ロイヤルエンフィールド・スーパーメテオ650(6MT)
いぶし銀の魅力 2023.08.15 試乗記 120年を超す歴史を誇る名門、ロイヤルエンフィールドから、排気量648ccの並列2気筒エンジンを搭載した「スーパーメテオ650」が登場。インドの巨人が世に問うた新時代の旗艦は、とがったところがないからこそ楽しめる、今という時代に合う一台に仕上がっていた。きらびやかというより、渋い
ロイヤルエンフィールド・スーパーメテオ650は、バーチカルツインエンジンを搭載するクルーザーだ。最近、ミドルクラスには各メーカーがいろいろなモデルを投入しているが、スーパーメテオ650は唯一アメリカンスタイルのマシンということになる。
バイクを見て感じるのは、クラシカルなバーチカルツインエンジンの美しさ。一つひとつの部品も丁寧に仕上げられている。とはいえ、フロントにも倒立フォークを採用したりしているものの、全体としては無難にまとめられているので、きらびやかな感じではない。どちらかというと渋めな印象である。
ただ、オーソドックスなマシンであるがゆえにカスタムのベースとしてはとても可能性がありそうだ。海外ではロイヤルエンフィールドのカスタムパーツをつくっているメーカーが多く、今ならECサイトで簡単に購入できる。これからスーパーメテオ650の部品も増えてくるだろうし、「INT650」用のパーツを転用できる部分もあるかもしれない。倒立フロントフォークの足まわりや、キャストホイール、エンジンの造形を生かしてカスタムを施したら、個性的なバイクに仕上げることもできるはずだ。
一通りバイクを眺めたあとで走りだしてみることにした。エンジンを始動してみるとバーチカルツインの排気音は素晴らしく、スロットルをあおるたびに体に伝わる鼓動感もある。アイドリング付近でクラッチをつなぎ、低回転からスロットルを開けてみると、実に軽やかに加速していく。トルクで車体を押し出すのではなく、速度がスルスルと増えていくようなフィーリングなのは、振動がなくスムーズなエンジン特性だからだろう。低・中回転を使ってストリートを走ってみると、大きなフライホイールによってなめらかにエンジンが回っている感じが心地いい。スロットルをひねれば適度な排気音と鼓動感を楽しむことができる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
現実的な速度域にフォーカスした“楽しさ”
ステップ位置が前にあるので足を投げ出すようなポジションになるが、大きなハンドルや低めのシートとのマッチングは良好。このシート高でステップがより後ろにあったら、ヒザの曲がりがキツくなってしまうはずだ。結果としてシートに全体重がかかることになるけれど、座り心地がいいから長時間の走行もこなせそうだ。
シートを極端に低くしたクルーザーのなかには、リアショックのストロークが足りず、乗り心地がよくないというバイクもあるが、スーパーメテオ650はこのあたりのバランスも考えられている。大きなギャップを越えたりするとさすがに若干の突き上げを感じたりするのだけれど、十分なストロークが確保されているから乗り心地は悪くない。
高速道路では、法定速度内でのクルージングが心地いいところ。トップギアでツインらしさを感じられるのは100km/hくらいまでだ。もちろん、現行のツインエンジンだから、回せばもっと速く走らせることもできるけれど、飛ばしたところで高回転が気持ちいいというわけではないし、いくらスムーズなエンジンとはいえ、高回転を常用すればさすがにステップやハンドルにも若干振動が出てくる。実用速度域での楽しさにフォーカスしたエンジンである。だから楽しい回転域を使っていると、自然に法定速度内で走ることになる。
拡大 |
拡大 |
拡大 |
拡大 |
とがったところがあるわけじゃないけれど
予想外に(しかも相当に)楽しかったのがワインディングロードだった。19インチフロントタイヤらしいバンキングの軽快感があり、低・中速コーナーの進入ではバイクをスパッと気持ちよく倒し込める。ステップが前にあるから、ブレーキ時にも体を支えやすく、コーナリングで一番むずかしい、ブレーキングから倒し込みの操作が楽。この手のバイクとしてはバンク角もそこそこにあるし、旋回中も安定している。適度なペースで峠を走るのだったら、スポーツバイクやネイキッドよりも楽しいくらいだ。
初めて走る峠道では、「思っていたよりコーナーが曲がり込んでいた」というシーンに出くわしてドキドキしたりすることもあるが、そんなときのライン修正も簡単だ。これならビギナーやリターンライダーでも、バイクを操る楽しさが感じられることだろう。
クルーザーのなかには極端に車体を低くしたり、フォークを伸ばしたりしているモデルもあるが、もしもスーパーメテオ650がそんな車体だったら、このコーナリングは生まれなかったはずだ。リアショックの長さなども含め、さまざまなシチュエーションで楽しく走れることを考え、車体がつくられているのである。
……と、こんな感じで街から峠、高速道路を走ってみた総合的な印象は非常によかった。ひとつ気になったことといえば、リアブレーキの初期のタッチが若干鋭すぎたことくらい。強めにブレーキングしたとき、リアタイヤがロックしやすいのである。すぐにABSが介入するから問題はないのだが、もう少し初期のタッチを柔らかくしたほうが気持ちよく走れるはずだ。ちなみに、ABSは前後ともに作動は安定していて、キックバックも少なかった。
スーパーメテオ650は、際立って個性的なわけではないし、何かが突出しているわけでもない。言ってみれば普通のバイクである。生まれてきた時代が少し違ったら、埋もれてしまった可能性もある。しかし今の時代だからこそ、このバイクはとても魅力的なのだと思う。
(文=後藤 武/写真=向後一宏/編集=堀田剛資)
【スペック】
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=2300×890×1155mm
ホイールベース:1500mm
シート高:740mm
重量:241kg
エンジン:648cc 空冷4ストローク直列2気筒SOHC 4バルブ(1気筒あたり)
最高出力:47PS(34.6kW)/7250rpm
最大トルク:52.3N・m(5.33kgf・m)/5650rpm
トランスミッション:6段MT
燃費:--km/リッター
価格:97万9000円~103万9500円
◇◆こちらの記事も読まれています◆◇
◆ロイヤルエンフィールド・スーパーメテオ650(6MT)【海外試乗記】
◆ロイヤルエンフィールドが「スーパーメテオ650」を日本に導入 排気量650cc級のクルーザーモデル
◆画像・写真:東京モーターサイクルショー2023(ロイヤルエンフィールド)

後藤 武
ライター/エディター。航空誌『シュナイダー』や二輪専門誌『CLUBMAN』『2ストマガジン』などの編集長を経てフリーランスに。エアロバティックスパイロットだった経験を生かしてエアレースの解説なども担当。二輪旧車、V8、複葉機をこよなく愛す。
-
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】 2025.12.22 メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。
-
フォルクスワーゲンTロックTDI 4MOTION Rライン ブラックスタイル(4WD/7AT)【試乗記】 2025.12.20 冬の九州・宮崎で、アップデートされた最新世代のディーゼルターボエンジン「2.0 TDI」を積む「フォルクスワーゲンTロック」に試乗。混雑する市街地やアップダウンの激しい海沿いのワインディングロード、そして高速道路まで、南国の地を巡った走りの印象と燃費を報告する。
-
フェラーリ・アマルフィ(FR/8AT)【海外試乗記】 2025.12.19 フェラーリが「グランドツアラーを進化させたスポーツカー」とアピールする、新型FRモデル「アマルフィ」。見た目は先代にあたる「ローマ」とよく似ているが、肝心の中身はどうか? ポルトガルでの初乗りの印象を報告する。
-
ホンダN-ONE e:G(FWD)【試乗記】 2025.12.17 「ホンダN-ONE e:」の一充電走行距離(WLTCモード)は295kmとされている。額面どおりに走れないのは当然ながら、電気自動車にとっては過酷な時期である真冬のロングドライブではどれくらいが目安になるのだろうか。「e:G」グレードの仕上がりとともにリポートする。
-
スバル・クロストレック ツーリング ウィルダネスエディション(4WD/CVT)【試乗記】 2025.12.16 これは、“本気仕様”の日本導入を前にした、観測気球なのか? スバルが数量限定・期間限定で販売した「クロストレック ウィルダネスエディション」に試乗。その強烈なアピアランスと、存外にスマートな走りをリポートする。
-
NEW
病院で出会った天使に感謝 今尾直樹の私的10大ニュース2025
2025.12.24デイリーコラム旧車にも新車にも感動した2025年。思いもかけぬことから電気自動車の未来に不安を覚えた2025年。病院で出会った天使に「人生捨てたもんじゃない」と思った2025年。そしてあらためてトヨタのすごさを思い知った2025年。今尾直樹が私的10大ニュースを発表! -
NEW
第97回:僕たちはいつからマツダのコンセプトカーに冷めてしまったのか
2025.12.24カーデザイン曼荼羅2台のコンセプトモデルを通し、いよいよ未来の「魂動デザイン」を見せてくれたマツダ。しかしイマイチ、私たちは以前のようには興奮できないのである。あまりに美しいマツダのショーカーに、私たちが冷めてしまった理由とは? カーデザインの識者と考えた。 -
ホンダ・ヴェゼルe:HEV RS(FF)【試乗記】
2025.12.23試乗記ホンダのコンパクトSUV「ヴェゼル」に新グレードの「RS」が登場。スポーティーなモデルにのみ与えられてきたホンダ伝統のネーミングだが、果たしてその仕上がりはどうか。FWDモデルの仕上がりをリポートする。 -
同じプラットフォームでも、車種ごとに乗り味が違うのはなぜか?
2025.12.23あの多田哲哉のクルマQ&A同じプラットフォームを使って開発したクルマ同士でも、車種ごとに乗り味や運転感覚が異なるのはなぜか? その違いを決定づける要素について、トヨタでさまざまなクルマを開発してきた多田哲哉さんに聞いた。 -
クルマ泥棒を撲滅できるか!? トヨタとKINTOの新セキュリティーシステムにかかる期待と課題
2025.12.22デイリーコラム横行する車両盗難を根絶すべく、新たなセキュリティーシステムを提案するトヨタとKINTO。満を持して発売されたそれらのアイテムは、われわれの愛車を確実に守ってくれるのか? 注目すべき機能と課題についてリポートする。 -
メルセデス・ベンツGLA200d 4MATICアーバンスターズ(4WD/8AT)【試乗記】
2025.12.22試乗記メルセデス・ベンツのコンパクトSUV「GLA」に、充実装備の「アーバンスターズ」が登場。現行GLAとしは、恐らくこれが最終型。まさに集大成となるのだろうが、その仕上がりはどれほどのものか? ディーゼル四駆の「GLA200d 4MATIC」で確かめた。














