第774回:電動車向けのフラッグシップタイヤ「ヨコハマ・アドバンdB V553」の実力を試す
2024.01.09 エディターから一言 拡大 |
横浜ゴムが2023年12月18日、フラッグシップタイヤ「ADVAN(アドバン)」の新商品「dB(デシベル)V553」を発表した。アドバンdB V553は2017年に上市された「dB V552」の後継モデル。2024年2月の正式発売を前に、早速その実力をチェックした。
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摩耗が進んでも新品時の性能を維持
横浜ゴムが手がけるタイヤラインナップにあって、フラッグシップブランドとされるのがご存じ、アドバンである。今回紹介するdB V553(以下V553)はデシベルのネーミングが示すように、アドバンブランドのなかでもプレミアムコンフォートタイヤに位置づけられるモデルだ。
V553は「ヨコハマ史上最高の静粛性を提供する」というフレーズとともに2017年にローンチされたアドバンdB V552(以下V552)の後継モデルにあたる。上質な静けさと乗り心地を提供するという先代の基本的開発コンセプトはそのままに、「摩耗の進行による静粛性とウエット性能の低下」というタイヤにとって避けがたいポイントの改善にフォーカスし、モデルチェンジを図ったのがV553の特徴とされる。
パッと見のトレッドパターンが緻密で繊細なデザインなのは、いかにもコンフォート性に重きを置いて開発されてきたタイヤという印象だ。センター部分を中心として内側は高いウエット性能を確保するための排水を担う溝部分が多く、反対に外側ではコーナリング性を高めるために溝が少ない=接地面が多いという左右非対称デザインは、静粛性に定評があったV552から受け継いだ特徴である。それがサイズ(幅)の違いで単純に拡大・縮小されるのではなく、サイズごとにパターンが最適化されているのも同様に踏襲ポイントとなっている。
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溝の形状改善で摩耗時の騒音を抑制
一方でトレッドパターンそのものは一新。具体的にはまずV552に採用されていたセンター部分の単純なストレートリブは姿を消し、V553では4本すべてのストレートリブに面取り+サイプ化加工が施され、剛性の最適化とパターンノイズの抑制を図っている。また、ショルダー部分のラグ溝にはブロックの倒れ込みを防ぐ「3Dサイプ」を採用することで、剛性を向上。これは、操縦安定性や耐摩耗性の向上に寄与するとともに、車外騒音の抑制にも効果があるという。
V552に対する大きな進化と紹介された摩耗時の性能低下抑制策としては、摩耗が進んだ際にも新品時からの構成要素が大きく変わらないように設計されたパターンデザインの工夫が大きいという。
通常、摩耗が進行すると細いストレート溝が消滅しパターンノイズが悪化する。これを抑制するために、従来はV字状で摩耗の進行とともに幅が狭くなっていったグルービングの形状を、垂直近くに立たせた溝壁に変更することで溝体積の減少を改善。同時にウエット性能の悪化も抑えられるようになっている。
ちなみにこうした溝が従来型でV字状とされていたのは剛性低下を嫌ってのものだったというが、V553ではその他の技術を駆使することによりカバー。ドライやウエット時の操縦安定性も従来以上のレベルを確保しているという。
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電動車対応タイヤとしても注目
V553を装着してのテストドライブには「ホンダN-BOXカスタム」「トヨタ・プリウス」「三菱エクリプス クロス」「トヨタ・アルファード」での一般道・高速道走行と、V553の新品と50%摩耗相当品、さらにV552の50%摩耗相当品を装着した「トヨタ・クラウン クロスオーバー」を乗り換えながらのフィーリングチェックを行うプログラムが用意されていた。
まず前者のテストでどの車両でも共通していたのは、「タイヤの発するノイズが分厚いオブラートに包まれたように感じられる」というポイントである。特に好印象だったのはアルファード。新型にモデルチェンジして高まった車両自体の静粛性が、タイヤの“存在感”が薄くなったことでより一層際立ったように感じられた。
一方、率直なところそれとは逆に受け取れたのがプリウスで、こちらはタイヤが発するノイズが低いぶんエンジンのオン/オフによる印象の違いが大きく感じられ、エンジンが始動すると反対の意味でその存在感が目立つこととなってしまった。
広大な駐車場を一般路に見立てて行ったクラウン クロスオーバーを用いての試走では、V553とV552の摩耗50%相当品同士でのロードノイズのボリューム差が明確に表れた。一方、データ上では大きく感じられそうに思えたパターンノイズの差は、本来それを感じ取りやすい平滑路面が存在しなかったということもあり、明確な違いは認められなかった。
ヨコハマの最新モデルであるV553には、電動車対応商品であることをメーカーが独自に示す「E+」の刻印が与えられている。特に超静粛なモーター走行が可能な電動モデルでは、この先、タイヤの静粛性に対する要求もどんどんと高まっていくはず。短い試走時間ではあったがハイブリッド車の電動走行を体感してみて、V553はそんな時代の要請にもいち早く応えたタイヤなのだと感じた。
(文=河村康彦/写真=花村英典/編集=櫻井健一)

河村 康彦
フリーランサー。大学で機械工学を学び、自動車関連出版社に新卒で入社。老舗の自動車専門誌編集部に在籍するも約3年でフリーランスへと転身し、気がつけばそろそろ40年というキャリアを迎える。日々アップデートされる自動車技術に関して深い造詣と興味を持つ。現在の愛車は2013年式「ポルシェ・ケイマンS」と2008年式「スマート・フォーツー」。2001年から16年以上もの間、ドイツでフォルクスワーゲン・ルポGTIを所有し、欧州での取材の足として10万km以上のマイレージを刻んだ。
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