大胆な挑戦と圧巻の全方位戦略! 新型「センチュリー」に見るトヨタの強み
2023.09.22 デイリーコラムこれからはこの形が本流
2023年9月6日、トヨタから新しい「センチュリー」が発表された(参照)。堂々とした巨体でありながらも、端々にきめ細かなつくり込みを見ることができる。いかにも日本らしい精緻なショーファーカーと、実車からはそんな印象が感じられた。
それと同時に、今回の新型モデルにはいくつもの驚きのポイントがあった。まず、どう見てもSUV、もしくはクロスオーバーというスタイルなのに、トヨタはかたくなに「新しいセンチュリー」と呼ぶのだ。新型の登場にあわせて、従来型はわざわざ「センチュリー(セダン)」と車名を改めているのだから、新しいほうはセンチュリー(SUV)でもよさそうなものである。しかし、そのようには呼ばれない。
この疑問は、発表会後に行われたトヨタ副社長・中島裕樹氏の囲み取材で氷解した。話をまとめると、次の世代のセンチュリーは、この新しいタイプが標準型になるらしい。セダンは、状況によっては消えてなくなるかもしれないのだ。今、将来的に標準型となるモデルをセンチュリー(SUV)と呼んでいると、それ以外に“素のセンチュリー”が必要になってしまう。だったら、今のうちから呼び名を正しておこう……ということなのだろう。
そして、もうひとつ驚いたのは、新しいセンチュリーがFFベースのTNGA GA-Kプラットフォームを採用していたことだ。
既成概念にとらわれない大胆な挑戦
いささか古くさい話だが、高級車の世界では、いまだにエンジンを横置きするFFのプラットフォームより、縦置きのFRプラットフォームのほうが“格”が上だ。そしてトヨタには、「レクサスLS」などに採用されるFR系のGA-Lプラットフォームがある。歴史がものをいう高級車の在り方に沿うのであれば、FR用を使うのが筋だろう。しかし、新しいセンチュリーでは、そうならなかった。もちろん、モーターを追加して4輪駆動にしているからFFではないけれど、それでもトヨタの最上位モデルにFFベースのプラットフォームを用いたのは、挑戦的な選択といえるだろう。
このFFベースの新しいセンチュリーは、同じようなサイズでありながらもFRベースの「ロールス・ロイス・カリナン」と比べると、ボンネットが短く、キャビンが広くなっている。これまでの考え方なら、カリナンのようなFRプラットフォームのほうがありがたがられるけれど、後席空間を優先するなら、室内を広くとれるエンジン横置きのGA-Kのほうが合理的である。さらに新しいセンチュリーでは、オーダー次第で後席ドアをスライドドアにすることも可能で、さらにはオープンカーも仕立ててくれるというから驚きだ。これもショーファーカーとして、相当に革新的なことだろう。
ちなみに、この新しいセンチュリーの企画の出発点は、トヨタの前社長である豊田章男氏の「僕くらいの世代が乗りたくなるショーファーカー」というリクエストであったという。もしかすると、新型センチュリーは新しい世代向けということで、格式よりも合理性を優先させたのかもしれない。
もうひとつ、この発表会で驚かされたのは、新しいセンチュリーだけでなく、それ以外のショーファーカーも数多く展示されたことだ。ステージ上には新型「ヴェルファイア」のプラグインハイブリッド車(PHEV)に、正式発表前の「クラウン(セダン)」も登場。これらは運転手付きのショーファーカー利用も想定したモデルで、実はともに、今回が“初公開”だった。
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ショーファーカーでも全方位戦略
新型センチュリーに、既存のセンチュリー(セダン)、ヴェルファイアPHEV、クラウン(セダン)……。4車種6台のショーファーカーが居並ぶステージはまさに壮観だったが、冷静に考えたら、トヨタはこれ以外にも、レクサスブランドでセダンの「LS」や2023年秋発売予定のミニバン「LM」も抱えている。もっと言えば、本格オフローダーの「LX」にもゴージャスな4人乗り仕様の「エグゼクティブ」グレードがあり、これも当然ショーファーカーのひとつだ。トヨタは新しいセンチュリーを筆頭に、実に7車種ものショーファーカーを擁することになるのだ。
これは個人的に、非常にトヨタらしいやり方だと思う。トヨタの商売は、昔から“全方位”が基本だ。縦軸に大きさ、横軸にキャラクターというグラフを用意して、そのすべてのエリアにモデルを用意してきた。軽自動車はダイハツに任せつつ、その他のジャンルでは網羅的にクルマをとりそろえる。昔風の商売用語で言えば、じゅうたん爆撃(今から思えばずいぶん物騒な言葉だ)。今風に言えばフルラインナップ戦略だ。次世代のパワートレイン戦略にしても同様で、ハイブリッドにPHEV、電気自動車、燃料電池車、水素エンジン車に合成燃料……と、すべての可能性にベットする。トヨタ側から「これからは○○しかありません!」と断定することはないのだ。
だからこそ、ショーファーカーの分野でも「新しいセンチュリーはこれ!」とSUVタイプを提案しつつ、伝統あるセダンも残し、さらにミニバンさえも用意する。まったくもってトヨタらしい。そして全方位だからこそ、おのおのの挑戦では、新型センチュリーのように思い切った一手も打てるわけだ。これもまた、今日におけるトヨタの強さのひとつに違いない。
(文=鈴木ケンイチ/写真=webCG/編集=堀田剛資)
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鈴木 ケンイチ
1966年9月15日生まれ。茨城県出身。国学院大学卒。大学卒業後に一般誌/女性誌/PR誌/書籍を制作する編集プロダクションに勤務。28歳で独立。徐々に自動車関連のフィールドへ。2003年にJAF公式戦ワンメイクレース(マツダ・ロードスター・パーティレース)に参戦。新車紹介から人物取材、メカニカルなレポートまで幅広く対応。見えにくい、エンジニアリングやコンセプト、魅力などを“分かりやすく”“深く”説明することをモットーにする。
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