レクサスIS250 Fスポーツ(FR/6AT)/レクサスIS F(FR/8AT)【試乗記】
レクサスが見えてきた 2011.01.12 試乗記 レクサスIS250 Fスポーツ(FR/6AT)/レクサスIS F(FR/8AT)……502万5000円/832万3150円
控え目を旨とするレクサスの個性は、いまひとつ伝わりにくい。けれども、「レクサスIS」シリーズのスポーティ仕様2台は、このブランドの個性を明確に伝えてくれた。
白河の清きに……
2010年8月にマイナーチェンジを受けた「レクサスIS」シリーズのスポーティ仕様2台にまとめて乗る機会を得た。欧米メーカーと同じようにレクサスはイヤーモデルを設定しているので、今回試乗した2台は年次改良を受けた2011年モデルという呼び方もできる。
1台がISシリーズの新グレード「IS250 Fスポーツ」、もう1台が423psの5リッターV8エンジンを積む「IS F」。「Fスポーツ」には318psの3.5リッターV6搭載の「IS350 Fスポーツ」という“特盛り”もラインナップされるけれど、今回試乗したのは215psの2.5リッターV6を載せた“並盛り”仕様だ。
この2台に乗りながら、日本におけるレクサスブランド(およびレクサスIS)のデビューから5年、「このクルマでしか味わえない個性」が明確になってきたと感じる。
それは、ひと言でいえば透き通ったドライブフィール。エンジンも足まわりも「俺が俺が」と主張するわけではないけれど、ふと気が付くと「いい仕事してますね」と思える。淡麗辛口の乗り味だ。
このすっきり澄んだ味を物足りないと捉える向きもあるでしょう。「白河の清きに魚も住みかねて」とでも言いましょうか。けれどもこの繊細なフィーリングは、少なくとも欧米のプレミアムブランドのバターをたっぷり使った“こってり味”のまねではない。
そして2011年モデルのレクサスISシリーズに触れると、“薄味の高級車”というチャレンジが成功しつつあることが感じられる。特に最初に試乗したIS250 Fスポーツは、これまで乗ったレクサス車の中で一番と言ってもいいぐらい気に入った。
透き通ったドライブフィール
「Fスポーツ」とは、「レクサスLFA」を頂点とする「Fシリーズ」が持つスポーティなイメージを反映した仕様。ラジエターグリルは兄貴分(?)の「レクサスIS F」と同様にメッシュ状となり、サスペンションにもスポーティなセッティングが施される。ただしエンジンとトランスミッションはノーマル仕様の「レクサスIS250」と同じ。
ということは“なんちゃってスポーティモデル”か、と身構えたけれど、その予想は大ハズレ。まずステアリングホイールから伝わる手応えが抜群にいい。路面がどんな状態か、タイヤはどのくらいの角度で切れているのかなどなど、細かい情報がくっきり鮮明に伝わってくる。この雑味のないステアリングフィールの背景には、電動パワーステアリングの入念なチューニングのほか、専用の18インチアルミホイールの剛性の高さが大きく寄与しているようだ。
で、この18インチを履きつつも、乗り心地が悪くなっているという感じはしない(ちなみにノーマル仕様は17インチ)。ホイールだけでなく、スプリング、ダンパー、リアのスタビライザー、サスペンションブッシュなどをトータルでスポーティな方向にセッティングしたとのことで、姿勢変化の少なさと、フラットな乗り心地は好ましく感じられる。
爆発的な加速感や、巌(いわお)のようなどっしり感といったわかりやすい特徴はない。けれども、クルマの各部から情報が鮮明に伝わってくるから、意のままに操っているという実感が得られる。しみじみと「いいクルマに乗ってるなぁ」と感じさせるたぐいのクルマだ。個人的な好みを言えば、せっかくアンダーステイトメントの美学を目指しているのだから、外観はノーマルで中身だけFスポーツという仕様を望みたい。
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ブランド浸透への地道な取り組み
久しぶりに「IS F」に乗って、その変わりっぷりに驚いた。乗り心地がぐんと良くなっているのだ。2年前にデビューした直後のIS Fの乗り心地は、もっとはっきり硬かった。しかもビシッと引き締まった好感が持てる硬さではなく、ドッタンバッタンするイヤな感じの硬さだった。それが大きく改善され、一本のしなやかな線のように走るようになったのだ。しかもスタビリティは高いから安心してコーナーに飛び込むことができる。
IS Fの製品企画を担当したレクサスセンターの坂本守主幹によれば、サーキット走行時の安定感を損なうことなくバネ上の動きを減らすことに腐心したとのこと。そのためには、リアサスペンションの動きをよくすることが効果的なチューニングだったという。
具体的には、リアサスペンションのアーム類のねじれ方向の剛性を少し落としつつ、リアのキャンバーを増やすことで踏んばる力をキープした。フロントに関しては、バネ定数を落としつつ、ダンパーの減衰力を上げた。
結果として、すっきりきれいに走るスポーツセダンとなっている。パワーこそ違うけれど、方向性としては先に試乗したFスポーツと同じベクトルにある。「レクサスIS」というシリーズのラインナップは増えたけれど、ISというシリーズの個性は拡散することなく、一点に集中しつつあるように思えた。
前出の坂本主幹によれば、IS Fは2年間で国内だけで2000人のオーナーの手に渡ったとのこと。そして、オーナーを対象に富士スピードウェイで行うドライビングレッスンが好評なのだという。関谷正徳さんや山路慎一さんといった豪華講師陣が20〜25名の受講者を対象にレッスンを行うそうで、受講者の半数がリピーターということからも内容が充実ぶりがうかがえる。何度でも参加したくなるレッスンなのだ。
レクサスというブランドは、徐々にではあるけれど浸透しているように思える。そしてその背景には、こうした地道な取り組みの成果もあるのだろう。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。