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新型「ホンダWR-V」の日本導入で混乱必至? ホンダのややこしネーミング事情

2023.11.16 デイリーコラム 佐野 弘宗
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日本で「エレベイト」にならなかった理由

ホンダが日本で発表した新型コンパクトSUVの「WR-V」は現在、インドにのみ導入されている。インド市場では2023年7月に発売済みで、インドでの車名はWR-Vではなく「ELEVATE(エレベイト)」という。まあ、同じクルマでも市場ごとに車名が異なるのはよくあることだが、このクルマにかぎっては、ちょっとややこしいのも事実である。

というのも、WR-Vというホンダ車……しかもコンパクトSUVは、ほかにもう1台存在するからだ。もう1台のWR-Vは2022年11月にインドネシアで発表されており、現在はインドネシアのほか、タイやマレーシアなどでも販売されている。車体は日本のWR-Vよりひとまわり小さい(全長は日本のWR-Vより265mm短い4060mm)。

しかも、そのインドネシア製WR-VはWR-Vとしては通算2代目で、初代WR-Vは2016年に世界初公開となり、南米ブラジルとインドで生産された。ただ、南米のWR-Vは初代かぎりで終了、インドのWR-Vも事実上の後継車はエレベイトである。つまり、インドネシア製WR-Vは、これはこれで現地にとっては初代WR-Vということもできる。

ここまで読んでいただいて「よく分からん!」とお怒りの向きも少なくないだろう。私の文章力の問題もないとはいわないが、そもそもが非常にややこしいのが最大の問題だ。

ちなみに、ホンダは2016年に日本でもWR-Vを商標登録しているが、海外向け商品名を、予防的措置として国内でも商標登録しておくことはめずらしいことではない。じつはエレベイトについても、ホンダは2022年10月に日本で商標出願したことが明らかになっている。ただ、その出願は通らなかったとも報じられており、新型WR-Vの車名が日本ではエレベイトにならなかった理由は、やむを得ない商標問題の可能性もある……が、現時点では真実は定かではない。

2023年11月16日に先行公開されたホンダの新型コンパクトSUV「WR-V」。同年12月の正式発表を経て、2024年春に発売される予定だ。車名のWR-Vは、「Winsome Runabout Vehicle(ウインサム ランナバウト ビークル)の頭文字を組み合わせたもの。
2023年11月16日に先行公開されたホンダの新型コンパクトSUV「WR-V」。同年12月の正式発表を経て、2024年春に発売される予定だ。車名のWR-Vは、「Winsome Runabout Vehicle(ウインサム ランナバウト ビークル)の頭文字を組み合わせたもの。拡大
日本とインドで販売される「WR-V」。ホンダの開発拠点でアジア最大規模を誇るタイのホンダR&Dアジアパシフィックが開発を担当し、インドのホンダカーズインディアが生産を行う。
日本とインドで販売される「WR-V」。ホンダの開発拠点でアジア最大規模を誇るタイのホンダR&Dアジアパシフィックが開発を担当し、インドのホンダカーズインディアが生産を行う。拡大
「WR-V」は、インドでは「ELEVATE(エレベイト)」の車名で販売されている。同市場に導入されていた初代WR-Vの後継モデルという位置づけだ。
「WR-V」は、インドでは「ELEVATE(エレベイト)」の車名で販売されている。同市場に導入されていた初代WR-Vの後継モデルという位置づけだ。拡大
2022年11月にインドネシアで発表された「WR-V」。全長は4060mmで、日本で販売されるWR-Vよりもひとまわり小さい。WR-Vとしては通算2代目にあたるが、インドネシアにWR-Vが導入されるのはこのモデルが初となる。
2022年11月にインドネシアで発表された「WR-V」。全長は4060mmで、日本で販売されるWR-Vよりもひとまわり小さい。WR-Vとしては通算2代目にあたるが、インドネシアにWR-Vが導入されるのはこのモデルが初となる。拡大
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ホンダには前科がある

繰り返しになるが、同じクルマでも、仕向け地によって車名を変えるのはめずらしいことではない。今回の場合、いかに市場がちがうとはいえ、まったく同時期のまったく別のクルマに、まったく同じネーミングをしたものだから、一気にややこしくなっているわけだ。

もっとも、この種の“ややこしネーミング問題”では、ホンダには前科がある(笑)。

ホンダのコンパクトSUVといえば、2013年に初登場した「ヴェゼル」が日本では有名だ。しかし、ホンダ初のコンパクトSUVは、1998年から2006年に生産された「HR-V」ということになるだろう。このときのHR-Vは都会派クロスオーバーSUVのハシリといえる存在で、その姿に似合わぬスポーツライクな走りも評価された。ただ、その後1世代かぎりで生産終了したことからも分かるように、販売的に大成功とはいえなかった。登場が早すぎたのだろう。

そんな初代HR-Vの生産終了から約7年の歳月を経て、あらためてグローバル戦略商品として生み出されたホンダのBセグメントSUVは、日本市場にはHR-Vのトラウマが残っていたからか、ヴェゼルという新車名が与えられた。いっぽうで、初代HR-Vがそれなりにウケた欧州市場では、同じクルマが2代目HR-Vを名乗り、初代HR-Vが販売されなかった北米でも「CR-V」との関係を素直にイメージしやすいHR-Vを名乗った。

ご承知のように、初代ヴェゼル=2代目HR-Vは世界的に大成功して、ホンダ屈指のグローバルカーとして定着した。2022年に登場した2代目ヴェゼルは、欧州その他の海外市場の多くでも、そのままHR-Vを名乗っている。

しかし、北米では従来のHR-Vはちょっと小さすぎた……との判断からか、2022年のモデルチェンジを機に、新しいCセグメントSUVをHR-Vの名で発売した。その北米版HR-Vとは日本や欧州で「ZR-V」と呼ばれるクルマそのものだ。また、中国でもZR-Vの顔を変えたモデルをHR-Vとして売っている。つまり、世界的に現在のHR-Vには2種類あり、その両方が導入される日本では、それぞれZR-Vとヴェゼルを名乗っているわけだ。しかも中国では日本でいうヴェゼルも販売しており、その名は「XR-V」という。んもう、ホンダのSUVはややこしすぎる!!

1998年9月に発売された「ホンダHR-V」。デビュー当初は3ドアモデルのみのラインナップだったが、1999年7月に5ドアモデルが追加された。2006年に販売が終了。日本では1代限りとなった。
1998年9月に発売された「ホンダHR-V」。デビュー当初は3ドアモデルのみのラインナップだったが、1999年7月に5ドアモデルが追加された。2006年に販売が終了。日本では1代限りとなった。拡大
「SUVの安定感とクーペライクなスタイリングを融合することにより、感性を刺激するエモーショナルなデザインを実現した」とうたわれる初代「ヴェゼル」。2013年12月に発売された。
「SUVの安定感とクーペライクなスタイリングを融合することにより、感性を刺激するエモーショナルなデザインを実現した」とうたわれる初代「ヴェゼル」。2013年12月に発売された。拡大
2021年4月に登場した2代目「ヴェゼル」。ボディー同色のフロントグリルや、アウタードアハンドルをCピラーに埋め込んだリアドアの処理、クーペライクなフォルムなどが目を引く。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4330×1790×1590mmで、先代モデルと比べると35mm長く20mm幅広く15mm低いディメンションに変更された。
2021年4月に登場した2代目「ヴェゼル」。ボディー同色のフロントグリルや、アウタードアハンドルをCピラーに埋め込んだリアドアの処理、クーペライクなフォルムなどが目を引く。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4330×1790×1590mmで、先代モデルと比べると35mm長く20mm幅広く15mm低いディメンションに変更された。拡大
2016年11月にブラジルで発表された「WR-V」は、3代目「フィット」をベースに車高を引き上げ、クラッディングや前後にアンダーガード風のバンパーを装備するなどしてクロスオーバー化されたモデルだ。WR-Vの初代モデルとしてブラジルとインドで生産され、ディーゼル車もラインナップしていた。
2016年11月にブラジルで発表された「WR-V」は、3代目「フィット」をベースに車高を引き上げ、クラッディングや前後にアンダーガード風のバンパーを装備するなどしてクロスオーバー化されたモデルだ。WR-Vの初代モデルとしてブラジルとインドで生産され、ディーゼル車もラインナップしていた。拡大

日本ではカタカナ系ペットネームが主流

しつこいようだが、同じクルマでも、売る文化圏によって商品名を変えることはよくある。

あるネーミングにネガティブなイメージがあって改名した例も多い。たとえば、1978年に発売された「トヨタ・セリカ」をベースにした高級クーペは日本では「セリカXX(ダブルエックス)」と名乗った。しかし、北米ではXの文字を重ねることに“暴力“や“性”の意味があり、XXはいわゆる成人映画の意味も想起させるということで、海外向けには「スープラ」という名前が与えられたというエピソードは有名だ。

また、アルファベットや数字をならべた記号的な車名は“欧州高級車っぽい”とか“スーパースポーツカーみたい”とポジティブにとらえられることもあるが、クルマに興味がない日本人には、無味乾燥でおぼえにくいともされる。このあたりのせめぎあいは日本での車名決定会議では日常茶飯事らしい。とくにコンパクトなエントリーモデル系には、日本ではカタカナ系ペットネームが好まれる。

初代ヴェゼルで日本の車名にだけHR-Vを使わなかった理由も、もしかしたらトラウマというより、このあたりにあったのかもしれない。

今回のWR-VやHR-Vにしても、インターネットもなく、海外情報が入ってきづらかった時代なら、なんら問題がなかっただろう。ただ、現在は海外情報もリアルタイムに、しかも国内情報とまるで同列に入ってくる。こんな時代に、同じ名前の別のクルマ(しかも、同じSUVでサイズも微妙に近い)が存在したりすると、どうしたってややこしく、混乱してしまう。まあ、おぼえやすくて、世界的にネガティブな響きもない商品名を探すのも大変なのでしょうが……。

(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業、webCG/編集=櫻井健一)

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2022年4月に発表、同年7月に発売された北米向けの新型「HR-V」。日本では「ZR-V」として同年11月に導入がアナウンスされた。南米では日本における2代目「ヴェゼル」がブラジルで3代目HR-Vとして生産される。実にややこしい(笑)。
2022年4月に発表、同年7月に発売された北米向けの新型「HR-V」。日本では「ZR-V」として同年11月に導入がアナウンスされた。南米では日本における2代目「ヴェゼル」がブラジルで3代目HR-Vとして生産される。実にややこしい(笑)。拡大
2023年4月に販売が開始された「ZR-V」。「CR-V」が5代目をもって日本市場での販売を終了したため、現在ホンダのフラッグシップSUVとしての重責を担う。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4570×1840×1620mm、ホイールベースは2655mmで、Cセグメントに相当する。
2023年4月に販売が開始された「ZR-V」。「CR-V」が5代目をもって日本市場での販売を終了したため、現在ホンダのフラッグシップSUVとしての重責を担う。ボディーサイズは全長×全幅×全高=4570×1840×1620mm、ホイールベースは2655mmで、Cセグメントに相当する。拡大
水平基調のシンプルなデザインを採用する新型「エレベイト」(インド仕様)のインテリア。日本向けの「WR-V」には安全運転支援システム「ホンダセンシング」が全グレードに標準で装備される。
水平基調のシンプルなデザインを採用する新型「エレベイト」(インド仕様)のインテリア。日本向けの「WR-V」には安全運転支援システム「ホンダセンシング」が全グレードに標準で装備される。拡大
インドで販売される「エレベイト」のリアビュー。搭載されるのは1.5リッターの直4自然吸気エンジンで、最高出力121PS、最大トルク145N・mを発生する。日本にも同パワーユニットが導入される見込みだ。
インドで販売される「エレベイト」のリアビュー。搭載されるのは1.5リッターの直4自然吸気エンジンで、最高出力121PS、最大トルク145N・mを発生する。日本にも同パワーユニットが導入される見込みだ。拡大
佐野 弘宗

佐野 弘宗

自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。

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