海外で広まるテスラの充電規格 日本のEVユーザーはこの先どうなる?
2023.07.24 デイリーコラム急がなければ取り残される!
北米のEV充電規格は、テスラ・スーパーチャージャーに統一されることが決定的になった。フォードとゼネラルモーターズ(GM)に加えて、メルセデス・ベンツと日産自動車が2025年からの導入を決定。フォルクスワーゲングループも協議中と報道されている。
そもそも北米でのEVシェアはテスラ1強。テスラがEV市場の約7割を占めており、急速充電器の数でも断然リードしていた。
テスラCEOのイーロン・マスク氏は、スーパーチャージャーを他社EVに開放することを表明済みで、規格名もNACS(北米充電標準規格)に変更している。マスク氏はツイッターでトヨタにも合流を呼びかけたが、現状、トヨタ製EVはまだほとんど売れておらず、巨象がアリに情けをかけたような格好だ。
北米には、日本標準たるCHAdeMO(チャデモ)規格の充電器も存在するが、現在は「日産リーフ」専用になっており、近い将来消滅する。「日産アリア」は、フォードやGMのCCS1(Combined Charging System 1)規格を採用していたが、2024年以降に販売されるモデルにはNACS用アダプターが提供され、2025年以降に生産される車両にはNACS用充電ポートが搭載される。北米向けの日本製EVについては、すべてテスラ・スーパーチャージャー規格に変更することになるだろう。というより、急がなければ取り残される。
一方欧州ではCCS2が標準で、テスラ・スーパーチャージャーもCCS2規格に変更したうえで、全EVに開放されている。日産アリアも欧州ではCCS2だ。
そして中国。世界最大のEV大国だが、こちらはCHAdeMOに近い独自のGB/T規格が標準だ。さらなる充電の高出力化のため、日本と共同で新たな充電規格「ChaoJi(チャオジ)」を開発したが、まだ充電器も、対応するEVも存在しない。
ということで、日米欧中それぞれの標準充電規格がバラバラなのだが、お互いに行き来はまずないので、実用上の影響はない。ただ、先行開発された日本のCHAdeMO規格が取り残され、またしてもガラパゴス化していることは間違いない。ああ……。
今後日本は、どうすればいいのだろう。
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日本の規格は“いいとこナシ”
日本には、CHAdeMOとテスラ・スーパーチャージャーしか存在しないので、私もその2種類の規格しか体験していないが、利便性で比較すれば、テスラ・スーパーチャージャーの圧勝だ。充電コネクターは小さくて扱いやすいし、充電口に差し込むだけで充電が始まる。ケーブルも細くて軽い。CHAdeMOのコネクターやケーブルを持つと、消防士になった気分になるが、それとは大違いだ。充電器本体のコストも、量産効果もあってかなり安価だと想像される。
ただ、テスラ・スーパーチャージャー(V3)の実際の充電速度は、思ったほどは速くない。最大出力は250kWと、CHAdeMOの最大150kW(まだほんの少数で、大多数は50kWや22kW)を圧倒しているが、実際に充電すると、最大出力が200kWを上回ったことはなく、満充電に近づくにしたがってどんどん充電速度が落ちる。20%から80%まで充電する場合で、平均80kW/hだった。CHAdeMOの150kW充電器でも、平均70kW/hくらいは出たし、性能的にはもっと高められるという。
それでもテスラの場合、あの「どんどん落ちる充電出力」がバッテリーを保護しており、それもあってテスラ車のバッテリーは、20万km走っても劣化がごく小さいのだろう。
とにかく、日本のCHAdeMOがテスラ・スーパーチャージャーを上回っている部分は皆無。なかでも最大の弱点は、一回あたりの急速充電時間が30分間に制限されていることだ。充電速度が遅いうえに時間制限があるのだから、不自由で仕方がない。このままでは、日本でEVが爆発的に普及することなどありえない。正直、日本で乗る限り、EVはそれほどエコロジーでもエコノミーでもないので、急いで普及させる必要もないのだが。
日本のEV充電規格が、近い将来テスラ・スーパーチャージャーに統一されることも考えられない。スーパーチャージャーは、日本にはまだ80カ所・約400基しかない。基数で言えば、CHAdeMOの20分の1程度。テスラ車の保有台数が少ないからこそ、王様でいられるのだ。
せめて制限・制約の緩和を
結局日本では、中・大型EVならテスラ一択、でなければセカンドカーとしての「日産サクラ/三菱eKクロスEV」の一択だと考えている。それ以外のEVは、鉄アレイを足に巻き付けて歩くようなものだ。
CHAdeMOの利点は、世界で唯一、VtoH(ヴィークル・トゥ・ホーム:EVにためた電力を家庭用に利用できるシステム)に対応している点にある。日本では、EVを災害(停電)への備えと考える人が非常に多い。
ところがそれは自然災害大国日本の特殊事情で、海外ではそういう需要は皆無に近いという。かつてオバマ米大統領は「スマートグリッド構想」を打ち出したが、VtoHを実現するだけでも、高価な機器(現在日本で最低50万円+設置費用50万円前後)の導入が必要なこともあり、掛け声倒れに終わった。日本では補助金効果もあってそれなりに普及しているが、これまたガラパゴスなので、今後大幅にコストが下がる見込みは薄い。
個人的には、10年前から自宅屋根にソーラーパネルを設置しているので、VtoHも検討したが、東京都が120万円も補助金を出してくれると聞き、家庭用蓄電池のほうを選ぶことにした(自己負担額は約50万円)。東京都はVtoHにも最大100万円補助してくれるけれど、そのためにはEVかPHEVが必要。それはCHAdeMO規格の国産車(輸入EVはCHAdeMO規格でもVtoHには非対応)でなくてはならないので、制約と出費が大きすぎて断念した。
結局日本は、いまさらCHAdeMOをやめるわけにはいかず、今後はその進化形であるChaoJiが日中で普及することを祈るしかないが、まだこの世に存在しないものに期待するより、まずは30分間の時間制限を緩和できるような状況にすることが先決ではないでしょうか。
(文=清水草一/写真=花村英典、テスラ、日産自動車/編集=関 顕也)

清水 草一
お笑いフェラーリ文学である『そのフェラーリください!』(三推社/講談社)、『フェラーリを買ふということ』(ネコ・パブリッシング)などにとどまらず、日本でただ一人の高速道路ジャーナリストとして『首都高はなぜ渋滞するのか!?』(三推社/講談社)、『高速道路の謎』(扶桑社新書)といった著書も持つ。慶大卒後、編集者を経てフリーライター。最大の趣味は自動車の購入で、現在まで通算47台、うち11台がフェラーリ。本人いわく「『タモリ倶楽部』に首都高研究家として呼ばれたのが人生の金字塔」とのこと。
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