になり、小さくても意味がないという絶妙のスケール感でもある。
メジャーなポイントにはシンプルな言葉を
スバルはSBIインベストメントとの共同会社を介して、2019年からwhat3wordsに出資しているが、彼らがこのサービスに着目したことには自らの商品の特性も関係している。ヨンクの行動範囲や移動の自在性を生かすうえで、世界全域を簡単に網羅できる言語は、ユーザー間のコミュニケーションに有効だと考えたわけだ。
ちなみに3つのワードは45言語以上に対応しているから、設定いかんで同じ場所を外国人と共有することも可能だ。前述のハチ公像付近は英語では「crowned.javelin.salad」、イタリア語では「tacchini.posacenere.ritarda」となる。言葉は事務的に割り当てられるため、そのポイントとの関連性が配慮されないのは玉にきずだ。
「でも、メジャーなポイントには語数の少ないシンプルワードを割り当てるようなアルゴリズムを採用しています」
と教えられて、試しに八丈島付近の太平洋を指してみると「ぎれいてき。かじりたくない。こんぱくと」と示された。コンパクトは英語だろうとツッコミたくなるが、周りに何もない海上でもこの3ワードでポイントを共有することは可能だ。例えば上野公園での花見にピザでもとろうかとなれば「じめん。のきさき。にくじゃが」と伝えれば、桜の木の下のポイントを知らせることができる。実際、デリバリーの分野ではラスト1マイルの所要時間を40%以上短縮できたというデータもあるそうだ。そういう点からみても3m四方というコマ割りはちょうどいいのだろう。
有償化は考えていない
what3wordsはPCのブラウザとスマホ等のアプリで提供されるサービスだが、現時点では個人情報の登録を求められることもなければ操作画面に広告がつきまとうこともない。ある意味、GAFAのサービスのような遠回しに銭ゲバという気配がないのも特徴だ。
「今のところ、広告や課金といったかたちでの有償化はまったく考えていません。われわれの収益は現在、クライアントからのライセンス使用料で賄えています。彼らやわれわれの出資者に応えるために最も大切なことは、このサービスを可能な限り多くの方に知ってもらい、使ってもらうこと。今はその段階です」
前述のスバルやアルパインのみならず、メルセデス・ベンツや上海汽車といった自動車企業、インテルやソニーなどが設立したベンチャーキャピタル、果てはドイツ鉄道など、what3wordsは世界からさまざまなな出資を集めている。特にドイツ鉄道のような公共公益を重視する企業の支持は興味深いところだ。金じゃないんだよと表するのはきれいすぎるのかもしれないが、今、what3wordsはその利便を社会に体験・認知・活用してもらうことが最も大事なプロセスということになるのかもしれない。
そういう意味では日本の場合、クルマ軸で最大の分母となるのはトヨタだ。トヨタの門を開くのは難しいですかと、ちょっと意地悪な質問をシェルドリックさんに向けてみたところ、いかにもイギリスの方らしいウイットに富んだ答えが返ってきた。
「個々のビジネスのお話はできませんが、新幹線にはたくさん乗ることができましたよ」
(文=渡辺敏史/写真=what3words、webCG/編集=藤沢 勝)

渡辺 敏史
自動車評論家。中古車に新車、国産車に輸入車、チューニングカーから未来の乗り物まで、どんなボールも打ち返す縦横無尽の自動車ライター。二輪・四輪誌の編集に携わった後でフリーランスとして独立。海外の取材にも積極的で、今日も空港カレーに舌鼓を打ちつつ、世界中を飛び回る。
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