レンジローバーSV P510e(4WD/8AT)【試乗記】
ベスト・オブ・レンジローバー 2023.11.22 試乗記 5代目「レンジローバー」のプラグインハイブリッドモデル「SV P510e」に試乗。ジャガー・ランドローバーの高性能車やビスポーク車の開発・製造を担うスペシャル・ビークル・オペレーションズ(SVO)によるフィニッシュと、電動化でモダンに進化したその走りを確かめた。“レザーフリー化”へまい進
2022年に上陸した5代目レンジローバーは、日本では4種類のパワートレイン構成で販売をスタートした。
具体的には、4.4リッターV8ターボの純エンジン車となる「P530」と3リッター直6ディーゼルのマイルドハイブリッド車(MHEV)である「D300」に加えて、3リッター直6ガソリンターボの変速機内にモーターを配したプラグインハイブリッド車(PHEV)がある。PHEVにはシステムトータル440PSを発生する「P440e」と、同じ構成で510PSの「P510e」の2種類があるが、変速機に内蔵される105PSの電動モーターや総電力量38.2kWhのリチウムイオン電池などの電動部分は共通。エンジンチューンちがいで出力を変えている。
今回の試乗車は、そんなレンジローバーのPHEVでもより高性能なP510eで、なかでも最上級の特別仕立てとなる「SV」である。SVはセレブのショーファードリブンにも対応する豪華な後席空間も売りだが、P510eはスタンダードホイールベース(SWB)にしか用意されない。よりショーファー向きのロングホイールベースでPHEVが欲しいならP440eの選択肢しかないが、一般的な日本人の体格ならSWBでも広さに不足はないだろう。
SVの内装は本革とウッドとデジタル機器が融合した調度品が本来だが、試乗車では「プレミアムノンレザーアップグレード」と「ノンレザーステアリング」という無償オプションが選択されていたのが興味深い。最近はESG(環境・社会・ガバナンス)を意識した経営が重視されており、欧州高級車ブランドが“レザーフリー化”へまい進するのもその一環だ。
まあ、現在流通している牛本革は大半が食肉加工の副産物といわれており、脱レザー=エコかどうかは賛否ある。しかし、ESGに対して明確な姿勢をとらないと、投資家から評価を得にくい時代なのだからしかたない。なんともややこしい世の中になったものだ。
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心地よいハイブリッド走行
もっとも、レンジローバーのノンレザー内装は単純に本革を模したフェイクではなく、旧第一化成が開発・生産する「ウルトラファブリックス」で、その手ざわりはレザーというより、独特のクッション性をもったサテン生地のような触感である。それは一度体験すると、けっこうクセになりそうな肌ざわりでもあり、本革とはちがった魅力をもつ。今後は急速に普及する可能性はある。
バッテリー残量が十分にあってアクセルペダルを上品にあつかうかぎり、レンジローバーP510eは電気自動車(EV)としてふるまう。レンジローバーによると、一充電あたりのEV走行距離は最大100km、より現実的には80kmと公表されている。実際、筆者が試乗スタートしたときのメーターには、電池残量がちょうど半分でEV予想航続距離も40kmと表示されていた。いずれにしても、ガレージに充電設備があるなら、ほぼガソリンなしの日常が送れるだろう。また、日本のCHAdeMO方式の急速充電にも対応しているので、いざというときの延長運転も可能だ。
エンジンが稼働するハイブリッド走行になると、今度はエンジンメインとなり、モーターは黒子役に徹するようになるが、それがまたクセになりそうなくらい心地よい。
もともと滑らかな感触で回るストレートシックスを、単独走行可能な高出力モーターで補完しているわけだから、そのパワーとトルクに加えて、過給ラグめいた“くぐもり”も皆無といってよい。アクセル反応はあくまで上品だが、同時にリニアそのものでもある。クルマが停止すれば基本的にアイドルストップして、ごく低負荷ではEV走行になる。
こうしたエンジンが出入りする瞬間も、無振動とはいわないまでも、ツルンとスムーズ。さらにシステム最大トルクにして700N・mという怪力なのに、右足を乱暴にパタパタしてもパワートレインが揺らぐそぶりさえ見せないのは、緻密なモーター制御によるところかもしれない。
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重さのデメリットを匂わせない
レンジローバーといえば、ステアリングの手応えから路面の衝撃吸収、前後左右のクルマの挙動にいたるまで、極上のシルキータッチでまとめられているのが最大の美点だ。この徹底的にスムーズでフラットでリニアなプラグインハイブリッドパワートレインを積んだレンジローバーは、現時点でもっとも統一感のあるレンジローバーだと思う。電動化によるEGSがらみの話は横に置いても、これが現時点でベスト・オブ・レンジローバーと申し上げたい。
もちろん、一般的には、V8や直6ディーゼルもほぼ文句なしのデキである。しかし、レンジローバーの乗り心地や運転感覚、さらには内外装調度の雰囲気と、このPHEVパワートレインの水も漏らさぬ親和性を体験してしまうと、ほかのパワートレインではちょっと物足りなくなるのも正直なところだ。レンジローバーは驚くほど静かなクルマだが、パワートレインの無粋な振動を払しょくしきっているPHEVは、さらに輪をかけて静かである。
そんなレンジローバーPHEV最大の懸念点はやはり重量だ。ラインナップのなかでもとくに重い部類に入る今回の試乗車は、車検証重量でじつに2970kg=ほぼ3t!! これだけ重いと、駐車場などの重量制限にも気づかいが必要になる。また、以前に「メルセデス・ベンツEQS450 4MATIC SUV」の試乗記でも書かせていただいたように、シャシーチューニングうんぬん以前に、重さをもてあました乗り味にならざるを得ない……というのが、これまでの筆者の経験的実感だった。
ところが、今回のレンジローバーは重さを感じさせない……のではなく、ゆったりスローな身のこなしや、路面不整をモノともしないフラットな落ち着き、そして重厚感といった重いがゆえのメリットが強調される。そのいっぽうで、重さのデメリットは、まるでキツネにつままれたかのように匂わせない。
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あまりに上品でゆったり
重さを美点にしか感じさせない魔法のキモは、やはり剛性感、そして調律の妙なのだろうと思う。レンジローバーは走行中も、外観のイメージと同じく、金属塊から削り出したかような剛性感をくずさない。ロールやピッチングは小さく、そこにいたるスピードも見事に制御されている。ステアリングやブレーキの反応もあくまで上品だ。
そのフラット姿勢のままスルリと取り回せる機動性には、電子制御のエアバネにダンパー、アクティブスタビライザー、そして後輪操舵といったハイテクがメチャ効きなのは間違いない。なにをどう運転しても、このレンジローバーにいわゆる“急”のつく動きをさせるのは至難のワザ。直噴ターボをモーターで補佐するパワートレインは、右足のわずかな力加減にも、間髪入れずに明確な加減速Gを発生させるので、クルマの動きは終始“ゆっくり”だが、“遅れ”を感じさせることは決してない。
もっとも、さすがに制動だけは物理的な重さを隠せないはずだが、実際のブレーキ性能はみなさんが思っているより明らかに強力だ。また、あまりに上品でゆったりした乗り味なので、そもそも強めのブレーキングで攻め立てるような運転はしたくならない。
いやはや、ここまで重さを手のウチにおさめきったクルマはほとんど経験がない。7.7km/リッターという今回の実燃費は約80kmのEV走行分を差し引くと、3tのクルマとしては悪くないが、レンジローバーで特別に低燃費なわけではない。ただ、レンジローバーならではの乗り味の贅沢さでは、現時点でPHEVがその頂点にあると思う。
ところで、今回の試乗車は2023年モデルで、今年5月末には2024年モデルの受注がはじまった。最新の2024年モデルではPHEVが最大トルクを800N・mに引き上げた「P550e」のみとなっただけでなく、V8もMHEV化された。よって、レンジローバー内の乗り味の勢力図も少し変わる可能性はあるが、はたして……。
(文=佐野弘宗/写真=神村 聖/編集=櫻井健一)
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テスト車のデータ
レンジローバーSV P510e
ボディーサイズ:全長×全幅×全高=5060×2005×1870mm
ホイールベース:2995mm
車重:2900kg
駆動方式:4WD
エンジン:3リッター直6 DOHC 24バルブ ターボ
モーター:交流同期電動機
トランスミッション:8段AT
エンジン最高出力:400PS(294kW)/5500-6500rpm
エンジン最大トルク:550N・m(56.1kgf・m)/2000-5000rpm
モーター最高出力:143PS(105kW)/2950rpm
モーター最大トルク:275N・m(28.0kgf・m)/1000-2900rpm
システム最高出力:510PS(375kW)
システム最大トルク:700N・m(71.4kgf・m)
タイヤ:(前)285/45R22 114Y M+S/(後)285/45R22 114Y M+S(ピレリ・スコーピオンゼロ オールシーズン)
燃費:--km/リッター(WLTCモード)
価格:2551万円/テスト車=2946万1422円
オプション装備:サテンボディーカラー<サンライズカッパー>(96万5000円)/ブレーキキャリパー<レッド>(400円)/4ゾーンクライメートコントロール(11万5000円)/ラゲッジスペースパーティションネット(2万2000円)/スペースセーバーアロイスペアホイール(2万9000円)/22インチ“スタイル1073”ホイール<グロスブラックフィニッシュ>(6万7000円)/プレミアムノンレザーアップグレード(0円)/ステアリングホイール<プレミアムノンレザー>(0円)/SVイントレピッドエクステリアアクセント(44万9000円)/ウインドスクリーン<ヒーター付き>(3万4000円)/フロントセンターコンソール休息クーラーボックス(11万4000円)/家庭用電源コンセント(2万1000円)/テールゲートイベントスイート(14万5000円)/コントラストルーフ<ブラック>12万7000円/パネル<ナチュラルブラックバーチ>(0円)/カーペット<シンダーグレイ>(0円)/13.3インチリアシートエンターテインメント(55万5000円)/ヘッドライニング<シンダーグレイ、ウルトラファブリック>(0円)/コントロール<サテンブラックセラミック>(0円) ※以下、販売店オプション デプロイアブルサイドステップキット<SWB用>(63万4942円)/ドライブレコーダー(5万8080円)
テスト車の年式:2023年型
テスト開始時の走行距離:4362km
テスト形態:ロードインプレッション
走行状態:市街地(3)/高速道路(4)/山岳路(3)
テスト距離:329.2km
使用燃料:42.7リッター(ハイオクガソリン)
参考燃費:7.7km/リッター(満タン法)/7.8km/リッター(車載燃費計計測値)

佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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