BMW XM(4WD/8AT)
こいつは上物だぜ 2023.09.18 試乗記 「BMW XM」は1978年の「M1」以来のM専用モデルだ。そうした来歴はともかくとして、フロントマスクをはじめとしたスタイリングが放つ、強烈な“圧”の狙いはどこにあるのだろうか。その姿に違和感や不快感を覚えたあなたは、すでにBMWの術中にはまっている。デコトラもかくや
森と泉に囲まれた早朝の高原の集合場所に、重低音の利いた「ンボボボボボ」という排気音とともにBMW XMが姿を現した。このとき、これと似たようなシーンを見たことがある、とピンときた。不穏な呼吸音とともにイカつい物体がぬぼーっと出現するのは、なにかのワンシーンに似ている、という記憶の糸をたどっていくと、映画『スター・ウォーズ』に行き着いた。
BMW Xモデル初のM専用モデルというふれこみでデビューしたBMW XMの第一印象は、ダース・ベイダーに似ているというものだった。『スター・ウォーズ』の公式ホームページによるとダース・ベイダーは身長2m3cm、NBAのロサンゼルス・レイカーズで活躍する八村 塁選手とまったく同じサイズの大男。いっぽう、クルマ界のダース・ベイダーも全長5110mm、全幅2005mmと、なかなかの大型車だ。
そしてダース・ベイダーが光り輝くライトセーバーを武器にしていたように、BMW XMのキドニーグリルの縁取りも、暗がりでギラリと光って存在感を放つ。BMWが「アイコニックグローキドニーグリル」と呼ぶ光るグリルは、日本のデコレーショントラックからインスピレーションを得たのではないか、というのはまったく根拠のない思いつきではあるけれど、でもデコトラを思わずにはいられなかった。
アウディのシングルフレームグリル、レクサスのスピンドルグリル、ロールス・ロイスのパンテオン神殿グリルなどなど、グリルの表現の強さで自社ブランドをアピールする手法を、自分のなかでは「グリルのインフレ」と呼んでいたけれど、ついにここまで来たか、としみじみ(?)する。グリルのインフレ、次はどこに向かうのでしょう?
ギョッとするのも当然だ
前置きが長すぎるので早くスタートしたいところですが、まだ走りだすことができない。というのも、このクルマのスタイルには語るべきことがたくさんあるからだ。
正直、パッと見た瞬間は、ギョッとした。というのも、グリルが光るだけでなく、サイドウィンドウを囲むモールがゴールドになっていたり、ホイールがアメリカ西海岸のカスタムカーっぽかったり、今までの高級車の常識とかけ離れていたからだ。
パッと見た瞬間から10分経過。細部をガン見して思ったのは、ゴールドのあしらい方や、キドニーグリルというブランドロゴを強調してカッコよさをアピールする方法が、NBAのスター選手や成功したラッパーのファッションをほうふつとさせる、ということだった。つまり、ストリートカルチャーが入っている。
いまや世界中のアパレルの超高級ブランドが、ヒップホップやスケボーといったストリートファッションの影響を受けていることは周知の事実だ。ファッションデザイナーも自動車デザイナーも、時代の潮流を形にする仕事をしているという意味では共通。BMWのデザイナーも、ストリートの流れと無縁ではないはずだ。
そういえば、BMWがビンテージレザーと呼ぶ内装のレザーも、ストリート系のダメージ加工を思わせる。
この春、BMW傘下のロールス・ロイスで、アジア太平洋のリージョナルディレクターを務めるアイリーン・ニッケイン氏にインタビューをしたときに、興味深いことを語っていた。それは、グローバルで若い超富裕層が増えているということだった。
スタートアップのテック系の起業家など、新しいタイプのナウでヤングなお金持ちが、ストリートっぽいハイブランドの洋服に身を包んで乗るクルマだと考えると、BMW XMのデザインはしっくりくる。ある意味、最先端のデザインかもしれない。
BMW XMを見ながら思い出したのは、「ザ・ビートルズにしろ、ビートたけしにしろ、安室奈美恵にしろ、世の中をひっくり返す新しいものは、大人たちを不愉快な気持ちにさせた」というテリー伊藤さんの名言だ。
BMW XMを見た瞬間にギョッとしたのも、同じ理由からだろう。
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ドライバーのツボを知っている
「BMW M1以来のBMW M専用モデル」とうたうBMW XMのスターターボタンを押して、プラグインハイブリッドシステムを起動する。
システム構成を簡単に説明すると、エンジンは最高出力489PSを発生する4.4リッターのV型8気筒ガソリンターボ。8段ATに組み込まれる最高出力197PSのモーターが加勢し、システム全体の最高出力は653PS、最大トルクは800N・mとなる。
満充電の状態であれば100km以上のEV走行が可能と資料にあるとおり、普通に発進するとこのクルマのV8エンジンは眠ったままで、滑らかに加速する。ここでアクセルペダルを強く踏み込むと、V8エンジンが目を覚ます。しかも、ただ目覚めるだけでなく、「ドン!」と爆発的に目覚める。なんというか、赤ん坊が泣き叫びながら目を覚ますように、強烈に自己主張する。
現代の技術をもってすれば、エンジンが寝ているのか起きているのか、分からないぐらいシームレスに加速させることもできるはずだ。あえてそうはしないで、エンジンの存在感を際立たせたのは、BMWの演出だと理解した。
演出といえば排気音も同様で、3500~4000rpm付近から高まる「ファーン」というSFチックなサウンドは、明らかにつくられた音に聞こえる。でも、この音がカッコいい。
実はこのV8エンジンを軸とするハイブリッドシステムは、回して楽しいタイプではない。というのも徹底的にフラットトルク型で、回したからといってカムに乗るわけでもなければ、エンジン回転計の針の上昇スピードが勢いを増すわけでもないからだ。
けれども音の演出で、ドライバーの気持ちを高ぶらせる。そのあたり、BMWはドライバーのツボを熟知しているのだろう。
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“打てば響く”が心地いい
パワートレインの特性を「スポーツ」、さらに「スポーツ+」に切り替えると、レスポンスが一段と鋭くなる。微妙なアクセル操作に繊細に応じるあたりは、電流が流れた瞬間に最大の力を発揮できるモーターの強みがうまく生かされている。いっぽうで、3000rpmから上の伸びやかさはエンジンのよさ。エンジンとモーター、持ちつ持たれつ。
爆発的なパワーを発揮するけれど、決して野蛮ではなく、丁寧に扱いたくなる性質のパワートレインだ。
スポーツ+モードでは、5110mmの全長が4500mmぐらいに引き締まったように錯覚する。ハンドル操作に対する反応がクイックになり、4本のタイヤがすぐ近くにあるように感じるからだ。
ダンパー、4駆システム、スタビライザー、LSD、4輪操舵などなど、シャシー関係の電子制御技術は山盛りで、もはやどの機能の手柄なのか判別できないけれど、車重2710kgのクルマ版ダース・ベイダーが手のひらに収まっているように感じるのは、びっくり仰天だ。
乗り心地について「固いか、柔らかいか」と問われれば、固いと答える。800N・mを受け止めるにはこれくらい強いアシが必要なようで、段差を乗り越えるとビシッという突き上げがある。
いっぽうで、「不快か、快適か」と問われれば、快適と答える。ビシッという突き上げも脳天に響くほどの強度はないし、段差を突破した次の瞬間、揺れが収束するからだ。後味がいい。だから固いけれど気持ちがいい、かたきもちいい乗り心地だ。
BMW XMは、サーキット走行も可能なMハイパフォーマンスモデルという位置づけだ。もちろん、サーキットを走っても速くて楽しい乗り物でしょう。けれども一般道で感じるのは、ハンドルやアクセルの操作に対して思うように反応してくれる正確無比の精度の高さだ。
つまりBMWの美点を煮詰めて、蒸留して、さらにろ過して雑みをなくした透きとおった味わい。そこには純度の高い「駆けぬける歓(よろこ)び」があった。
(文=サトータケシ/写真=郡大二郎/編集=藤沢 勝)
テスト車のデータ
BMW XM
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5110×2005×1755mm
ホイールベース:3105mm
車重:2710kg
駆動方式:4WD
エンジン:4.4リッターV8 DOHC 32バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
エンジン最高出力:489PS(360kW)/6000rpm
エンジン最大トルク:650N・m(66.3kgf・m)/1600-5000pm
モーター最高出力:197PS(145kW)/6000rpm
モーター最大トルク:280N・m(28.6kgf・m)/1000-5000rpm
システム最高出力:653PS(480kW)
システム最大トルク:800N・m(81.6kgf・m)
タイヤ:(前)HL275/35R23 108Y/(後)HL315/30R23 111Y(ピレリPゼロ)
ハイブリッド燃料消費率:8.5km/リッター(WLTCモード)
EV走行換算距離:102.6km(WLTCモード)
充電電力使用時走行距離:107km(WLTCモード)
交流電力量消費率:327Wh/km(WLTCモード)
価格:2130万円/テスト車=2130万円
オプション装備:ボディーカラー<ケープヨークグリーン>(0円)/BMWインディビジュアルレザーメリノ<ディープラグーン×コーヒー/ブラック>
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:3904km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(2)/高速道路(7)/山岳路(1)
テスト距離:295.7km
使用燃料:43.2リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:6.8km/リッター(満タン法)

サトータケシ
ライター/エディター。2022年12月時点での愛車は2010年型の「シトロエンC6」。最近、ちょいちょいお金がかかるようになったのが悩みのタネ。いまほしいクルマは「スズキ・ジムニー」と「ルノー・トゥインゴS」。でも2台持ちする甲斐性はなし。残念……。
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