マツダ以外の日本メーカーは、なぜディーゼル車を積極的につくらないのか?
2023.06.27 あの多田哲哉のクルマQ&A日本メーカーのディーゼル車というと、国内では真っ先にマツダの名が浮かびます。トヨタをはじめ、ホンダや日産などのメーカーはなぜ(昔から)ディーゼルを積極的につくらないのでしょう? 欧州市場よりも北米市場に軸足を置いているからですか?
「欧州市場はディーゼル」という印象を抱かれる方がいるかもしれませんが、それもまた時代とともに変わるものです。
かつてスポーツカー「86」の欧州仕様を検討した際、欧州の販売サイドから「どうしてもディーゼル版を用意してほしい」と強く要請されたのですが、フォルクスワーゲンの不正問題や燃料代の上昇などディーゼルを取り巻く状況が変わってしまうと、話はトーンダウン。結局、うやむやになってしまいました。このように、パワーユニット開発には、法規制や流行など世の状況に左右される部分があるのです。
その割には開発におカネがかかるというのも、ディーゼルエンジンの難しいところです。具体的には、圧縮比が高く専用の噴射ポンプも必要になる、といったことが挙げられます。
それで日本のメーカーはなかなか手が出せずにいたのですが、そうこうするうちに、直噴ガソリンエンジンの性能が上がってきました。このタイプのエンジンは圧縮比が高く、性質としてはディーゼルに近いといえますね。その後、多くのメーカーが「直噴ガソリンでいこう」という流れに乗り、ディーゼルには注力しなくなっていったというのが、これまでの経緯です。
マツダがディーゼルに力を入れるのは、私が思うに、かつてのロータリーと同じように、そこでブランドの特別感やユニークさを表現しようという戦略もあってのことでしょう。
もっとも、そのマツダですら、重量がかさみ官能性にも乏しいディーゼルエンジンをスポーツカーに使うことはないとは思いますが……。

多田 哲哉
1957年生まれの自動車エンジニア。大学卒業後、コンピューターシステム開発のベンチャー企業を立ち上げた後、トヨタ自動車に入社(1987年)。ABSやWRカーのシャシー制御システム開発を経て、「bB」「パッソ」「ラクティス」の初代モデルなどを開発した。2011年には製品企画本部ZRチーフエンジニアに就任。富士重工業(現スバル)との共同開発でFRスポーツカー「86」を、BMWとの共同開発で「GRスープラ」を世に送り出した。トヨタ社内で最高ランクの運転資格を持つなど、ドライビングの腕前でも知られる。2021年1月に退職。