トヨタFJクルーザー カラーパッケージ(4WD/5AT)【試乗記】
SUVのピーコック革命 2010.12.24 試乗記 トヨタFJクルーザー カラーパッケージ(4WD/5AT)……353万1900円
北米向けに開発されたトヨタの本格派オフローダー「FJクルーザー」が日本に導入。まずはどんなクルマなのかオンロードで試してみた。
ポップな本格SUV
「ランクル40」系へのオマージュを込めたレトロデザインだと聞いていたのだが、試乗会場で目撃したのはオモチャ感覚(いい意味で)あふれるモダンカーだった。四駆だのオフロードだのといった空気も漂っておらず、コンセプトカー風のいでたちだ。
70年代的なテイストともいえるけれど、後ろ向きというよりは新鮮な感覚。1999年の東京モーターショーに出展されたフォードのコンセプトカー「021C」を思い出してしまった。キッチュでポップな、シティ・ビークル。無骨でハードボイルドなイメージなんてない。
ちなみに、今回の試乗ではオフロードコースが設定されていなかったため、四駆性能に関しては試していないのでまったくわからない。トランスファーノブなんて、触れてもいない。「ランドクルーザープラド」ベースだというのだから、たぶんしっかり悪路を走るのだろう。そのあたりは、後ほど別の試乗記でしっかりチェックするはずなので、お楽しみに。
ポップ仕様とはいえ本格SUVなのだから、乗り込むのはやはり登る感覚だ。重厚感あふれる、というよりメチャ重いドアを開け、アシストグリップをつかみステップに足をかけてはい上がる。後席に収まるためには、もう一つ力仕事をしなければならない。観音開きタイプになっていて、内側のハンドルを引いてヨイショと引っ張る。「マツダRX-8」と同様、フロントドアが閉まっていると自力では脱出できない。座って横を見るとちょうどリアクオーターパネルでふさがれていて、はめ殺しの小さな窓は少し前にある。閉所恐怖気味の人には、ちょっとツラそうだ。
視界全部が真っ青
運転席に座れば、目に映るインテリアは都会的洗練が支配している。選んだのがブルーのボディカラーの「カラーパッケージ」だったので、視界を奪うのは、青・あお・アオである。前を見ても、横を見ても、ブルー。高い視点からボンネットが見え、センタークラスターとドアトリムがボディ同色になっているから、常に自分の乗っているクルマがどんな色なのか忘れることができない。
運転席まわりは、シフトノブがゴツイ以外はほとんど乗用車と変わりない。でも、見える風景はやはりSUVらしいものだ。視点が高いのはもちろん、前方は縦方向が短い長方形の視界で、横には巨大なドアミラーが存在感を発揮する。
エンジンをかけても、車内に侵入する音や振動はまったく問題のないレベルだ。走りだせば走行能力にはもとより何も心配はない。4リッターV6エンジンは2トンをわずかに切る巨体を何の不自由もなく加速させる。
ラダーフレームを使っているというので、オンロードでの乗り心地には多少懸念を持っていたのだが、今回の短い試乗では破綻(はたん)を見せる場面はなかった。以前「ハイラックスサーフ」に乗ったときには、ボディの動きが上下別々に感じられた記憶がある。今回はそういうことはなく、車高の高い乗用車という感じだった。ただ、ちょっとだけ素早くレーンチェンジをしてみたら、違和感のある動きではあった。もちろん、そんな運転をするべきではないのだが。
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街乗りでの使い勝手は?
SUVだからといって、胸毛をむき出しにして素肌に袖なしGジャンで乗る時代ではない。でも、ここまでポップ感を全面に出したデザインは、そうそうあるものではない。「フィアット・パンダアレッシィ」や「ルノー・カングービボップ」のようなクルマと並べても引けをとらないくらいだ。
ならばFJクルーザーを乗用車代わりに街乗りで快適に使えるかというと、そう簡単にはいかない。これまで書いたことに加え、使い勝手の面でも弱点はある。
リアシートのダブルフォールディング機構は最新のものに比べると、楽ちん度が違う。リアドアに備わるガラスハッチは便利そうに見えるけれど、実際には位置が高いしスペアタイヤが邪魔をするし、とても使いにくい。
やはりこういうクルマは、多少でもアウトドア心を持ったライフスタイルでないと、使い切れないように思う。そうであれば、街乗りではネガに見える部分が気にならず、逆に有用になる場面だってたくさんあるはずだ。SUVにデザインの選択肢が増えたことは、大歓迎である。だって、90年代のクロカンブームの時なんて、無彩色の角ばったSUVが街にあふれて、まるで戒厳令が敷かれたみたいで怖かったのだ。
(文=鈴木真人/写真=荒川正幸)

鈴木 真人
名古屋出身。女性誌編集者、自動車雑誌『NAVI』の編集長を経て、現在はフリーライターとして活躍中。初めて買ったクルマが「アルファ・ロメオ1600ジュニア」で、以後「ホンダS600」、「ダフ44」などを乗り継ぎ、新車購入経験はなし。好きな小説家は、ドストエフスキー、埴谷雄高。好きな映画監督は、タルコフスキー、小津安二郎。