スバル・インプレッサWRX STI tS(4WD/6MT)/WRX STI A-Line tS(4WD/5AT)【試乗記】
まだまだまだイケる 2010.12.22 試乗記 スバル・インプレッサWRX STI tS(4WD/6MT)/WRX STI A-Line tS(4WD/5AT)……472万5000円/422万1000円
スバルのハイパフォーマンスモデル「インプレッサWRX STI」をベースに、専用の足まわりやカーボン製のルーフでさらに操縦性を高めたというスペシャルバージョンが登場。その仕上がりは……?
テッペンが、効く
STI(スバルテクニカインターナショナル)が手がける「インプレッサ」の“カーボンルーフ車”に、伊豆のサイクルスポーツセンターで試乗した。
カーボンルーフとは、文字どおりルーフパネルの素材を、通常使われるスチールからカーボンに変えたもので、考えられる効用としては、車体の軽量化やねじれ剛性のアップが挙げられる。また、車体の最も高い位置にあるこの部分の軽量化は、重心高を下げる効果もある。
とはいえ、実際の重量的なアドバンテージは、4kgに過ぎない。重心高に関しても、2mm程度の違いに過ぎない。その違いが体感できるのは、コーナーの切り返しのような場面だ。これが例えば、サンルーフやガラスルーフなどになると、その有る無しで数10kgもの重量差が出るから、横Gが右から左に変わる際の重心移動の様子は、公道走行でもはっきり体感できるほどになる。レベルは微小であれ、カーボンルーフについても同じことが言えるのだ。
そして、切り返しを行う際の横Gが高くなるほど、ブレーキがハードになるほど、頭上のイナーシャは「効く」ということになる。だからレーシングカーともなれば、ボディ形状をスパイダーにすることの利点は確かにある。
こだわるスバルなればこそ
また剛性面での差異については、これを体感できるのはバンク走行など縦Gがかかる世界になるだろう。ドイツの難コース、ニュルブルクリンクで耐久レースを体験しているスバルだけに――あの石畳でできた、カルーセルのゴツゴツ路面で連続する縦Gを経験すればこそ――この部分を強化したくなる、こんな発想もでてくるわけである。
そう言えば昔、太田にあった富士重工業の小さなバンク付きテストコースで、樹脂板をはめ込んだような造りだった「スバル360」のルーフが外れたという話を、元スバル実験部の小関典幸さんから聞いたように記憶している。
私自身も、タイヤテストをまじめにやっていた時期には、やはりメーカーの持つテストコースにおけるバンクの有無が、縦荷重に対するグリップ限界の違いという形で製品に反映されていると感じていたことを思いだした。
バンクを持たないフラットなコーナーだけでつないだ周回路を持つメーカーの製品は、それなりにブレークする限界が違っていた。また周回路の半分近くをバンクが占める、旧日本自動車研究所の高速バンクでは、長時間にわたり連続して高い縦Gがかかるため、ボディ剛性の低いクルマはルーフやピラーがミシミシする感じがした。「あんな状況でテストすれば、ルーフのねじれ剛性などに差が出るんだろうな……」などと想像できるのだ。
「インプレッサWRX STI tS」で公道に見立てたサイクルスポーツセンターのコーナーを攻めたところで、ラップタイムが何秒違うとか、そんなことは興味の対象外である。しかし、これを話題にしていろいろと話は弾む。そんな微細な領域の話も、一時のテーマとしてはわれわれクルマ好きにとって面白いものなのだ。実際に効く効かないといった話も、ドライバー同志で話の掛け引きをしつつ、「自分はどちらだろう? 選べるならば、やっぱり装着するだろうな……」などと考えてしまう。
換えただけでは終われない
単に量産車特有の製造誤差や粗さを修正する程度のファインチューンなら、経験さえあれば、誰でも比較的容易にできる。しかし、それはSTIの本来の姿ではない。やはりコンペティションの現場にいて、なおかつ勝たなければ駄目だ。
このクラスでの戦いは、雨などレースの条件が悪化すれば4WDが優位にたてるが、二輪駆動のライバルは、出発点からして100kgもの軽量化が可能。このハンディは大きい。そうしたギリギリの攻防の中に身を置いてこそ、そこで勝ってこそ、高価格なクルマを売っていける自信がもてるのだと思う……そんな内容の話をする、“STIの顔”辰己英治氏の言葉は印象的だった。
しかし、短いクローズドコースで、しかも1周するたび止まってはATとMTとを乗り換えて合計4周するというだけの短時間の試乗では、その本当の差異など正確にはつかめない。
いままでの経験からチェックするポイントを絞って試してみるだけで、カーボンルーフのリポートを書くのは材料的に辛いものがある。
たまたまこの日は、格好のライバルを試す機会も得た。同じように生産車をベースとするメーカー仕立てチューニングカー「ルノー・メガーヌRS」である。期せずして辰己さんの話にも符合するとおり、ドライ路面で軽いFF車が有利ではあったとはいえ、どちらがクルマとして魅力的だったかと問われれば、より繊細な感覚をもつメガーヌRSを選んでしまうかもしれない。
「インプレッサWRX STI tS」には、まだまだ「仕事=営利」を感じさせる部分が残っている。象徴的に言うならば、STI純正シートも、せめてレカロシートを上回る座り心地を見せてもらいたいところ。カーボンルーフのように“クルマ好きが造る部分”を追求する道は、他にもありそうな気がする。
STIのインプレッサはノーマルのクルマとは違うし、競技車両のような野蛮なものでもない。十分街乗りに耐える乗り心地とスポーツカーとして使えるハンドリングを実現している。しかし、中間的な位置に満足することなく、チューニングカーとしての気持ちいい操縦感覚をもっと追求してほしい。
パーツを換えることばかりが仕事ではないはず、両手両足で操作する部分の微妙な調整代だってやるべきことはある。現状ではまだまだ雑な部分も散見されるというのが、インプレッサのtSに対する正直な感想である。
(文=笹目二朗/写真=高橋信宏)
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笹目 二朗
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