ホンダWR-V 開発者インタビュー
魂がこもっています 2023.11.16 試乗記 タイにあるホンダの最新鋭拠点で開発が進められ、インドで生産される新しいコンパクトSUV「WR-V」。2023年12月の正式発表を前に、200万円台という価格が実現できた理由や先行する「ヴェゼル」との違いを開発責任者に聞いた。本田技研工業
四輪事業本部
四輪開発センター LPL室
金子宗嗣(かねこ むねつぐ)さん
ライバル車以上の割安感を実現
ホンダWR-Vは「200万円台前半」といわれる価格帯が最大のツボといっていい。その価格設定は、同じ国産エントリーSUVの「ダイハツ・ロッキー/トヨタ・ライズ」(ただし、現在出荷停止中)の純エンジン車とハイブリッド車のちょうど中間点……という戦略的なもの。純エンジン車の比較ではWR-Vのほうが高価だが、かわりにエンジンがより余裕のある1.5リッターで、車体サイズも1~2クラス大きい。
ある意味でロッキー/ライズ以上の割安感を実現できた最大の理由は、WR-Vがインドで生産されることだ。また、開発も日本ではなく、タイ拠点でおこなわれた。
今回の取材は11月上旬に実施されたのだが、WR-Vの開発責任者である金子宗嗣さんは、その直前に約5年にわたるタイ駐在から帰国したばかりだった。
「今回のWR-Vを開発したタイの“ホンダR&Dアジアパシフィック”は、ホンダではアジア最大の四輪開発拠点となります。大規模なCAE(Computer Aided Engineering)を使った一部のシミュレーションなどは日本でおこなってもらいますが、それ以外は1台をほぼまるごと開発できる機能をもっています。これまでもインドネシアで生産される『ブリオ』や『BR-V』、スモールセダンの『アメイズ』、そしてこのクルマとはまた別のWR-Vも、タイで開発されました」
ホンダといえば日本で目立って売れているのは軽自動車の「N-BOX」だけ(?)で、それ以外でクラストップに食らいついているのは「フリード」と「ヴェゼル」くらいか。
さらにいうと、このなかでグローバル商品といえるのはヴェゼルのみで「シビック」や「アコード」「CR-V」などのグローバルホンダは、少なくとも台数では国内で明確な存在感を示せていない。シビックは部品不足による供給難を差し引く必要があるにしても、CR-Vにいたっては国内販売自体をやめてしまった。
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開発の初期から日本での販売を想定
ホンダのグローバル商品の日本ウケがかんばしくない理由はいくつかあるにしても、トヨタなどの競合車と比較して高めの価格も、間違いなくそのひとつだろう。いや、クルマの内容を考えれば割高なわけではないのだが、台数が出ないから上級グレード限定の少数販売にせざるをえず、だから台数が伸びず、やっぱり思い切った価格が設定できない……というループにおちいっている感も否めない。
その意味では、トヨタのお株をうばう戦略価格をかかげる(といわれる)WR-Vは、ホンダ国内販売の好ましくない現状を大きく変える可能性があるような気もする。
WR-Vの導入地域はインドと日本。それ以外の市場導入予定は明らかにされていない。
「開発の初期段階から、日本での販売は想定していました。現状ではインドと日本向けだけですが、もともとできるだけ広い地域で受け入れてもらえるように開発しています。少なくとも基本仕様はグローバル共通で、日本のために特別に仕立てた部分はとくにありません」
WR-Vの実車を観察してみると、リアドアは乗降性への工夫が凝らされており、リアシート自体も見るからに分厚い。さらに後席用にきちんとエアコン吹き出し口が備わるのも、コンパクトSUVとしてはめずらしい。
こうした部分は、このクラスでもファミリーカーとして使われるケースが多く、休日などは家長が後席に座る……というインド特有の使われかたを意識したものと思われる。ただ、こうした後席の快適性は、国内でもロッキー/ライズ、あるいはホンダ内ではヴェゼルに対するWR-Vの大きな売りとなるだろう。
また、195mmという最低地上高も、インドを含む新興国の荒れた道路環境への対応が第一義。ただ、都市部でもゲリラ豪雨による冠水が頻発しつつある日本でも、今後はこの地上高が意外なほど重宝されるかもしれない。
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装備内容だけでなく品質にも自信
それにしても、ヴェゼルと同等のサイズで200万円台前半という価格設定については「すごく苦労しました(笑)」と、金子さんも素直に認めるところだ。
人件費や物価はまだ日本よりインドのほうが安いが、その差はどんどん縮小している。まして記録的な円安が進行中の現在では、インド生産だからといって簡単に低価格が実現できるともかぎらない。
「今という時代では、クルマそのものに安さを感じさせたり、装備などを割り切ったりするようなクルマづくりは許されません。今回もお客さまにとってお買い求めしやすいクルマにするためには、開発費や投資を極限までおさえる必要がありました。WR-Vにはびっくりするような新技術は、あえて採用していません。われわれの手の内にある技術を、いかにバランスをとって組み合わせるかに腐心しました」
なるほど、WR-Vはバリエーションも徹底的に効率化している。エンジンは今のところインドも日本も1.5リッター直4ガソリンの一択で、4WDの用意もない。
インテリアなどには高価な素材は使っていないようだが、樹脂シボ仕上げのシルバー加飾などで安っぽさは巧妙に回避している。また、日本仕様の詳しい装備内容は明らかでないものの、先進運転支援システムの「ホンダセンシング」やセンターディスプレイは全車標準で、主力グレードにはTFT液晶メーターパネルや本革巻きステアリングホイールなども備わるとか。
WR-Vはこうした装備内容だけでなく、品質にも絶対の自信がある……と金子さん。
「WR-Vはホンダのインド第2工場で生産しています。ここは日本の寄居より新しく、品質管理や技術的には、『Nシリーズ』や『フィット』、ヴェゼルを生産している鈴鹿製作所から支援を受けています」
第2工場というが、1995年に建設されたインド第1工場にはもはや完成車ラインはなく、完成車組み立て機能は、第2工場に集約されているという。その第2工場が稼働開始したのは2016年。日本国内のホンダ四輪工場では最新にして世界のマザー工場でもある寄居製作所のそれは2013年。寄居より新しいインド第2工場は、ホンダでも屈指の最新鋭工場だそうだ。
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企画や開発の新しい進めかたを実践
金子さんによると、WR-Vの開発が本格的にスタートしたのは2021年。2021年といえば、コロナ禍の真っただ中。とくにアジアで猛威を振るっていた時期に重なる。
「開発はタイを中心に、インドと日本を含めたプロジェクトチームをつくって進めたのですが、その作業は大きな制約を受けました。移動ができないどころか、地域によってはロックダウンも起こるような状況で、非常にむずかしかったです」
金子さんは当時を振り返って続ける。
「これまでは他社さんもそうだったと思うのですが、デザインから性能開発、さらに生産技術など、クルマの開発は“すり合わせ”が重視されます。また、それ以前なら開発拠点のタイからインドに直接出向いて市場を観察したり、お客さまの声を聞いたりなどのプロセスをはさむのですが、当時はタイもインドも渡航禁止の時期に当たってしまったんですね。そうした開発に慣れていたのに、すべてリモートでしなくてはならなくなりました。それが今回最大のチャレンジで、企画や開発の新しい進めかたも議論しながらやりました」
インタビュー前にWR-Vのコンセプトを説明する金子さんは「自由」「移動」「多様性」という言葉を何度も口にした。コロナ禍での開発は、WR-Vのクルマづくりにも確実に影響したと金子さんもいう。
「WR-Vには日本、タイ、インドのすべてのプロジェクトメンバーの魂がこもっています。デザインやパッケージもさることながら、性能、品質でも万全の商品をご用意できたと自負しています」
(文=佐野弘宗/写真=本田技研工業、webCG/編集=櫻井健一)
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佐野 弘宗
自動車ライター。自動車専門誌の編集を経て独立。新型車の試乗はもちろん、自動車エンジニアや商品企画担当者への取材経験の豊富さにも定評がある。国内外を問わず多様なジャンルのクルマに精通するが、個人的な嗜好は完全にフランス車偏重。
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